SNSの通知設計やレコメンドアルゴリズムが未成年ユーザーの行動や心理に及ぼす影響は、これまで多くが企業の自主的な対応や業界ガイドラインに委ねられてきました。ところが8月6日、米ニューメキシコ州の裁判所はMetaに対し、深夜帯の通知停止や月間利用時間の上限といった、極めて具体的な数値目標を伴う是正措置を命じる判決を下しました。巨額の制裁金以上に注目すべきは、その中身です。
8月6日に下されたブライアン・ビードシャイド判事(米ニューメキシコ州地方裁判所)の判決は、Meta Platformsに5億6,700万ドルの支払いと、18歳未満アカウントのユーザー体験の変更を命じるものだった。
同州司法長官ラウル・トレズの訴訟における第2フェーズ審理によるもので、第1フェーズの陪審評決(不公正取引慣行法違反75,000件、制裁金3億7,500万ドル)に追加される。判決はMetaのプラットフォームを10代の若者に害を及ぼす「公共の迷惑」の一因と認定し、5億6,700万ドルの基金は5年間かけて意識啓発・予防・治療等に充てられ、最大の配分先は治療の4億2,000万ドルとなる。Metaには、Instagramでの18歳未満デフォルト非公開設定の維持、深夜・登校時間帯のプッシュ通知停止、いいね数の非表示、月90時間の利用上限などが義務付けられた。
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NM court orders Meta to pay $567M, make changes for underage users
【編集部解説】
事案の成り立ちと二段階審理
発端は2023年、トレズ司法長官が主導した覆面捜査でした。13歳の少女を装った偽アカウントを作成したところ、性的な画像の送りつけや勧誘が相次いだといいます。この訴訟は陪審審理(フェーズ1)と裁判官単独審理(フェーズ2)の二段階で進みました。フェーズ1では今年3月、Metaがニューメキシコ州不公正取引慣行法に75,000件違反したとして、1件あたり上限の5,000ドルが満額科され、合計3億7,500万ドルの評決が下っています。今回の判決は、その後に続いたフェーズ2──「公共の迷惑」認定に基づく是正措置をめぐる審理の結果です。
「公共の迷惑」という理論とSection230の壁
判事の判断で目を引くのは、その法的構成です。「公共の迷惑」は本来、工場排水や騒音など物理世界の被害を想定してきた法理で、SNS事業者への適用は異例とされています。判決文は、プラットフォーム事業者を免責してきた通信品位法230条が今回の請求を妨げないとも述べました。認定の根拠には、専門家証言による「SNS利用と若年層のメンタルヘルス危機の因果関係」の指摘に加え、ニューメキシコ州側の精神医療体制の不足という実情も踏まえられています。
命じられたこと、退けられたこと
判事は、10代ユーザーが無限スクロールや自動再生、いいね数表示、プッシュ通知、レコメンド機能といった「エンゲージメントを高める設計」に特に影響を受けやすいと認定しました。しかし実際に命じたのは、通知の時間帯制限やいいね数の非表示、月90時間(1日平均約3時間相当)の利用上限であり、無限スクロールや自動再生そのものの撤廃までは踏み込んでいません。業界横断的な機能への介入は立法府の役割であり、表現の自由やSection230との抵触リスクがあるというのが理由です。州が求めていた「独立監視機関」の設置も退けられました。司法が一企業に命じられる範囲には、輪郭があるということでしょう。
単発の判決ではない
このニュースをMeta一社の個別事案として読むと、見誤るかもしれません。同じ今年3月、ロサンゼルスの陪審は別の訴訟でMetaとYouTubeの過失を認定し、幼少期からSNSを利用してきた原告への損害賠償を命じています。この訴訟は、カリフォルニア州の集団訴訟手続き(JCCP)における先行事案として位置づけられているほか、学区や複数の州による同種の訴訟も、別途連邦裁判所で進行しています。ニューメキシコ州の今回の件と合わせて見ると、SNS企業が未成年ユーザーへの影響について司法の場で説明を迫られる流れが、複数の法域で並行して進んでいる様子が見えてきます。
なお、州側は今回のフェーズで10億ドルの支払いを求めており、判決の5億6,700万ドルはそれを下回りました。Metaは判決について「不服であり、控訴する」との声明を出しています。命じられた変更が実際にどう実装され、控訴審でどこまで維持されるのかは、今後の展開次第と言えるでしょう。
【関連記事】
Meta・Instagram、AIで年齢詐称を検出 – 未成年ユーザーを自動的に「ティーンアカウント」へ移行
Meta自身も年齢詐称検出AIの導入を進めてきましたが、今回はその取り組みの前提となった訴訟の一つが、司法判断という形で決着しました。
【編集部後記】
利用時間の上限やいいね数の非表示といった数値化された対策は、目に見える変化をもたらす一方で、SNS設計の根幹には触れないままでもあります。何を「命じられること」とし、何を企業の裁量や利用者自身の選択に委ねるべきか。控訴審の行方や他州への波及にも、引き続き注目していきます。
【用語解説】
公共の迷惑(Public Nuisance)
本来は工場排水や騒音など、物理的な環境への迷惑行為に適用されてきた米国の不法行為法理。SNS事業者への適用は異例。
Section230(通信品位法230条)
プラットフォーム事業者を、第三者が投稿したコンテンツに関する責任から広く免責する米連邦法の規定。今回の判決は、この免責が「公共の迷惑」請求の妨げにはならないと判断。
ベルウェザー訴訟(Bellwether Trial)
同種の争点を抱える多数の訴訟群の先行事例として選ばれる裁判。判断が今後の関連訴訟における相場観や和解交渉に影響を与える。
年齢確認技術(エイジ・アシュアランス)
自己申告の生年月日だけでなく、利用パターン等から年齢を推定する技術群の総称。今回の判決はMetaに継続的な改善を義務付けた。
【参考リンク】
Meta Family Center(外部)
保護者が10代アカウントの監督設定を行う公式ハブ。Instagram・Facebook・Messengerを横断管理できる。
Meta Safety Center:10代の安全性について(外部)
Metaによるティーン向け安全対策の説明ページ。
判決文原本(Findings of Fact and Conclusions of Law)(外部)
ニューメキシコ州地方裁判所が公開した判決文PDF。
New Mexico Department of Justice(外部)
本件を提訴した州司法長官府による声明・経緯資料。
Common Sense Media:Online Safety(外部)
SNSと子どもの安全に関する独立系の調査・記事一覧。
【参考記事】
Meta ordered to pay US state $567 mn to abate ‘public nuisance’ and child harm — Yahoo/AFP(外部)
判事が指摘したSNSのエンゲージメント設計要素と、Metaの控訴声明を報道。
New Mexico Court Orders Meta to Pay to Establish $567 Million Fund to Abate Harms to Youth — Tech Policy Press(外部)
Section230・表現の自由をめぐる法的論点を詳細に分析。
Meta ordered to pay into $567 million abatement fund — CNBC(外部)
訴訟の背景となった2023年の覆面捜査や専門家証言の内容を報道。
Judge orders Meta to pay $567 million over harm to New Mexico youth — Albuquerque Journal(外部)
州側が求めていた10億ドルとの差や、基金の使途を詳報。
Meta and YouTube found liable in social media addiction trial — CNN Business(外部)
3月のロサンゼルスにおける並行訴訟の評決を報道。

















