Genspark AI Slides 5.0発表、「Slide Skills」で専門家の思考をワンクリック装着

Gensparkは2026年5月27日、プレゼンテーション作成サービス「Genspark AI Slides」の最新版「AI Slides 5.0」を発表した。今回のアップデートの中核は新機能「Slide Skills」であり、専門家の思考とデザインをパッケージ化した再利用可能なアセットをワンクリックで適用できる。

コンサルティング、セールス、教育などの分野を中心に、100以上のエキスパートスキルが標準搭載される。ユーザーはスライドデッキやPDFをアップロードして独自のスキルを構築することも可能である。次世代アーキテクチャと最新モデルにより処理速度は従来比5倍となり、ExcelやGoogle スプレッドシートのデータを取り込んで分析する機能も内蔵された。

ローンチを記念し、AI Slides 5.0のクレジットを50%オフで利用できるキャンペーンが実施される。期間は日本時間2026年5月27日午前9時から6月10日午前9時までの14日間である。

From: 文献リンクGenspark公式X(@genspark_ai)— Introducing Genspark AI Slides 5.0

【編集部解説】

今回のAI Slides 5.0で最も注目すべきは、「テンプレート」から「スキル」へという思想の転換です。従来のスライド作成AIが提供してきたのは、見た目を整える「型」でした。一方、Gensparkが今回打ち出した「Slide Skills」は、デザインだけでなく、コンサルタントや営業担当者、教育者といった専門家の「思考プロセス」そのものをパッケージ化した点に新規性があります

この「Skill」という概念は、Anthropicが先行して提示してきたAgent Skillsの設計思想と地続きにあります。再利用可能な専門知識のモジュールをワンクリックで呼び出すという発想は、生成AIが「対話するもの」から「専門性を装着するもの」へと進化していく流れを示すものといえるでしょう。

Genspark側の発表によれば、5.0で処理速度は従来比5倍に高速化されたとされています。ただし比較対象のバージョンや測定条件は明示されておらず、この数値の検証は今後ユーザーレビューを待つ必要がある点は付記しておきます。

運営会社のMainFunc Inc.は、公開情報によると2023年に元Baidu幹部のエリック・ジン氏とケイ・ジュー氏が共同創業したスタートアップで、その後ウェン・サン氏もCOOとして共同創業者に加わっています。ジン氏はMicrosoftで中国向けBing検索の創業チームに参画し、会話型AI「Xiaoice」の開発にも関わった経歴の持ち主で、技術的バックボーンは厚みがあります。2025年11月時点でシリーズBで2億7,500万ドルを調達し、評価額12億5,000万ドルのユニコーン企業となりました。

特筆すべきは、わずか5か月で年間経常収益(ARR)5,000万ドルに到達したという成長スピードです。検索エンジンから生産性スイートへピボットし、現在は世界各地に拠点を構えるグローバル企業へと変貌を遂げています。日本にも拠点を置いており、日本市場を重要視している姿勢が読み取れます。

「自分専用のSkillを作る」機能は、企業内ナレッジの民主化という観点で大きな意味を持ちます。これまで社内の優秀な人材の頭の中にしかなかった「あの人ならこう資料を組み立てる」という暗黙知を、AIに装着可能なアセットとして抽出できるようになるからです。コンサルティングファームや営業組織にとっては、ベテランの分析手順を新人がワンクリックで再現できる環境が現実味を帯びてきました。

一方で、見過ごせないリスクもあります。社内資料やPDFをアップロードしてSkillを構築するということは、機密情報や独自のフレームワークがプラットフォーム側で処理・保存されることを意味します。学習への利用範囲とデータ保持期間は別物として、契約や規約レベルで個別に確認する作業が、今後の導入企業に求められるでしょう。なおGensparkはエンタープライズ向けには「Zero Training(顧客データを学習に使わない)」方針を掲げています。

規制面では、EU AI Actが2026年8月に原則適用フェーズに入る一方、高リスクAIの一部規定は2027年12月、製品組込み型については2028年8月まで段階的に適用範囲が拡大していく見通しです。スライド生成ツール一般がただちに高リスクAIに該当するわけではないものの、採用、教育評価、信用査定、重要インフラといった用途で活用される場合には規制対象となる可能性が出てきます。専門家の思考を模倣して意思決定支援を行うツールが、どこまで「単なる効率化」で、どこから「自動化された判断」になるのか。この境界線が、今後の議論の焦点になるはずです。

そして日本市場にとって、この発表は特別な意味を持ちます。パワーポイント文化が深く根付くこの国では、資料作成に膨大な労働時間が投下されてきました。19言語に対応するAI Slidesは日本語もカバーしており、5.0のSkill機能が日本のホワイトカラー職場に与える影響は、欧米以上に大きくなる可能性があると見ています

長期的な視点で捉えると、今回のリリースは「AIエージェントマーケットプレイス」の前哨戦と読むこともできます。標準搭載の100以上のSkillに、ユーザー独自のSkillが加わっていけば、いずれSkillそのものが流通する経済圏が立ち上がる可能性があります。スライド作成という限定的な機能の話に見えて、その先には「専門性の流通革命」という大きな地殻変動の予兆が含まれているのです

【用語解説】

Slide Skills(スライドスキル)
Genspark AI Slides 5.0で新たに導入された中核機能。専門家の思考プロセスとデザインを一体化させた再利用可能なアセットで、ワンクリックでスライドに適用できる。従来の「テンプレート」が見た目だけを定義するものだったのに対し、スキルは「どう情報を組み立て、どう見せるか」という分析手順までパッケージ化している点が特徴である。

エキスパートスキル(Expert Skills)
Slide Skillsのうち、Genspark側があらかじめ用意した100以上の標準搭載スキル。コンサルティング、セールス、教育などの領域で実績ある専門家の作法を抽出してアセット化したもので、ユーザーは自身の専門領域外のスライドも、その分野のプロが組み立てたかのような構造で作成できる。

AI Slides
Gensparkが提供するプレゼンテーション自動生成サービス。プロンプトやアップロード文書からスライドを生成し、PPTX、PDF、Google スライド形式でエクスポートできる。日本語を含む19言語に対応している。

スライドデッキ(deck)
プレゼンテーション用スライド一式を指す英語圏のビジネス用語。日本でもスタートアップや外資系企業を中心に「ピッチデック」「セールスデッキ」という形で定着しつつある表現である。

次世代アーキテクチャ(next-gen architecture)
Genspark側の発表で示されたAI Slides 5.0の処理基盤の表現。AI Slides 5.0自体の具体的なモデル構成は公表されていないが、Genspark全体としては「Mixture of Agents」方式を採用し、複数の第三者AIプロバイダーの技術を組み合わせている。

ARR(Annual Recurring Revenue/年間経常収益)
サブスクリプション型ビジネスにおいて、継続課金から見込まれる年間売上を示す指標。SaaS企業の成長性を測る代表的な物差しとして用いられる。

シリーズB
スタートアップの資金調達ラウンドの一段階。プロダクトの市場適合性が確認され、本格的な事業拡大フェーズに入る企業が実施することが多い。

EU AI Act(EU AI法)
欧州連合が制定した世界初の包括的AI規制法。リスクベース・アプローチを採用し、AIシステムを4段階(許容できないリスク、ハイリスク、限定的リスク、最小リスク)に分類して規制する。2024年8月に発効し、2026年8月に原則適用、高リスクAIの一部規定は2027年12月、製品組込み型は2028年8月へと段階的に適用範囲が拡大していく予定である。

Mixture of Agents
Gensparkが採用する複数AIモデル統合アーキテクチャの呼称。複数の異なるモデルの出力を組み合わせて相互検証し、ハルシネーション(誤情報生成)のリスク低減と回答品質の向上を図る仕組みである。

【参考リンク】

Genspark 公式サイト(外部)
MainFunc Inc.が運営するオールインワンAIワークスペース。AI SlidesやAI Sheetsなど各種AIエージェント機能を提供する。

Genspark AI Slides(外部)
本記事で取り上げたAI Slides 5.0のサービスページ。プレゼン自動生成機能の概要と利用導線が掲載されている。

Genspark AI Slides Changelog(外部)
AI Slidesのアップデート履歴を公式に掲載するチェンジログページ。新機能や仕様変更が時系列で確認できる。

MainFunc Inc.(外部)
Gensparkを運営するスタートアップの公式サイト。米国パロアルト本社のほか、シンガポール、日本にも拠点を持つ。

EU AI Act 欧州委員会公式ページ(外部)
欧州委員会によるAI Actの公式解説ページ。リスク分類や適用スケジュールの最新情報が確認できる。

【参考動画】

【参考記事】

Genspark Raises $275M Series B — Business Wire(外部)
Genspark公式リリース。Series B 2億7,500万ドル、評価額12億5,000万ドル、5か月でARR 5,000万ドル達成と報じる。

Genspark raises $275M in funding for its AI productivity suite(外部)
SiliconANGLEによる調達報道。30以上のAIモデルと150以上の自社開発ツールの統合体制を伝える。

Genspark: The Ultimate System of Context — Emergence Capital(外部)
投資元による分析記事。創業者陣の経歴と急成長の構造的背景が分析されている。

With Microsoft Agent 365 — Microsoft Source Asia(外部)
Microsoft公式取材記事。エリック・ジン氏のビジョンと、80を超えるエージェント群、日本拠点を紹介している。

Equipping agents for the real world with Agent Skills — Anthropic(外部)
AnthropicによるAgent Skills発表記事。GensparkのSlide Skillsの背景にある設計思想を理解する助けになる。

Genspark Extends Series B to $385M at $1.6B Valuation(外部)
2026年のSeries B拡張ラウンド報道。総額3億8,500万ドル、評価額約16億ドルへの上方修正を伝える。

Timeline for the Implementation of the EU AI Act(外部)
欧州委員会公式のAI Act実施スケジュール。高リスクAI適用時期の最新整理が掲載されている。

【関連記事】

Genspark sb-git登場、Claude CodeやOpenClaw対応のエージェント向けGitサーバー無料公開
Gensparkが2026年5月に発表したAIエージェント専用Gitサーバー。同社の最新プロダクト戦略が読み解ける。

Anthropic、Claude AIに「Skills」機能追加|企業AIワークフローを高速化
本記事のSlide Skills思想の源流にあるAnthropicのAgent Skills発表。Skill概念の本質に迫れる必読記事。

NotebookLM「スライドデッキ」とインフォグラフィック自動生成──GoogleがAI資料作成を革新
Googleが提供するAIスライド生成機能。Genspark AI Slidesとの競合構図を理解するための比較材料。

Genspark「バイブワーキング」革命|自律AIエージェントが45日で年間売上54億円記録
Gensparkの急成長の裏側を解説。本記事で触れたARR 5,000万ドル達成の経緯を深く知れる。

GensparkのAI通話サービス「Call for Me」、Twilio採用で40か国展開へ
同社のもう一つの主力エージェント機能。AIワークスペース全体像を把握するための補完情報。

【編集部後記】

スライド作成という、多くの方が日々向き合っている地味で時間のかかる仕事に、「専門家の思考そのものを借りる」という新しい選択肢が加わりました。みなさんなら、自分のどんな知見やノウハウを「Skill」としてパッケージ化したいと思いますか。

逆に、社外のどんなプロのSkillを装着してみたいでしょうか。AIが「ツール」から「同僚」へと変わりつつあるこの時期、自分の専門性と上手に組み合わせる視点を一緒に考えていけたら嬉しいです。よろしければ、ご自身の業務で試してみた感想や違和感も、ぜひ聞かせてください。

Googleで優先するソースとして追加するボタン
投稿者アバター
TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。