準決勝の相手は28歳、決勝の相手は24歳。11歳の小学生が、自分の倍以上の年齢の大人たちを相手に20勝3敗で頂点に立ちました。ただ、この金メダルは本人の才能だけでは説明がつきません。盤上で何が起きていたのか、そして誰がその歩みを支えてきたのかを読み解きます。
第20回アジア競技大会(2026/愛知・名古屋)のeスポーツ競技「Puyo Puyo Champions(ぷよぷよeスポーツ)」で9月26日、日本代表の栗原悠輝氏(11歳、東京ヴェルディeスポーツ所属)が金メダルを獲得した。大会公式結果によると、栗原氏は24日のグループステージでフィリピン、カザフスタン、韓国、ホンコン・チャイナの代表に勝ち、4戦全勝とした。
26日の決勝トーナメントでは、準々決勝でシンガポール代表を5-0、準決勝でタイ代表を10-1、決勝で韓国代表のカン・ドンシン氏を10-2で破った。会場はAichi Sky Expo(愛知県国際展示場)。大会公式のeスポーツ競技別メダル表では、日本は金1、銀1、銅1を獲得している(9月27日時点)。
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20th Asian Games and Aichi–Nagoya 2026 Results(2026年9月26日)
【編集部解説】
11歳の小学5年生が、アジア最大級の総合スポーツ大会で金メダルを手にしました。見出しは「最年少」の一語に集まりがちですが、この1枚のメダルには、日本のeスポーツがここ数年で積み上げてきたものが詰まっています。競技の中身と、それを支える仕組みの両面から読んでみます。
「読み」で大人に勝つ競技
決勝の相手は24歳、準決勝の相手は28歳。自分の倍以上の年齢の選手を相手に、栗原氏は準決勝と決勝の2試合を合計20勝3敗で勝ち切りました。
ぷよぷよは、同じ色のぷよを4つ以上つなげて消し、その消去が次の消去を呼ぶ「連鎖」を組むパズルゲームです。連鎖が長いほど、相手の画面に邪魔なぷよを多く送り込めます。勝負を分けるのは、落ちてくるぷよを数手先まで読んで崩れにくい連鎖を組む設計力と、相手の動きを見て攻めどきと守りどきを選ぶ判断力です。
指先の速さだけを比べる種目ではありません。盤面を読む力は、練習と対戦の積み重ねで磨かれます。体格や筋力の成長を待たずに、大人と同じ土俵に立てる余地が大きい。私はここに、ゲームという道具が、年齢とは別の軸で人の能力を測る場をつくっている姿を見ます。
栗原氏がぷよぷよに出会ったのは幼稚園のクリスマス、プレゼントの『ぷよぷよテトリス2』でした。今年2月にはセガ公式大会「ぷよぷよグランプリ ファイナル」で優勝し、4月には同世代の選手とともに、小学生として初めて一般社団法人日本eスポーツ協会(JESU)公認のプロライセンスを取得しています。大会前には、学校と塾との両立は大変だが、とても楽しいと語っていました。
公開競技から11種目へ、8年の歩み
アジア大会とeスポーツの関係は、2018年のジャカルタ・パレンバン大会で公開競技として始まりました。前回の杭州大会(2023年開催)で7タイトルが正式なメダル種目となり、今大会は11種目13タイトルへと広がっています。
日本にとって、今大会は「メダルを取りに行く大会」になりました。TEAM JAPANは7種目9タイトルに25名の選手を送り込み、eFootballの銅に続いて、ぷよぷよでeスポーツ初の金メダルに届きました。同じ日には、対戦格闘ゲーム団体戦でも銀メダルを獲得しています。
32年ぶりの国内開催という追い風もありました。栗原氏は決勝後の会見で、たくさんの観客の声援がうれしかったと振り返っています。配信で見ることの多かったeスポーツを、会場で声を上げて応援する。その光景も、今大会が見せたeスポーツの一面です。
「ゲームがうまい子」が「代表選手」になるまで
今回の金メダルは、個人の才能だけで生まれたものではありません。
ぷよぷよシリーズは2018年にJESUの公認タイトルとなり、国民スポーツ大会の文化プログラム「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」にも採用されてきました(今年度はエキシビションとして実施予定)。栗原氏はこの選手権の小学生の部で2年連続の優勝を果たしています。
代表の選考も、既存のスポーツと同じ手続きを踏んでいます。JESUが最終選考競技会を経て候補を推薦し、日本オリンピック委員会(JOC)が承認して正式な日本代表となる。JESUは選手強化の手段として、味の素ナショナルトレーニングセンターでの強化合宿や、アスリートとしての意識を高めるインテグリティ研修も挙げています。
栗原氏の場合、全国大会や公式大会で実績を重ね、代表候補の最終選考を勝ち抜きました。競技タイトルごとの選考を経て国の代表になる。野球やサッカーでは当たり前のこの道筋が、eスポーツでも形になりつつあります。
支える側の動きもあります。愛知eスポーツ連合が運営する「eスポーツ 金メダルプロジェクト」の一環として、今年6月には東京ヴェルディeスポーツが栗原氏を迎え入れ、代表候補の活動を後押ししてきました。セガの学習教材「ぷよぷよプログラミング」が全国1,000校以上の授業で使われるなど、ぷよぷよに触れる入り口は競技の外にも広がっています。
未成年のトップ選手を、どう支えるか
一方で、年少の選手を支える制度は、まさに整えられている途中です。
今年2月のグランプリファイナルでは、大会規定により中学生以下の選手には賞金の代わりにセガの特別賞品が贈られ、優勝した栗原氏も100万円の賞金ではなく特別賞品を受け取りました。
4月の小学生初のプロライセンスは、JESUが規約を改定(2026年2月施行)したことを受けて、セガが自社の年齢規定を見直した結果です。セガはあわせて、契約や金銭の授受は親権者が確認・管理する、深夜に及ぶ大会運営を避けるといった、若年層の選手を支える指針を公表しました。若い選手をどう守り、どう伸ばすか。その作法は、いままさに形づくられています。
アジア大会の報奨金も、同じ流れの中にあります。五輪ではJOCが金メダリストに500万円を支給します。一方、アジア大会には一律の制度がなく、各競技団体の判断に委ねられていると報じられています。報道によると、日本陸上競技連盟は金メダルに100万円を用意し、日本eスポーツ協会は報奨金を出さない見通しです。9月27日時点で、JESUから報奨金方針の公式発表は出ていません。
11歳の金メダリストの誕生は、この競技を社会の中でどう位置づけ、どう支えるかを考えるきっかけになるでしょう。
五輪が作り直しの最中にあるいま
世界に目を向けると、国際オリンピック委員会(IOC)は2024年7月に「オリンピックeスポーツゲームズ」の創設を全会一致で決めました。その後、2025年10月にはサウジアラビア側との協力を終え、新しいパートナーシップの形を探ると表明しています。第1回大会の時期は、まだ示されていません。
IOCが初回大会の枠組みを練り直す一方で、アジア大会は国と地域の代表がメダルを争う大会を重ね、種目を増やしてきました。eスポーツを総合競技大会に組み込む取り組みは、アジア大会で一歩ずつ実績を重ねています。
eスポーツ競技は10月2日まで続きます。11歳が大連鎖で見せたのは、ゲームの腕前だけではありません。遊びとして始めたものが、仕組みに支えられて国を代表する競技へと育っていく。その道筋が、日本でもはっきりと見え始めています。
【関連記事】
サウジアラビア、エスポーツの新時代を牽引:オリンピックと戦略的パートナーシップを締結
2024年7月、IOCとサウジアラビアが五輪eスポーツゲームズで提携した際の記事。なお、この提携は2025年10月に終了している。
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eスポーツ選手の手の動きを測って形状を決めたASUSの新型マウスから、人間を中心に据えた入力機器の設計思想を読み解く記事。
【編集部後記】
セガが4月に公表した若年層向けの指針には、親権者との連携や大会時間への配慮と並んで、もう1つの項目があります。ライセンスの取得も大会への出場もあくまで選択肢の1つであり、活動を強いることはしない、という約束です。
金メダルを手にした11歳には、これから周囲の期待が一気に集まるはずです。そのとき「続けない自由」まで含めて支えられるかどうか。仕組みの成熟は、勝った選手の扱いよりも、迷った選手の扱いに表れるのかもしれません。
【用語解説】
ぷよぷよ
1991年に初代が登場したアクションパズルゲーム。同じ色の「ぷよ」を4つ以上つなげて消す。セガは、落ち物アクションパズルとして初めて対戦形式を取り入れた作品と説明している。アジア大会では「Puyo Puyo Champions」の名称で実施された。
連鎖
ぷよを消した結果、上のぷよが落ちて新たな消去が連続して起きること。連鎖が長いほど、相手に送る邪魔なぷよが増える。
アジア競技大会(アジア大会)
アジアオリンピック評議会(OCA)が主催し、原則として4年に1度開かれるアジアの総合競技大会。第20回の愛知・名古屋大会は、2026年9月19日から10月4日まで開催される。
公開競技
正式なメダル種目とは別に実施される競技。成績は公式のメダル集計に含まれない。eスポーツは、2018年のジャカルタ・パレンバン大会で公開競技として初めて実施された。
プロライセンス(JESU公認)
正式名称は「ジャパン・eスポーツ・プロライセンス」。JESUが公認タイトルごとに発行するプロ選手の資格。13〜15歳を対象としたジュニアライセンスもある。ぷよぷよでは、JESUの規約改定(2026年2月26日施行)を受けて、小学生への発行が実現した。
インテグリティ
スポーツにおける高潔性、公正さ。八百長や不正行為、ドーピングなどを防ぎ、競技の価値を守るための考え方を指す。
ナショナルトレーニングセンター
東京都北区にある、日本のトップアスリートのための強化拠点。「味の素ナショナルトレーニングセンター」は、ネーミングライツによる呼称。
全国都道府県対抗eスポーツ選手権
各地の予選を勝ち抜いた都道府県代表が、複数種目の総合成績を競う全国大会。2019年から国民スポーツ大会の開催地で実施されてきた。2026年は、オンラインでの特別大会として12月に開かれる。
オリンピックeスポーツゲームズ
IOCが2024年に創設を決めた、eスポーツの国際総合大会。サウジアラビア側との協力は2025年10月に終了した。IOCは、新たな方式での初回大会の早期開催をめざしている。
【参考リンク】
第20回アジア競技大会 公式結果 eスポーツ競技別メダル表(外部)
第20回アジア競技大会の公式結果サイトにある、eスポーツの国・地域別メダル表。各国・地域の金・銀・銅の獲得数を掲載している。
愛知・名古屋アジア大会 公式サイト(外部)
第20回アジア競技大会(2026/愛知・名古屋)の公式サイト。大会の概要や競技日程、会場など、最新の大会情報を掲載している。
日本eスポーツ協会 アジア競技大会特設ページ(外部)
日本eスポーツ協会によるアジア大会eスポーツの特設ページ。日本代表選手の一覧や競技タイトル、日程などの情報をまとめている。
JOC eスポーツ|愛知・名古屋アジア大会(外部)
日本オリンピック委員会によるeスポーツ競技の紹介ページ。アジア大会で正式に採用されるまでの経緯と、競技の概要を掲載している。
ぷよぷよeスポーツ 公式サイト(外部)
セガが運営する『ぷよぷよeスポーツ』の公式サイト。ゲームの概要や基本の遊び方、セガ公式大会などの最新情報を掲載している。
【参考記事】
日本eスポーツ協会公認タイトル「ぷよぷよ」シリーズの ゆうき選手ときーくん選手が小学生初のプロライセンス取得(外部)
セガが年齢規定を変え、小学生2人にプロライセンスが発行された経緯と、若年層の選手を適切に支えるための3つの指針を公表した発表。
2月8日(日)セガ本社にて開催! セガ公式大会「GigaCrysta ぷよぷよグランプリ ファイナル」 インターネットライブ配信情報を公開(外部)
優勝100万円などの賞金額と、中学生以下の選手には賞金の代わりにセガの特別賞品を授与するという大会規定を明記した大会の告知。
「全国都道府県対抗eスポーツ選手権 2026」の開催と競技タイトルに関するお知らせ(外部)
第8回大会を12月にオンラインで開き、競技タイトルは3種目、ぷよぷよeスポーツはエキシビションで実施すると告知した発表。
IOC statement on the Olympic Esports Games(外部)
IOCとサウジアラビアの五輪委員会が、五輪eスポーツゲームズでの協力の終了に合意し、IOCが新方式を探ると表明した声明。
東京ヴェルディeスポーツ ぷよぷよ部門 ゆうき選手 加入のお知らせ 〜金メダルプロジェクト〜(外部)
愛知eスポーツ連合の「eスポーツ 金メダルプロジェクト」の一環として、日本代表候補のゆうき選手の加入を告知したクラブのお知らせ。
Esports Return to the Asian Games: Looking Beyond Aichi-Nagoya(外部)
アジア大会でのeスポーツの経緯と今大会の構成を整理し、年齢や性別の影響を受けにくいというeスポーツの多様性に触れた記事。

















