Last Updated on 2025-04-28 15:08 by admin
AI開発の最前線で勃発した知財紛争。それはオープンな共創か、専有技術の保護か。AI時代のイノベーションと開発文化の未来を占う、重要な出来事の深層を探ります。
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AI開発企業Anthropicは、同社のAIコーディング支援ツール「Claude Code」をリバースエンジニアリングし、難読化解除されたソースコードを公開したとされるGitHubユーザー「dnakov」氏のリポジトリに対し、DMCA(デジタルミレニアム著作権法)に基づく削除要請を行った。Anthropicは、この公開されたコードが、自社の公式リポジトリにあるオリジナルのClaude Codeソフトウェアの著作権を侵害していると主張した。Claude Code自体は、Anthropicが提供する商用ライセンス下にあり、ソースコードは意図的に難読化されていた。
これに対し、開発者コミュニティからは反発の声が上がった。主な論点は、リバースエンジニアリングや難読化解除の正当性(フェアユースの可能性)、クローズドなライセンスとコード難読化という手法への批判、そしてこのような削除要請がAI研究開発に与える萎縮効果への懸念である。特に、競合するOpenAIが類似ツール「Codex CLI」のソースコードを寛容なApache 2.0ライセンスで公開していることと比較され、Anthropicの閉鎖的なアプローチが批判された。
Anthropicの行動は、自社の開発投資とソフトウェアという知的財産を保護する意図があると見られる一方、AIツール開発におけるオープンソース文化との共存や、リバースエンジニアリングの法的・倫理的境界に関する重要な問題を提起している。
2025/04/28 14:00修正
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from:AnthropicによるClaude CodeのDMCA削除要請が解決を考える
※この記事はPerplexityのDiscoverを参照し、さらに情報探索と解釈、解説を加えたものです。 上記URLにてこの記事に関する質問ができます。(登録不要で無料)
from:TechCrunch:アントロピックは、自社のコーディングツールをリバースエンジニアリングしようとした開発者に削除通知を送った。
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<記事訂正とお詫び>
今回のDMCA削除要請の経緯について、読者の方からご指摘をいただきました。
あらためて調査し、本文を修正いたしました。
要点としまして
削除要請の主たる理由が「プロンプトと出力」の著作権侵害であるかのように記述していましたが、実際は「難読化解除されたClaude Codeツールのソースコード」そのものの著作権侵害が理由でした。これはより標準的なソフトウェア著作権の問題です。
※GitHubで公開されているAnthropicのDMCA削除要請通知
GitHubはこのDMCA通知を受け付け、dnakov氏のリポジトリだけでなく、それをコピーしていた他の多数のリポジトリ(合計438個)も削除しました。
本来、公平中立な立場で情報を精査し発信すべきところ、片側の憶測に乗った論調になっていました。今後は事実と推測、主観と客観を明確に示しながら記述して参ります。
(修正後もオープンソース化を望む論調ではあります)
【編集部解説】2025/04/28 14:00修正
AI開発の世界で、少し考えさせられる出来事が起きました。AI企業のAnthropicが、「dnakov」という開発者が公開したコードに対して「待った」をかけたのです。
Anthropicには「Claude Code」という、ターミナル(黒い画面でお馴染みのコマンド入力画面)で動くAIコーディング支援ツールがあります。プログラマーがAIと対話しながら、コードを書いたり、修正したりするのを手伝ってくれる便利なツールです。Anthropicはこのツールのソースコードを、簡単には読めないように「難読化」という処理をして公開していました。
ところが、開発者のdnakov氏がこの難読化を解除し、元の読みやすい状態に戻したソースコードをGitHub(ソフトウェア開発プロジェクトを共有するプラットフォーム)で公開してしまったのです。
これに対してAnthropicは、「その公開されたコードは、我々が著作権を持つオリジナルのClaude Codeソフトウェアを侵害している!」と主張し、DMCAという法律に基づいて削除を要請しました。DMCAはデジタルコンテンツの著作権を守るための法律で、これに基づいて要請があると、GitHubのようなプラットフォームは一旦コンテンツを削除するのが一般的です。
当初、このニュースが報じられた際、削除要請の理由がAIへの「指示(プロンプト)」やAIの「応答(出力)」の著作権にあるのではないか、という憶測も一部でありました。AIが生み出すものの著作権はまだ法的に曖昧な部分が多く、非常に注目される論点だからです。しかし、実際にAnthropicが提出したDMCA通知を見ると、理由はもっとストレートで、ソフトウェアの「コードそのもの」の著作権侵害を主張しています。これは、AI特有の問題というよりは、従来のソフトウェア開発における著作権の問題に近いと言えます。
とはいえ、開発者コミュニティ、特にオープンソースソフトウェア(OSS)に関わる人々からは、依然として大きな反発がありました。OSSの世界では、プログラムの仕組みを解析(リバースエンジニアリング)したり、自由に改変したり、その成果を共有したりすることで技術を進歩させてきた文化があります。dnakov氏の行動も、その文化に根差したものと捉えられたわけです。
反論のポイントはいくつかあります。
- リバースエンジニアリングや難読化解除は許されるべきでは?:ソフトウェアの仕組みを理解したり、互換性を持たせたりするために解析することは「フェアユース(公正利用)」として認められる場合がある、という主張です。特に、相互運用性のためのリバースエンジニアリングはDMCAでも限定的に認められています。ただし、ライセンス契約で禁止されている場合もあり、法的な判断は複雑です。
- コード難読化や制限的ライセンスはオープンじゃない:Anthropicがコードを難読化し、改変などを制限する商用ライセンスを採用していること自体が、オープンな開発文化に反するという批判です。
- イノベーションが止まってしまうのでは?:このような削除要請がまかり通ると、AIツールの仕組みを研究したり、改善したりする動きが萎縮してしまうのではないか、という懸念です。
ちょうど同じ時期に、ライバルのOpenAIが似たようなツール「Codex CLI」のソースコードを、より自由度の高い「Apache 2.0」というライセンスで公開したことも、Anthropicへの風当たりを強くしました。
Anthropicとしては、多額の投資をして開発したClaude Codeというソフトウェア製品を守りたい、という意図があるのでしょう。Claude Codeがまだベータ版(研究プレビュー)であることや、セキュリティ上の理由も考えられます。
この一件は、AIツール開発における企業の知財戦略と、オープンソースコミュニティの価値観との間の緊張関係を浮き彫りにしました。技術の進歩を促すオープンな文化と、開発者の権利や投資をどう保護していくか。AI時代におけるソフトウェア開発のあり方を考える上で、重要なケーススタディと言えるでしょう。
【用語解説】
DMCA(デジタルミレニアム著作権法):米国の著作権法。インターネット上の著作権侵害に対応するための法律で、権利者の申し立てに基づきプロバイダが侵害コンテンツを削除する手続き(ノーティスアンドテイクダウン)などを定めている。
Claude Code:Anthropicが開発した、ターミナル上で動作するAIコーディング支援ツール。自然言語での指示に基づき、コードの編集、バグ修正、Git操作などを行う。本件では、このツールの難読化解除されたソースコードが問題となった。
OpenAI Codex CLI:OpenAIが開発したAIコーディング支援ツール。Claude Codeと同様にターミナル上で動作するが、ソースコードがApache 2.0ライセンスで公開されている点が特徴。
Agentic Coding Tool(エージェント的コーディングツール):AIがより自律的に動作し、開発者を支援するコーディングツール。自然言語の指示を理解し、コードの生成、修正、テスト、デプロイなどを半自動的に行う能力を持つ。
Code Obfuscation(コード難読化):ソフトウェアのソースコードやコンパイル後のコードを、機能を変えずに人間にとって読みにくく、理解しにくく変換する技術。リバースエンジニアリングの防止や知的財産の保護を目的とする。
Apache 2.0 License:オープンソースソフトウェアライセンスの一つ。商用利用、改変、再配布などを比較的自由に認める寛容なライセンスとして広く利用されている
リバースエンジニアリング:製品やソフトウェアを分解・解析し、その構造、設計、動作原理などを明らかにすること。互換性確保や学習目的で行われることがあるが、ライセンス契約や法律(DMCA等)で制限される場合もある。
【参考リンク】
- Anthropic (外部)
AIの安全性と研究に重点を置くスタートアップ。Claudeファミリーの大規模言語モデルを開発。 - OpenAI (外部)
ChatGPTやCodex CLIなどを開発するAI研究開発企業。 - GitHub (外部)
ソフトウェア開発プロジェクトのためのソースコードホスティングサービス。DMCA削除要請の舞台となった。 - Claude Code (Official Documentation) (外部)
AnthropicによるClaude Codeの公式ドキュメント。
OpenAI Codex CLI (GitHub Repository) (外部)
OpenAI Codex CLIの公式GitHubリポジトリ。Apache 2.0ライセンスで公開
【編集部追記】
Anthropicは「AIの安全性と透明性」を掲げる企業でありながら、自社モデルを検証しようとする研究を制限したという矛盾があります。これが「言行不一致ではないか」という批判につながったのではないかと思います。
そろそろ、私たちは商業利益と公共の利益、イノベーションと透明性のバランスをどう取るべきか、真剣に考える時期に来ていますが、悩ましい問題ですね。
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記事の冒頭にある通り、今回の初稿は一部憶測を含む情報に強く反応した論調でした。誤りを指摘してくださった読者様に感謝いたします。
修正前の記事ページ(キャプチャ)