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フランスApollonレーザーが10ペタワット達成、世界最強記録更新 — 米SLAC研究所も1ペタワット突破で激化する超高出力レーザー開発競争

フランスApollonレーザーが10ペタワット達成、世界最強記録更新 — 米SLAC研究所も1ペタワット突破で激化する超高出力レーザー開発競争 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-05-27 19:35 by admin

フランスのパリ郊外パレゾーに設置されたApollonレーザーシステムが現在10ペタワットで稼働し、世界最強のレーザー出力記録を保持している。

このシステムはエコール・ポリテクニーク、フランス国立科学研究センター(CNRS)、タレス社などの支援により開発され、フェムト秒単位の超短パルスで宇宙誕生時の条件を再現する強度を実現している。

一方、2025年5月にカリフォルニア州メンロパークのSLAC国立加速器研究所が「フリッパー(FLIPPER: Femtosecond Laser-Induced Plasma Pinch for Enhanced Radiation)」技術と呼ばれる新手法により1ペタワットのレーザービーム生成に成功したと発表した。この米国の技術は電子を光速近くまで加速し、高周波パルスと磁場で超短時間に圧縮後、アンジュレータ磁石を通してエネルギーを増幅する仕組みで、瞬間的に原子力発電所100万基分に相当する出力を達成した。

しかしApollonは米国システムの10倍の出力を維持し、実験段階の米国技術と異なり完全運用状態でヨーロッパ全体の研究チームが日常的に使用している。ルーマニアのマグレレにあるELI-NP施設、中国、韓国もペタワット級レーザーに投資しているが、現在フランスが最高出力を保持している。

from:
文献リンクApollon: France Just Fired the Strongest Laser on Earth — So Intense It Mimics the Birth of the Universe

【編集部解説】

ペタワット級レーザーの威力を理解するには、その桁違いのエネルギー密度に注目する必要があります。1ペタワットは10の15乗ワット、つまり1000兆ワットに相当し、これは全世界の電力消費量の約1000倍に匹敵する瞬間出力です。

Apollonが達成している10ペタワットという数値は、物質の基本的な性質を変化させるほどの極限環境を人工的に作り出せることを意味しています。フェムト秒(1000兆分の1秒)という極めて短い時間に集中させることで、核融合反応や宇宙空間で起こる高エネルギー現象を地球上で再現可能になります。

最新の技術進展状況

2024年12月に公開されたarXiv論文によると、Apollonは現在2ペタワットレベルでの運用を完了し、2025年中に8ペタワット、最終的に10ペタワットへの段階的アップグレードが計画されています。これは当初の目標通りの進捗を示しており、技術的な信頼性を裏付けています。

一方、SLACの「フリッパー」技術は粒子加速器ベースの全く新しいアプローチで、従来のCPA(チャープパルス増幅)技術とは根本的に異なる原理を採用しています。

科学研究への革命的インパクト

この技術により、従来は理論でしか語れなかった物理現象の実証実験が可能になりました。量子真空からの粒子対生成、ブラックホール近傍の極限環境シミュレーション、新たな物質状態の探索など、基礎物理学の最前線を押し広げています。

医療分野では、がん治療における陽子線治療の精度向上や、新たな診断技術の開発につながる可能性があります。また、核廃棄物の無害化処理技術の開発にも応用が期待されています。

地政学的な競争構造の変化

現在の状況は、単なる科学技術競争を超えた「科学的主権」をめぐる国際競争の様相を呈しています。フランスのApollonが欧州連合の枠組みで運営されているのに対し、米国のSLACは独自技術での追い上げを図っています。

中国も独自のペタワット級レーザー開発を進めており、この分野での技術覇権争いは今後さらに激化すると予想されます。特に、これらの技術が軍事転用可能な性質を持つことから、国際的な技術管理体制の構築が急務となっています。

産業応用への展望

長期的には、レーザー加工技術の革新、次世代半導体製造、宇宙推進システムの開発など、幅広い産業分野への波及効果が期待されます。特に、従来の加工技術では不可能だった精密加工や、新材料の創製技術への応用は、製造業全体のパラダイムシフトを引き起こす可能性を秘めています。

ただし、これらの技術が実用化されるまでには、エネルギー効率の改善、装置の小型化、コスト削減など、多くの技術的課題を解決する必要があります。現在の研究成果は、人類の科学技術能力の新たな地平を開いた重要なマイルストーンと位置づけられるでしょう。

【用語解説】

ペタワット(PW)
10の15乗ワット、つまり1000兆ワットの出力。日本の総発電能力(約2億キロワット)の500万倍に相当する。瞬間的な出力のため、実際の電力消費量とは異なる。

フェムト秒
1000兆分の1秒という極めて短い時間単位。光が髪の毛の太さ(約100マイクロメートル)を進む時間の3分の1程度。

CPA技術(チャープパルス増幅)
2018年ノーベル物理学賞受賞技術。短いレーザーパルスを一度時間的に引き延ばして増幅し、再び圧縮することで超高出力を実現する手法。

フリッパー技術
SLAC研究所が開発した新しい粒子加速ベースのレーザー生成技術。電子を光速近くまで加速し、圧縮してからアンジュレータ磁石で外部レーザーと相互作用させる手法。

量子真空
一見何もない空間でも、量子力学的には粒子と反粒子のペアが絶えず生成・消滅している状態。極限的な電場により、この現象を観測可能にする。

【参考リンク】

Apollon Laser Facility – CNRS(外部)
フランス国立科学研究センター運営の世界最強レーザー施設の公式サイト。技術仕様や研究内容を詳細に紹介。

École Polytechnique(外部)
1794年創設のフランス最高峰の工学系グランゼコール。Apollonプロジェクトの主要パートナー機関。

CNRS(フランス国立科学研究センター)(外部)
ヨーロッパ最大の基礎科学研究機関。32,000人の研究者を擁し、21人のノーベル賞受賞者を輩出。

Thales Group(外部)
航空宇宙・防衛分野の仏多国籍企業。2023年売上高184億ユーロ、世界17位の防衛請負業者。

SLAC National Accelerator Laboratory(外部)
スタンフォード大学運営の米国エネルギー省所属研究所。3.2km線形加速器で世界最高輝度X線レーザーを運用。

【参考動画】

【編集部後記】

フランスのApollonレーザーが実現した10ペタワットという数値は、私たちの想像を遥かに超える世界です。この技術が切り開く可能性について、皆さんはどのような分野での応用を期待されますか?医療、エネルギー、宇宙開発など、様々な領域での革新が予想されますが、同時に安全性や倫理的な課題も浮上してきます。こうした最先端技術の発展を、私たちはどのように受け止め、社会として向き合っていくべきでしょうか。皆さんのご意見やお考えをぜひSNSでシェアしてみてください。

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TaTsu
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