月面に映り込んだ三角形の3つの光、赤外線カメラがとらえた90度急旋回——米国防省が「機密」の壁を取り払い、UAPの一次資料を市民の手元に直接届けはじめました。私たちは今、何を見せられているのでしょうか。
2026年5月8日、米国防省(Department of War)は、未確認異常現象(UAP)に関する未公開ファイルの初回公開を発表した。これは「PURSUE(Presidential Unsealing and Reporting System for UAP Encounters)」と呼ばれる省庁横断的取り組みの一環である。参画機関はホワイトハウス、国家情報長官室(ODNI)、エネルギー省(DOE)、国防省傘下の全領域異常解明局(AARO)、NASA、FBI、その他の米情報機関各部門。
資料は専用ウェブページ war.gov/UFO に集約され、追加ファイルは段階的に公開される。本件はドナルド・J・トランプ大統領の指示によるものとされる。公開資料はセキュリティ上のレビュー済みだが、異常事象の解明に向けた分析は未完了のものを含む。発表にはピート・ヘグセス国防長官、タルシ・ギャバード国家情報長官、カッシュ・パテルFBI長官、ジャレッド・アイザックマンNASA長官のコメントが添えられた。当該投稿は短時間で2,000万回超の閲覧を記録した。
【編集部解説】
複数の英語ソース(NBC News、CBS News、NewsNation、Fox News、Scientific American、米国防省およびホワイトハウスの公式発表、AARO公式文書、および公開資料のミラーリポジトリ)を読み込み、事実関係を確認したうえで解説します。
今回の発表で最初に押さえておきたいのは、「Department of War(米国防省)」という名称そのものです。これは2025年9月5日、トランプ大統領が署名した大統領令14347号「Restoring the United States Department of War」によって導入された通称(secondary title)で、第二次世界大戦以前に存在した旧称への回帰という象徴性を帯びています。
ただし、ここには重要な但し書きがあります。連邦政府機関の正式名称変更は議会の立法行為を必要とするため、法的には今も「Department of Defense」が正式名称であり、「Department of War」はあくまで非法定文書での使用が許された二次的呼称です。ですが、ウェブドメインは defense.gov から war.gov に転送される形に切り替わり、ロゴや看板、プレスリリースのヘッダーは実質的に「War」表記へ置き換わっています。日本語報道では「国防総省」「ペンタゴン」と訳されることが多いものの、英語原文の語感は明らかに違っており、本記事では原文の語感を尊重するため「米国防省(Department of War)」を採用しました。
そして本件の中核にある「PURSUE」は、UAP関連の機密文書を省庁横断で発掘・機密解除・公開していく仕組みの名称です。注目すべきは、これがゼロから生まれた取り組みではないという点でしょう。母体となっている「AARO(全領域異常解明局)」は、米海軍の前身組織UAPタスクフォース(2020〜2021年)を経て、2021年11月に「AOIMSG」として一旦設置され、2022年7月15日に現在のAAROへ改組・改称された経緯を持ちます。設立はバイデン政権下、議会の超党派的な要請(NDAA FY2022)を背景に進められたものでした。今回の動きは、その積み重ねの上に「公開」という政治的アクセントを強く乗せたものと理解するのが正確です。
公開された資料の規模感も整理しておきます。CBS Newsの報道によれば、初回公開は計162件(PDF文書120件、動画28件、画像14件)に及び、合計で約2.4GB、PDFページ換算で4,000ページを超える分量とされています。動画は合計41分ほどで、2020年から2026年にかけて世界各地で記録された赤外線センサー映像が含まれます。例えばCBS Newsが報じたところでは、ギリシャで2023年に撮影された映像で、対象物が時速約80マイル(約128km/h)で90度の急旋回を繰り返したと記録されています。動画は約2ダース、合計41分ほどで、2020年から2026年にかけて世界各地で記録された赤外線センサー映像が含まれます。例えばCBS Newsが報じたところでは、ギリシャで2023年に撮影された映像で、対象物が時速約80マイル(約128km/h)で90度の急旋回を繰り返したと記録されています。
歴史的資料としては、Apollo 11、12、17、Gemini VII、そしてSkylabといった有人宇宙ミッションでの目撃証言や写真が含まれています。とりわけ1972年12月のApollo 17の写真には三角形状に並ぶ3つの「点」が写り込んでおり、米政府は公開資料のキャプションで「物理的な物体が存在した可能性がある」とする予備的分析に言及し、オリジナルフィルムの再取得・再解析に着手していると説明しています。
ただし、ここで冷静さを取り戻しておく必要があります。NBC Newsが明確に指摘しているとおり、今回の公開資料は「政府が地球外生命体との接触を隠蔽していた」ことを裏付けるものではありません。Apollo計画で報告された「閃光」については、宇宙線が網膜や機器に直接作用して生じる「コズミックレイ・フラッシュ」という、1970年代以降よく知られた科学現象による説明が成立する余地が大きい。赤外線センサー映像の「奇妙な機動」についても、視差効果やパララックス、センサー特性に起因する見かけの動きであることが過去の事例で繰り返し確認されてきました。「未確認」と「未知の知性体」の間には、依然として大きな論理的飛躍があります。
私が「未来を報じるメディア」として今回最も注目するのは、UAPそのものよりも情報公開の手法と読者側のリテラシーです。米政府は今回、war.gov/UFO という単一URLに資料を集約し、機密取扱資格を持たない一般市民が直接ダウンロードできる形にしました。早速GitHubには公開ファイルのミラーリポジトリが立ち上がり、PDFを生成AIで横断解析するスクリプトまで共有され始めています。一次情報がここまで開かれた瞬間に、AIによる大規模分析が同時並行で走り出すという構図は、これまでの政府による情報公開のあり方にはなかった、新しい現象です。
一方で、潜在的リスクも見過ごせません。「政府が公開した一次資料」という事実そのものが権威性を帯びてしまうため、未分析の生データが断片的に切り取られ、SNSで「政府が認めた未知の物体」として急速に拡散する温床にもなり得ます。発表文中にある「セキュリティ上のレビューは済んでいるが、異常解明のための分析は完了していない」という留保は、技術的には極めて重要な但し書きですが、見出しからは抜け落ちやすい部分です。
長期的な視点で言えば、これは米国における「宇宙・国防・情報公開」の三領域が政治的演出と絡みながら接近していく流れの一断面と捉えられます。NASA長官の地位にいるジャレッド・アイザックマン氏自身が、SpaceXのPolaris Dawnミッションで船長を務めた民間宇宙飛行士であることも象徴的です。民間と政府、技術と政治、科学と物語が、これまでにない速度で混じり合い始めています。
日本の読者として何を受け取るべきか。私は、UFOか否かという二元論ではなく、「国家が保有してきた一次情報が、市民とAIの手で同時に検証される時代に入った」という構造変化こそが本質だと考えます。同様の動きが日本の防衛省・JAXA・内閣情報調査室の保有資料に向かう日が来るのか。来るとすれば、その時の透明性のフレームワークをどう設計するのか。今回の米国の事例は、その先行事例として観察する価値が十分にあります。
【用語解説】
UAP(Unidentified Anomalous Phenomena/未確認異常現象)
従来「UFO(未確認飛行物体)」と呼ばれてきた現象に対し、米政府が近年採用している公式呼称である。「飛行」に限定せず、水中や宇宙空間を含むあらゆる領域での説明不能な事象を包含する概念として整理されている。
PURSUE(Presidential Unsealing and Reporting System for UAP Encounters)
トランプ大統領の指示により発足した、UAP関連政府文書の特定・機密解除・公開を省庁横断で進めるための枠組みの呼称である。「pursue(追求する)」との掛け言葉になっている。
AARO(All-domain Anomaly Resolution Office/全領域異常解明局)
米国防省内に2022年7月15日付で設置された、UAPを含む異常現象の調査・解析を専門に行う部局である。前身は海軍主導のUAPタスクフォース(2020〜2021)、続いて2021年11月に発足したAOIMSGであり、NDAA FY2022の規定を受けて改組・拡張された経緯を持つ。陸・海・空・宇宙・水中といった全領域を対象とする点に特徴がある。
大統領令14347号(Executive Order 14347)
2025年9月5日にトランプ大統領が署名した、米国防省に対し「Department of War」という二次的呼称の使用を認める大統領令である。連邦機関の正式名称変更は議会立法を要するため、現時点で法的な正式名称は依然として「Department of Defense」のままである。
ODNI(Office of the Director of National Intelligence/国家情報長官室)
2004年情報改革・テロ防止法に基づき設立された、CIA・NSA・DIAなど18の米情報機関を統括する組織である。
Apollo計画 / Gemini計画 / Skylab
いずれもNASAが1960〜70年代に実施した有人宇宙計画である。Geminiは2人乗りカプセルによる軌道飛行(1965-66)、Apolloは月面着陸を達成した計画(1969-72)、Skylabは米国初の宇宙ステーション(1973-79運用)であった。今回の公開資料には、これらのミッション中に乗組員が報告した未確認の光や物体に関する記録が含まれている。
コズミックレイ・フラッシュ(Cosmic Ray Visual Phenomena)
高エネルギーの宇宙線が網膜を直接通過した際に、人間が「閃光」として知覚する現象である。Apollo計画以降、宇宙飛行士の報告から科学的に確認されており、地球磁気圏外での目撃証言を解釈する際の有力な対立仮説となる。
Polaris Dawn
SpaceXが2024年9月に実施した民間宇宙ミッションである。ジャレッド・アイザックマン氏が船長兼資金提供者として参加し、民間人による史上初の船外活動(EVA)と、SpaceXの新型商業EVAスーツの実飛行試験を達成した。同氏は2026年現在、NASA長官の地位にある。
【参考リンク】
U.S. Department of War — UAP公開ページ(外部)
PURSUE枠組みで公開された機密解除済みUAP動画・写真・原典文書を一般閲覧できる米国防省の専用ページ。
U.S. Department of War 公式サイト(外部)
2025年大統領令で「Department of War」呼称を採用した米国防省の公式サイト。本件発表の原文掲載元。
AARO 公式サイト(外部)
米国防省内のUAP調査専門組織AAROの公式サイト。一般市民や元軍人からの目撃報告窓口も設置。
ODNI(国家情報長官室)(外部)
米情報コミュニティ全18機関を統括する国家情報長官室の公式サイト。UAP年次報告書も公表。
NASA 公式サイト(外部)
Apollo計画関連の歴史的画像やUAP独立研究チーム報告書を提供する米航空宇宙局の公式サイト。
FBI 公式サイト(外部)
本件PURSUE機密解除プロセスに参画する省庁横断パートナー、米連邦捜査局の公式サイト。
U.S. Department of Energy(外部)
PURSUEに参画する米エネルギー省。核関連施設周辺UAP事例の記録保持機関でもある。
The White House — Executive Order 14347 ファクトシート(外部)
「Department of War」呼称復活を定めた大統領令14347号の趣旨をホワイトハウスが解説。
【参考記事】
Pentagon begins releasing new UFO files, unveiling dozens of photos, videos and documents(CBS News)(外部)
公開動画は約2ダース計41分、2020〜2026年の赤外線記録やApollo 17資料の詳細を伝える詳報。
uap-release-01(GitHubミラーリポジトリ)(外部)
war.gov/UFOから取得された132ファイル、約2.4GB、約4,157ページの独立ミラーリポジトリ。
Pentagon begins release of UFO files(NBC News)(外部)
「政府による地球外生命隠蔽の証拠ではない」と明言した分析記事。Epstein File公開モデルとの類似も指摘。
UFO disclosure: Pentagon publishes online UFO photo collection in historic release(NewsNation)(外部)
Apollo 17の3点写真の予備分析や2023年9月の合成スケッチについての第一報。
Department of War Releases Unidentified Anomalous Phenomena Files in Historic Transparency Effort(外部)
本件解説の起点となる米国防省自身による一次プレスリリース全文掲載元。
Trump signs executive order rebranding Defense Department as Department of War(NBC News)(外部)
2025年9月の大統領令14347号成立報道。「War」呼称が法的には二次的タイトルである点を詳述。
DoD Announces the Establishment of the All-Domain Anomaly Resolution Office(HSToday)(外部)
AARO設立(2022年7月15日)、初代局長カークパトリック氏任命、6つの主要任務領域を整理。
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【編集部後記】
UFOか地球外生命か——今回のニュースは、つい二択で受け取りたくなるテーマです。けれど私自身がこの資料群と向き合って強く感じたのは、「未確認」という言葉が示す保留の余白こそが、いま試されているのではないか、ということでした。
機密解除されたPDFを読み解くのも、AIで一気に分析するのも、もはや市民の手の届く範囲にあります。みなさんなら、war.gov/UFOに公開された一次資料を、どんな角度から眺めてみたいでしょうか。私もまだ全ては読み切れていません。気になった画像や記録があれば、ぜひ感想を聞かせてください。
これまで「秘密」として閉じられていた政府の一次情報が、ある日突然、私たちのブラウザの先に降りてきた。これは単なるUFO公開ではなく、市民とテクノロジーの関係性そのものが組み変わる瞬間なのかもしれません。次に新たな資料が追加されたら、また皆さんと一緒に読み解いていきたいと思います。












