ハリウッドを巻き込んだSeedance騒動から半年|ByteDanceとMPAがAI著作権侵害の防止で合意

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生成AIをめぐる著作権訴訟が、ハリウッドとテック企業の間で相次いでいます。Midjourneyをはじめとする画像・動画生成AI企業が次々と法廷に持ち込まれるなか、同じ渦中にあったはずのByteDanceが、対立ではなく合意という選択をしました。TikTokの親会社は今回、映画業界団体MPAとの間で知的財産保護に関する覚書を交わしています。訴訟という道を選ばなかった背景には、何があったのでしょうか。


8月17日に締結が明らかになったMPA(Motion Picture Association)とByteDance(TikTokの親会社)の覚書(MOU)は、AI動画・画像生成モデルによる著作権侵害からMPA加盟企業の知的財産を保護する枠組みを定めている。

加盟企業にはディズニー、パラマウント、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーが含まれる。覚書はSeedance・Seedreamなど、TikTokやCapCutを含む同社の各サービスに組み込まれた動画・画像の生成AIモデルが対象で、PAは最新モデルSeedream 5.0 ProとSeedance 2.5を進展例として評価した。今回の覚書は、MPAが2月に送付した警告状を受けたもので、ByteDanceは安全対策の強化とSeedance 2.0の展開一時停止で応じたと報じられている。MPAのRivkin会長兼CEOは、両者の建設的なやり取りと防御策の実装を評価した。

From: 文献リンクByteDance agrees to reel in its AI models to protect Hollywood IPs

【編集部解説】

発端は1本の動画ではなく、72時間の連鎖だった

2026年2月12日にByteDanceがSeedance 2.0を公開すると、数時間のうちにブラッド・ピットとトム・クルーズが屋上で対決する動画や、俳優ショーン・アスティン氏(SAG-AFTRA会長)の肖像を無断使用した「ロード・オブ・ザ・リング」風動画などがSNS上で拡散しました。同日、MPA会長兼CEOのCharles Rivkin氏は「1日のうちに大規模な著作権侵害が行われた」とする声明を発表し、ByteDanceに侵害行為の即時停止を求めました。

これはMPAとByteDanceの二者間の話にとどまりませんでした。翌13日には俳優組合SAG-AFTRAが、会員の声と肖像の無断使用を「明白な侵害」と非難する声明を独自に発表し、同じく13日にディズニーが、14〜15日にパラマウントがそれぞれ独自の警告状を送付しています。つまり今回の合意の起点は、スタジオ・俳優組合・業界団体がほぼ同時多発的にByteDanceへ反応した、72時間の連鎖でした。

半年をかけてByteDanceがたどった道筋

ByteDanceは同月中に「知的財産権を尊重する」との声明を出し、安全対策の強化を約束しました。この約束を「時間稼ぎだ」と切り捨てたのが、3月に連邦上院議員Marsha Blackburn氏とPeter Welch氏(いずれも上院司法委員会所属)がByteDance CEOの梁汝波(Liang Rubo)氏に送った書簡です。両議員は同社に即時のサービス停止を求め、「民主的で自由な市場経済と持続的な経済関係を築きたいのであれば、Seedance 2.0を直ちに停止すべきだ」と踏み込んだ表現で迫りました。その後、Seedance 2.0のグローバル展開も一時停止したと報じられています。業界団体だけでなく、米連邦議会からも名指しで圧力がかかっていたことになります。

こうした数ヶ月にわたる圧力とMPAとの対話を経て、先月リリースされたSeedance 2.5とSeedream 5.0 Proは知的財産保護面の改善を反映したモデルと位置づけられ、8月17日のMOU締結に至りました。

何が合意され、何が語られていないのか

MPAは合意を両組織間の重要な協力と位置づけ、ByteDance法務責任者のJohn Rogovin氏も、責任あるAIの技術革新は権利者保護と両立するとの考えを示しています。一方、ガードレールの技術的な仕組みや違反時の対応手順は公表されていません。

さらに見落とせないのは、今回のMOUの当事者がMPA、つまり著作権者側の業界団体である点です。2月に独自に声明を出し、俳優個人の声・肖像の無断使用に抗議したSAG-AFTRAは、公表されている情報を見る限り当事者に含まれていません。SAG-AFTRAは2023年のストライキ以来「同意と対価」をAIによる肖像利用の原則として掲げてきましたが、この原則が今回の枠組みにどう反映されているのかは、この記事の時点では分かりません。

他のAI企業にとって、この枠組みは何を意味するか

同様の構図は昨年のOpenAI/Soraでも見られました。MPAから同様の批判を受けたOpenAIはガードレールを追加しましたが、結局Soraは今年に入り公開終了しています。訴訟を経ずに業界団体の圧力へ対応するという道筋が、必ずしもサービスの存続を保証するわけではないことは、留意しておいてよいはずです。

ByteDanceの場合は、業界団体の圧力に加えて連邦議会からも名指しの圧力を受けていました。TikTok米国事業の先行きが依然として政治的な論点であり続けるなかで、著作権分野において協力的な企業という姿勢を示すことが、AI事業以外の対米関係にどう波及するのかは、私たちの推測の域を出ません。

法廷で決着をつける以外に、企業・権利者団体・議会が並行して圧力をかけ、対話を通じて着地点を探るという道筋が今回示されたことは確かです。ただしそれが著作権法上の判例のように他社を拘束する力を持つわけではなく、一企業と一業界団体の間の合意にすぎません。同様の圧力を受ける他のAI企業がこの枠組みを参考にするのか、そしてSAG-AFTRAが代表する個人の権利がどう扱われていくのか。次にこの構図が試されるのは、どの企業になるのでしょうか。

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同じ著作権侵害の構図でも、Midjourneyに対してハリウッドは訴訟という手段を選んでいました。

【編集部後記】

今回の合意は、企業と業界団体が法廷の外で着地点を見つけた事例として報じられています。ただ、声を上げた俳優組合や個々の演者の権利が、この枠組みにどう組み込まれているのかは、公表された発表からは読み取れませんでした。技術的なガードレールがどこまで機能するのか、そして同じ圧力を受ける他のAI企業がこの道を選ぶのか。この先の展開を、注視していきたいと思います。


【用語解説】

覚書(Memorandum of Understanding, MOU)
当事者間の合意事項を文書化したもの。契約書と異なり、法的拘束力を伴うかどうかは案件ごとに異なる。今回のMPA-ByteDance間の合意も、強制力の有無は公開情報からは不明。

警告状(cease-and-desist letter)
権利侵害とみなす行為の停止を求める法的な通知文書。訴訟提起の前段階として送付されることが多く、必ずしも提訴を意味しない。

Seedance / Seedream
ByteDanceが開発する生成AIモデル群。Seedanceは動画生成、Seedreamは画像生成を担う。TikTok・CapCut・Dreaminaなど同社の各サービスに組み込まれている。

TikTok USDS Joint Venture
米国の安全保障上の懸念を背景に再編された、TikTok米国事業の運営主体。ByteDanceは同合弁会社の株式の一部を保有する立場にある。

SAG-AFTRA
Screen Actors Guild – American Federation of Television and Radio Artistsの略称。米国の俳優・パフォーマーが加盟する労働組合で、AIによる声・肖像の無断使用に対して独自の発言力を持つ。

【参考リンク】

Motion Picture Association(MPA)(外部)
ディズニー、パラマウント、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーなど主要映画会社が加盟する業界団体。今回のMOUの当事者。

ByteDance(外部)
TikTok・CapCut・Seedance・Seedreamなどを運営する中国発のテクノロジー企業。今回のMOUの当事者。

SAG-AFTRA(外部)
米俳優・パフォーマーの労働組合。声・肖像の無断使用問題について独自に声明を発表している。

MPA公式声明(2026年2月12日)(外部)
Charles Rivkin会長兼CEOが、Seedance 2.0公開当日に発表した声明の原文。

SAG-AFTRA公式声明(2026年2月13日)(外部)
組合員の声・肖像の無断使用を「明白な侵害」と非難した声明の原文。

上院議員Blackburn・Welch両氏の書簡全文(外部)
2026年3月、ByteDance CEOへ即時停止を求めた超党派の書簡の全文。

Seedance 2.0 公式ページ(外部)
今回の一連の議論の発端となったByteDanceの動画生成AIモデルの製品ページ。

【参考記事】

Seedance 2.0 Sparks Hollywood Backlash — The Hollywood Reporter(外部)
2026年2月12日の公開当日から、MPA・SAG-AFTRA・各スタジオが相次いで反応した時系列をまとめた記事。

Motion Picture Association Inks AI Video IP Protection Deal With TikTok Owner ByteDance — The Hollywood Reporter(外部)
今回のMOU締結を報じ、ByteDance法務責任者John Rogovin氏のコメントとOpenAI/Soraとの類似性を指摘した記事。

Paramount Sends ByteDance Cease-and-Desist Letter Over Seedance AI Videos — Variety(外部)
ディズニー・パラマウントがそれぞれ独自に警告状を送付した経緯を報じた記事。

Motion Picture Association Strikes Deal with ByteDance for IP Protections in AI Models — Yahoo Entertainment(THR配信)(外部)
Seedance 2.5・Seedream 5.0 Proのリリース時期と、両者の対話の経緯を報じた記事。

MPA and ByteDance Introduce AI Guardrails to Protect Intellectual Property on TikTok — TheWrap(外部)
合意の技術的な詳細が公表されていない点を指摘した記事。

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まお
おしゃべり好きなライターです。趣味は知識をためることとゲームをすること(ソシャゲや音楽ゲームが大好きです)。最近はAIの情勢や地政学の問題を勉強中。時折記者として会見や発表に赴いたり、インタビューを行ったりもしています。

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