Last Updated on 2025-04-27 08:19 by admin

中国は2025年4月20日、河北省雄安新区で世界初の商用10Gブロードバンドネットワークの運用を開始した。このネットワークは中国の通信機器大手ファーウェイ（Huawei）と国営の中国聯通（China Unicom）の共同開発によるもので、50G受動光ネットワーク（PON）技術を活用している。

実測値では、ダウンロード速度は9,834Mbps（約9.8Gbps）、アップロード速度は1,008Mbpsに達し、遅延は3ミリ秒未満を実現している。この速度により、20GBの4K映画を約20秒でダウンロードできる。また、より小さいサイズの8K映画や複数の4K映画であれば約1秒でダウンロード可能という驚異的な速度を持つ。

雄安新区は北京の南西約113キロに位置し、2017年に習近平国家主席のビジョンの下で先端技術のテスト地域として指定された未来都市である。現在は人口が少ないものの、10G技術で完全に接続された都市がどのようなものになるかを示す先駆けとなっている。

中国政府は雄安新区でのテスト段階が完了次第、北京、深セン、上海、広州などの主要都市にもこのネットワークを拡大する計画である。

この10Gネットワークは単に高速なインターネット接続を提供するだけでなく、バーチャルリアリティ、拡張現実、遠隔医療、遠隔教育、自動運転車、スマート農業など、高帯域幅と低遅延を必要とする先端技術の発展を促進することが期待されている。

中国はこの展開により、アラブ首長国連邦やカタールなど他国が限定的な規模でしか実証していない技術を商業的に実用化し、世界のブロードバンド技術の最前線に立つこととなった。

from:World’s Fastest Internet Is Here… and It’s Not in the US

【編集部解説】

中国が世界初の商用10Gブロードバンドネットワークを展開したというニュースは、テクノロジーの進化を象徴する重要な出来事です。複数の信頼性の高い情報源を確認すると、このネットワークは河北省雄安新区で4月20日に展開されたことが確認できます。

この10Gネットワークの技術的な特徴として、50G受動光ネットワーク（PON）技術を使用していることが挙げられます。これは従来の光ファイバーシステムの上に構築され、既存のインフラを活用しながら大幅な速度向上を実現しています。

実測値については、ダウンロード速度が9,834Mbps（約9.8Gbps）、アップロード速度が1,008Mbps、遅延が3ミリ秒未満という数値が複数の情報源で一致しています。これは従来の1Gbps接続と比較して約10倍の速度向上を意味します。

また、中国政府は今回の雄安新区での展開を皮切りに、全国展開を視野に入れています。中国工業・情報化部は4月7日に「10Gbps光回線ネットワーク試験運用入選リスト」を発表し、中国国内30省（自治区・直轄市）86都市の計168カ所で試験運用を実施する計画を明らかにしています。これは2025年末までに完了する予定です。

さらに、上海市も独自の「10ギガビットオールオプティカルシティ」計画を進めており、2026年までに実現を目指しています。

10Gネットワークがもたらす可能性と課題

10Gブロードバンドネットワークの登場は、単に「インターネットが速くなる」という以上の意味を持っています。この超高速・低遅延のネットワークは、現在のデジタル体験を根本から変える可能性を秘めています。

例えば、クラウドコンピューティングの分野では、ローカルマシンの処理能力に依存せず、ほぼすべての計算をクラウド上で行うことが現実的になります。これにより、高性能なハードウェアを持たないデバイスでも、高度な処理を必要とするアプリケーションを遅延なく利用できるようになるでしょう。

医療分野では、高精細な医療画像のリアルタイム共有や遠隔手術の精度向上が期待できます。特に遠隔地での専門医による診断・治療が容易になり、医療アクセスの地域格差解消に貢献する可能性があります。

教育においても、VR/ARを活用した没入型学習体験が一般化し、場所を問わず質の高い教育コンテンツにアクセスできるようになるでしょう。

自動運転技術にとっても、10Gネットワークは大きな意味を持ちます。車両間通信や交通インフラとの連携がより緻密になり、安全性と効率性が向上します。例えば、前方で起きた事故情報が瞬時に後続車両に伝わり、事前に減速や回避行動を取ることが可能になります。

一方で、このような超高速ネットワークの普及には課題もあります。まず、インフラ整備にかかるコストの問題があります。中国のような国家主導で大規模投資が可能な国と比べ、民間主導の国々では展開スピードに差が生じる可能性があります。

また、デジタルデバイドの拡大も懸念されます。10Gネットワークのような先端技術が一部の地域や層にのみ提供されると、情報格差がさらに広がる恐れがあります。

セキュリティ面では、データ転送量の増大に伴い、サイバー攻撃のリスクや影響範囲も拡大する可能性があります。より多くの重要インフラがネットワークに依存するようになれば、その脆弱性も増大します。

日本と世界への影響

日本においても、総務省が「Beyond 5G推進戦略」の中で、2030年代に向けた超高速・大容量の固定通信ネットワーク整備を掲げています。中国の10G商用化は、日本を含む先進国にとって技術開発と展開を加速させる契機となるでしょう。

企業にとっては、10Gネットワークを前提とした新たなサービスやビジネスモデルの開発が求められます。特にコンテンツ産業やクラウドサービス、IoTソリューションなどの分野では、この超高速接続を活かした革新的なサービス開発が競争力の鍵となるでしょう。

消費者視点では、より豊かなデジタル体験が期待できる一方で、新たなサービスへの適応やデバイスの更新など、追加的なコストや学習が必要になる可能性もあります。

長期的には、10Gネットワークは6G移動通信やさらに高速の固定回線へと進化していくでしょう。中国の今回の取り組みは、そうした次世代通信技術の実用化に向けた重要なステップと位置づけられます。

テクノロジーの進化は常に私たちの生活や社会の在り方を変えてきました。10Gネットワークもまた、私たちのデジタル体験を再定義し、新たな可能性を開く転換点となるかもしれません。その潜在力を最大限に活かしながら、公平で持続可能なデジタル社会を構築していくことが、私たち全員の課題です。

【用語解説】

10Gブロードバンド:
10ギガビット毎秒（10Gbps）の通信速度を実現するインターネット接続サービス。従来の1Gbps接続と比較して約10倍の速度を持つ。

50G PON（50G受動光ネットワーク）:
最大50Gbpsの通信速度を実現する光ファイバー通信技術。10Gネットワークの基盤となる技術で、データ転送効率を大幅に向上させる。

受動光ネットワーク（PON）:
電力を必要とする能動的な中継装置を使わず、光信号を分岐させて複数の利用者に配信する技術。コスト効率が良く、メンテナンスが容易である。

雄安新区（シオンアン）:
2017年に習近平国家主席の指示で設立された中国河北省の特別経済区。北京の約113km南西に位置し、スマートシティとしての開発が進められている。

ファーウェイ（Huawei）:
1987年に設立された中国の通信機器メーカー。世界最大の通信機器メーカーであり、スマートフォンやネットワーク機器などを製造している。

中国聯通（China Unicom）:
1994年に設立された中国の国営通信事業者。中国で3番目に大きな無線通信事業者であり、世界で6番目に大きな携帯電話プロバイダーである。

【参考リンク】

ファーウェイ・ジャパン（外部）
中国の通信機器大手ファーウェイの日本法人サイト。製品情報やソリューション、企業情報などを提供している。

中国聯通（China Unicom）（外部）
中国の国営通信事業者のグローバルサイト。サービス内容や企業情報を掲載している。

【参考動画】

【編集部後記】

皆さん、10Gブロードバンドの登場は私たちのデジタルライフをどう変えるでしょうか？ 日本でも光回線の高速化が進んでいますが、自宅のネット環境で「もっと速ければ」と感じたことはありませんか？ あるいは、現状の速度で十分と思われるかもしれません。未来のリモートワークやエンターテイメントはどう変わるのか、皆さんと一緒に考えていきたいです。SNSで皆さんの期待や疑問をぜひ共有してください。