Fairphone 6+、8月18日発表へ|スペック競争とは別の物差しで測られる「Fair」の意味と方向性

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スマートフォンの新製品発表は、チップやカメラの数字を競い合う場になりがちです。しかし2026年8月18日に発表される「Fairphone 6+」は、性能競争とは別の物差しで自らを測り続けてきた一台です。社名に掲げた「Fair(公正な)」という言葉は、何を根拠にそう名乗っているのでしょうか?。EUで修理する権利をめぐる制度整備が動き出したいま、その中身を確かめます。


Fairphone 6+の正式発表は、2026年8月18日13:00 CET(日本時間20時台)に予定されている。この日程は8月14日、公式ティザーを通じて告知された。Fairphoneは2026年4月に公開した2025年分Impact Reportで、サプライチェーンの労働者に生活賃金との差額を補填する「Living Wage Bonus」制度を紹介し、1台あたり1ドル強のコストで実現できるとして業界全体への導入を呼びかけた。前モデルFairphone 6は炭素排出量29kg CO2eで前世代比30%減を達成し、販売台数と同量のe-wasteを回収する体制を敷いている。共同創業者のバス・ファン・アベル氏(Bas van Abel)は、現在の経済構造の中で技術を完全に「Fair」にすることはほぼ不可能だとした上で、自社はより「Fairer」な方向を目指していると述べている。

From: The Fairphone 6+ now has an official launch date

【編集部解説】

「Fair」は到達点ではなく、方向の宣言である

Fairphoneという社名を見て、多くの人は「公正なスマートフォン」という完成形をイメージするかもしれません。しかし共同創業者のバス・ファン・アベル氏は、現在の経済構造の中で技術を完全に「Fair」にすることはほぼ不可能だと認めています。同社が実際に掲げているのは「Fair」ではなく「Fairer(より公正な)」という、比較級の目標です。

この姿勢は、同社の行動指針にも表れています。Fairphoneは自社の取り組みを「Fair Materials」「Good Working Conditions」「Long-lasting Design」「Reuse and Recycling」の4領域に分解し、2030年までに重点素材の対象を14種類から23種類へ拡大する「Fair Materials Roadmap 2030」を掲げています。コバルトや金銀といった紛争鉱物のリスクが高い素材を、零細・小規模鉱山(ASM)からの責任ある調達に置き換えていく計画です。

「完成された公正さ」ではなく「継続的な改善のプロセス」として自らを定義する。この距離の取り方自体が、Fairphoneという会社の設計思想と言えそうです。

「言い訳はない」という言葉の重み

2026年4月に公開された2025年分Impact Reportで、Fairphoneはサプライチェーン労働者に生活賃金との差額を補填する「Living Wage Bonus」制度を紹介しました。Chief Impact Officerのモニーク・レンパース氏は、多くのテック企業ではインパクトへの配慮が製品発表後についてくる「影」のような扱いを受けていると指摘しています。CEOのレイモンド・ファン・エック氏は、この制度が1台あたり1ドル強のコストで実現できるとし、業界全体がこれを実施しない財務的な言い訳はないという趣旨の発言をしています。

Fairphoneは報告書の中で特定の企業名を挙げてはいません。ただし文脈から浮かび上がる対比はあります。2025年のLe Monde報道によれば、iPhoneの組立を担うFoxconnの工員の基本給は月295ドルで、これは鄭州の平均賃金の半分以下だとされています。Appleは自社のSupply Chain Progress Reportで、労働時間の正確な計測に基づく適正な賃金支払いを行っていると主張しています。どちらの言い分にも一定の理があり、この記事の時点では「どちらが正しいか」を判定する材料は揃っていません。ここは知の輪郭として、そのまま残しておきます。

修理する権利というもう一つの「Fair」

Fairphoneの「Fair」は、労働や素材の話だけではありません。長く使い続けられる設計そのものも、同社が掲げる公正さの一部です。前モデルFairphone 6の炭素排出量は要約の通りですが、この設計思想はもう一つの取り組みにもつながっています。販売台数と同量の電子廃棄物を回収する「e-waste neutral」体制です。

このタイミングには、制度面の後押しもあります。EUの修理促進指令は2024年に成立し、2026年7月31日から加盟国での適用が始まりました。「壊れないものを作るのではなく、壊れても直せるものを作る」という設計思想は、innovaTopiaが国産セルロースファイバードローンの記事でも取り上げた文脈です。Fairphone 6+は、この制度的な波がスマートフォンという最も競争の激しい市場の中でどう機能するかを見る、ひとつの試金石になります。

修理性を軸にした動きは、Fairphone単独のものではありません。2日前にお伝えしたHMDの新型スライダー型スマホの記事では、同社のHMD Skylineがユーザーによる部品交換のしやすさを特徴としていることに触れました。「デバイスを自分でコントロールする」という思想は、サイバーデッキ自作ブームを扱った記事でも中心的なテーマでした。無名に見えるメーカーたちが、それぞれ別の角度から同じ問いに向き合っている、という構図が見えてきます。

一方で、大手メーカーの動きも無視はできません。Samsungは自己修理プログラムを50デバイスまで拡大し、Appleも使用済みiPhone部品を修理に活用する取り組みを発表しています。ただしAppleの「パーツペアリング」という手法は、部品のシリアル番号を個体に紐付けることで、サードパーティ製部品の使用を難しくしていると修理権利の擁護者から批判を受けている手法でもあります。オレゴン州の修理権法案は、まさにこのパーツペアリングの制限を主眼に置いています。

規模という現実

ここまでの内容だけを見ると、Fairphoneは業界の理想形のように映るかもしれません。しかし規模の面では、大きな制約もあります。同社の累計販売台数は10年強で100万台に迫る水準とされ、Apple・Samsungとは桁が3〜4桁違います。理念として正しいことと、業界構造そのものを動かす力を持つことは、別の問題です。

第三者評価でも、評価は一枚岩ではありません。サステナビリティ評価サイトSINKでは、Fairphoneは電子機器・ハードウェア23社中1位という評価を得ています。48%の絶対排出量削減やSBTi認証済みのネットゼロ目標などが根拠とされる一方、サプライチェーンの再生可能エネルギー導入は主要な生産工程に限られ、水消費量は未定量化、自然環境への影響評価はまだ「リスクマッピング」の段階であり「検証済みの削減効果」ではないという指摘も付されています。開示にはまだ届いていない領域があり、その限界はそのまま残っている、というのが現時点で言える範囲です。

なぜ、いまこの記事を書くのか

Fairphone 6+自体は、チップセットとRAM容量が変わる程度の小幅な改良モデルです。スペックだけを見れば、取り上げる理由に乏しい製品かもしれません。

しかし「Fair」という社名を10年以上背負い続け、その中身を毎年の報告書で数値化して晒し続けている会社は、多くありません。完璧な公正さを実現したと自称するのではなく、「Fairer」という比較級で語り続ける姿勢そのものが、性能競争一色のガジェット報道の中では異色に映ります。EUの修理促進指令が実際に動き出したいま、この会社がどんな言葉で自らを説明するのか。8月18日の発表を、その視点で見てみたいと思います。

【参考動画】

【関連記事】

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オレゴン州の修理権法案は、まさにこのパーツペアリングの制限を主眼に置いています。

【編集部後記】

Fairphoneが直面する限界の多くは、一社の努力だけでは解決できない、社会構造そのものの課題です。だとすれば「Fair」を名乗り続ける行為は、企業の存続そのものを賭けて社会に問いを投げかけていることなのかもしれません。この問いにどう応えるか、私たちも一緒に考えていきたいと思います。

【参考リンク】

Fairphone公式サイト(外部)
モジュール式スマートフォンの製品情報・修理パーツ販売ページ。

Fairphone Impact Report(外部)
年次のサステナビリティ実績を数値とともに公開するページ。

EU公式:Directive on repair of goods(外部)
修理促進指令の公式解説ページ。適用開始日・義務内容を確認できる。

Fair Cobalt Alliance公式(外部)
コンゴ民主共和国のコバルト採掘現場の労働環境改善に取り組む多者間連携組織。

iFixit:スマートフォン修理性スコア一覧(外部)
主要スマートフォンの分解・修理難易度を10点満点で比較できるページ。

【用語解説】

Fair Materials Roadmap 2030
Fairphoneが掲げる、2030年までに23種類の重点素材(コバルト・金・銀・雲母・グラファイト等)の責任ある調達を目指す計画。

Living Wage Bonus
サプライチェーンの工場労働者に対し、法定最低賃金と地域の生活賃金との差額を補填する制度。

e-waste neutral
販売台数分の電子廃棄物を回収・処理する体制。

修理する権利(Right to Repair)
消費者が自らデバイスを修理・改造できる権利を求める運動。米国・EUを中心に法整備が進行中。

EU修理促進指令(Directive (EU) 2024/1799)
2024年7月10日にEU官報掲載、同月30日発効。加盟国での適用は2026年7月31日開始。

零細・小規模鉱山(ASM:Artisanal and Small-scale Mining)
個人・小規模組織による鉱物採掘。地域経済への直接的な貢献が期待される一方、労働環境の課題も指摘される。

パーツペアリング
部品のシリアル番号を個体デバイスに紐付け、純正以外の部品での修理を制限する設計手法。

SBTi(Science Based Targets initiative)
企業の温室効果ガス削減目標が科学的根拠に基づいているかを認証する国際的な枠組み。

【参考記事】

Fairphone CEO says there is ‘no financial excuse’… — TechRadar(外部)
2025 Impact Reportの内容とCEO・CIOへのインタビュー。Living Wage Bonusの具体的コストを紹介。

Fairphone 6 Teardown: Proof Phones Don’t Have to Be Disposable — iFixit(外部)
Fairphone 6の分解評価。10/10の repairabilityスコアの根拠を確認できる。

Fairphone scores 64/100 on sustainability — SINK(外部)
第三者評価機関によるサステナビリティスコア。強みと開示の限界の両方を確認できる。

How ethical is Fairphone B.V? — Ethical Consumer(外部)
Fairphoneの企業沿革(2010年の啓発キャンペーンとしての開始、2013年の初号機発売)を確認できる。

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乗杉 海
SF小説やゲームカルチャーをきっかけに、エンターテインメントとテクノロジーが交わる領域を探究しているライターです。 SF作品が描く未来社会や、ビデオゲームが生み出すメタフィクション的な世界観に刺激を受けてきました。現在は、AI生成コンテンツやVR/AR、インタラクティブメディアの進化といったテーマを幅広く取り上げています。 デジタルエンターテインメントの未来が、人の認知や感情にどのように働きかけるのかを分析しながら、テクノロジーが切り開く新しい可能性を追いかけています。

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