Chromeの検索設定をBingに変えるためだけに、Microsoftが22.2MBの実行ファイルを1本用意しました。中身の拡張機能自体は2024年7月から変わっていません。新しいのは、それを各ブラウザへ一度に配る包装のほうです。同じ夏、Microsoftは自社の検索窓からBingを外す設定も表に出しています。
Microsoftが、既定の検索エンジンをBingに切り替えるWindows向けアプリ「Microsoft Recommended Search Settings」を公式のダウンロードサーバで配布していると、Windows Latestが2026年8月22日に報じた。ファイル名はMicrosoftSettings.exe、約22.2MB。Windows UpdateでもMicrosoft Storeでもなく、単体の実行ファイルとして配られる。起動するとBingを検索エンジンにするか尋ね、選択は既定で「Yes」だ。対象はMicrosoft Edge、Mozilla Firefox、Google Chromeで、Braveでも動作した。完了後はMicrosoft Rewardsのページに移る。
【編集部解説】
Windowsの画面から一歩外に出た話です。今回配られているのは、OSの新機能でもアップデートでもなく、既定の検索エンジンを選び直させることだけを仕事にした単体のアプリケーションでした。
まず押さえておきたいのは、新しく現れたのが拡張機能ではないという点です。このアプリがChromeに入れる「Microsoft Bing Homepage & Search for Chrome」は、ストアの掲載ページを見ると最終更新が2024年7月25日、バージョンは1.0.0.27。2年ほど前から同じものが置かれています。変わったのは中身ではなく、それを各ブラウザへ一度に届ける包装のほうです。
英語圏の報道では「forces(強制する)」という語が使われていますが、配布の経路を追うと、この語は実態より少し強く響きます。Windows Updateで自動的に入るわけでも、Microsoft Storeに並んでいるわけでもありません。ユーザーが自分でダウンロードして実行したときに初めて動く、単体の実行ファイルです。日本語に置き換えるなら「強制」より「推奨」が近いところにあります。
ただし、起動したあとの画面では、Bingに切り替えるかどうかのトグルが最初から「Yes」の側に倒れています。選ばせる形を取りながら、初期値のほうは決まっている。今回いちばん議論を呼んでいるのは、この一点です。
拡張機能を使うのは、それが唯一の正面口だから
技術的に見ると、この作りは正攻法です。一般の利用環境で拡張機能がChromeの既定の検索エンジンを変更する正規の経路は、マニフェストの chrome_settings_overrides に search_provider を書き、is_default を立てる形ひとつです(企業が管理するChromeには、管理者向けポリシーという別の道が用意されています)。Googleはこの経路以外での検索リダイレクトを認めておらず、APIを使わずに検索先を書き換える拡張機能はストアから削除されます。Microsoftが拡張機能を使っているのは、抜け道を通っているからではなく、それが認められた入口だからです。
そして、その入口には見張りが立っています。拡張機能が既定の検索エンジンを変えると、Chromeは「Google検索に戻しますか?」と尋ね、変更したのがMicrosoftのBing拡張機能であることを名指しで表示します。Microsoft側もこれを見越して「Wait, don’t change it back!(待って、戻さないで)」と引き留める。画面の上で、2社が同じユーザーに同時に話しかけているわけです。
読者にとっての実務的な要点は、ここに尽きます。今回のケースでは、変更はChromeから通知され、戻す導線もその場に出ています。その問い返しが出たときに、落ち着いてどちらかを選べばよい、ということです。
権限の設計は、Chrome版とFirefox版で分かれています。Chrome版が求めるのは、すべてのサイトのデータの読み取りと変更、通知の表示、ホームページ・スタートページ・検索設定の置き換え。一方、Mozillaのアドオンサイトに置かれているMicrosoft Corporation提供の「Microsoft Bing Search Engine」は、データへのアクセスがbing.comドメインに限られ、そのほかにタブへのアクセスなどを求めます。今回のアプリがFirefoxに入れるのがこのアドオンかどうかは、まだ確かめられていません。同じ提供元でも、プラットフォームごとに求める範囲は違います。Chromeの公式説明では、設定の上書きに加えて追加の権限を求める拡張機能は、単一目的ポリシーとの兼ね合いで確認ダイアログの対象になり得るとされています。
同じ夏に、逆方向の作業も進んでいる
文脈として面白いのは、Microsoftがこの夏、反対向きの作業も進めていることです。2026年6月、Windows 11の検索からBingによるウェブ結果をオフにするトグルが、Insiderビルド26300.8697(26H2)で見つかりました。当初はViVeToolで手動に有効化する必要のある隠し機能でしたが、7月13日にはMicrosoft自身がこれを告知し、ExperimentalチャネルのInsider向けに段階的な提供が始まっています。設定 > プライバシーとセキュリティ > 検索で、ウェブとMicrosoft Storeの候補をローカルの結果と一緒に出すかどうかを選べる形です。長く要望が続いてきた設定が、隠し機能から表に出てきたことになります。
自社の検索窓からはBingを外す道を用意し、他社のブラウザにはBingを勧めるアプリを置く。この非対称は、矛盾というより、Microsoftがいまどこに力を割いているかの地図として読めます。守りたいのはOSの中の体験ではなく、OSの外にある検索の既定値のほうだ、と。
既定値の設計は、いま各国の規制がもっとも神経を使っている場所でもあります。2026年5月26日、Browser Choice Alliance(BCA)がサティア・ナデラ氏に宛てて「Dear Microsoft, Enough is Enough」と題した公開書簡を出し、innovaTopiaでも6月5日に取り上げました。他社ブラウザを使う人に向けたダークパターンの取りやめ、ワンクリックでの既定ブラウザ切り替えの復活、OSの更新でEdgeへ引き戻す動きの停止など、7つの要求が並んでいます。あのときの論点は「既定のブラウザ」でした。今回は「既定の検索エンジン」です。同じ構造の問いが、一段内側の設定項目に移ってきたことになります。
10億人と4.47%は、矛盾していない
Bingの規模についても、数字の読み方を添えておきます。サティア・ナデラ氏は2026年4月29日のFY26第3四半期決算説明会で、Bingの月間アクティブユーザーが初めて10億人に達したと述べました。一方、StatCounterが集計した2026年7月の世界全体の検索エンジンシェアでは、Bingは4.47%、Googleは91.31%です。
この2つは矛盾していません。測っているものが違います。片方は月に1回以上Bingに触れた人の数。もう片方は、StatCounterの計測コードが入ったサイトへ、どの検索エンジン経由でたどり着いたかの割合です。StatCounter自身が、統計の土台は検索の実行回数ではなく検索エンジンからの参照流入だと明記しています。既定として置かれることと、選ばれて結果までクリックされることの距離が、そのまま数字の開きに出ています。今回のアプリが埋めようとしているのは、おそらくこの距離でしょう。
このアプリについてのMicrosoft自身の説明は、まだこれからです。配布はすでに始まっており、告知やサポート文書はこれから整えられていくのだと思われます。Windows Updateに載せる計画があるかどうかも、いまのところ確かめられていません。インストーラーのサイズとして伝えられている約22.2MBという数字も、報じたWindows Latestが実際に測った値で、追試が出れば精度は上がります。
既定値というのは、誰も触らなかったときに残る設定です。だからこそ、そこを誰がどう決めるかは、技術の話であると同時に設計思想の話になります。今回動いたのはMicrosoftですが、その動きに対してChromeが問い返し、ユーザーが選び直せる状態は保たれている。選択肢が用意されていることと、初期値が決まっていることは両立します。その両立をどこまで気持ちよく設計できるかが、これからのブラウザと検索の競争の中身になっていくはずです。
【関連記事】
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【編集部後記】
Firefox版のほうを見に行って、手が止まりました。Mozillaのアドオンサイトに置かれた、同じMicrosoft提供の検索アドオン。利用者は3,273人です。Chrome版は500万人。けたが3つ違います。
同じ会社が、同じ目的で出したものです。差がついたのは中身ではなく、入口の数のほうでしょう。今回の専用アプリは、その入口を一本増やす試みだと考えると腑に落ちます。数字が動くとしたら、どちら側からでしょうか。
【用語解説】
既定の検索エンジン
ブラウザのアドレスバーに語句を入れたとき、断りなく使われる検索サービス。利用者が自分で選び直さないかぎり、この設定が使われ続ける。
chrome_settings_overrides
Chrome拡張機能のマニフェストに書く設定項目。ホームページ、起動時のページ、検索プロバイダの3つを上書きできる。検索プロバイダを既定にするには is_default を立てる。設定APIで使うドメインは、Google Search Console での所有確認が求められる。
単一目的ポリシー(single purpose policy)
拡張機能は一つの目的に絞るべきだとするGoogleの方針。設定の上書きに加えて別の権限も求める拡張機能は、この方針との兼ね合いで確認ダイアログの対象になり得る。Chrome 107以降、単一の設定変更だけで追加の権限を求めない拡張機能には確認が出ない。
Insiderビルド/Experimentalチャネル
Windows Insider Program で先行公開される検証版と、その配布区分。Experimental は完成度より実験を優先する区分で、対象に入っても機能が届くとは限らない。
26H2
Windows 11 の2026年後半向け機能更新の呼び名。
月間アクティブユーザー(MAU)
月に1回以上そのサービスを使った人の数。定義は事業者ごとに異なるため、他社の数字との単純な比較はできない。
参照流入(search engine referrals)
検索結果からサイトへ移動した動きのこと。StatCounter の検索エンジン統計はこれを数えており、検索が実行された回数そのものではない。
ダークパターン
利用者が本来選ばないはずの選択へ誘導する画面設計。初期値の置き方、選択肢の目立たせ方、手順の増減などで生じる。
【参考リンク】
Microsoft Bing Homepage & Search for Chrome(Chrome ウェブストア)(外部)
アプリが各ブラウザに導入するBing拡張機能の掲載ページ。提供元、バージョン、最終更新日、対応言語をこのページで確認できる。
Install the MSN + Bing extension for Chrome and Firefox(Microsoft)(外部)
MSN + Bing拡張機能をChromeとFirefox向けに配布するMicrosoftの公式ページ。既定検索の切り替え導線もここにある。
Overriding Chrome settings(Chrome for Developers)(外部)
拡張機能がホームページ・起動ページ・検索プロバイダを上書きする仕組みの公式解説。is_defaultの扱いもここにある。
Improving Windows Search Box, with less clutter and more control(Windows Insider Blog)(外部)
Windows Searchでウェブ結果とStore候補の表示を選べる設定を、Microsoft自身が告知した2026年7月13日の投稿。
Microsoft Bing Search Engine(Firefox Browser Add-ons)(外部)
Firefox向けにMicrosoftが提供する検索アドオン。要求権限がbing.comドメインに限られることを確認できる。
Search Engine Market Share Worldwide(StatCounter GlobalStats)(外部)
検索エンジンの世界シェアを月次で公開する統計サイト。統計の土台が検索回数ではなく参照流入である旨がFAQに明記されている。
Dear Microsoft, Enough is Enough(Browser Choice Alliance)(外部)
Browser Choice AllianceがCEOに宛てた2026年5月26日の公開書簡。既定ブラウザをめぐる7つの要求が並ぶ。
Microsoft Fiscal Year 2026 Third Quarter Earnings Conference Call(Microsoft Investor Relations)(外部)
Bingの月間アクティブユーザーが初めて10億人に達したと述べられた、2026年4月29日の決算説明会。書き起こしも読める。
ViVe / ViVeTool(GitHub)(外部)
Windowsの機能フラグを操作するコマンドラインツール。隠された設定の有効化に使われ、記事の2026年6月時点の話に登場する。
詳細情報 – Microsoft Rewards(外部)
ポイントの獲得と交換の仕組みを説明する公式ページ。アプリのインストールを終えたときに開くのが、このプログラムの案内になる。
【参考記事】
Microsoft Windows 11 App Pushes Bing as Default Search in Chrome, Firefox and Brave(外部)
アプリの構成と拡張機能が求める権限を整理した記事。過去の検索ハイジャック手法との技術的な類似を指摘している。
Microsoft wants Bing everywhere — new Windows 11 app targets Chrome, Firefox and Brave(外部)
22.2MBの単体インストーラという配布形態を確認し、Chrome側が「Google検索に戻しますか?」と尋ねる挙動を記録している。
Windows 11 finally gets a switch to disable Bing search results, here’s how to enable it(外部)
ビルド26300.8697に隠されていたトグルを、ViVeToolで有効化する手順まで示した記事。設定画面上の位置も特定している。
MicrosoftがChromeなどの既定検索をBingへ変える専用アプリを準備? 公式サーバーで見つかる(外部)
日本語での既報。Windows UpdateにもMicrosoft Storeにも載っていない現状を確認しつつ、今後の配布の可能性に触れる。
Microsoft reveals you can kill Bing in Windows 11 Search and boost performance after years of lag(外部)
Windows Searchからウェブ結果を外すと、Microsoft RewardsのアイコンとCopilotの案内も消えることを実機で確かめている。


















