Last Updated on 2025-06-21 07:30 by admin
Googleが、YouTubeの動画ライブラリを使用してGeminiやVeo 3動画・音声生成器を含むAIモデルを訓練していることが2025年6月19日にCNBCの報道で明らかになった。
Veo 3は2025年5月に発表されたGoogleの最先端のAI動画生成器である。同社は200億本のYouTube動画カタログを活用してVeo 3を含めたAIツールを開発している。GoogleはCNBCに対し、動画の一部のみを訓練に使用し、クリエイターやメディア企業との契約を遵守していると回答した。
YouTubeには1日平均2000万本の動画がアップロードされており、カタログの1%を使用するだけでも23億分のコンテンツに相当し、これは競合するAIモデルの訓練データの40倍以上となる。ユーザーは自分の動画をGoogle AI訓練から除外する方法がなく、複数の主要クリエイターや知的財産専門家は自分のコンテンツがGoogleのAIモデル訓練に使用されることを知らなかった。
From:Creators say they didn’t know Google uses YouTube to train AI
【編集部解説】
今回のGoogleによるYouTube動画のAI訓練利用は、生成AI業界における「データハンガー」問題の典型例といえます。高性能なAIモデルを構築するには膨大な学習データが必要で、GoogleはYouTubeという世界最大級の動画プラットフォームを保有する優位性を最大限活用している状況です。
特に注目すべきは、Veo 3の技術的な進歩です。従来のAI動画生成ツールと比較して、Veo 3は映画レベルの高品質な動画を生成可能で、視覚だけでなく音声も同時に生成できる点が革新的といえます。これは単なる静止画生成から動画生成への技術的飛躍を示しており、クリエイティブ産業全体に大きな変革をもたらす可能性があります。
しかし、この技術進歩の裏には深刻な権利問題が潜んでいます。YouTubeの利用規約では確かにコンテンツの広範な利用権を定めていますが、AI訓練という用途は規約制定時には想定されていませんでした。現在、複数のクラスアクション訴訟が進行中で、無断でのAI訓練利用が不当利得や不正競争にあたると主張されています。
技術的な観点から見ると、YouTubeの200億本という動画規模は競合他社を圧倒しています。仮に1%のデータを使用するだけでも23億分のコンテンツとなり、これは他のAI企業の40倍以上の訓練データに相当します。この圧倒的なデータ優位性が、GoogleのAI技術における競争力の源泉となっているのです。
一方で、この問題はクリエイター経済全体への影響も懸念されます。多くのクリエイターが時間と労力を投じて制作したコンテンツが、無償でAI訓練に利用され、最終的には自分たちと競合するツールの開発に寄与している構造は、創作活動のインセンティブを損なう可能性があります。
規制面では、EUのAI法やアメリカでの著作権法の解釈が今後の方向性を決定づけるでしょう。特に「フェアユース」の範囲がAI訓練にどこまで適用されるかは、業界全体の行方を左右する重要な論点となっています。
長期的には、この問題はAI開発における「データガバナンス」の新たな枠組み構築を促進する可能性があります。クリエイターへの適切な対価還元システムや、オプトアウト機能の実装など、技術進歩と権利保護を両立させる仕組みの確立が求められているのです。
【用語解説】
Gemini
Googleが開発したマルチモーダルAIモデルファミリー。テキスト、画像、音声、動画、コードを統合的に理解・生成できる。Ultra、Pro、Nanoの3つのサイズで提供される。
マルチモーダルAI
テキスト、画像、音声、動画など複数の情報形式を同時に理解・処理できるAI技術。従来の単一形式処理から大幅に進歩した技術概念である。
AI訓練データ
機械学習モデルの性能向上のために使用される大量のデータセット。AIモデルはこのデータから学習してパターンを認識し、新しいコンテンツを生成する能力を獲得する。
フェアユース
米国著作権法における例外規定。教育、批評、パロディなどの目的で著作権保護作品を無許可で使用することを一定条件下で認める法的概念である。
オプトアウト
サービスやデータ利用から除外される権利。ユーザーが自分のデータや作品の使用を拒否できる仕組みを指す。
【参考リンク】
Google DeepMind(外部)
Googleの人工知能研究部門。Veo 3やGeminiなどの最先端AIモデルを開発している。
YouTube(外部)
Googleが運営する世界最大の動画共有プラットフォーム。月間27億人のアクティブユーザーを持つ。
Loti(外部)
クリエイターのデジタルアイデンティティ保護を専門とする企業。AI生成による肖像権侵害から守る。
【参考動画】
【参考記事】
Google Using YouTube Videos to Train Gemini, Veo 3 AI(外部)
GoogleのYouTube動画AI訓練利用について詳細に解説した記事。
Google launches Veo 3, an AI video generator that incorporates audio(外部)
Veo 3の発表時の詳細な技術仕様と機能について報じた記事。
Google is using YouTube videos to train its AI video generator(外部)
YouTubeパートナークリエイターによる今回の問題に関する議論。
【編集部後記】
今回のGoogleの事例は、私たちが日常的に利用しているプラットフォームで起きている変化の一端に過ぎません。皆さんはご自身が投稿したコンテンツがどのように活用されているか、普段意識されていますか?
また、AI技術の進歩によって生まれる新しい創作ツールと、既存のクリエイターとの関係についてどう考えられるでしょうか?この問題は技術革新と権利保護のバランスを考える上で重要な議論のきっかけになりそうです。ぜひ皆さんのお考えもお聞かせください。