6月1日は、マルクス・アレクセイ・ペルソン(Markus Alexej Persson、通称”Notch”(ノッチ)、1979年6月1日 – )の誕生日である。この名前に馴染みがない方でも、彼が生み出した作品なら必ず知っているはずだ。それは、世界中で3億本以上を売り上げ、史上最も売れたゲームとなった「Minecraft(マインクラフト)」である。
今日、Minecraftは単なるゲームの枠を超え、教育、文化、テクノロジー、そして社会そのものに大きな変革をもたらした。一人の開発者が7歳の時にコモドール128で初めてプログラミングに触れ、やがて世界を変えるまでの物語は、デジタル時代における創造性の可能性を象徴している。
Minecraftの誕生と背景
マルクス・アレクセイ・ペルソンは1979年6月生まれ。スウェーデンのちょうど中央部に位置する、イエッツビンという小さな町で育った。彼は7歳の時に父親のコモドール128ホームコンピューターでプログラミングを始めた。彼は8歳の時に、最初のゲーム、インタラクティブフィクションを制作した。
ペルソンのプログラミング人生は、幼少期の森での探検体験と深く結びついている。「主に外で遊んでいたね」とペルソンは言う。「よく森を探検していたよ」。この体験が後にMinecraftの無限に広がる世界観の原点となったのである。
2009年、Minecraft の制作者でありMojang Studiosのオーナーであるペルソンは、一人の開発者として小さなプロジェクトを開始した。それがMinecraftの原型となった。「たった一人で作り始めたMinecraftを、人に説明したり、バグレポートやサポートをこなしたりしているうちに、どうしても自分が表に出なければならない状態になってしまった。ほとんどアクシデントのようなものです」と彼自身が振り返るように、Minecraftの成功は偶然の産物でもあった。
オープンワールド・サンドボックスゲームの歴史的文脈
Minecraftを理解するためには、オープンワールドゲームとサンドボックスゲームの歴史を振り返る必要がある。1975年のPLATOシステム用のコンピュータRPG『dnd』は、非線形ゲームプレイを取り入れた最初のゲームである。1984年のスペースフライトシミュレーターゲーム『Elite』はオープンワールドの先駆けといわれており、現在のオープンワールドゲームの原型である。
『グランド・セフト・オートIII』(2001年)は以前のゲームの要素を組み合わせ、オープンワールドゲームの定義・普及に貢献した。しかし、これらのゲームは主にストーリー主導型であり、プレイヤーの創造性を最優先にしたものではなかった。
サンドボックスゲームとは、プレイヤーが自由に行動できる仮想の世界を舞台に、自由度の高いプレイスタイルが可能なゲームのことを指します。サンドボックスゲームでは、目標があるわけではなく、自分で物語を作り上げたり、遊び方を決めたりできます。Minecraftは、この概念を完全に体現し、さらに発展させた革命的な作品となった。
サンドボックスゲームの『Minecraft』は2021年4月までに複数のプラットフォームで世界中で2億3800万本以上を売り上げ、史上最も売れたコンピュータゲームとなった。現在では『マインクラフト(Minecraft)』の累計売り上げが3億本を突破!史上最も売れたインディーゲーム、不動の地位を築くまでに成長している。
Minecraftがもたらしたイノベーション
1. インディーゲーム開発の新しいパラダイム
Minecraftの成功は、インディーゲーム業界全体に革命をもたらした。世界のゲーム市場が成長を続けていることは、様々な調査機関などでデータとしても見ることができます。売上ベースで世界のゲーム市場は2024年で約2,400億ドル(約35兆円)規模で、2030年には約4,400億ドル(約64兆円)まで成長すると予測されているとの分析記事もあり、今後もゲーム市場は継続した成長が期待されます。
Minecraftの成功について聞かれたペルソン氏は、「Minecraftを始めたときは、ブロッキーな世界が広がるだけで、何をして良いのか困惑してしまうことがあったかも知れない」「ただ目の前のオブジェクトをコツコツ叩いて、ブロックがポップアップすると、”おおっ”という驚きが生まれる。この驚きの瞬間が、ゲーマー達の話の種になったのではないか」と自作を分析し、口コミによる広がりがポイントだったと振り返る。
この成功モデルは、大企業の巨額予算に頼らない、クリエイティブな個人開発者の可能性を世界に示した。コンシューマーゲームに比べて、インディーゲームは販売価格が安かったり、基本プレイは無料(ゲーム内課金)と、ゲームを遊ぶための敷居が低いという点が多くのプレイヤーを惹きつける要因になっていると思います。
2. 教育分野での革新的変革
Minecraftが最も大きな影響を与えた分野の一つが教育である。教育版マインクラフト(Minecraft Education)は、通常版に対して、プログラミング教育や情報教育などの学習がしやすいようになったバージョンです。
140 か国の 4 万以上の学校制度が、教育目標を達成するために Minecraft Education を使用しています。これは驚異的な普及率である。実際にプログラミング教室をはじめ、さまざまな教育機関でプログラミング学習にマインクラフトを活用するケースが増えています。教育機関向けに「教育版」のマインクラフト(Minecraft Education)も提供されているため、活用してみると良いでしょう。
プログラミング教育の民主化
マインクラフトでは回路を利用した自動装置も作れます。回路の動きを考える過程で、プログラミング的思考も身につくでしょう。また、遊び方によってはプログラミングをおこなうこともでき、プログラミング学習にもつながります。
プログラミング教材としてマイクラを利用すると、今後の社会を生きぬくために必要な「論理的思考力」「問題解決力」「発想力・想像力」などを楽しみながら身につけることができます。
3. 情報アクセスの民主化:「検閲されない図書館」
Minecraftの最も社会的に意義深いイノベーションの一つが、検閲と闘うための壮大なデジタル図書館「The Uncensored Library」が存在する。
The Uncensored Libraryは、国境なき記者団(RSF)が公開したMinecraftサーバーとマップであり、このプロジェクトは、「サイバー検閲に反対する世界デー」である2020年3月12日に公開された。
技術的な規模と影響
このライブラリには、メキシコ、ロシア、ベトナム、サウジアラビア、エジプト、ブラジル、ベラルーシ、イラン、エリトリアの検閲された記事が収められている。
このプロジェクトは、ソーシャルメディア上で4730万以上のインプレッションを獲得し、図書館への訪問者数は2500万人を超え、「国境なき記者団」は驚異的な成果を上げている。
これらの国々では、ソーシャルメディアやその他のプラットフォームはブロックされるか管理される傾向にありますが、Minecraftは多くの場合アクセス可能です、 国境なき記者団は、検閲を回避し、情報にアクセスできるようにする方法を提供している。
4. 巨大経済圏の形成
『マインクラフト(Minecraft)』と言えば、世界最大級のゲームの一つで、Roblox(月間3億8000万人)、Fortnite(月間1億1000万人)と共に人気ゲームの上位に位置している。これら3つは、単に「ゲーム」というにはあまりに巨大すぎるメディアであり、将来的にはGAFAなどのWeb2時代のプラットフォーム企業らを凌駕するかもしれないメタバースとして期待されている。
驚異的なユーザー規模
現在、マインクラフトは、毎日平均100-150万人、毎月2億433万人~2億2577万人がその空間でプレイしており、”1つの国”と言っても差支えはない規模に成長している。このマインクラフト人口は、人口世界8位のバングラデシュ(約1億7569万人)と7位のブラジル(約2億1281万人)を既に上回っており、これが毎日増え続けている状態である。
2016年に4000万人だったマインクラフトの人口は、コロナ前の2019年には9000万人になり、直近2022年では1.7億人、6年間で4倍以上に成長している。
経済的インパクト
Minecraftの収益はCOVID-19パンデミックの間にピークに達し、2021年にモバイル版のIAP収益で約1億6100万ドルを記録した。2022年のモバイル版の収益は約1億251万ドルだった。これは年間総収益の44.9%に相当します。
5. クリエイティビティの大衆化
Minecraftは、専門的な技術がなくても誰もが創造者になれる環境を提供した。ゲームのルールを使いながら、こういった規格外の遊びを発明できうるところに、ゲーマー達の興味が引きつけられるのだろう。
マインクラフトは従来多かった、「決められた目的を達成してエンディングを迎える」といったゲームとは異なり、明確な目的は定められていません。ゲームをスタートさせると、まずは広大な世界のなかに一人きりとなります。誰かから指示が与えられることもありません。
この自由度の高さが、プレイヤーの創造性を最大限に引き出し、建築、アート、プログラミング、ストーリーテリングなど、あらゆる分野での表現を可能にした。
6. コミュニティ文化の創出
多くの人が完成してもいないゲームにお金を払ってくれたのは、そうしたゲーム体験について感想をくれるファンやゲーム開発者達と、SNSを通して向き合いながら、ゲームを作り続けられたからだと語る。また彼らと素直に向き合ったことで、開発資金のみならずメンタルの面でも、ペルソン氏は支えられたそうである。
Minecraftは、従来のゲーム開発における開発者とユーザーの関係を根本的に変革した。オープンベータの概念を普及させ、コミュニティ主導の開発手法を確立した。
教育コミュニティの形成
教育版では「クラスの生徒と指導者」が一つの世界を共有でき、その中でクラスメイトとの共同作業をおこなうことができます。一人勝手な世界を作るのではなく、クラスメイトとどのように協力して世界を作るか、共同作業を通して協調性も身につけながらプログラミング的思考を学ぶことのできる教材です。
マルクス・ペルソンが世界に残した功績
開発者個人への影響
成功の一方で、ペルソン個人は複雑な感情を抱えていた。2014年9月、ペルソンは自身のウェブサイトで、ファンとのつながりが自身の考えていたほど強くないと感じるようになったこと、「象徴的存在になってしまった」と悟ったこと、そして拡大するMojangの運営に責任を負いたくないと思うようになったことを発表した。
2014年9月15日、Mojangとそのすべての資産をMicrosoftに売却した。この売却により、ペルソンは億万長者となった。
興味深いことに、最新のアップデートでこのメッセージが表示されなくなったことが明らかになっています。現在のMinecraftから、創始者であるペルソンの名前が削除されているという皮肉な状況が生まれている。
継続的な成長と展開
それでもMinecraftの影響力は衰えることがない。ほとんどのゲームが約2年の寿命を持つ中、Minecraftは10年以上にわたりプレイヤー数を増加させ続けています。
教育分野では500 以上の既存の教材世界があり、通常の教科のレッスンだけでなく、STEAM 教育、平和学習、情報リテラシーなど幅広い分野での学習が可能ですという継続的な発展を見せている。
創造性の民主化という功績
6月1日に生まれたマルクス・ペルソンが世界に残した最大の功績は、単なるゲームではない。それは「創造性の民主化」という概念の実現である。
Minecraftは、子どもから大人まで、プログラマーから建築家まで、教師から学生まで、あらゆる人々が自分だけの世界を創造できる環境を提供した。検閲に苦しむ国々の人々には情報へのアクセスを、教育現場には革新的な学習手法を、開発者コミュニティには新しいビジネスモデルを示した。
マルクス・ペルソンの46回目の誕生日を迎える今日、私たちは改めてMinecraftが切り開いた無限の可能性について考える必要がある。一人の開発者の創造性が、教育を変革し、情報の自由を守り、数億人の創造性を解放した。これこそが、真のイノベーションが持つ力なのである。
デジタルとリアルの境界が曖昧になる現代において、Minecraftが示した「すべての人が創造者になれる世界」というビジョンは、私たちの未来を形作る重要な指針となり続けるだろう。