使い始めるまでが一番大変、と思ったことはないでしょうか?GMOグループが同じ日に出した2本のリリースは、必要な知識も対象の規模もまったく違う利用者に向けたものでした。それでもGMOの狙いは同じです。
2026年8月12日、GMOインターネットグループから2本のリリースが出ました。
1本目は、GMOインターネットが提供する『ConoHa VPS byGMO』が、米Anthropic PBCの「Claude」のコネクタ提供を開始したというものです。Anthropicのコネクタディレクトリに掲載されたことで、一覧から選んでConoHaアカウントで認証するだけで連携できるようになりました。接続用URLやAPI認証情報の登録、端末へのソフトウェア導入はいずれも不要です。VPSを提供する国内クラウド事業者としてディレクトリに掲載されるのは同社が初とされています(自社調べ、2026年8月12日時点)。
2本目は、GMOデジロックが運営する「Value Domain byGMO」が、GMOペパボとの協業により「Google Workspace」の販売を開始したというものです。独自ドメインとの紐づけ設定を自動化し、請求も同じ管理画面にまとめられます。

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『ConoHa VPS byGMO』、国内クラウド事業者で初めてAnthropic「Claude」のコネクタを提供開始【GMOインターネット】

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Value Domain byGMO、「Google Workspace」販売開始
どちらも、単独ではそれほど大きなニュースではありません。片方はAIエージェントとサーバーの接続の話、もう片方はメールの話です。扱う技術も、対象となる利用者も重なりません。それでも2本を並べて読むと、同じ日に同じことをしているように見えてきます。利用を始めるまでに必要だった作業を、消しにいっているという点です。
「専門知識が必要」は、すでに現場で数字になっている
先に、Value Domain側のリリースを見てみます。ここには、この記事が扱う問題がそのまま書かれています。
独自ドメインでメールを運用するには、送信ドメイン認証(SPF/DKIM/DMARC)の設定やドメインとの紐づけなど、専門的な知識が必要になります。設定後も、メールが届かない、転送されないといったトラブルが起きることがあります。
その結果として何が起きているか。「Value Domain byGMO」のカスタマーサポートに寄せられるメール関連の問い合わせは、直近1年間で前年比約39%増加しました。同じ期間の問い合わせ全体の増加率は約11%ですから、メールだけが大きく突出しています。リリースはその一因として、迷惑メール・なりすまし対策のために送信ドメイン認証の要件が年々厳格化していることを挙げています。
ここは押さえておく価値があります。設定が難しくなったのは、防御側の要件が上がったからです。 攻撃が高度化し、受信側が求める水準が上がり、その分だけ送信側に求められる知識が増えました。安全性を高めるほど、利用の前提となる知識も増える。この構造は、メールに限った話ではありません。
では、その専門知識をどれだけの組織が持てているのか。同じGMOインターネットグループのGMOブランドセキュリティが8月7日に公開した調査が、その答えを示しています。全国の銀行・信用金庫386行を対象に、SPF・DMARC・BIMIの設定状況を調べたものです。

SPFを設定しているのは309行(80.1%)、DMARCを設定しているのは233行(60.4%)。数字だけ見れば、対策は進んでいるように見えます。ところが、なりすましメールを実際に遮断できる強制ポリシー(p=quarantine または p=reject)で運用しているのは103行(26.7%)にとどまりました。DMARCを設定している233行のうち、過半数を超える130行(55.8%)は「監視のみ」の設定のままです。
設定してあることと、効いていることは違います。 そしてこの差は、業態によって大きく開いています。都市銀行は4行すべてが強制ポリシーを適用している一方、信用金庫は255行中30行(11.8%)にとどまりました。
情報システム部門を持ち、規制当局の監督下にあり、なりすましの標的にされ続けてきた金融機関ですら、この水準です。組織の規模と対策の実効性が対応しているように読めます。 専門知識の壁は、勉強すれば越えられるという性質のものではなさそうです。
また、この問題はいま別の形でも現れています。Googleは、他社のアドレスを差出人にできるGmailの「送信元」機能を2027年1月に終了すると告知しました。独自ドメインのアドレスをGmailに登録して使ってきた人は、期限までに移行先を決める必要があります。Google Workspaceで運用している独自ドメインは終了の対象外とされているため、今回の販売開始は、結果としてその移行先の一つにあたります。
専門知識を持っている側にも、摩擦は残っている
一方のConoHa VPSは、対象がまったく違います。リリースは「開発者やサーバー運用者」を想定利用者として挙げています。専門知識を持っている側ですが、同じことをしています。
『ConoHa VPS byGMO』は2026年7月7日に、国内クラウド事業者として初めてリモートMCPサーバーの提供を開始しました。これによって、端末にソフトウェアをインストールすることなくAIエージェントからVPSを操作できるようになりました。ただし、この時点では利用開始に接続用URLを確認し、Claude側でカスタムコネクタとして登録する作業が残っていました。今回のコネクタディレクトリ掲載で、その作業も消えました。
7月7日にインストール作業を消し、8月12日に登録作業を消した。1か月あまりの間に、二段階で摩擦を削っています。 残った操作は、一覧から選んでConoHaアカウントで認証するだけです。
削られたのは手順だけではありません。連携時はConoHaアカウントによる認証・認可を行うため、APIパスワードやトークンをClaude側に登録・保存する必要がありません。認証情報を手元で登録し、保管しておく場面が減ります。手間が減るという以上に、扱いを誤る余地が小さくなる変更です。
同じ形が、別の会社から繰り返し出てくる
私たちは、GMOインターネットグループの発表を継続して取り上げてきました。並べてみると、今回の2本が例外ではないことが分かります。
4月22日、GMOペパボは『ロリポップ!AIエージェントクラウド byGMOペパボ』を提供開始しました。オープンソースのAIエージェントフレームワークを、ブラウザ上の操作だけで動かせるようにするサービスです。
6月16日には、ムームードメインがコントロールパネルにAIアシスタント「ムームードメインコンシェルジュ」を追加しました。従来のAIチャットがヘルプページを案内するだけだったのに対し、自然言語の指示からDNSレコードの変更などを直接実行します。同社は開発者向けAPIとAIエージェント向けMCPサーバーも公開しており、チャット、API、MCPサーバーという複数の入口が同時に用意されています。
7月2日には『ロリポップ!デプロイナウ byGMOペパボ』が始まりました。AIエージェントと作ったWebアプリを、コマンド一つで公開できるサービスです。この記事で指摘したのは、国内サービスを選べばインフラの知識が必要になり、それを避けて海外サービスを選べば言語と通貨の壁にぶつかるという二重構造でした。摩擦は技術の中にだけあるのではなく、言語や通貨の側にもあります。
7月15日には『ロリポップ!ゼロトラストリンク byGMOペパボ』が加わりました。接続ごとに本人確認と権限チェックを行うゼロトラストの仕組みを、専門知識なしで個人や中小企業でも数分で使い始められる形にしたものです。これまで大企業向けとされてきた安全性の水準を、そのまま下の規模へ持ち込んでいます。
GMOペパボ、GMOインターネット、GMOデジロック。同じグループと言えど会社が違い、扱う製品が違い、想定する利用者の規模も価格帯も違います。それでも、出てくるものの形が同じです。 高度な機能を作ることと同じ熱量で、それを始めるまでの作業を消すことに手をかけている。数か月の間に、複数の会社から、繰り返し同じ形で出てきています。
一度なら偶然と読めます。会社をまたいで繰り返されると、偶然とは思えなくなります。GMOグループが理念として掲げる「すべての人にインターネット」という言葉は、ただの標語ではなく、製品の作り方として実現しようとする強い意志が見えてきます。
そして、その言葉が指す範囲は、以前より広くなっています。DXが行政や取引先の側から要請として降ってくるようになり、AIによって攻撃の敷居が下がり、誰もが被害者にも、意図しない加害者にもなりうる時代になりました。必要な人だけが調べて導入する時代は終わり、必要ないと言える人がいなくなりつつあります。
そうなったとき、専門知識の壁は、単なる不便ではなくなります。壁の外に置かれた人が、危険な状態のまま使い続けることになるからです。金融機関のなりすまし遮断設定が26.7%という数字は、その一端です。
分からない人を取り残さないこと。それは、かつては親切の話でした。いまは、社会全体の安全に関わる話に変わりつつあります。「すべての人」に必要なのはインターネットだけでなく、AIやセキュリティにまで及んでいます。
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【編集部後記】
導入摩擦が消えるほど、私たちは「なぜそうなっているのか」を知らないまま使うようになります。設定を自分でしないということは、誰かの設定を受け取るということでもあります。GMOは、その不安を一身に引き受けようとしているのかもしれません。
【用語解説】
SPF/DKIM/DMARC
なりすましメールを防ぐための送信ドメイン認証技術。SPFは送信元サーバーのIPアドレスをあらかじめ公開して正しい場所から送られたメールかを判定する仕組み。DKIMはメールに電子署名を付与し、受信側が公開鍵で検証する仕組み。DMARCはSPF・DKIMの認証結果と送信元表示の一致を判定し、不一致時の処理を送信者が指示する仕組みで、none(監視のみ)、quarantine(隔離)、reject(拒否)の3段階がある。
MCP(Model Context Protocol)
AIエージェントを外部のツールやデータソースに接続するための標準規格。ConoHa VPSのコネクタもこの規格を用いて構築されている。
コネクタディレクトリ
「Claude」を外部サービスに接続する機能の一覧。掲載されたサービスは、利用者が一覧から選んで認証するだけで連携できる。
VPS(Virtual Private Server)
1台の物理サーバーを仮想的に分割し、利用者ごとに独立したサーバー環境を提供するサービス。
ゼロトラスト
接続のたびに本人確認と権限チェックを行い、ネットワークの内側であっても無条件には信頼しないという設計思想。
【参考リンク】
ConoHa VPS byGMO(外部)
GMOインターネットが提供するVPSサービスの公式サイト。料金プラン、対応OS、機能一覧を掲載。
ConoHa VPSコネクタ掲載ページ(外部)
Anthropicのコネクタディレクトリ内の掲載ページ。ここから連携を開始できる。
Value Domain byGMO「Google Workspace」詳細ページ(外部)
取り扱いプラン(Business Starter/Standard/Plus)と申し込み方法を掲載。
GMOデジロック株式会社(外部)
「Value Domain byGMO」を運営する企業の公式サイト。
GMOブランドセキュリティ株式会社(外部)
本文で引用した金融機関のなりすましメール対策調査を実施した企業の公式サイト。
【参考記事】
【銀行・信金386行を調査】なりすましメールを遮断できる金融機関は26.7%に留まる|PR TIMES(GMOブランドセキュリティ)(外部)
2026年8月7日公開。SPF・DMARC・BIMIの設定状況を業態別に集計。対策の「導入」と「実効性」の乖離を数値で示している。


















