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米国著作権局、生成AIと著作権保護で新提言 – トランプ政権が著作権局長を解任、AI産業優先の波紋

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-05-14 14:24 by admin

2025年5月9日(現地時間、日本時間5月10日)、アメリカ合衆国著作権局(U.S. Copyright Office)は、生成AIの学習データ利用に関する包括的なレポート「Copyright and Artificial Intelligence, Part 3: Generative AI Training(プレ公開版)」を発表した。

このレポートは、AI企業が著作権で保護された膨大なデータをAIモデルの学習に利用することの法的・倫理的な問題を詳細に検証している。特に、商業目的で既存市場と競合するような表現コンテンツを無断で利用しAIが新たな作品を生成する行為は、従来のフェアユース(公正利用)の範囲を超える可能性が高いと指摘している。

著作権局は2023年8月からAIと著作権に関する大規模な調査を進めており、2023年末までに1万件以上の意見を受け取った。今回のレポートは、2024年7月31日公開の第1部(デジタルレプリカ)、2025年1月29日公開の第2部(生成AIによるアウトプットの著作権性)に続く第3部となる。レポートでは、AIの学習データ利用について「オプトアウト型ライセンスプラットフォーム」など新たな管理手法の必要性も示唆されている。

また、レポート発表直後、著作権局長のシラ・パールマター氏がドナルド・トランプ大統領によって解任されるという動きもあり、AIと著作権を巡る政策論争が一層激化している。今後、米国連邦議会での法改正議論や、AI産業とクリエイターの対立構造がさらに注目される見通しである。

References:
文献リンクCopyright and Artificial Intelligence, Part 3: Generative AI Training | U.S. Copyright Office
文献リンクCopyright and Artificial Intelligence | U.S. Copyright Office
文献リンクUS Copyright Office releases major AI training report amid intensifying copyright debate | PPC Land
文献リンクUS Copyright Office issues pre-publication version of 3rd Report on AI training and fair use | ChatGPT is Eating the World

【編集部解説】

今回の米国著作権局による生成AIの学習データ利用に関するレポート発表と、それに直結するかたちでのトランプ大統領による著作権局長シラ・パールマター氏の解任は、アメリカにおけるAIと社会・政治の関係性を象徴的に示しています。AIの急速な発展と産業競争力を優先する政権の姿勢が、知的財産権やクリエイター保護といった従来の価値観と正面から衝突している現実が浮き彫りになりました。

著作権局のレポートは、AI企業が著作権で保護された膨大なデータを無断で学習に利用することの是非を問うものであり、商業的なAI生成物が既存の著作物市場に与える影響や、フェアユースの限界について警鐘を鳴らしています。AIがクリエイターの作品を模倣し、同様のジャンルで大量のコンテンツを生成することで、原作者の収益機会が損なわれる「市場希釈効果」への懸念が現実味を帯びています。

しかし、トランプ政権はAI産業の成長と技術革新を最優先事項と位置付けており、規制や権利保護よりも「AI開発の自由」を重視する姿勢を鮮明にしています。今回の解任劇は、著作権局長がイーロン・マスク氏などテック業界の要請に慎重な姿勢を見せた直後に行われており、AI開発を推進したい政権と、著作権保護を重視する官僚機構・クリエイター側との対立が表面化したものです。

このように、アメリカではAIを巡る政策決定が単なる技術論争や法解釈の枠を超え、産業競争力・表現の自由・クリエイター保護といった多層的な価値観のせめぎ合いとなっています。トランプ政権の一連の動きは、AIの加速的な社会実装を国家戦略の中核に据える一方で、既存の知的財産制度やクリエイターの権利保護を後景に追いやるリスクをはらんでいます。

今後、AIの学習データ利用に関する法改正や規制の議論は、グローバルなテック業界、クリエイター、そして一般市民を巻き込みながら、アメリカ社会の根幹的な価値観の再定義を迫るものとなるでしょう。日本を含む他国も、このアメリカの動向を注視しつつ、自国に適したAIと知的財産の共存モデルを模索する必要があります。

【編集部追記】

解任された著作権局長の後任者が公表されました。懸念されていたようなAI政策の不透明化や権利者と企業のバランスといった問題に関して意外な進展があります。詳しくは以下の記事をご確認ください。

【用語解説】

フェアユース(Fair Use)
米国著作権法における「公正な利用」を認める法理。利用目的や市場への影響などを総合的に判断し、著作権侵害とならない場合がある。

市場希釈効果(Market Dilution)
AIによる大量生成コンテンツが既存市場に与える悪影響。原作者の収益機会が減少するなどの現象を指す。

データガバナンス
AIやITシステムで用いるデータの出所、品質、利用範囲、管理方法などを組織的に管理・統制する仕組み。

オプトアウト型ライセンスプラットフォーム
著作権者がAIの学習データ利用を一括で許諾または拒否できる仕組み。音楽業界の著作権管理団体の方式を参考に議論されている。

【参考リンク】

U.S. Copyright Office(外部)
米国著作権局の公式サイト。著作権登録、政策、最新レポート、FAQなど幅広い情報を提供している。

Copyright and Artificial Intelligence, Part 3: Generative AI Training(公式レポートPDF)(外部)
2025年5月発表の生成AI学習データ利用に関する米国著作権局の公式レポート(プレ公開版)を全文掲載。

OpenAI(外部)
ChatGPTやDALL·Eなど、最先端の生成AIを開発・提供する米国AI企業。APIや研究成果も公開している。

ASCAP(外部)
米国最大級の音楽著作権管理団体。作曲家や作詞家、出版社の権利を保護し、ライセンス管理や分配を行う。

The White House(外部)
アメリカ合衆国大統領府の公式サイト。政府方針や大統領令、各種声明などを掲載している。

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