Google「study notebooks」発表 ─ Geminiが無料・全言語の学習AIに、SAT対策も

「もし、塾代も予備校代もかけずに、自分専用の家庭教師がついたら」——そんな仮定が、急に現実味を帯びてきました。Googleが、Geminiに学習専用の新しい機能を載せたのです。教材を渡せば、AIがまずあなたの実力を測り、どこでつまずいているかを見つけ出し、その穴を埋めるレッスンを組み立てる。しかも無料で、世界中どこでも、どの言語でも使えるといいます。発表の翌日には私の手元にも届いていたので、実際に自分の得意分野を学ばせて、その中身がどこまで信用できるのかまで確かめてみました。受験や資格の勉強で「何から手をつければいいか分からない」あの感覚に、AIはどこまで寄り添えるのか。ひとつずつ見ていきます。


Googleは2026年6月26日、Gemini appに学習機能「study notebooks(学習ノートブック)」を導入したと発表した。これは好奇心を理解へ変えるためのインタラクティブな学習空間で、無料かつ世界中で、Gemini appが対応する全言語で利用できる。利用者はサイドメニューで「New notebook」を選び「Study」を押し、目標を伝えて資料をアップロードすると、Geminiが診断クイズを生成する。重点分野に基づき短いレッスンと練習クイズが作られ、ダッシュボードが進捗を「Strengths」「Focus areas」として記録する。

資料はNotebookLMと統合され、フラッシュカードやVideo Overviewsを生成できる。本日からSAT対策が利用可能となり、JEEとNEETも近日導入、この夏にENEM、ACT、GREへ拡大する。Web上で個人アカウント向けに順次提供され、モバイルと学校発行アカウント(18歳未満を含む)への対応はこの夏に始まる。

From: 文献リンク5 ways to learn with study notebooks in the Gemini app

【編集部解説】

まず押さえておきたいのは、今回の「study notebooks」が、まったくの新機能というわけではない点です。Googleは2026年4月にGemini app内へ「Notebooks」というプロジェクト単位の作業空間を導入しており、今回の学習版は、その土台の上に「学ぶ」ことへ特化させた派生機能として登場しました。NotebookLMとデータが同期する設計も、この流れを引き継いでいます。

技術的な肝は「診断→分解→追跡」のループにあります。Geminiは利用者の学習目標を、Google公式ブログによれば「100以上の具体的な学習目標(more than 100 specific learning objectives)」へと細かく分解し、診断クイズの結果と照らして「Strengths」「Focus areas」「Not started」に振り分けます。単に答えを返すAIではなく、理解度の地図を描き、次の一手を指し示す“伴走者”として設計されているのです。

実際に私の環境にも、この機能が届きました。日本語版では、新規ノートブックを作ると「何に取り組んでいますか?」と尋ねられ、「アイデアを整理する」と「勉強と学習」の2つが並びます。英語の発表で「Study」と呼ばれていたものが、日本語のUIでは「勉強と学習」と表示されるわけです。学士帽のアイコンが付いた右側の「勉強と学習」、これが今回のstudy notebooksにあたります。発表の翌日には日本語環境でも選べる状態になっており、「全世界・全言語で」という説明が、少なくとも表示の上では実際に動いていることを確認できました。

Gemini appの新規ノートブック作成画面。「何に取り組んでいますか?」の問いに対し、「アイデアを整理する」と「勉強と学習(study notebooks)」の2つの選択肢が表示されている日本語UIの実機スクリーンショット
日本語版Gemini appの新規ノートブック作成画面。右の「勉強と学習」が study notebooks にあたる(筆者の実機画面より)

そこで、自分の領域として土地勘のある「情報セキュリティの基礎」を学ばせてみました。目標を入力すると、Geminiはすぐにレッスンを始めず、「合格を目指す試験なのか、暗号化やネットワークといった特定分野を深めたいのか」と一段掘り下げて聞き返してきます。発表文には書かれていない、ゴール設定を対話で精密化するステップが挟まっているわけです。「ランサムウェアを軸に、初期侵入から暗号化、二重恐喝までの流れと防御策を学びたい」と返すと、要望どおりのレッスンが日本語で組み上がりました。

日本語版study notebooksの学習画面。「情報セキュリティの基礎」というノートブックに、診断クイズ『クイズに答える』と、ランサムウェア対策・攻撃のプロセス・防御策という3つのレッスンカードが表示されている実機スクリーンショット
「情報セキュリティの基礎」の学習画面。診断クイズと、要望どおりに生成された3つのレッスンが並ぶ(筆者の実機画面より)

枠組みだけでなく、中身も確かめてみました。「ランサムウェア攻撃のプロセス」というレッスンを開くと、初期侵入、権限昇格と横展開、データの窃取と暗号化という3段階で、攻撃の流れが整理されていました。読み込んでみると、これは正確です。とくに「暗号化の前にデータを盗み出す」という近年の手口の順序を外しておらず、バックアップから復旧できても暴露を防ぐために支払いを迫られる、という二重恐喝の本質まで押さえていました。Active Directoryの掌握やシャドウコピーの削除、グループポリシーを悪用した一斉展開といった、現場で実際に見られる細部にも触れており、生成された文章の水準は率直に高いと感じました。

一方で、手を動かして読み込むと穴も見えます。これだけ正確な内容でありながら、出典がどこにも示されていません。今回は内容が正しかったので結果として問題ありませんが、裏を返せば、学ぶ側にはその正しさを確かめる手立てがないということです。先に触れた「出典への忠実さ」という懸念は、皮肉にもこの画面が証明していました。加えて、ランサムウェアを“サービス”として売買する今日の攻撃者エコシステム(RaaS)への言及や、IPAの「情報セキュリティ10大脅威」、JPCERT/CCといった日本の文脈は薄く、ここから先は自分で一次情報に当たる必要がありそうです。

とりわけ注目したいのは、試験対策の中身です。Xの発表ではSAT・JEE・NEET・ENEM・ACT・GREといった試験名が並びましたが、教育向けの公式ブログを読むと、SATの問題は「The Princeton Review」という米国の老舗予備校の権威ある問題に基づいていることがわかります。AIが適当に生成した問題ではなく、信頼できる問題で訓練できる——この点が「無料」という条件と結びついたとき、初めて重みを持ちます。

ポジティブな影響は明確でしょう。高額な対策講座が点数への壁になるべきではない、というGoogleのメッセージは、教育機会の格差に対する直接的な回答といえます。世界中・全言語・無料という条件で提供される以上、これまで対策講座に手が届かなかった層にとっては、確かな追い風になり得ます。

一方で、慎重に見るべき点も残ります。ひとつは、AIが提示する学習内容の正確さです。海外メディアの検証では、Gemini側のノートブックは必要に応じてWebも参照するため、アップロードした教材だけに厳密に基づくNotebookLM本来の“頑固さ”が薄まる、との指摘も出ています。学習は「正しさ」が前提の領域だけに、出典への忠実さは軽んじられません。

もうひとつは、子どもとデータをめぐる問題です。今回は18歳未満を含む学校発行アカウントへの展開が数週間以内に、モバイル対応がこの夏以降に予定され、教師がGoogle Classroom上で学習ノートブックを生徒へ割り当てる構想も示されました。利便性の裏側で、未成年の学習データをどこまで扱うのかは、各国の個人情報保護やAI規制の観点から、これまで以上に厳しく問われていくはずです。

そして、日本の読者にとっての意味です。対応試験にSATやインドのJEE/NEET、ブラジルのENEMは並びましたが、大学入学共通テストのような日本固有の試験はまだ含まれていません。それでも、教材をアップロードして弱点を可視化し、短いレッスンで埋めていく仕組みそのものは、言語を問わず機能します。塾や予備校が担ってきた「個別最適化」の一部が、無料のAIへと溶け出し始めた——その入口と捉えるなら、今回の一歩は小さく見えて、射程はかなり長いと私は見ています。

なお試験対応の時期は、媒体によって表現が分かれます。study notebooks公式ブログはJEE・NEET・ENEM・ACT・GREを「この夏」にまとめて追加するとし、教育向けブログは別途、The Princeton Review監修の練習用GRE・ACTテストをGemini内に「数週間以内」に提供すると記しています。両者は対象が異なるため、混同しないよう補足しておきます。

【用語解説】

study notebooks(学習ノートブック)
Gemini app内に設けられた、学習に特化した専用スペース。教材をアップロードして診断を受けると、理解度に応じた短いレッスンと練習クイズが生成され、学びを個別最適化する。日本語版UIでは「勉強と学習」と表示される。

Notebooks(ノートブック)
study notebooksの土台となる、2026年4月に導入されたGemini appのプロジェクト単位の作業空間。チャットやファイルを一カ所にまとめ、NotebookLMとデータが同期する。

診断クイズ(diagnostic quiz)
学習開始時に出題される、現時点の理解度を測るためのクイズ。結果をもとに、得意分野と弱点を切り分け、重点的に取り組むべき領域を割り出す。日本語版UIでは「学習のカスタマイズ」「クイズに答える」として表示される。

アダプティブ(適応型)学習
学習者の理解度や進み具合に合わせて、教材や難易度を動的に調整していく学習方式。一律のカリキュラムではなく、一人ひとりに合わせる点が特徴だ。

Video Overviews(ビデオ概要)
NotebookLMの機能の一つで、アップロードした資料をもとに、ナレーション付きの動画形式の概要を自動生成するもの。

二重恐喝(Double Extortion)
ランサムウェア攻撃の手口。データを暗号化して復号と引き換えに身代金を要求するだけでなく、暗号化の前に盗み出した機密情報を「公開するぞ」と脅す二段構えで圧力をかける。バックアップから復旧できても支払いを迫られる点が特徴だ。

標準化試験(standardized exam)
受験者を同一基準で評価するために設計された試験の総称。記事に登場するSAT・ACT・GREは主に米国の大学・大学院進学、JEE・NEETはインドの工学・医学系進学、ENEMはブラジルの大学入学に関わる試験だ。

【参考リンク】

Gemini app(公式)(外部)
GoogleのAIアシスタント「Gemini」のWeb版。今回のstudy notebooksはこのアプリ内で提供される。

NotebookLM(公式)(外部)
アップロードした資料に基づき回答や要約、音声・動画概要を生成するGoogleの研究支援ツール。study notebooksと同期する。

Google Classroom(公式)(外部)
学校向けの学習管理サービス。教師が授業教材に紐づいた学習ノートブックを生徒へ割り当てる構想が示されている。

The Princeton Review(公式)(外部)
1981年創業の米国の大手試験対策企業。study notebooksのSATの問題は同社の問題に基づき提供される。

【参考記事】

Supporting students with connected AI tools for more personalized learning(外部)
study notebooksに加え、The Princeton Reviewと組んだ無料の練習用ACT・GREテストや、Google Classroom連携の構想を示すGoogle教育部門の公式発表。

Google Integrates NotebookLM Into Gemini: Notebooks Arrive in the App(外部)
今回の土台となる「Notebooks」が2026年4月8日に提供開始されたと報じ、料金やGeminiの位置づけ変化を数値で整理した記事。

Google introduces Notebooks in Gemini, a project management tool synced with NotebookLM(外部)
「Notebooks」導入時のGoogle公式ブログ。GeminiとNotebookLMが双方向同期する設計を解説し、本機能の背景を確認できる。

I tried NotebookLM’s new Gemini integration, and it’s powerful but risky(外部)
統合の検証記事。Gemini側ではWeb参照によりNotebookLM本来の出典忠実性が薄まりかねないと指摘し、リスク面を補強する。

Google’s Gemini Launches Study Notebooks to Tutor Students for Free(外部)
study notebooksを構造化された適応型の学習空間と位置づけ、クイズ成績に応じて計画を更新し、無料である点を要約した記事。

【関連記事】

Geminiオーバーレイ、プラスメニューを拡張|動画・音楽・Canvas・ガイド付き学習が追加

NotebookLM最新アップデート解説|Gemini 3.5とAntigravityで何が変わるのか

Gemini、3Dシミュレーションを生成へ|「見せて」の一言が変えるAI学習体験の設計

ノルウェー、小学校で生成AIを原則禁止へ|学力低下に政府が下した「順序」の決断

「AIが満点を取る時代に、教育はどう向き合うべきか」――上智大学・香港大学・ハーバード大学の対策から見る教育の未来

【編集部後記】

正直に言うと、この機能を最初に知ったとき、私の胸には期待と警戒が同時に浮かびました。

期待のほうは分かりやすいです。私自身、勉強でいちばんしんどかったのは「分からないことが、分からない」状態でした。問題集を開いても、どこが弱点なのか自分では見えない。その霧を晴らすために、人は塾に通い、お金を払ってきたのだと思います。それを無料で、しかも世界中の言語で肩代わりしようというのですから、誰かの背中を確かに押す力にはなるはずです。手が届かなかった人にこそ届いてほしい、と素直に感じました。

一方で、警戒のほうも消えませんでした。学びというのは「正しいこと」を前提に積み上がっていく営みです。もしAIが、もっともらしいけれど少しずれた説明をしたら、学ぶ側にはそれを見抜く力がまだ育っていない。便利さと引き換えに、間違いをそのまま信じ込んでしまう危うさは、どうしても残ります。さらに、これから子どもたちの学習アカウントへ広がっていくとなると、誰がそのデータを握り、どう扱うのかという問いからも目をそらせません。

実際に、自分の土地勘のあるセキュリティの基礎を学ばせてみました。ランサムウェアの攻撃プロセスを尋ねると、現代的な手口の順序まで正確になぞった解説が返ってきて、正直に言えば「ここまで来たか」と唸りました。その一方で、出典は一つも示されません。中身が正しいかどうかを判断できたのは、たまたま私がその分野を知っていたからにすぎない。もし初めて学ぶ人だったら、この“それっぽい正しさ”をそのまま信じたはずです。便利さと危うさが同じ画面に同居している——その手応えこそが、今回いちばんの収穫でした。

それでも、私はこの一歩を後ろ向きには捉えていません。塾や予備校が長く担ってきた「あなたに合わせる」という役割の一部が、無料のAIへと少しずつ移り始めた——その入口に、いま私たちは立っているのだと思います。日本の共通テストにはまだ対応していませんし、すべてがバラ色だとも言いません。けれど、学びの入口が広がること自体は、きっと悪い話ではないはずです。

最後に、これはお願いに近いのですが——もし実際に触ってみたら、その手応えをぜひ聞かせてください。「思ったより伴走してくれた」のか、「やっぱり物足りなかった」のか。使った人の声が積み重なってはじめて、この技術の本当の輪郭が見えてくるのだと思います。私も自分で試しながら、その答えを一緒に探していきます。

Googleで優先するソースとして追加するボタン
投稿者アバター
山本 達也
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。