JPYSCレンディング年率3%開始|SBI VCトレードが円ステーブルコインを貸コインに、7月16日申込受付

信託銀行が裏付けの円を保全する——それが信託型ステーブルコインの売りでした。ところがJPYSCを貸し出した瞬間、そのコインは資金決済法の分別管理から外れます。提示される年率3%は、円定期預金の0.325〜1%を大きく上回る水準。守りを外して得る利回り、という順番が引っかかります。


SBIホールディングスの連結子会社であるSBI VCトレードは2026年7月13日、信託型円建てステーブルコイン「JPYSC」を対象とするレンディングサービス「JPYSCレンディング」を開始すると発表した。申込受付は7月16日、貸出開始は7月23日から。VCTRADEサービスで提供する。

利用者がJPYSCを同社へ貸し出し、対価として利用料を受け取る消費貸借取引で、当初募集は12週間満期で年率3%、通常時は12週間満期で年率1〜3%程度を予定する。同社によると、信託型ステーブルコインを対象としたレンディングは国内初である。円預金ではなく預金保険制度の対象外で、貸し出されたJPYSCは資金決済法に基づく分別管理の対象外となる。

貸出期間中の中途解約は原則できない。同社は2026年3月19日にUSDCレンディングを開始している。

From: 文献リンク国内初の信託型円建てステーブルコインレンディングサービス「JPYSCレンディング」、7月16日から申込み開始のお知らせ

【編集部解説】

円建てステーブルコインに、利回りがついた

年率3%。SBI VCトレードが円定期預金の比較として示す0.325〜1%程度という水準に対して、この数字が持つ引力は強烈です。ただし本件の要点は利回りの高さではありません。「日本円に連動するデジタル資産が、金利を生む金融商品として設計された」という一点です。

JPYSCはSBI VCトレードの口座内で1JPYSC=1円から乖離しない設計です。ただしJPYSCは日本円そのものではなく、国家が価値を保証するものでもありません。預金保険の対象外であることも、リリースが明記しています。「値動きがない」ように見える設計と、「円と同じ」であることは別の話です。

その3%は、どこから生まれているのか

SBI VCトレードは、借り受けたJPYSCを転貸することがあるとしています。運用先について公式リリースは開示していません。日本経済新聞は「仮想通貨などで運用」すると報じていますが、これは報道であり、同社の公式説明ではありません。

銀行が預金を集めて融資に回し、利ざやを取る構造とは、少なくとも同じではない。収益の源泉が円建て資産の外側にある可能性は高いと私は見ていますが、これは公開情報からの推測であり、断定はできません。

同社が2026年3月19日に開始したUSDCレンディングは、当初募集が12週間満期・年率10%、通常時は5%程度の予定とされていました。今回のJPYSCが1〜3%程度である差は目を引きますが、その理由をSBIが公式に説明した事実はありません。

貸した瞬間、資産の法的な性質が変わる

本件で最も注意深く読むべき箇所です。

JPYSCは信託型ステーブルコインで、SBI新生信託銀行が発行者となり、裏付け資産を信託銀行が管理します。6月24日の発行初日には上限の100億円に到達しました。この信託構造こそが、資金移動業型に対する信託型の特徴でした。

ところがレンディングに出すと、利用者が手元に持つのは「JPYSCそのもの」ではなく、「SBI VCトレードに対して同種・同量のJPYSCと利用料の返還を求める債権」に変わります。消費貸借取引とは、そういう契約です。

そして貸し出された分は、資金決済法に基づく分別管理の対象外となります。同社が破綻した場合、全部または一部が返還されないリスクがある——これはリリース自身の記述です。

信託財産そのものが消えるわけではありません。変わるのは、利用者の立ち位置です。コインの保有者から、事業者への債権者へ。3%という数字は、この信用リスクを引き受ける対価だと理解するのが正確でしょう。

税制という、まだ解けていない結び目

2026年度税制改正では、暗号資産を金融商品取引法の対象へ移し、20.315%の申告分離課税を導入する方向が示されました。適用は改正金商法の施行日が属する年の翌年1月1日以後です。施行日が確定していないため、開始時期は現時点では確定していません。

ここには二重のねじれがあります。分離課税の対象は「特定暗号資産の譲渡」であること。そしてステーブルコインは法律上「暗号資産」ではなく「電子決済手段」だという点です。

レンディングの利用料は、資産の譲渡益ではなく貸したことへの対価。リリースが記すとおり雑所得・総合課税であり、所得税・復興特別所得税・住民税を合わせた最大税率は55.945%になり得ます。

なお、リリースが挙げる「20万円以下」の基準は、万人に適用される非課税枠ではありません。年末調整済みの給与所得者などで、給与・退職所得以外の所得金額の合計が20万円以下といった一定要件を満たす場合に、所得税の確定申告が不要になる制度です。住民税の申告が別途必要になる場合もあります。ここを「20万円まで無税」と読み違えると、後で困ることになります。

7月中旬、日本のステーブルコインが三方向へ動いた

この発表の前後、関連する動きが立て続けに公表されました。

7月13日、HashPortはKDDI・ローソンと7月10日に締結した基本合意書を公表。ローソン高輪ゲートウェイシティ店で8月に実施する店頭決済の技術実証で使われるのは、報道によればJPYSCではなくJPYCです。POSと連動したステーブルコイン決済の実証は国内初とされます。

7月14日には、JCBがCircleの関連会社とステーブルコインを活用した協業検討の基本合意書を締結したと発表。クロスボーダー決済と、国内加盟店・訪日客向けの店頭決済の2領域を検討対象とし、年内に都内1店舗で実証を検討する段階です。

運用(SBI/JPYSC)、小売決済(ローソン/JPYC)、越境決済(JCB/USDC)。銘柄も方式も担い手も違う三つの動きが、わずか数日のうちに並んだ。それぞれ実証や検討の段階であり、実装が完了したわけではありません。それでも、日本のステーブルコインが「発行できるか」という問いを終え、「何に使うか」という問いに移ったことは、この並びから読み取れます。

「閉じた庭」からいつ出るのか

現時点でJPYSCはSBI VCトレードの口座内に限定され、外部ウォレットへの入出庫はできません。パブリックチェーンでの流通は「関係法令・税務実務上の取扱いが整理され次第」とされています。

この制約が外れれば、JPYSCがDeFiや国際送金とつながる可能性が生じます。ただし接続先のプロトコル、対応チェーン、規制対応はいずれも未確定であり、自動的にそうなるわけではありません。

SBI側は本サービスを「将来的なオンチェーン金融実現に向けた中核サービスの1つ」と位置づけ、6月の発行時点で「機関投資家向けレンディングおよびオンチェーン・キャリートレード」を将来構想として掲げています。いずれも現在提供されている機能ではありません。

年率3%は入口です。その先にあるのは、24時間365日動き続ける円の金融市場を日本が持てるかどうか、という問いなのだと思います。

【関連記事】

JPYSC:SBIとStartale Groupが日本初の信託型円建てステーブルコインを発表
本記事の前提となるJPYSCの発表を報じた記事。信託型(3号電子決済手段)の仕組みと、100万円制限を受けない設計を解説している。

HashPort Wallet×JPYC、ローソンのレジへ─KDDI・ローソンと8月に店頭決済実証
本記事で触れたローソンの店頭決済実証を詳報。使われるのがJPYSCではなくJPYCである点を確認できる。

MisePay×JPYC|円ステーブルコインが「街の店」で使える日へ 渋谷・名古屋で店頭決済トライアル
資金移動業型JPYCと信託型JPYSCの制度上の違いを整理した記事。小口決済と大口決済で担い手が分かれる構図を論じている。。

【編集部後記】

プレスリリースを最後まで読むと、破綻時に返還されないリスクの説明のすぐ下に、開始記念キャンペーンの案内が並んでいます。総額100万円プレゼント、10万円以上の申し込みで抽選、フォロー&引用リポストで1万円相当。

どちらも同じ文書に載っている情報です。片方は法令上の必須開示で、片方は集客の設計。読む順番によって、この商品の印象はまるで変わります。

12週間後、返還されたJPYSCと利用料を眺めたとき、リスク欄の数行を覚えている人は、どれくらいいるでしょうか。


【用語解説】

ステーブルコイン
法定通貨などに価値が連動するよう設計されたデジタル通貨である。JPYSCは日本円と1対1で連動するよう設計され、SBI VCトレードの口座内では1JPYSC=1円から乖離しないとされる。ただし日本円そのものではなく、国家が価値を保証するものでもない。

JPYSC(ジェイピーワイエスシー)
SBI新生信託銀行が発行する、国内初の信託型円建てステーブルコイン。SBIホールディングスとStartale Groupが共同開発した。2026年6月24日に提供が始まり、発行初日に上限の100億円に到達した。

JPYC(ジェイピーワイシー)
JPYC株式会社が発行する日本円ステーブルコイン。資金移動業型であり、信託型のJPYSCとは方式が異なる。ローソン高輪ゲートウェイシティ店で8月に予定される店頭決済の技術実証で用いられるのは、報道によればこちらである。

電子決済手段(第3号電子決済手段)
資金決済法上の区分であり、法律上は「暗号資産」ではない。信託銀行や信託会社が発行者となる第3号電子決済手段は、資金移動業型と異なり、滞留・送金にかかる100万円の制限を受けない。

信託型ステーブルコイン
裏付け資産となる日本円を信託銀行が信託の形で管理する方式である。

レンディング(貸コイン)
利用者がデジタル資産を事業者へ貸し出し、対価として利用料(賃借料)を受け取る仕組み。JPYSCレンディングの取引区分は消費貸借取引であり、預金ではない。

消費貸借取引
借りた側が同種・同量のものを返還する契約形態である。利用者は貸出後、JPYSCを直接保有するのではなく、SBI VCトレードに対する返還請求権を持つ立場に変わる。

転貸
借り受けた資産をさらに第三者へ貸し出すこと。SBI VCトレードは借り入れたJPYSCを転貸する場合があるとし、その管理責任は同社が負うと説明している。

分別管理
資金決済法に基づき、事業者が顧客資産を自己の資産と分けて管理する義務である。レンディングに出されたJPYSCはこの対象外となり、事業者が破綻した場合に返還されないリスクが生じる。

雑所得・総合課税
給与などほかの所得と合算して課税される方式である。JPYSCレンディングの収益はこの区分に該当し、所得税・復興特別所得税・住民税を合わせた最大税率は55.945%となり得る。円定期預金の利息は一律20.315%の源泉分離課税で、扱いが異なる。

申告不要制度(20万円基準)
年末調整済みの給与所得者などで、給与・退職所得以外の所得金額の合計が20万円以下であるなど、一定の要件を満たす場合に所得税の確定申告が不要となる制度。全員に適用される非課税枠ではなく、住民税の申告が別途必要になる場合がある。

申告分離課税
ほかの所得と分けて一定税率で課税する方式。2026年度税制改正では暗号資産への導入が盛り込まれ、税率は20.315%とされる。対象は「特定暗号資産の譲渡」であり、適用は改正金商法の施行日が属する年の翌年1月1日以後となる。

パブリックチェーン
誰でも参加・閲覧できる公開型のブロックチェーンである。JPYSCは現在SBI VCトレードの口座内に限定され、外部ウォレットへの入出庫はできない。

オンチェーン金融
ブロックチェーン上で貸借や為替取引などの金融機能を完結させる構想。SBIはJPYSCレンディングを、その実現に向けた中核サービスの1つと位置づけている。

キャリートレード
低金利通貨で調達し高金利通貨で運用して金利差を得る手法。SBIはJPYSCの借入・貸付市場の形成を通じ、機関投資家向けのオンチェーン・キャリートレードを将来構想として掲げている。

【参考リンク】

JPYSC|国内唯一の日本円建て信託型ステーブルコイン|SBI VCトレード(外部)
JPYSCの公式ページ。日本円と1対1で連動する設計と、現時点で入出庫ができない旨の注記が確認できる。

SBI VCトレード(外部)
暗号資産交換業と電子決済手段等取引業のライセンスを持つSBIグループの取引所。JPYSC、USDC、RLUSDを扱う。

SBI新生銀行(外部)
JPYSCの発行者であるSBI新生信託銀行の親会社。グループの金融機能と事業基盤を背景に本取り組みを支える。

Startale Group(外部)
シンガポールのフィンテック企業。SBIグループとJPYSCを共同開発したと公式資料に記載されている。

JPYC株式会社(外部)
資金移動業型の日本円ステーブルコイン「JPYC」の発行元。ローソンの店頭決済実証に用いられる銘柄。

HashPort(外部)
ウォレット「HashPort Wallet」と事業者向け決済を提供。KDDI・ローソンとの店頭決済実証を担う企業。

JCB ニュースリリース(外部)
Circle関連会社との協業検討に関する基本合意書など、ステーブルコイン関連の公式発表が掲載される。

金融庁(外部)
暗号資産の金融商品取引法への移管を進める監督官庁。ステーブルコインの制度設計を所管している。

国税庁(外部)
雑所得の取扱いや確定申告の要否など、レンディング収益の税務判断に必要な情報を公開している。

【参考記事】

SBIグループおよびStartale Groupによる、国内初の信託型円建てステーブルコイン「JPYSC」の提供開始に関するお知らせ(外部)
信託型として国内初であること、100万円制限を受けないこと、オンチェーン・キャリートレード構想が記されている。

USDCレンディングサービス開始のお知らせ|SBI VCトレード(外部)
2026年3月19日開始のUSDCレンディングが、当初12週間満期・年率10%であったことを確認できる。

JPYSCの100億円発行は「顧客需要を踏まえた」とSBI VCトレード(外部)
発行初日に上限の100億円へ到達したこと、パブリックチェーン流通の時期についての同社回答を伝える。

SBI、ステーブルコインの運用益を還元 賃借料は年率3%に設定(外部)
3カ月の定期物で年率3%を設定し、借り受けたコインを仮想通貨などで運用すると報じている(有料記事)。

ローソン、JPYC決済を8月に実証へ──POS連携で国内初=日経(外部)
ローソン高輪ゲートウェイシティ店の実証がJPYCを用い、POS連動の実証は国内初であると伝えている。

JCBとサークルがMOU、「USDC」でクロスボーダー決済と国内加盟店決済を検討(外部)
JCBが7月14日にCircle関連会社と協業検討の基本合意書を締結し、2領域を検討すると伝えている。

No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人|国税庁(外部)
20万円基準が、年末調整済みの給与所得者などに限られる所得税の制度であることを確認できる。

2026年度税制改正について|金融庁(外部)
分離課税の対象が限定されること、適用時期が改正金商法の施行日に依存することを示している。

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山本 達也
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。