Last Updated on 2025-05-15 11:11 by admin
Appleが、Vision Proヘッドセット向けに目の動きだけでアプリをスクロールできる新機能を開発中であることが明らかになった。この情報は2025年5月14日(現地時間、日本時間5月15日)にBloombergのMark Gurman記者によって報じられた。
この新機能はvisionOS 3の一部として開発されており、ユーザーは手のジェスチャーを使わずに視線だけでコンテンツをスクロールできるようになる。現在のVision Proでは、ユーザーはオブジェクトを見た後、親指と人差し指でピンチジェスチャーを行い、手を上下に動かすことでスクロールしているが、この新機能はそのプロセスをさらに簡素化するものだ。
アイスクロール機能はAppleの全ビルトインアプリで動作する予定で、同社はサードパーティ開発者が自社アプリにこの技術を統合できるようにするAPIも準備している。具体的な操作方法については詳細が明らかにされていないが、ページの端を見つめることでスクロールを開始したり、UIの要素に集中してから視線を上下に移動させてページをめくったりする方法が考えられている。
なお、現在のVision Proでは「Dwell Control」というアクセシビリティ機能を通じて、視線を一定時間オブジェクトに固定することで基本的なアイスクロールが可能だが、この方法は「扱いにくい」とされており、新機能はより直感的で使いやすいものになると期待されている。
この新機能は2025年6月9日(現地時間、日本時間6月10日)から始まるAppleの年次開発者会議「WWDC」で発表される予定のvisionOS 3の一部として登場する見込みだ。Vision Proは現在、米国では3,499ドル(約52万円)から販売されており、日本では59万9800円(256GBモデル)からとなっている。
References:
Apple might let you scroll with your eyes in the Vision Pro
【編集部解説】
Apple Vision Proの次期アップデートで実装予定の「視線だけでスクロール」機能は、空間コンピューティングの操作性に革命をもたらす可能性を秘めています。この機能は単なる利便性向上にとどまらず、人間とコンピュータの自然な対話の形を示す重要な一歩と言えるでしょう。
現在のVision Proでは、コンテンツをスクロールするには親指と人差し指でピンチしながら手を上下に動かす必要があります。これは直感的な操作ではありますが、常に手を使わなければならないという制約がありました。新機能によって、ユーザーは視線だけでコンテンツを読み進められるようになります。まるで本を読むときのように、自然な視線の動きに合わせてページが自動的にスクロールする体験は、テクノロジーの存在を意識させない「シームレスな体験」を実現するものです。
特に注目すべきは、この機能が単なるアクセシビリティツールではなく、全ユーザー向けの標準機能として実装される点です。これまでもVision Proには「Dwell Control」というアクセシビリティ機能が搭載されており、視線を一定時間オブジェクトに固定することでスクロールなどの基本的な操作が可能でしたが、The Vergeの記事によれば、この方法は「扱いにくい」とされており、新機能はより直感的で使いやすいものになると期待されています。
手を使わずに操作できることで、料理中や作業中など、両手がふさがっている状況でもコンテンツを閲覧し続けられるようになります。また、長時間のVR/AR体験において、腕の疲労を軽減する効果も期待できるでしょう。
具体的な操作方法については詳細が明らかにされていませんが、9to5Macの記事では、この機能の一貫性に関する懸念も示されています。開発者がアプリごとに特別なサポートを構築する必要がある場合、機能の有用性が損なわれる可能性があるとの指摘です。また、現状のアイトラッキングは「十分に良い」ものの、改善の余地があるとも述べられています。
技術的には、Vision Proに搭載されている高度なアイトラッキングシステムを活用したものです。Vision Proのアイトラッキングは、瞳孔追跡、光源からのプルキンエ反射の利用、網膜イメージングを組み合わせた方法を採用しています。赤外線LEDとカメラを使用して、光のパターンと反射を通じて眼球運動を追跡する高精度な技術が、この新機能を可能にしているのです。
この機能の登場は、XR(拡張現実)デバイスの操作性における新たな標準を確立する可能性があります。現時点では、Meta Quest 3などの競合製品にはこのような高度なアイトラッキングによるスクロール機能は標準搭載されておらず、Apple Vision Proの差別化要因となるでしょう。
一方で、視線だけでの操作には潜在的な課題もあります。例えば、意図しない視線の動きによる誤操作や、長時間の使用による眼精疲労の可能性も考慮する必要があるでしょう。また、プライバシーの観点からも、より精密な視線データの収集・分析が行われることになるため、ユーザーの同意と透明性のある運用が求められます。
Bloombergの報道によると、数年前にSamsungもスマートフォンにアイスクロール機能を追加しましたが、消費者に広く受け入れられることはありませんでした。しかし、Vision Proのような没入型デバイスでは、この機能がより自然かつ有用に感じられる可能性があります。
また、AppleはVision Proの将来モデルとして、より軽量な「Vision Air」と呼ばれる可能性のあるモデルや、低遅延アプリケーション向けにMacに接続して使用する有線モデルも開発中であるとBloombergは報じています。これらの新モデルでも、アイトラッキングによるスクロール機能は重要な操作方法となるでしょう。
visionOS 3は、初代から2へのアップデートと比較して「機能豊富なリリース」になると報じられており、アイトラッキングによるスクロールはその目玉機能の一つとなりそうです。6月9日から始まるWWDCでの発表が待ち遠しいところです。
【用語解説】
アイトラッキング:
ユーザーの視線や目の動きを追跡する技術。Vision Proでは高精度カメラとLEDを使用して目の動きを正確に検出し、インターフェース操作に活用している。
空間コンピューティング:
従来の平面的なインターフェースではなく、三次元の空間そのものをインターフェースとして利用するコンピューティングの形態。Vision Proはこの概念を実現するデバイスとして位置づけられている。
visionOS:
Apple Vision Pro向けの専用オペレーティングシステム。iPadOSとそのコアフレームワークから派生した混合現実向けOS。現在はvisionOS 2.4.1が最新バージョンである。
Dwell Control:
視線を一定時間特定の場所に固定することで選択や操作を行うアクセシビリティ機能。iOS、iPadOS、visionOSで利用可能。現在のVision Proでは、この機能を使って基本的なアイスクロールが可能だが、使いにくいとされている。
WWDC:
Worldwide Developers Conference(世界開発者会議)の略。Appleが毎年開催する開発者向けイベントで、新しいソフトウェアやテクノロジーが発表される。2025年は6月9日から13日まで開催予定。
プルキンエ反射:
眼球の角膜や水晶体の表面で光が反射する現象。アイトラッキング技術ではこの反射を利用して眼球の位置や動きを検出する。
Vision Air:
Bloombergの報道によると、Appleが開発中とされるVision Proの軽量版モデルの名称候補。2025年後半に発表される可能性がある。
【参考リンク】
Apple公式サイト(外部)Appleの製品やサービスに関する情報、購入、サポートなどが提供されている公式サイト。iPhone、iPad、Apple Watch、Mac、Apple TVなど全製品の情報が掲載されている。
Apple Vision Pro公式ページ(外部)Apple Vision Proの詳細情報、機能、仕様、購入方法などが掲載されている公式ページ。価格は59万9800円(256GBモデル)から。
Apple Developer – visionOS(外部)開発者向けのvisionOSに関する情報、ドキュメント、APIリファレンス、開発ツールなどが提供されている公式サイト。
WWDC公式サイト(外部)Appleの年次開発者会議WWDCの情報、スケジュール、セッション内容などが掲載されている公式サイト。2025年のWWDCは6月9日から13日まで開催予定。
Apple Vision Pro – ジェスチャー操作ガイド(外部)Vision Proでのジェスチャー操作方法を詳しく解説した公式サポートページ。現在の操作方法と新機能の比較に役立つ情報が掲載されている。