【解説】Autistici/Inventati (A/I)、米テロ指定から23日で全停止|ドメイン・決済・口座の連鎖

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イタリアの銀行は声明で、米国の制裁リストを政治目的で使うことを強く非難しました。そして同じ声明で、その制裁を受けた団体の口座取引を止めると伝えています。技術集団A/Iを巡って8月末から相次いだ停止に、公表されている限り裁判所の判断を経たものはありません。何が、どの順番で止まったのかをたどります。


米財務省外国資産管理局(OFAC)は2026年8月26日、大統領令13224号に基づき、イタリアの技術集団Autistici/Inventati(A/I)を特別指定グローバルテロリスト(SDGT)に指定した。国務省も同日、財務省と連携した指定として発表した。米政府は、A/Iが暗号化メールやホスティング、ブログ基盤Noblogsなどを暴力的な極左組織に提供したとし、A/Iは否定している。

指定後、PayPalアカウントが停止され、.orgのレジストリPIRがautistici.orgを名前解決できない状態に置き、Banca Eticaが口座を停止した。A/Iは9月6日に解散を発表し、9月18日に全サービスを停止した。一般許可36号が認めた取引整理の期限は9月25日だった。

Autistici/Inventatiとはどんな集団か

Autistici/Inventati(A/I)は、2001年にイタリアのハックラボや社会運動から生まれた、ボランティア運営の技術集団です。名前にA/Iとありますが、人工知能(AI)とは関係ありません。無料のメール、ウェブホスティング、メーリングリスト、ブログ基盤「Noblogs」を、思想的に近い活動家や団体に提供してきました。

今回の措置で注目したいのは、指定そのものよりも、指定から解散の発表までの11日間に起きたことです。公表されている限り、裁判所の判断が示されないまま、ドメイン、決済、銀行口座が相次いで止まり、25年続いたインフラが自ら幕を下ろしました。

米政府の指定根拠とA/Iの反論

米政府が示した根拠

まず、米政府の主張を確認しておきます。

国務省のファクトシートは、A/Iを「暴力的なAntifaのセルや極左の活動家に向けてデジタル基盤を構築・運用する過激派グループ」と位置づけました。そのうえで、具体的な事例を挙げています。2026年にフランス、イタリア、ドイツ、オランダで起きた鉄道妨害の犯行声明の発信、2026年3月のトランスアルパイン・パイプライン(TAL)妨害の声明と、別の攻撃を呼びかける文書の拡散、そして2026年1月にベルリンの電力網が攻撃され、4万5000世帯が停電して死者が出た事件の犯行声明の発信です。いずれも、A/Iの道具やサービスが使われたとしています。

米国内の事例も挙げられています。国務省によれば、オレゴン州のRose City Antifaは、A/Iのサービスを使って暴力的な行為を組織・扇動し、その中には税関・国境警備局(CBP)のヘリコプターへの攻撃が含まれ、連邦での起訴につながりました。移民・関税執行局(ICE)職員の個人情報をさらすリストの拡散や、職員への襲撃の呼びかけにも使われたとしています。

ジョージア州アトランタで警察の訓練施設の建設を阻止しようとした無政府主義者のグループについては、警察官への攻撃の犯行声明、個人情報の暴露、発火装置の作り方の拡散にA/Iが使われ、グループは現在も活動を続けているとしています。人工妊娠中絶に反対する立場から妊婦を支援する施設(クライシス・プレグナンシー・センター)への放火を重ねた「Jane’s Revenge」も、犯行声明の発信にA/Iを使ったとされ、メンバー4人が連邦法違反で起訴されています。

財務省は、A/Iが思想的に一致すると判断した利用者だけを審査して受け入れており、その中に米英EUがテロ組織に指定するクルド労働者党(PKK)が含まれると述べています。

注意したいのは、A/I自身が攻撃を実行したとは、どちらの文書も主張していない点です。問われているのは「物質的支援」、つまり通信や発信の基盤を提供したことそのものです。財務省は同じ発表の中で、政治的な言論や憲法で保護された活動を理由に制裁することはないとも明記しています。

A/I側の説明

A/Iはすべての容疑を否定しています。自分たちはデジタルの自己防衛の道具を提供してきたにすぎない、という立場です。

A/Iによれば、問題とされた利用者について当局から情報提供の要請や削除命令を受けたことは一度もなく、捜査の通知もありませんでした。指定についても正式な通知はなく、報道で知ったと説明しています。過去にはイタリア国内で捜査や訴訟の対象になったこともありますが、いずれも通常の司法手続きで扱われ、協会側はすべて無罪になったとしています。

指定のあとに重なったドメイン・決済・口座の停止

指定後の経過を日付順に並べると、次のとおりです。

PayPal、.orgドメイン、Noblogs

まず、寄付の受け皿だったPayPalアカウントが停止されました。停止日について、A/Iの発表は年表で8月27日、本文で8月28日と記しています。

8月28日、autistici.orgの名前解決ができなくなりました。.orgドメインを管理するレジストリ、Public Interest Registry(PIR)が、ドメインを「serverHold」という状態に置いたためです。サーバーが止められたのではなく、名前からサーバーの住所を引く仕組みが止められたことになります。同じ日、Noblogsにも侵入があり、A/Iはデータが持ち出された証拠を確認したとしています。メールアドレスとハッシュ化されたパスワードを含む利用者データベースについては、A/Iは攻撃者がアクセスした可能性が高いと説明しています。攻撃者はわかっていません。

Banca Eticaの口座

9月1日、イタリアの倫理銀行Banca Eticaが口座の取引を一時停止しました。銀行は声明で、2018年から口座を持つA/Iの取引は通常どおりで、マネーロンダリング対策の面でも懸念はなかったと説明しています。そのうえで、リスク評価を引き上げて取引を止めざるを得ず、近く口座を閉じる可能性が高いとし、約13万の他の顧客・組合員へのサービスを危険にさらせないことを理由に挙げました。同じ声明で、OFACのリストを政治目的で使うことを強く非難しています。A/Iによれば、銀行は9月4日、口座を閉じる方針を伝えてきました。

制裁そのものを批判しながら、口座は止める。この判断に、今回の構図が最もよく表れています。財務省の一般許可36号は、米国の制裁規則で禁止される取引のうち、A/Iとの取引を終わらせるために通常必要なものを、制裁対象者への支払いは凍結口座に入れるといった条件付きで、9月25日午前0時1分(米東部夏時間)まで認めていました。Banca Eticaはその期限より前に取引を止めています。規制が直接求める範囲を超えて、事業者がリスクを避けるために関係を絞る動きは、金融の世界で「デリスキング」と呼ばれます。

解散と全サービスの停止

A/Iは9月6日に解散を発表し、利用者にバックアップの手順を案内したうえで、9月18日に全サービスを止めました。

米国の指定だけで、イタリアやEUに同じ資産凍結の義務が自動的に生じるわけではありません。ただし米国の制裁には、米国人や米国内の取引への禁止に加え、外国の金融機関の一定の取引に対する二次制裁のリスクがあります。その影響のもとで、ドメイン、決済、銀行口座の停止が重なりました。A/Iは利用者らへのリスクを理由に、サービスの終了を発表しています。PIRの措置に至った命令や判断の経路は、明らかになっていません。

同じ日に制裁された3つの団体

同じ8月26日の財務省の発表では、英国政府がテロ組織に指定しているPalestine Actionと、財務省が、パレスチナ解放人民戦線(PFLP)の支配下にあるとするSamidounの隠れ蓑と位置づけるMasar Badilも制裁対象になりました。

財務省はこれらの措置を、2026年の米国テロ対策戦略が暴力的な極左を三大脅威の一つに挙げたことと、2025年11月に国務省がAntifa系グループを指定したことの延長線上に置いています。A/Iの指定は単発の判断ではなく、米政府が極左への対応を強める政策の一部として読む必要があります。

インフラ事業者が制裁対象になった例としては、2026年7月にランサムウェア攻撃を支えたとしてVPN事業者1VPNSが制裁された件があります。ただし1VPNSは犯罪集団の攻撃を支えたとされる事案で、今回は政治的な立場を明示する非営利の集団が対象になった点で性格が異なります。

日本の組織にとっての意味

日本の組織にとっても、構造は他人事ではありません。

.jpドメインは日本のJPRSが管理していますが、.comや.org、.netといった汎用ドメインのレジストリの多くは米国に拠点を置いています。決済サービスやクラウド、証明書の発行事業者にも、米国企業が多くあります。今回のA/Iのように、名前・お金・通信の経路がそれぞれ別の管轄に依存していることは、多くの組織に共通しています。

米国の制裁指定が、そのまま日本の法的義務になるわけではありません。一方で、国境を越えて取引する事業者は、自社のコンプライアンス判断として関係を見直すことがあります。今回の事例は、その判断が連鎖したときの速さを示しました。

自分たちのドメイン、決済、ホスティングがどの国のどの事業者に依存しているのか。事業継続の観点から、一度書き出してみる価値はありそうです。

まだ決まっていないこと

いくつかの点は、まだ確定していません。

A/Iの運営協会AI ODVは9月8日、ピサの裁判所にBanca Eticaを相手取った緊急の申し立てを行い、口座の機能回復か、資金の別口座への移し替えを求めています。審理は10月22日に予定されています。

PIRがOFACの直接の命令で動いたのか、ICANNが関与したのかは明らかになっていません。インターネットソサエティのイタリア支部は9月6日、PIRと本部に宛てた書簡で、利用者の行為や政治的な立場を理由に、司法の審査なしにサービス提供者がインターネットから排除されうることへの懸念を示しました。.orgは米国の財産ではなく世界の共有資源だ、という立場です。

米政府が挙げた事例とA/Iの関与をめぐる主張、それに対するA/Iの反論は、いずれも公開の法廷で検証されてはいません。OFACには指定の解除を申し立てる手続きがありますが、A/Iはすでに解散を選んでいます。

これから問われること

A/Iは全サービスを止める前の9月12日、支援を申し出た人々に向けて、自分たちの仕組みやコードを写して、自律的なサーバーを増やしてほしいと呼びかけました。

汎用の通信サービスを提供することが、どの条件で「テロへの物質的支援」に当たるのか。今回、米政府はA/Iによるサービス提供を指定の根拠としましたが、汎用サービス一般についての線引きが公開の法廷で示されたわけではありません。その一方で、指定のあとに起きた停止の連鎖は、メール、ホスティング、ドメイン、決済といった、ごく当たり前の基盤を誰がどんな手続きで止められるのかという問いを残しました。A/Iの閉鎖は、その問いを、治安を守る側と通信の自由を守る側の双方に投げかけています。

【関連記事】

1VPNSにOFAC制裁 ─ ランサムウェアを支えたVPN事業者を、米財務省が初摘発
攻撃者ではなく、攻撃を支えた事業者を制裁した前例を扱う記事。本記事と同じく、インフラの層へ向かう米国の制裁を追っている。

米、民間のサイバー作戦を制度化|全作戦に書面承認と保証金
2026年8月の大統領覚書を読み解いた記事。米国がサイバー空間での執行の仕組みを、どのように組み替えつつあるかを整理している。

【編集部後記】

インターネットソサエティのイタリア支部がPIRに送った書簡には、本文で触れなかった提案がもう一つありました。同じような命令から身を守るために、PIRとインターネットソサエティの法的な本拠地そのものを見直してはどうか、というものです。

世界の共有資源とされる.orgでも、運営する組織の登記の場所しだいで、どの国の制裁の影響を受けるかが左右されうる。毎日何気なく入力しているドメイン名の末尾が、どこの国の法律の下にあるのか。私はこの書簡を読むまで、考えたことがありませんでした。

【用語解説】

特別指定グローバルテロリスト(SDGT)
大統領令13224号に基づく米国の制裁上の指定。指定されると米国の管轄内にある資産が凍結され、米国人との取引が原則として禁止される。国務省が指定する外国テロ組織(FTO)とは別の区分である。

大統領令13224号
2001年9月23日に署名された、テロ資金対策のための米国の大統領令。テロ行為を実質的に支援した者などを制裁対象に指定する根拠となる。

一般許可(General License)
OFACが、本来は禁止される取引のうち一定の類型を、個別の申請なしに認める許可。36号は、A/Iとの取引を終えるために通常必要な取引を、条件付きで2026年9月25日まで認めた。

二次制裁
米国の制裁対象と一定の取引をした外国の事業者、とくに外国金融機関に対して、米国が科しうる制裁。米国内でのコルレス口座の開設や維持の禁止などが含まれる。

デリスキング
金融機関などが、法令で直接求められる範囲を超えて、リスクを避けるために特定の顧客や地域との取引を絞り込むこと。

レジストリ
.orgや.comといったトップレベルドメインごとに、ドメイン名の登録データベースを管理する組織。利用者が登録を申し込む窓口であるレジストラとは役割が異なる。

serverHold
レジストリがドメインに設定できる状態の一つ。この状態のドメインはDNSに公開されず、名前解決ができなくなる。サーバー自体が動いていても、ドメイン名ではたどり着けない。

物質的支援
米国のテロ対策法制で、テロ行為やテロ組織に資金、物品、技術、サービスなどを提供することを指す概念。今回の指定では、通信やホスティングの基盤を提供したことがこれに当たるとされた。

Noblogs
A/Iが運営していたブログ基盤。2026年8月28日の侵入後は、読み取り専用で公開されていた。

【参考リンク】

U.S. Department of the Treasury|Treasury Takes Action Against Violent Far-Left Terrorist Networks(外部)
A/Iなど3団体の制裁を発表した米財務省の発表文。指定の法的根拠と理由、資産凍結の範囲、二次制裁のリスクを具体的に記している。

U.S. Department of State|Designation of Autistici/Inventati as a Specially Designated Global Terrorist(外部)
国務省が財務省と連携して公表したA/I指定のファクトシート。欧州と米国内で起きた一連の事件へのA/Iの関与を主張している。

OFAC|Counter Terrorism Designations; Issuance of Counter Terrorism General License(外部)
8月26日の指定一覧と一般許可36号を掲載したOFACのページ。A/Iの所在地、組織種別、二次制裁リスクの記載が確認できる。

Keep the Internet free(Autistici/Inventati)(外部)
A/Iが指定後に立ち上げたキャンペーンサイト。声明、プレスリリース、解散の発表、バックアップの技術案内をまとめて保存している。

Banca Etica|Banca Etica e le sanzioni ad Autistici/Inventati: no all’uso delle norme anti-terrorismo contro il dissenso(外部)
Banca Eticaの公式声明(イタリア語)。口座の一時停止の理由と、OFACリストを政治目的で使うことへの非難を述べる。

Internet Society Italy|Letter to PIR(PDF)(外部)
インターネットソサエティのイタリア支部がPIRとISOC本部に送った書簡。autistici.orgの無効化に懸念を示している。

【参考記事】

Italian tech collective Autistici/Inventati shuts down after US terrorist designation(外部)
A/Iが約1万6000のメールアドレスなどを抱えていたと伝え、Noblogsで長年ブログを続けた利用者の声から閉鎖の影響を描く。

Italian hosting collective Autistici/Inventati is shutting down after a US terrorist designation(外部)
PayPal、PIR、Banca Eticaの停止を日付順に追い、欧州の法律が求める範囲と事業者の実際の対応との差に焦点を当てる。

ISOC Italia: autistici.org shutdown puts Internet freedom at risk(外部)
イタリア学術ネットワークGARRによる紹介記事。ISOCイタリア支部の書簡の宛先と、司法審査のない排除への懸念を伝える。

The US Designates Italian Autistici/Inventati as a Global Terrorist: How US Sanctions Expose the EU’s Inability to Set the Terms for Its Own Infrastructure(外部)
欧州法の視点からA/Iの指定を論じる。資産凍結そのものより、EUが自らのインフラの条件を決められない点を問題にしている。

デジタルインフラ提供元のA/I Collectiveをアメリカ政府がテロリストに指定、どんな影響が出たのか?(外部)
A/Iの指定とPayPal・ドメイン・銀行口座の停止を9月6日の閉鎖発表まで伝えた日本語記事。本記事はその後の経過を追う。

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森 祐佳 Solutions Engineer
一般社団法人生活情報基盤研究機構代表理事(AS63806 Menhera®・IPアドレス管理指定事業者/LIR、ITインフラやプロトコルの開発・運用から個人の自由、プライバシー・情報科学・人文学・医学などにアプローチ)。とある会社でソリューションエンジニアの仕事をしています。 テクノロジーと人間の精神の関係を、哲学と実装の両面から探求してきました。 ITエンジニアとしてシステム開発やAI技術に携わる一方で、心の哲学や宇宙論の哲学、倫理学を背景に、テクノロジーが社会や人の意識に与える影響を考察しています。 AIや情報技術がもたらす新しい価値観や課題を、自ら学生時代に東京大学医学図書館に籠って学習した、精神医学や公衆衛生の視点も交えながら分析し、「技術が人の幸福や生き方をどう変えるのか」という問いに向き合うことを大切にしています。 このメディアでは、AIやテックの最前線を紹介するだけでなく、その背後にある哲学的・社会的な意味を掘り下げ、みなさんと一緒に「技術と人間の未来」を模索していきたいと思います。

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