Last Updated on 2025-05-14 11:11 by admin
カリフォルニア州サンフランシスコの連邦地方裁判所で、原告が保険大手State Farmを相手取った民事訴訟において、補足書面に存在しない判例が含まれていたとして、裁判官Michael Wilner氏は関与した2つの法律事務所(うち一つはK&L Gates)に合計31,000米ドルの制裁金を科した。問題の補足書面は、Google GeminiおよびWestlaw PrecisionのCoCounsel機能で生成したリサーチ結果をもとに作成されたが、少なくとも2件の架空判例が引用されていた。Wilner判事は「合理的に有能な弁護士はいかなる場合もAIに研究・執筆業務を全面的に委託すべきではない」と厳しく批判した。過去にも、元トランプ弁護団のMichael Cohen氏がGoogle Geminiを誤用して架空判例を引用した事例や、旅客機事故を巡るコロンビア航空訴訟でChatGPT生成の虚偽判例が用いられた事例が報告されている。
References:
Judge slams lawyers for bogus AI research in State Farm case | The Verge
Westlaw Precision | Thomson Reuters
Google Gemini – Google Play
K&L Gates | グローバルロー・ファーム
State Farm | 米国大手損害保険会社
【編集部解説】
今回のState Farm相手訴訟で制裁金が命じられた事例は、AIツールを専門性の高い法的リサーチへ安易に適用した際のリスクを浮き彫りにしています。AIは膨大な情報を瞬時に検索・要約できる一方で、「ハルシネーション」と呼ばれる架空情報生成の危険を常に抱えています。実在しない判例が法的文書に掲載されれば、訴訟戦略そのものが崩壊しかねません。
Wilner判事が指摘したように、AIが生成したアウトラインや引用をそのまま利用するのではなく、専門家自身が必ず原典を確認し、事実関係を検証することが不可欠です。Westlaw PrecisionのCoCounsel機能は、関連文献の原文を同時に表示するなど検証を支援する設計ですが、それでも「人の目」を経ないと誤りを見逃しやすい点は留意すべきでしょう。
一方で、適切なガイドラインと検証プロセスを整備すれば、AIリサーチは弁護士や研究者の作業効率を劇的に向上させます。今後、法曹界ではAI出力の開示義務化や検証プロセスの明文化が進む見込みです。技術と専門知識の協働モデルが成熟すれば、AIの恩恵を享受しつつ高い正確性を担保する新たな業務フローが確立されるでしょう。
長期的には、AIリサーチ技術の透明性向上、信頼性担保手法の開発、そして規制枠組みの整備が進み、法律分野のみならずあらゆる専門職で「AI+人間」の最適協働モデルが常態化すると期待されます。
【用語解説】
ハルシネーション:
AIが実在しない情報やデータを、あたかも正しいかのように生成してしまう現象。
補足書面:
訴訟手続きで当事者が提出する追加の書面で、主張や証拠を補強・整理する目的で用いられる。
ジェネレーティブAI:
テキストや画像などを新たに生成する能力を持つ人工知能モデルの総称。
【参考リンク】
Google Gemini(外部)
Googleが提供する対話型AIアシスタント。テキスト生成や検索補助、画像生成など多彩な機能を備える。
Westlaw Precision(外部)
Thomson Reutersの法的リサーチプラットフォーム。CoCounsel機能で判例や法律文献の要約・引用を支援する。
Thomson Reuters 日本法人(外部)
法律・税務・会計分野の専門情報と技術サービスを提供するグローバル企業の日本サイト。
K&L Gates(外部)
世界20カ国以上に拠点を持つグローバルロー・ファーム。企業法務を中心に多様な法的サービスを提供する。
State Farm(外部)
米国最大手の損害保険会社。自動車保険や住宅保険など幅広い保険商品を提供している。