innovaTopia

ーTech for Human Evolutionー

パリ協定1.5°C目標達成でも海面上昇は2倍速で進行|グリーンランド・南極氷床の臨界点が1.5°Cに下方修正

パリ協定1.5°C目標達成でも海面上昇は2倍速で進行|グリーンランド・南極氷床の臨界点が1.5°Cに下方修正 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-05-27 17:02 by admin

Communications Earth & Environment誌に発表された研究によると、パリ協定の1.5°C目標を達成しても海面上昇は加速し続ける。ダラム大学のクリス・ストークス教授らの研究チームは、過去30年間で海面上昇速度が2倍になり、2100年までにさらに2倍の年間1センチメートルに達すると予測した。

グリーンランドと西南極氷床は合計で年間4000億トンの氷を失っており、この速度は1990年代から4倍に増加した。両氷床は海面を65メートル上昇させる氷量を保持している。

現在、世界では海面から1メートル以内に2億3000万人、10メートル以内に10億人が居住している。研究では氷床の臨界点が従来の3°Cから1.5°Cに下方修正され、12万5000年前の間氷期には現在より2-9メートル、300万年前のCO2濃度424ppm時代には10-20メートル海面が高かったことが判明した。

ストークス教授は氷床からの海面上昇を管理可能レベルに抑制するには1°C以下の長期温度目標が必要と結論づけた。

From: 文献リンクScientists Issue Dire Warning: Oceans Rising Twice as Fast, Even If Climate Goals Are Met

【編集部解説】

今回の研究結果は、気候変動対策における従来の楽観的シナリオに冷水を浴びせる内容となっています。パリ協定の1.5°C目標は国際社会が合意した「野心的だが達成可能」とされてきた数値でしたが、海面上昇という観点では既に「手遅れ」である可能性が示されました。

特に注目すべきは、氷床の臨界点(ティッピングポイント)に関する科学的理解の大幅な修正です。従来は3°Cの温暖化で始まるとされていたグリーンランド氷床の不可逆的融解が、実際には1.5°Cという現在の目標値で既に始まる可能性が高いことが判明しています。これは単なる予測の修正ではなく、地球システムの非線形性を示す重要な発見といえるでしょう。

最新の科学的知見によると、高排出シナリオ下で2100年までに0.5-1.9メートルの海面上昇が「非常に可能性が高い」とされており、従来のIPCC予測を大幅に上回る数値が示されています。この数値の乖離は、従来の予測モデルが極端な結果を過小評価していた可能性を示唆しています。

技術的な観点から見ると、この問題は単純な工学的解決策では対処困難な規模に達しています。従来の海岸防護(防潮堤など)は一時的な対症療法に過ぎず、根本的解決には大気中CO2の積極的除去や、社会インフラの抜本的再設計が必要になります。

ポジティブな側面として、この危機は新たな技術革新の機会でもあります。浮体式インフラ、海上都市、高度な気象予測システム、カーボンキャプチャ技術など、「水と共生する」新しい都市設計思想が求められており、これらは次世代の成長産業となる可能性を秘めています。

一方で潜在的リスクは深刻です。2億3000万人が海面1メートル以内に居住している現実を考えると、大規模な気候難民の発生は避けられません。これは地政学的安定性にも重大な影響を与え、国際秩序の再編を迫る可能性があります。

規制面では、各国政府は従来の温室効果ガス削減目標の大幅な前倒しを迫られることになるでしょう。1.5°C目標でさえ「安全」ではないという科学的コンセンサスが形成されれば、より厳格な1°C目標への転換が議論される可能性があります。

長期的視点では、この研究は人類文明の持続可能性に関する根本的な問いを投げかけています。数世紀スケールで進行する海面上昇は、現在の政治・経済システムの時間軸を大きく超えており、世代を超えた長期的思考と国際協調が不可欠となります。

【用語解説】

ティッピングポイント(臨界点):
氷床が不可逆的な融解を始める温度の境界線。一度この温度を超えると元に戻すことが困難になる。

フィードバックループ:
氷が溶けることで表面が暗くなり、太陽光をより多く吸収してさらに溶けやすくなる現象。

古気候学:
過去の地球の気候を研究する学問。氷床コアや化石などから数万年前の気候を推定する。過去の気候データは未来予測の重要な手がかりとなる。

カルビング:
氷河の先端部分が海に崩れ落ちる現象。氷河が海に流れ込む際に大きな氷塊が分離する自然現象だが、温暖化により加速している。

パリ協定:
2015年に採択された国際的な気候変動対策の枠組み。世界の平均気温上昇を産業革命前と比べて1.5°C以内に抑制することを目標としている。

【参考リンク】

Communications Earth & Environment(外部)
Nature Portfolio発行のオープンアクセス科学誌。地球科学、環境科学、惑星科学分野の査読付き論文を掲載する。

ダラム大学地理学部(外部)
クリス・ストークス教授が所属する英国の名門大学。氷河学研究の世界的拠点の一つである。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)(外部)
国連の気候変動に関する科学的評価を行う国際機関。海面上昇予測の国際的基準を提供している。

【参考記事】

pro.earth – Sea levels will rise higher than previously assumed (2025年1月31日公開)

CNN – Global sea levels are rising faster and faster. It spells … (2025年5月9日公開)

World Economic Forum – Sea level rise: Everything you need to know (2025年3月25日公開)

【参考動画】

【編集部後記】

私たちが直面している海面上昇の問題は、単なる環境問題にとどまらず、私たちの生活や未来に深く関わる課題です。皆さんはどのようにこの変化に向き合い、どんな技術やアイデアが解決の鍵になると思いますか?一緒に考え、未来を形作るヒントを探してみませんか。

サステナブルニュースをinnovaTopiaでもっと読む

投稿者アバター
TaTsu
デジタルの窓口 代表 デジタルなことをまるっとワンストップで解決 #ウェブ解析士 Web制作から運用など何でも来い https://digital-madoguchi.com
ホーム » サステナブル » サステナブルニュース » パリ協定1.5°C目標達成でも海面上昇は2倍速で進行|グリーンランド・南極氷床の臨界点が1.5°Cに下方修正