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Celeste打ち上げ成功|ESAが低軌道(LEO)衛星測位の新時代を切り開く

[更新]2026年3月31日

2026年3月28日、欧州宇宙機関(ESA)はCelesteミッションの衛星2機をニュージーランドからRocket LabのElectronロケットで打ち上げた。打ち上げは中央ヨーロッパ時間10時14分で、約1時間後にロケットから分離した。2機はそれぞれGMVとThales Alenia Spaceが製造し、低軌道(LEO)でGalileoを補完する測位・航法・タイミング技術の実証を担う。

L帯およびS帯信号の周波数帯を検証し、2027年の追加打ち上げにより軌道上の衛星は最終的に11機構成となる。Celesteミッションは2022年のESA閣僚級理事会で承認され、14カ国以上から50を超える企業・機関が参画している。

From: 文献リンクN° 17–2026: Celeste’s first satellites launched to explore LEO-based satellite navigation

【編集部解説】

今回のCeleste打ち上げを理解するうえで、まず押さえておきたいのが「なぜ今、低軌道(LEO)なのか」という問いです。現在、私たちが日常的に使うカーナビやスマートフォンの地図アプリの裏側で動くGPS・Galileo・みちびきといった衛星測位システムは、いずれも高度約2万km前後の中軌道(MEO)または静止軌道に位置しています。これほど遠い距離から信号を送るため、高層ビルが林立する都市部や、トンネル、屋内では信号が届きにくいという根本的な弱点を抱えています。

Celesteが目指すのは、高度510kmという地球のすぐそばを飛行し、より強力な信号を、より短い時間で届けることです。特に注目すべきは「測位精度を上げる」のではなく「精度の高い測位を素早く実現する」という点です。ESAのCelesteプログラム責任者ロベルト・プリエト・セルデイラは「LEO衛星のダイナミクスにより、高精度をはるかに短時間で達成できる」と説明しており、初回測位時間(time-to-first-fix)の大幅な短縮が期待されています。

今回打ち上げられた2機は、IOD-1(GMV製、12U CubeSat)とIOD-2(Thales Alenia Space製、16U CubeSat・重量約30kg)で、いわゆる大型キューブサットです。軌道高度は510km、準極軌道を飛行します。注目すべきは今回の打ち上げに「期限」が存在していた点です。EUがITU(国際電気通信連合)に申請しているL帯・S帯の周波数帯は、2026年5月までに実際に使用を開始しなければ将来の運用システム向けの権利が失効するという制約がありました。いわば「打ち上げることができなければ、欧州の周波数資源を失う」という状況だったのです。

欧州製のVega-Cが当該時期に満席だったため、Rocket LabのElectronが採用されました。これはESAにとって初めてのRocket Lab専用ミッションでもあり、Rocket Lab側にとっては通算85回目(2026年6回目)の打ち上げにあたります。

安全保障の観点からも、このミッションは重要な意味を持ちます。2025年にはバルト海周辺でGPS妨害(ジャミング)や欺瞞信号(スプーフィング)の被害が広範囲に報告されており、欧州各国の航行安全への懸念が高まっていました。LEO-PNTはより強力な信号と複数の周波数帯を組み合わせることで、妨害への耐性を根本的に高められる可能性があります。

StarlinkやIridiumといった既存のLEO通信コンステレーションも測位に活用されていますが、それらが通信用電波を転用した「シグナル・オブ・オポチュニティ」であるのに対し、Celesteは専用設計の測位信号を送信します。目指すサービスの性質と精度が根本的に異なる点は、混同されやすいだけに明確に理解しておくべきでしょう。

一方、課題もあります。11機というコンステレーション規模は、世界規模でのシームレスな測位カバレッジには小さく、実証フェーズはあくまで技術検証と周波数確保が主目的です。実際の市民サービスへの展開は、EUが将来の運用フェーズへの移行を正式に決定してからとなり、実用化には相応の時間を要します。また、LEO衛星は高速で移動するため追尾管理が複雑で、コンステレーション全体の運用コストも課題のひとつです。

長期的な視点で見れば、CelesteはヨーロッパがGPS依存から脱却し、自律した測位インフラを持つための第一歩です。自動運転・IoT・5G/6G通信との同期・屋内測位・災害時の緊急サービスといった次世代インフラの基盤技術として、その影響は私たちの日常生活の深部にまで及ぶことになるでしょう。

【用語解説】

LEO(低軌道)/MEO(中軌道)
LEOはLow Earth Orbitの略で、高度約200〜2,000kmの軌道帯を指す。MEOはMedium Earth Orbitで、高度約2,000〜35,786kmに位置する。GalileoやGPSはMEOを利用しており、CelesteはLEOから補完する構造をとる。

CubeSat(キューブサット)
1辺10cmの立方体(1U)を基本単位とする標準化された小型衛星の規格。今回打ち上げられたIOD-1は12U、IOD-2は16Uサイズで、スーツケース程度の大きさに相当する。低コスト・短期開発が可能なため、近年の宇宙開発で広く採用されている。

L帯・S帯
電波の周波数帯の区分。L帯は1〜2GHz、S帯は2〜4GHz前後を指す。いずれもGNSS(衛星測位システム)や通信衛星で広く使われており、Celesteはこれらに加え、将来フェーズではC帯やUHF帯も検証する予定である。

ジャミング・スプーフィング
衛星測位システムへの妨害手法。ジャミングは強力な電波を使って受信機を機能不全にする妨害であり、スプーフィングは偽の測位信号を送り込んで誤った位置情報を表示させる、より悪質な欺瞞攻撃である。2025年にはバルト海周辺で広範な被害が報告されている。

Time-to-first-fix(初回測位時間)
受信機が起動してから最初の測位結果を得るまでにかかる時間のこと。LEO衛星は高速で移動するため、信号の幾何学的変化が速く、この時間を大幅に短縮できる可能性がある。

コンステレーション
複数の衛星を組み合わせて運用する衛星群の総称。単独衛星では不可能な広域・連続的なカバレッジを実現するために構成される。Celesteの実証フェーズでは最終的に11機が軌道上に配置される予定である。

【参考リンク】

ESA(欧州宇宙機関)公式サイト(外部)
1975年設立の欧州政府間宇宙機関。23カ国が加盟しGalileoやコペルニクス計画などを推進している。

ESA Celeste ミッション公式ページ(外部)
CelesteミッションのESA公式情報ページ。ミッション概要・打ち上げ進捗・技術詳細を掲載している。

Rocket Lab 公式サイト(外部)
小型衛星専用Electronロケットを開発・運用する宇宙企業。今回がESAとの初の専用ミッションとなった。

GMV 公式サイト(外部)
スペインのIT・宇宙技術企業。Galileo地上制御システムの開発にも関与し、Celeste IOD-1を製造した。

Thales Alenia Space 公式サイト(外部)
仏伊合弁の宇宙機器メーカー。欧州の通信・航法衛星を多数手がけ、Celeste IOD-2を製造した。

ITU(国際電気通信連合)公式サイト(外部)
国連の専門機関。世界の電波周波数を管理し、衛星の周波数使用には申請・期限内の運用開始が必要である。

【参考記事】

Celeste instead of GPS – ESA launches new navigation alternative(BOOTE Magazin)(外部)
ITU周波数期限・Vega-C満席の経緯・time-to-first-fix短縮効果など技術的背景を詳細に解説した記事。

IOD-2 Satellite lifts off today from New Zealand(SatNews)(外部)
IOD-2の重量約30kg・軌道高度510kmなど技術仕様の数値を詳細に報じた打ち上げ当日レポート。

Rocket Lab Successfully Launches 85th Mission(GlobeNewswire)(外部)
Rocket Lab公式プレスリリース。通算85回目・2026年6回目の打ち上げなど公式数値を確認できる。

Rocket Lab launch of Europe’s 1st 2 ‘Celeste’ navigation satellites(Space.com)(外部)
軌道高度・衛星分離タイミングなど打ち上げ運用の詳細を報じたSpace.comのレポート記事。

ESA’s Celeste LEO-PNT demonstrator mission set to launch(GPS World)(外部)
ミッション名の由来やGalileoとの位置づけなど、Celeste計画の背景を深掘りした専門メディアの解説。

ESA Media Invitation: First Celeste Launch Online Media Briefings(ESA)(外部)
ESA公式メディアブリーフィング資料。Roberto Prieto Cerdeira氏の正式な役職名・氏名表記を確認できる。

【編集部後記】

毎日何気なく使っているカーナビやスマートフォンの地図アプリ。その裏側で、衛星測位システムをめぐる静かな競争が続いています。

Celesteの打ち上げは、私たちの「当たり前」がどう変わっていくのか、そのヒントを与えてくれるように思います。みなさんはこれから先、どんな場面で「測位の進化」を実感するでしょうか?

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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