Last Updated on 2025-05-14 11:18 by admin
2025年5月12日(現地時間、日本時間5月13日)、米下院共和党は予算法案(Budget Reconciliation)に州・地方自治体によるAI規制を10年間凍結する条項を追加した。対象となるのは「人工知能モデル」「人工知能システム」「自動化意思決定システム」に関する一切の州法・規則で、法施行日から起算して10年間、独自のAIルールを制定できなくなる。条項は下院エネルギー・商業委員会でケンタッキー州選出のブレット・ガスリー議員(共和党)が提出した。OpenAI、Meta、Alphabetなど主要テック企業はイノベーション保護を理由に歓迎の意を示す一方、消費者保護やプライバシー、アルゴリズムバイアス対策を担う州レベルの規制が10年にわたり停止することを懸念する声が上がっている。なお、この条項は下院段階のもので、成立には上院と大統領の承認が必要である。
References:
House GOP proposes 10-year ban on state AI regulations | The Hill
A decade of AI rules on ice? | POLITICO
House GOP eyes moratorium on state AI laws | The Washington Post
State AI Regulation Ban Tucked Into Republican Tax, Fiscal Bill | Bloomberg
House Commerce Proposes 10-Year Ban on State AI Regulations | Broadband Breakfast
【編集部解説】
今回のモラトリアム条項は、連邦と州の間でAIガバナンスの権限をめぐる対立構図を一気に変えかねない大きな一手です。これまでカリフォルニア州が2024年9月に成立させた「肖像の無断AI利用禁止法(AB-2955)」や、コロラド州が2024年9月に施行を予定している「ハイリスクAIシステム規制法」など、各州は消費者保護や安全確保のために先行立法を進めてきました。その成果を一掃しかねない10年凍結は、いわば「州ごとの実験場」としての役割を否定するものです。
テック大手は一律規制を嫌い、資本・人材を各州にまたがって効率的に投資・開発したい意図があります。しかし、AIの暴走リスクやプライバシー侵害、アルゴリズムバイアス問題の解決策は、現時点で連邦レベルの包括的な法律に十分担保されていません。10年後まで州が動けない間に起きる事故や不正利用への対応力低下は深刻です。
とはいえ、条項は下院の予算法案への追加にとどまっており、上院での修正や大統領の署名を経なければ法律にはなりません。仮に成立すれば、2035年までに国全体のAI規制設計が一度固定化される可能性があります。これからの議論行方次第で、“連邦主導の一律規制”と“州の多様な実験”という二律背反をどう調整するかが、今後10年のAI社会を決定づける鍵となるでしょう。
【用語解説】
人工知能モデル:
大量のデータをもとに学習し、予測や分類、文章・画像生成などを行う数学的モデルである。
人工知能システム:
機械学習やディープラーニングなどを組み合わせて、テキスト解析や画像認識、音声処理などの知的タスクを自動化するソフトウェア群である。
自動化意思決定システム:
機械学習や統計的手法で算出されたスコアや分類結果をもとに、人間の判断を支援・代替する仕組みである。
予算法(Budget Reconciliation):
米議会の歳出・歳入調整手続きの一種で、上院フィリバスターを回避し多数決で成立できる特徴がある。
モラトリアム:
特定の法律や規則の施行を一時停止・凍結する措置であり、本件では10年間の禁止期間を指す。
【参考リンク】
U.S. Senate Committee on the Budget – Reconciliation(外部)
連邦議会の予算法手続き「リコンシリエーション」の概要を解説しているページ。
House Committee on Energy & Commerce(外部)
米下院エネルギー・商業委員会の公式サイト。AI規制に関する立法情報を提供。
California Assembly Bill 2955(外部)
カリフォルニア州で成立した肖像の無断AI利用禁止法(AB-2955)の法案テキスト。
Colorado Department of Regulatory Agencies – AI Accountability Act(外部)
コロラド州で施行予定のハイリスクAIシステム規制法の概要を掲載。
OpenAI(外部)
ChatGPTなどの生成AIを開発する企業の公式サイト。
Meta(外部)
FacebookやInstagram、メタバース関連事業を手がけるMeta Platformsの企業情報サイト。
Alphabet(外部)
Googleを傘下に持つAlphabet Inc.の公式コーポレートサイト。
Alphabet(外部)
Googleを傘下に持つAlphabet Inc.の公式コーポレートサイト。
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