Last Updated on 2025-05-07 11:02 by admin
2025年5月2日(現地時間、日本時間5月3日)、米カリフォルニア州オークランドの連邦裁判所で、Apple Inc.がApp Storeの運営方針を巡り新たな集団訴訟を提起された。原告は米国のバスケットボールトレーニングアプリ開発企業Pure Sweat Basketball Inc.で、同社を含む10万人以上のiOSアプリ開発者が対象となっている。
この訴訟は、2021年に連邦地裁がEpic Games対Apple訴訟で出した差止命令にAppleが違反したことに基づく。命令は、Appleに対しアプリ開発者が自社アプリ内から自社サイトや外部決済サービスへのリンクを設置し、直接顧客にサブスクリプションやデジタル商品を販売することを認めるよう求めていた。しかしAppleは命令を回避し、外部決済リンクの設置申請に対して27%の追加手数料や警告表示など厳しい条件を課すことで、開発者による利用を実質的に妨害していたと裁判所に認定された。
判決によれば、命令発効から15カ月以上経過したにもかかわらず、外部決済リンクの申請を行った開発者はわずか34社で、これはApp Storeにアプリを提供する13万6,000社のうち約0.025%に過ぎなかった。Appleは本来認められるべき開発者の収益機会を奪い、不当に高額な手数料(最大30%、一部プログラムでは15%、外部決済利用時は27%)を徴収し続けたとされる。
この違反により、開発者側は数億ドルから数十億ドル規模の損害を被ったと主張している。Appleは判決に不服を申し立てて控訴しているが、裁判所はAppleと同社幹部を法廷侮辱(コンテンプト)として連邦検察に付託する判断も示した。
訴訟を主導するのは、過去にAppleから1億ドルの和解金を勝ち取ったHagens Berman法律事務所である。
References:
・Apple App Store Injunction Violation Class Action – Hagens Berman
・Apple hit with app developer class action after US judge’s … – Reuters
・Apple faces class-action lawsuit for violating App Store injunction – 9to5Mac
・Hagens Berman: Apple Hit with Class-Action Lawsuit for App Store … – BusinessWire
・Apple Faces Developer Lawsuit After Defying App Store Injunction – MacRumors
【編集部解説】
今回の訴訟は、巨大テック企業によるプラットフォーム運営の透明性と公正性が、改めて社会的に問われる重要な局面です。Appleは2021年に米連邦地裁から、アプリ開発者が自社アプリ内から外部サイトや決済サービスへ顧客を誘導できるよう命じられていましたが、実際には追加手数料や厳しい審査、警告表示など複数の障壁を設け、開発者の自由な選択を大きく制限していました。こうしたAppleの対応が「法廷侮辱」と認定されたことは、プラットフォーム運営者の行動が司法によって厳しく監視される時代に入ったことを象徴しています。
この問題は、単なる手数料率の高止まりや競争制限だけでなく、デジタル経済における収益分配のあり方、そしてイノベーションの促進・阻害にも直結します。開発者が自らのビジネスモデルや決済手段を選択できる環境が整えば、AIやWeb3を活用した新たなサービスやユーザー体験の創出が加速する可能性があります。
一方で、外部決済の導入が進めば、消費者保護やセキュリティ、決済トラブル時の責任分界など新たな課題も浮上します。特に日本市場では、アプリ内課金の比率が高く、ゲームやサブスクリプション型サービスを中心に開発者の収益構造が大きく変わる可能性があるため、今後の動向に注視が必要です。
また、米国での司法判断は、EUのデジタル市場法(DMA)や日本の独占禁止法とも連動し、グローバルなプラットフォーム規制の流れを加速させる可能性があります。今後は、ブロックチェーンやスマートコントラクトなど分散型技術を活用した透明な収益分配や、開発者・消費者双方にとってフェアなエコシステムの設計が、より現実的な選択肢となっていくでしょう。
今回の事案は、テクノロジーと規制、イノベーションと倫理のバランスをいかに取るかという、デジタル社会にとって普遍的な課題を浮き彫りにしています。今後の裁判の行方やAppleの対応は、世界中の開発者やプラットフォーム事業者にとっても大きな示唆となるはずです。
【用語解説】
集団訴訟(クラスアクション):
多数の被害者が共通の問題について一括して訴訟を起こす制度。米国では消費者や中小事業者が大企業に対抗するための主要な法的手段となっている。
独占禁止法(反トラスト法):
市場競争を阻害する独占的行為や不公正な取引を規制する法律。米国ではSherman Actなどが該当し、今回のApple訴訟の法的根拠となっている。
差止命令(インジャンクション):
裁判所が違法行為の停止や特定の行動を命じる法的措置。Appleは2021年に、開発者による外部決済リンク設置を認めるよう命じられていた。
法廷侮辱(コンテンプト):
裁判所の命令に違反したり、裁判の権威を傷つける行為。Appleは今回、命令違反で「法廷侮辱」と認定された。
【参考リンク】
Apple公式サイト(外部)
iPhoneやApp Storeを展開する米国のグローバルテクノロジー企業。
App Store公式(外部)
Appleが提供するアプリ配信・課金プラットフォーム。世界中のiOS開発者が利用している。
Hagens Berman公式サイト(外部)
米国の大手原告側法律事務所。企業の不正行為に対する集団訴訟で多くの実績を持つ。
Pure Sweat Basketball公式(外部)
米国のバスケットボールトレーニング企業。アプリを通じて選手のスキル向上を支援しており、今回の訴訟の代表原告。