Last Updated on 2025-05-14 14:15 by admin
2025年5月12日(現地時間、米国東部夏時間)、2025年5月13日(日本時間)に、ドナルド・トランプ大統領は電子メール通知を通じて米国著作権局のRegister of Copyrights兼ディレクター、シラ・パールムッター氏を即時解任した。パールムッター氏は2020年10月に当時の図書館長カーラ・ヘイデン氏に任命され、以来著作権局を統括していた。今回の解任は、5月9日(現地時間、10日日本時間)に発表された著作権局報告書第3部――AIモデルの訓練における著作権保護資料利用の法的帰結を検証した文書――の公表直後に実施されたものである。
報告書ではOpenAIやMeta Platformsといった大手テック企業が訓練データに著作権保護資料を用いた場合、現行法下でのフェアユース判断や著作者への支払い義務の有無が焦点となった。AI各社は支払い義務が課されれば開発コストが増大すると懸念を示し、民主党上院議員アダム・シフ(カリフォルニア州)、チャック・シューマー(ニューヨーク州)は解任を「違法な政治介入」と非難、下院議員ジョー・モレル(ニューヨーク州)は「イーロン・マスク氏の著作権利用申請を却下した翌日の解任は偶然ではない」と指摘している。
References:
Trump fires head of US Copyright Office | Reuters
White House fires Copyright Office director | The Washington Post
Trump administration fires top copyright official | NBC News
Trump fires Register of Copyrights | Deadline
Trump fires head of Copyright Office | The Hill
【編集部解説】
今回の解任は、著作権局の独立性をめぐる法的・政治的な緊張の最前線にあります。著作権登録官の任免には議会図書館長の同意が必要であり、大統領の介入は前例が極めて少ないため、米国内で「行政手続きの逸脱ではないか」という疑問が広がっています。解任の引き金となったのは、著作権局が公表した報告書第3部です。そこではAIモデルの訓練に著作権保護資料を活用した場合に、フェアユースが適用されるのか、著作者への補償義務が発生するのかを法的視点から精査しました。AI開発をリードするOpenAIやMeta Platformsは、支払い義務が技術革新の足かせになると主張しますが、一方で創造的成果を適切に保護する制度設計も欠かせません。
政治介入による解任は、米国のイノベーション環境に不確実性をもたらす恐れがあります。短期的には大手企業のコスト負担が緩和されるかもしれませんが、長期的には知財保護ルールの予測可能性が損なわれ、スタートアップや研究機関のリスクマネジメントをも複雑化させかねません。今後、著作権登録官の任免プロセスを法的に明文化し、行政機関の独立性を担保する立法措置が必要になるでしょう。AI時代においては、テクノロジーの迅速な進展と創造的成果を守る知財制度のバランスがますます重要になります。本件はその最前線で起きた政治的事件として、世界中の政策決定や企業戦略に大きな示唆を与えています。
【編集部追記】
- 米国上下両院の反応
上院議員(Senators)
民主党所属のアダム・シフ上院議員(カリフォルニア州)とチャック・シューマー上院議員(ニューヨーク州)は、解任を「政治的介入」と断じ、著作権局の独立性を守るべきだと批判しました。
下院議員(Representatives)
下院行政委員会で民主党最上位のジョー・モレル議員(ニューヨーク州)は、「まさに偶然ではありえない」と述べ、イーロン・マスク氏のAIモデル学習用に有償モデルを認めなかった直後の解任を「無法かつ前例のない権力の私物化」と強く非難しました。
- 編集部の考察
トランプ政権による著作権局長解任は、行政の自律性と議会の立法権をめぐる憲政上の大きな論点となっています。AI分野では、大手テック企業が著作権料の支払いを義務づけられると成長が阻害されると主張する一方で、クリエイター保護の必要性も高まっています。こうした中で、政治的意図を疑われる異例の人事は、AIと知的財産権の適正なルールメイキングをなおざりにしかねません。
上院・下院ともに解任を「法的根拠のない権力乱用」と厳しく糾弾しており、議会と行政の均衡(checks and balances)の観点からも重大な事態です。また、著作権局の報告書はガイドライン策定や裁判の指針として引用される可能性があり、その責任者を突然交代させることは、今後のAI政策の不透明化と規制混乱を招く懸念があります。
AI技術の急速な発展と社会実装が進むいま、透明性と専門性を担保しつつ、議会・行政・産業界が協調して適切なルールを作り上げることが一層求められます。トランプ政権の今回の一手は、そうしたプロセスを揺るがしかねない異例の事件として歴史に刻まれるでしょう。
【編集部追記2】
解任された著作権局長の後任者が公表されました。懸念されていたようなAI政策の不透明化や権利者と企業のバランスといった問題に関して意外な進展があります。詳しくは以下の記事をご確認ください。
【用語解説】
米国著作権局(U.S. Copyright Office)
1870年設立。アメリカ議会図書館の傘下で著作権登録審査・管理を行う連邦機関。
著作権登録官(Register of Copyrights)
著作権局を統括する責任者。アメリカ議会図書館長の推薦で議会が任命する。
アメリカ議会図書館長(Librarian of Congress)
アメリカ議会図書館の長。著作権登録官の任命・解任を行う権限を持つ。
フェアユース(Fair Use)
批評・教育・報道等の目的で著作物を限定的に利用できる著作権法上の例外規定。使用目的・量・市場影響などを総合判断する。
著作権局報告書第3部
2025年5月に公表。AIモデル訓練に著作権保護資料を利用した場合の法的帰結を検証した文書。
【参考リンク】
米国著作権局(U.S. Copyright Office)(外部)
著作権登録手続きや法令ガイドを提供する米国政府公式サイト。
アメリカ議会図書館(Library of Congress)(外部)
米国連邦議会直属の研究図書館。デジタルコレクションを公開。
OpenAI(外部)
ChatGPTなどの生成AIを開発し、安全な汎用人工知能を追求する研究機関。
Meta Platforms, Inc.(外部)
FacebookやInstagramを運営し、メタバース・AI領域に注力するテクノロジー企業。
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