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Apple、EU「デジタル市場法」相互運用性規則に上訴|プライバシー懸念でiOSオープン化に反発

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Appleは2025年5月30日、ルクセンブルクのEU一般裁判所に対し、欧州連合のデジタル市場法(DMA)相互運用性要件への上訴を提出した。

この上訴は2025年3月19日の欧州委員会の決定に関して、iOSをスマートウォッチ、ヘッドフォン、VRヘッドセットなど競合製品との互換性向上を要求する規則に異議を申し立てる。DMAによりAppleは、通常自社製品専用のiOS機能へのサードパーティ開発者アクセスを許可し、競合ウェアラブルデバイスへの通知表示、Apple以外ハードウェアでの高速データ転送とデバイスペアリング簡素化が義務付けられる。Appleは競合他社が通知内容や完全なWiFiネットワーク履歴など「Appleでさえ見ることのない」機密ユーザーデータへのアクセスを要求していると主張し、セキュリティリスクを懸念する。同社はDMAコンプライアンス対応に500人のエンジニアを配置し、相互運用性要求用開発者ポータルを開設した。DMA違反企業には世界年間売上高最大10%の罰金が科せられ、極端な場合は事業分割命令もある。

From:
文献リンクApple Appeals EU Digital Markets Act Interoperability Rules

【編集部解説】

今回のAppleによるEU一般裁判所への上訴は、単なる法的手続きを超えて、テクノロジー業界における「統合エコシステム」と「オープンプラットフォーム」の未来を左右する重要な分岐点に位置しています。

まず技術的な背景を整理すると、DMAが要求する相互運用性は9つの具体的なiOS接続機能に関わります。これには通知表示、Wi-Fi接続、近距離通信(NFC)、デバイスペアリングなどが含まれ、現在はApple Watch、AirPodsといった自社製品に限定されている機能を、GarminやHUAWEIなどサードパーティ製品にも開放することを意味します。

特に注目すべきは、Appleが指摘する「Appleでさえ見ることのないデータ」という技術的な問題です。現在のiOSでは、通知内容やWi-Fiネットワーク履歴といったデータはデバイス上で暗号化処理され、Apple自身も直接アクセスできない設計になっているとAppleは説明しています。しかし、DMAの要求が実現すれば、これらの機密情報にサードパーティ企業がアクセス可能になる潜在的なリスクがあり、プライバシーとセキュリティに関する根本的な課題が提起されています。

この規制が実現すれば、ユーザーは理論上、iPhoneからSamsung Galaxy Watchに通知を受信したり、HUAWEI製ヘッドフォンでApple Musicをより滑らかに操作できるようになるでしょう。開発者にとってはAppleの25万以上のAPIへのより公平なアクセスが実現し、革新的なクロスプラットフォーム製品の開発機会が拡大します。

一方で、潜在的なリスクも深刻視されています。Appleがこの対応のために多数のエンジニア(同社発表によれば500人規模)を専任で配置しているとされる事実は、技術的実装の複雑さを物語っています。また、サードパーティ製品との連携において統一された強固なセキュリティ基準が確立されない場合、悪意のある第三者によってユーザーデータが悪用される危険性が高まる可能性も指摘されています。

実装タイムラインは具体的に設定されており、iOS通知共有のベータ版が2025年末、完全版が2026年6月にリリース予定です。Wi-Fi自動接続機能も同様のスケジュールで展開される見込みです。

長期的視点では、この争いの結果がテクノロジー業界全体のビジネスモデルを再定義する可能性があります。Appleのエコシステム統合戦略が制限されれば、他のテック企業も同様の規制圧力に直面し、プラットフォーム競争の構造そのものが変化するでしょう。

【用語解説】

デジタル市場法(DMA): 2022年11月に制定され2024年3月から施行されたEUの規制法。大手デジタルプラットフォームを「ゲートキーパー」として指定し、市場の公正性と競争性を確保することを目的とする。

ゲートキーパー: DMAにより指定される大手デジタルプラットフォーム企業。年間売上高75億ユーロ以上、月間アクティブユーザー4500万人以上などの基準を満たす企業が対象。現在Apple、Google(Alphabet)、Meta、Amazon、Microsoft、ByteDanceの6社が指定されている。

相互運用性(Interoperability): 異なるシステムや製品が相互に連携し、データや機能を共有できる能力。DMAはAppleに対し、iOSの9つの接続機能をサードパーティ製品でも利用可能にすることを要求している。

API(Application Programming Interface): アプリケーション間でデータや機能をやり取りするためのインターフェース。Appleは開発者に対し、多数のAPI(同社によれば25万以上)を提供している。

EU一般裁判所: 欧州連合の司法制度における第一審裁判所。ルクセンブルクに所在し、EU機関の決定に対する企業や個人からの上訴を審理する。

コアプラットフォームサービス: DMAが定義するデジタルサービスの分類で、検索エンジン、アプリストア、メッセンジャーサービス、ソーシャルネットワークなど22のサービスが指定されている。

【参考リンク】

  1. Apple公式サイト(外部)
    iPhone、iPad、Mac、Apple Watchなどの製品情報とサービスを提供するAppleの公式ウェブサイト。最新製品情報と企業ポリシーを掲載
  2. デジタル市場法(DMA)公式サイト(外部)
    欧州委員会が運営するDMAに関する公式情報サイト。規制内容、実施ガイドライン、コンプライアンス状況、違反調査の進捗を提供
  3. 欧州委員会公式サイト(外部)
    EUの行政執行機関である欧州委員会の公式ウェブサイト。デジタル政策、競争政策、法案提出、決定事項に関する包括的情報を掲載
  4. Apple DMAコンプライアンス情報(外部)
    AppleによるDMA対応状況と法的情報を提供する公式ページ。開発者向けガイドラインとコンプライアンス報告書を掲載

【参考記事】

  1. Commission provides guidance under Digital Markets Act(外部)
    2025年3月19日に欧州委員会が発表したAppleに対するDMA相互運用性要件の詳細決定に関する公式発表
  2. Apple appeals EU law that requires it to share sensitive user data(外部)
    Appleの上訴について、プライバシーとセキュリティの観点から詳細に分析。2025年末のベータ版リリースなどタイムライン情報も掲載
  3. EU sends Apple first DMA interoperability instructions(外部)
    EUがAppleに対して初のDMA相互運用性指示を出した背景と詳細内容を分析。Meta、Garmin、Spotifyなど競合企業の要求についても言及
  4. The EU’s Apple and Google DMA Rulings Deal a Double Blow(外部)
    DMA規制がヨーロッパの消費者や大西洋間関係に与える影響について批判的な視点から分析した政策研究記事
  5. The FSFE calls for broader interoperability by Apple(外部)
    Free Software Foundation Europeによる、Appleのより広範な相互運用性実現を求める市民社会組織の立場表明とパブリックコメント

【編集部後記】

この件について、みなさんはどう感じられますか?Appleのような統合されたエコシステムと、より開放的な相互運用性、どちらがユーザーにとって本当に価値があるでしょうか。

私たちも正解があるとは思いません。ただ、この争いの行方が、今後のテクノロジーとの付き合い方を大きく変える可能性があることは確かです。みなさんの日常で使っているデバイスやサービスを振り返りながら、この問題を一緒に考えてみませんか?

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まお
おしゃべり好きなライターです。趣味は知識をためること。