金融庁「参事官が事実上の課長」|暗号資産・ステーブルコイン課が生まれた背景

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参事官室が課になった。多くの記事がそう伝えています。ただ、この変化の背景については、金融庁自身が半年前から公式の広報誌で語っていました。2026年1月、6月、そして8月。3つの時点で公表された資料をつなぐと、再編の輪郭が浮かび上がってきます。


金融庁は2026年8月5日、8月7日付で組織再編を実施すると発表した。金融庁組織令の一部を改正する政令等に基づく措置である。総合政策局と監督局を廃止し、銀行・証券監督局と資産運用・保険監督局を設置。官房部門を担当する次長を新設し、総括審議官を監督総括審議官に改称する。

あわせて国際課、信用課、郵政金融課、資金決済課、暗号資産・ステーブルコイン課の5課を新設する。暗号資産・ステーブルコイン課は、総合政策局リスク分析総括課に置かれていた暗号資産・ブロックチェーン・イノベーション参事官室を前身とし、資産運用・保険監督局の直下に置かれる。傘下には暗号資産モニタリング室、イノベーション推進室、デジタル決済企画室が入る。

8月6日以前に作成された文書は、旧組織名が表示されていても有効とする。

From: 文献リンク金融庁の組織再編について

【編集部解説】

「格上げ」の背景を、金融庁の審議官はこう語っていた

報道の多くは「参事官室から課への格上げ」と書いています。ただ、この一語だけでは、何がどう変わったのかが見えてきません。

金融庁は昨年12月の機構・定員資料で、5課の設置を「既存の関係参事官を課長に名称変更」と表現しています。参事官はもともと課長級のポストでした。そこにいる人の階級が上がったという話ではありません。

では、なぜ最初から「課」ではなかったのか。この点について、金融庁の八幡道典総合政策局審議官が、6月の広報誌「アクセスFSA」の対談で説明しています。

中央省庁再編の名残から、課長という名称のポストを単純に増やせない、いわば“霞が関ルール”がある。そのため金融庁では、参事官という役職が事実上の課長や審議官の役割を果たすことがあり、外から見ると非常に分かりにくい——八幡氏はそう述べたうえで、今回の再編には分かりやすい課へ整理するという見直しの意味もあったと説明しています。

つまり、参事官室という形態は、金融庁の選択というより制約の産物だったというのが、当事者の説明です。

組織図の上での変化も押さえておきます。暗号資産・ステーブルコイン課の前身は「暗号資産・ブロックチェーン・イノベーション参事官室」で、総合政策局リスク分析総括課の下にありました。再編後は資産運用・保険監督局の直下に立ちます。課の下から局の下へ、階層がひとつ上がった形です。

金商法へ移る暗号資産、なぜ監督組織は証券側ではないのか

配置には、考えたくなる点があります。

暗号資産は、2026年7月15日に成立した改正法により、資金決済法から金融商品取引法の枠組みへ移ります。ところが監督組織としては、証券課を抱える銀行・証券監督局ではなく、資産運用・保険監督局の直下に置かれました。

ただし、この課が別の系列へ突然移されたわけではありません。

新設された資産運用・保険監督局は、総合政策局と監督局の機能を組み替えて設けられた局です。資産運用課や保険課は旧・監督局から、暗号資産部門は旧・総合政策局リスク分析総括課から入りました。系譜としては、別の系列へ突然移されたわけではありません。ここは押さえておく必要があります。

金融庁の中村香織企画市場局市場課市場企画室長は、同じ対談で、資産運用・保険監督局が資金決済・暗号資産・ステーブルコインなどのフィンテック関連も所管すると述べ、これまでリスク分析総括課の中にあったモニタリング機能が、2つの監督局に収れんされると説明しています。

対談相手の服部孝洋・東京大学金融教育研究センター特任准教授は、この配置についてこう述べています。銀行や証券が資金決済・証券決済を担っていることを考えると、機能面では銀行・証券監督局に入ったほうがきれいにも見える。ただ、監督局への権限集中を避けるため総合政策局に監督機能を置いてきた経緯を踏まえると、資産運用・保険監督局にフィンテック関連の課を入れるのは従来の流れに沿っている、と。

この評価は金融庁の公式見解ではなく、対談に参加した外部研究者の見方である点は、区別しておきたいところです。

法制をつくる部署と、監督する部署は分かれている

同じ対談から、もうひとつ確認できることがあります。

中村氏は、自身が所属する企画市場局市場課市場企画室について、現在は暗号資産等に関する法改正を担当していると述べています。一方で、暗号資産の監督機能は資産運用・保険監督局へ収れんされる。

つまり、暗号資産をめぐる法制と監督は、別々の局が担う構造になります。これは推測ではなく、同一の一次資料から確認できる事実です。

新旧表を見ると、この構造は分散型金融にも及びます。「デジタル・分散型金融企画室」は再編前から企画市場局総務課の下にあり、再編後は同局に新設された信用課の傘下へ移されました。DeFiの制度をつくる部屋は企画市場局に、暗号資産を監督する部屋は資産運用・保険監督局にあります。

企画と監督を分けること自体は、行政組織の通常の設計です。ただ、線引きそのものが制度設計の争点になっている領域では、両者の距離が実務に影響する可能性はあります。

3か月前の文書に名前があった人たちが、新体制の中枢へ

人事にも、この媒体で追ってきた文脈とつながる部分があります。

2026年5月22日、金融庁と日本銀行は連名で、金融機関等に対しAIによるサイバー脅威への対応を求める要請を発出しました。発出者は5名。総合政策局長の堀本善雄氏、企画市場局長の井上俊剛氏、監督局長の石田晋也氏、総括審議官の柳瀬護氏、そして日本銀行理事の神山一成氏です。

このうち金融庁側の4名が、そのまま新体制で要職に就いています。堀本氏は資産運用・保険監督局長、石田氏は銀行・証券監督局長、柳瀬氏は新設の次長。井上氏は企画市場局長に留任しました。伊藤豊長官、三好敏之金融国際審議官、尾﨑有国際総括官も留任します。

組織の枠は大きく描き替えられましたが、そこに座る顔ぶれは連続しています。

申請書類を出す側が知っておくべきこと

8月6日以前に総合政策局・企画市場局・監督局が作成した文書は、旧組織名が書かれたままでも有効です。8月7日以降に旧名称で提出した申請書類も、無効にはなりません。

ただし、これから新規に申請や届出を行う場合は、金融庁が公表した新旧表に沿って、再編後の部署へ提出する必要があります。証券取引等監視委員会、公認会計士・監査審査会、財務局については、組織も所掌事務も変わりません。

この再編が変えたもの、変えていないもの

留保を3つ置きます。

ひとつ目。この組織再編そのものは、事業者に課される規制の内容を変えるものではありません。変更されたのは金融庁の内部組織であり、暗号資産交換業者や電子決済手段等取引業者の実体的な義務を変える措置は、今回の再編資料からは確認できません。

ただし、別の法改正は動いています。7月23日に公布された改正法のうち、無登録業への罰則引上げなどは公布から20日を経過した8月12日に施行されます。暗号資産規制の金商法への移管そのものは、原則として公布から1年を超えない範囲内で政令が定める日からの施行です。この2つは別の話として区別してください。

ふたつ目。成否を測る指標は示されていません。金融庁が挙げた再編の理由は、資産運用立国の推進、デジタル技術の進展への対応、モニタリングの高度化です。いずれも方向であって、達成度の基準ではありません。新設各課ごとの人員配置や予算内訳も、8月5日の発表には含まれていません。ただし庁全体では、令和8年度の機構・定員として定員4人の純増(1,660人→1,664人)が公表されています。

みっつ目。「8年ぶりの大規模改編」という位置づけは、金融庁自身の言葉ではありません。2018年の検査局廃止以来という比較は複数の報道が用いていますが、公表資料には記載がありません。

組織図が実際にどう機能するかは、8月7日に始動した体制が動き出してからでないと見えてきません。注目すべきは新しい課の名前ではなく、その課が最初に何を発信するかだろうと考えています。


金融庁の広報誌「アクセスFSA」は、バックナンバーがすべて無料で公開されています。2026年1月号には組織再編の政策解説が、6月号には職員と研究者による対談が載っています。8月5日の発表資料だけでは見えてこない、課の分け方の考え方や組織運営上の背景は、こちらに書かれています。では、暗号資産の法制を担う企画市場局と、監督を担う資産運用・保険監督局は、今後どう連携していくのでしょうか。

【関連記事】

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トークンかステーブルコインか。それともPayPayか? 6月1日『新仲介業』がひらく、日本のデジタル金融インフラ
新設の資金決済課が所管する金融サービス仲介業の構造を、日本のデジタル金融インフラ全体の見取り図とあわせて解説している記事。

PayPayは通貨なのか|LINE連携・ステーブルコイン・暗号資産で読む”円の主権”
電子決済手段と暗号資産の法的区分の違いを、決済の実務に即して整理した記事である。今回の課の編成を読むうえでの前提知識となる。

【編集部後記】

対談には、こんな数字も出てきます。大きな役所では課員が10人程度ということもあるが、金融庁には課員100人以上の課が少なからずあり、300人以上のケースも含まれる——八幡審議官の説明です。

課の数が少ないという構造の問題が、そこで語られていました。今回5つの課が増えたことは、暗号資産の監督体制という文脈だけでなく、組織の形そのものの是正という側面も持っていたのかもしれません。


【用語解説】

金融庁組織令
金融庁の内部組織を定める政令である。局や課の設置、所掌事務の範囲はこの政令に基づいて決まる。今回の再編は、この政令の一部を改正する政令等に基づく措置である。

参事官
中央省庁に置かれるポストである。担当する分野や府省によって位置づけは異なるが、今回の再編対象となった金融庁の5参事官は課長級であり、金融庁は5課の設置を「既存の関係参事官を課長に名称変更」と説明している。

資産運用立国
家計に滞留する現金・預金を投資へ振り向け、企業価値の向上による恩恵を家計へ還元する好循環を目指す政府の政策方針である。金融庁は今回の再編の背景のひとつとして、この取り組みの発展を挙げている。

金融商品取引法(金商法)
有価証券の発行・売買や金融商品取引業者の規律を定める法律である。2026年7月15日に成立した改正法により、暗号資産は資金決済法からこの枠組みへ移る。施行は原則として公布の日から起算して1年を超えない範囲内で政令が定める日とされる。

暗号資産交換業者
資金決済法に基づく登録を受け、暗号資産の売買や交換、その媒介を業として行う事業者である。新設される暗号資産・ステーブルコイン課の傘下にある暗号資産モニタリング室が監督を担う。

電子決済手段等取引業者
改正資金決済法上の「電子決済手段」の売買や管理を業として行う事業者である。日本円建てステーブルコインの流通を担う事業者がこの区分に該当する。

金融サービス仲介業室
新設された資金決済課の傘下に置かれる室である。金融サービス仲介業は、銀行・証券・保険の各分野の商品を分野をまたいで仲介できる業態を指す。

【参考リンク】

金融庁(外部)
日本の金融行政を担う行政機関。今回の組織再編に関する一次資料のほか、報道発表や幹部人事の発令情報を公表しており、再編後の組織図も確認できる。

組織再編の概要(別紙1・PDF)(外部)
再編前後の組織図を1枚に収めたPDF。どの課がどの局の下に置かれるか、その傘下にどの室が並ぶかを一目で確認できる資料である。

組織再編前後の新旧表(別紙2・PDF)(外部)
課室の単位で再編前後を対応づけた表。各課の前身組織を特定できるほか、申請書類の提出先を確認する際の実務上の基準ともなる資料である。

アクセスFSA 第274号 特別企画(PDF)(外部)
金融庁職員と研究者による対談を掲載した広報誌の特別企画。組織再編の考え方や、参事官という役職の位置づけについて語られている。

アクセスFSA 第269号 政策解説(PDF)(外部)
組織再編の概要を金融庁秘書課の職員が解説した記事。5課の設置方針と再編の趣旨が、関係政令の正式決定に先立って示されている。

令和8年度 予算、機構・定員(案)について(PDF)(外部)
令和8年度の予算と機構・定員をまとめた資料。定員4人の純増や、参事官1人・室長1人の設置などが数値とともに明記されている。

フロンティアAIによる脅威変化を踏まえた金融機関等の短期的な対応(PDF)(外部)
金融庁と日本銀行が連名で発出した要請の原文。発出者5名の連名と、金融機関等に求める短期的な対応9項目が記載されている資料。

片山財務大臣兼内閣府特命担当大臣閣議後記者会見の概要(令和8年7月31日)(外部)
組織再編と幹部人事が発表された閣議後会見の記録。金融庁組織令を改正する政令が閣議決定された日と、新旧の役職を確認できる。

【参考記事】

金融庁、暗号資産扱う課など5課新設(外部)
5課それぞれが所掌をどこから引き継いだのかを整理し、再編前に作成された文書の取り扱いなど、実務上の要点にもあわせて触れている。

金融庁、「暗号資産・ステーブルコイン課」を新設 「資金決済課」も(外部)
2018年の検査局廃止以来8年ぶりの大規模改編という位置づけを示した報道。新設される5課の名称と局の再編内容をまとめている。

金融庁が8年ぶり大規模再編、「前例のない見直し」で銀行や証券の監督強化へ…ポスト新設で出世レースも激変(外部)
スクラップ・アンド・ビルドの慣行を覆した異例の体制見直しとして、2026事務年度における組織改革の背景を報じた記事である。

金融庁長官、伊藤豊氏が留任 資産運用・保険監督局長に堀本善雄氏(外部)
伊藤豊長官と三好敏之金融国際審議官の留任を含む幹部人事の全体像を伝え、新設されたポスト就任者の経歴もあわせて掲載している。

金融庁、伊藤長官が続投 組織大幅改編も主要幹部は留任 新設の「次長」に柳瀬氏(外部)
大幅な組織再編にもかかわらず主要幹部がほぼ留任した点に着目し、長官以下それぞれの経歴を詳細に掲載している有料記事である。

フロンティアAIが脆弱性を大量発見する時代へ—金融庁・日銀、Project YATA-Shieldに沿う1ヶ月対応を全金融機関に要請
本記事で触れた要請文書を詳報した記事。堀本・石田・柳瀬の各氏が連名で発出した経緯と、9項目の短期的対応の内容を伝えている。

【解説】暗号資産は有価証券になったのか?金商法改正の成立と「お墨付き」の危うさ
暗号資産の金商法移管について、成立した改正法の内容と2027年中とされる移行までに残る論点を、留保も含めて整理している。

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山本 達也
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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