DeepSeekのAGIロードマップとは?|Huawei製AIチップ移行でNVIDIA依存を減らせるか

DeepSeekのAGI構想は、モデルの能力だけでは完成しません。継続学習を進めるには、何度も実験できる計算基盤が必要です。中国製AIチップへの移行構想から、知能開発と半導体が一体化する競争の現在地を読み解きます。


ChinaBiz Insiderによると、中国のAI企業DeepSeekは、初の外部資金調達で500億元超を確保したとされる。創業者の梁文鋒氏は、資金を研究チームの維持と計算資源の確保に活用する方針を示したと報じられた。

梁氏は内部会合で、AGIへの開発工程をChain-of-Thought、AIエージェント、継続学習、自己反復型知能の4段階に整理したとされる。短期的にはCoding Agentを優先し、Huawei製AIチップへの移行も検討していると記事は伝えている。

ただし、これらの発言は一般公開された一次資料では確認できていない。DeepSeekの公式情報から確認できるのは、V3.1以降でエージェント機能を段階的に強化していることや、TileLangを利用したGPUカーネル群を公開していることまでである。

From: 文献リンクDeepSeek Closes $6.9B Round as Liang Wenfeng Lays Out AGI Roadmap and Chip Strategy

【編集部解説】

AGIロードマップで、公開情報から確認できる部分

ChinaBiz Insiderが伝えるDeepSeekのロードマップは、推論、AIエージェント、継続学習、自己反復型知能という順序です。なかでも梁文鋒氏は、モデルが経験を蓄積しながら更新される「継続学習」を、現在のAIと次の段階を分ける能力として位置づけたとされています。

この構想のうち、AIエージェントへの移行はDeepSeekの公式な製品展開とも一致します。DeepSeekは2025年8月のV3.1を「エージェント時代への第一歩」と表現し、ツール利用や複数段階の作業能力を強化しました。V3.2では、1,800以上の環境と8万5,000件以上の複雑な指示を使ったエージェント学習を公表しています。2026年4月に公開されたV4 Previewでも、推論とエージェント能力の向上が前面に出されています。

一方、継続学習や、モデルが後継モデルを自律的に開発する自己反復型知能については、DeepSeekの公開済みモデルや技術資料から具体的な実装を確認できません。現時点で確認できるのは、エージェント機能を製品へ段階的に組み込んでいることまでです。記事の4段階は、実装済みの工程表ではなく、梁氏が内部会合で示したと報じられた研究上の見通しとして読む必要があります。

AGI研究では、モデル性能より実験回数が問題になる

このロードマップと半導体戦略が結びつく理由は、AIの研究開発が一度の大規模学習だけでは完結しないためです。新しい学習手法、データ構成、エージェント環境、推論方法を検証するには、多数の実験を繰り返す必要があります。ChinaBiz Insiderで梁氏は、計算資源が少なければ実験数が減り、研究者が経験を蓄積する機会も減るとの考えを示したとされています。

DeepSeekがCoding Agentを優先するとされる点も、この構造に沿っています。コーディング能力の高いAIが研究用ソフトウェアの作成や実験準備を支援すれば、次のモデルを開発する速度を高められる可能性があります。ただし、Coding Agentが実際に研究期間をどの程度短縮するかは公開されておらず、現段階ではDeepSeekの研究方針として捉えるべきです。

TileLangの採用とNVIDIAからの独立は同じではない

ChinaBiz Insiderは、DeepSeek-V3がNVIDIA製GPUで学習された一方、TileLangを介することでNVIDIAのソフトウェア環境からほぼ切り離されたと伝えています。ただし、DeepSeekが公開しているTileKernelsは、TileLangによって高性能なGPUカーネルを記述する仕組みであり、公開時点の動作要件にはNVIDIAのSM90またはSM100アーキテクチャとCUDA 13.1以降が含まれています。

TileLangは複数のハードウェア向けバックエンドを拡充しており、特定の低水準プログラミング手法への依存を減らし、別のハードウェアへ処理を移しやすくする可能性があります。しかし、現在公開されている実装だけから「NVIDIAのソフトウェア環境から独立した」とまでは判断できません。プログラムの記述方法を抽象化することと、CUDAやNVIDIA製GPUを使わずに大規模学習を実行できることは別の段階です。

Huawei製チップは、単体性能ではなくシステム全体で見る必要がある

HuaweiはAscend 910Cを搭載したAtlas 900 A3 SuperPoDを展開し、最大384基のAscend 910Cを一つの大規模計算システムとして接続しています。Huawei自身も、AGIやPhysical AIには引き続き大量の計算資源が必要になるとの認識を示しています。

これは、中国製AIチップの競争がチップ単体の速度だけではなく、多数のチップを接続する通信技術、コンパイラ、学習フレームワーク、運用ソフトウェアを含むシステム全体へ移っていることを示します。DeepSeekがTileLangのような抽象化層を利用し、HuaweiがAscendを中心とする計算基盤を拡大すれば、特定のGPUに固定されない研究環境を作れる可能性があります。

ただし、記事が伝える「Huawei製チップ4基がNVIDIA製チップ1基に相当する」「価格性能比でGB200やGB300を代替できる」という評価は、比較条件を示した公式ベンチマークでは確認できません。学習モデル、精度、消費電力、通信構成、ソフトウェアの成熟度によって結果は変わるため、現段階で両者を単純に置き換えられると断定することはできません。

ChinaBiz Insiderの主張を前提にすれば、DeepSeekの戦略で注目すべきなのは、AGIの構想と中国製半導体を別々に語っていない点です。継続学習や自己改善を目指すほど、必要な計算と実験は増えます。その研究を長期間続けるには、入手可能なチップに合わせてモデルとソフトウェアを設計する必要があります。DeepSeekは、単にNVIDIA製GPUをHuawei製チップへ交換するのではなく、モデル、コンパイラ、計算設備を一体で設計する方向を目指していると読み取れます。

なお、記事はV4を今後公開されるモデルとして記述していますが、DeepSeekは2026年4月24日にV4 Previewをすでに公開しています。このため、ChinaBiz Insiderが基にした会合記録の時期や、記事内で扱われている情報の時間関係については追加確認が必要です。

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【編集部後記】

AGIの進化は、モデルの賢さだけで決まるものではありません。何度も試し、失敗し、学び直せる計算環境があってこそ前へ進めます。DeepSeekの構想には、AIと半導体を一つの開発基盤として捉える発想が見えます。中国製チップへの移行がどこまで現実になるのか、期待と課題の両方が残っています。まだ確認できていない情報も多いからこそ、私たちは発表ではなく実装を見ていきたいところです。
AIの競争が、モデルだけでなく計算基盤そのものの競争へ広がっていることを感じます。


【用語解説】

AGI(汎用人工知能)
特定の用途だけでなく、異なる領域の課題を学習・推論しながら処理できる人工知能の概念。DeepSeekは公式サイトで、AGIの基盤モデルと関連技術の研究を事業の中心に掲げている。

AIエージェント
外部ツールやAPIを利用し、複数の手順を自律的に実行するAIシステム。DeepSeek-V3.2では、ツール利用中に推論する機能と、1,800以上の環境・8万5,000件以上の複雑な指示を用いた学習手法が導入された。

継続学習(Continual Learning)
学習済みモデルを固定したまま使うのではなく、新しいデータや経験を取り込みながら能力を更新していく学習方式。過去に学んだ能力を損なう「破滅的忘却」を抑えながら、新しい知識を追加することが課題。

Coding Agent
コードの生成だけでなく、ファイルの確認、修正、テスト、外部ツールの実行などを連続して進めるAIエージェント。DeepSeekはV3.1以降、ツール利用や複数段階のエージェント処理を強化している。

TileLang
GPU上で動作する高性能な計算処理をPythonで記述するためのドメイン固有言語。移植のしやすさ、自動最適化、開発速度の向上を目的とし、DeepSeekの内部学習・推論にも一部利用されている。

GPUカーネル
行列演算やデータ変換など、GPU上で実行される計算処理の単位。AIモデルの学習・推論速度を高めるには、使用するチップに合わせたカーネルの最適化が必要。

Ascend 910C
Huaweiが開発するAI計算向けプロセッサ。Atlas 900 A3 SuperPoDでは最大384基を高速接続し、一つの大規模計算システムとして動作させる設計が採用されている。

SuperPoD
多数のAIプロセッサを高速な相互接続で統合し、一つのコンピューターに近い形で運用する大規模計算システム。単体チップの性能だけでなく、通信速度、メモリ、ソフトウェアを含む全体設計が性能を左右する。

【参考リンク】

DeepSeek公式サイト(外部)
DeepSeekのモデル、研究情報、Web版サービス、API、採用情報を確認できる公式サイト。V4 Previewの提供状況も掲載。

DeepSeek API Docs(外部)
DeepSeek APIの導入方法、モデル更新、料金、エージェントツールとの連携方法を掲載する公式ドキュメント。

DeepSeek TileKernels(外部)
TileLangで記述されたGPUカーネルを公開するDeepSeek公式GitHubリポジトリ。動作環境、用途、実装コードを確認可能。

Huawei Atlas 900 A3 SuperPoD(外部)
最大384基のAscendプロセッサを接続するAI学習・推論用システムの構成と仕様を掲載するHuawei公式製品ページ。

【参考記事】

DeepSeek-V3.1 Release|DeepSeek API Docs(外部)
V3.1を「エージェント時代への第一歩」と位置づけ、ツール利用、複数段階の処理、コーディング能力の強化を発表した公式情報。

DeepSeek-V3.2 Release|DeepSeek API Docs(外部)
推論とツール利用を統合したV3.2の公式発表。エージェント学習に用いた環境数と複雑な指示の規模も掲載。

DeepSeek V4 Preview Release|DeepSeek API Docs(外部)
2026年4月24日に公開されたV4 Previewの公式発表。100万トークンのコンテキスト、エージェント能力、オープンソース方針を説明。

TileKernels README|DeepSeek GitHub(外部)
TileLangの目的、移植性、自動最適化、DeepSeek内部での学習・推論への利用状況を説明する公式資料。

Groundbreaking SuperPoD Interconnect|Huawei(外部)
Ascend 910Cを最大384基接続するAtlas 900 A3 SuperPoDと、Huaweiの大規模AI計算基盤戦略を説明した公式講演。

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乗杉 海
SF小説やゲームカルチャーをきっかけに、エンターテインメントとテクノロジーが交わる領域を探究しているライターです。 SF作品が描く未来社会や、ビデオゲームが生み出すメタフィクション的な世界観に刺激を受けてきました。現在は、AI生成コンテンツやVR/AR、インタラクティブメディアの進化といったテーマを幅広く取り上げています。 デジタルエンターテインメントの未来が、人の認知や感情にどのように働きかけるのかを分析しながら、テクノロジーが切り開く新しい可能性を追いかけています。