3月に公開された「Namazu」は、DeepSeekやLlamaを土台にした試作シリーズでした。8月3日にAPIとして提供が始まった「Sakana Namazu」の土台は、Moonshot AIのKimi K2.6です。試作から商用APIへ進むあいだに、土台そのものが替わっています。
Sakana AIは2026年8月3日、「Sakana Chat」に搭載してきた大規模言語モデル「Namazu」をアップデートし、API「Sakana Namazu」の提供を開始した。
Moonshot AIのオープンモデル「Kimi K2.6」をベースに、社内独自のデータで日本語と日本の業務文脈に適合させ、応答回避や出力の偏りを抑えるチューニングも施した。Web検索とコード実行をビルトインツールとして備える。
OpenAI互換で、接続先とAPIキー、モデル名を変えれば既存コードから使える。料金は100万トークンあたり入力0.95ドル、出力4ドル、キャッシュ済み入力0.15ドル。Web検索は1,000コール7ドル、コード実行は1時間0.12ドル。EU/EEA、英国、スイスでは利用できない。
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Sakana AI、日本語特化のLLM API「Sakana Namazu」を提供開始
【編集部解説】
「日本仕様に作り替える対象」が、試作から商用へ進む間に替わった
今年3月に公開されたNamazuシリーズ(α版)は、DeepSeek・Llama・gpt-ossという3つのオープンウェイトモデルに、それぞれ独自の事後学習を施した試作モデルシリーズでした。Sakana AI自身が「技術実証の第一弾」「プロトタイプ」と位置づけたものです。
8月3日にAPIとして提供が始まったSakana Namazuは、Moonshot AIのKimi K2.6ただ1本がベースです。
ここで注意しておきたいのは、同社がその間もモデルを更新してきたと説明している一方で、途中でどのベースモデルを採用していたかは公表していない点です。3月の3モデルから8月のK2.6へ、一度に乗り換えたと確定できる材料はありません。確実に言えるのは、技術実証の段階で示された構成と、商用APIの土台が別物になっている、ということです。
そのうえで、この会社が選んだ「日本特化AI」の作り方が見えてきます。α版の発表資料でSakana AIは、世界最高水準と位置づけるオープンウェイト基盤モデルを活用すること、そしてこの技術は特定のベースモデルに依存しないため、今後も優れたモデルを柔軟に活用できることを説明しています。基盤モデルを固定せず、事後学習によって日本向けの価値を加える設計と読めます。
Preferred NetworksのPLaMoが基盤モデルをフルスクラッチで開発しているのとは、この製品における開発アプローチが分かれます。どちらが正しいという話ではなく、日本のAIには少なくとも2つの異なる現実解が並走している、と捉えるのが正確でしょう。
「選び直す」方式には、時間差がつきまとう
ベースのKimi K2.6は、Moonshot AIが2026年4月20日付で発表したモデルです。その後、同社は6月にK2.6を土台とするコーディング特化モデルK2.7-Codeを公開し、7月にはコーディングだけでなく知識業務や推論も対象とする最新フラッグシップK3(総2.8兆パラメータ)を発表しました。K3のフルウェイトは、Sakana Namazuの提供開始より前に公開されています。
つまりSakana Namazuの提供開始時点で、K2.6はすでにMoonshot AIの最新フラッグシップではなくなっていました。
K2.6の発表からSakana Namazuの提供開始までは105日です。公開モデルに追加学習を施し、評価し、応答の偏りを調整して製品にする方式では、ベースモデルの更新と製品化の間に時間差が生じます。この構造がある限り、同様の時間差が今後も生じる可能性があります。これは記事としての解釈ですが、公開モデルに事後学習を施して製品化する方式では避けにくい性質だと考えています。
「日本語特化」は、どこまでを指すのか
先月末、楽天と日本HPが日本語LLMをPCでオフライン動作させるサービスを出したとき、この場で「ソブリンAIという言葉が届く範囲は、モデルの重みまでなのか、それを走らせる土台までなのか」と書きました。
Sakana Namazuは、その問いにかなり明快に答えています。プロダクトページのFAQを読むと、以下が明記されています。
- データ処理を日本国内で完結させることは、現時点では保証していない
- 初期設定では、入力したデータがモデルの学習・改良に利用される場合がある(Consoleの設定からいつでもオプトアウト可能)
- 請求は米ドル建てのみ。円建ては法人プランで対応
- GDPR等への対応を進めている段階のため、EU/EEA域内・英国・スイスでは提供していない
特化しているのはモデルの日本語・業務文脈への適合であって、データの所在地ではありません。敬語や商習慣を踏まえた日本語を扱えることと、そのデータが日本の中に留まることは、別の話だということです。
評価したいのは、この線引きがFAQで明示されている点です。「日本語特化」という言葉とデータの所在地を、利用する側が分けて確認できる状態になっています。法人プランではリージョン指定とゼロデータ保持を相談できると案内されているので、要件がある組織は最初からそちらに向かえばよい、という設計です。
単価0.95ドルを、どう読むか
同社の料金ページを並べて見ると、位置づけがはっきりします。

入力で約5分の1、出力で約7.5分の1です。複数のフロンティアモデルを束ねるFuguと、単一の自社モデルが単体で動くNamazu。同じ会社の中で、価格帯まで含めて住み分けが引かれています。
移行のしやすさも特徴です。OpenAI互換のChat Completions APIとResponses APIに加えて、Anthropic互換のMessages APIにも対応しています。基本的な呼び出しであれば、接続先とAPIキー、モデル名を差し替えて移行できます。ただし、previous_response_idや旧来のfunctionsなど、一部のフィールドには非対応または仕様差があります。
ただし、単価表だけを見て月額を見積もると、たぶん外れます。
料金ページの英語版に、課金の仕組みが説明されています。Web検索やコード実行を有効にすると、1回のAPIリクエストが内部で複数回のモデル呼び出しになります。モデルがツールを呼び、結果を受け取り、また考える。このループが回るたびに、会話履歴とそれまでのツール結果を含むプロンプト全体が再送されます。
つまり、検索で取得したWebページの本文も、コード実行の出力も、次の内部呼び出しでは「入力トークン」として課金対象になります。
Web検索の料金も、単位を正確に読む必要があります。1,000コールあたり7ドルで、検索クエリの送信とページ本文の取得が、それぞれ1コールとして数えられます。「1,000回検索できて7ドル」ではありません。
エージェントを組んだことがある方には当たり前の挙動ですが、単価表の数字だけを見ていると見落とします。共通するプロンプト接頭辞は通常キャッシュ(100万トークンあたり0.15ドル)から供給されるため伸び方は緩やかだと説明されていますが、伸びること自体は変わりません。
もう一点、思考トークンが出力トークンと同じ単価で課金されることも明記されています。思考はデフォルトで有効です。Responses APIとChat Completions APIでは、最大出力トークンの初期値は65,536で、思考トークンもこの上限に含まれます。推論を長く回す使い方では、ここが効いてきます。
検証できること、まだできないこと
留保も書いておきます。
効果の測定可能性。日本語側の評価に使われた3つの指標のうち、日英翻訳タスクとFairPoliticsQAは自社で構築した独自ベンチマークです。外部のJFBenchも、制約数1・2・4・8からそれぞれ200問をサンプリングした評価であり、全問実施ではありません。
FairPoliticsQAについて、公式は回答の中立性とバランスを測る指標と位置づけ、34.10%から56.30%への向上を、繊細な話題でもバランスの取れた回答を生成できることの根拠として説明しています。主張されているのは中立性の改善です。ただし社内で構築したベンチマークであり、評価セットも実用上の合格基準も公開されていません。一般的に中立性が保証されたとまでは言えない、というのが正確な読み方でしょう。
技術的な限界。推論・問題解決の3指標について、公式の記述は「ベースモデルの高い性能を維持している」という表現です。ベース超えを主要な結論には据えていません。加えて、これらはすべて自社実施の評価であり、確認した公式資料には第三者による独立検証の結果が示されていません。
仕様と条件の透明性。単価とコンテキスト長(256Kトークン)は公開されています。一方で、レート制限と可用性の保証(SLA)は、確認した公開資料では明示されていません。長い文書をまとめて投げる用途では、256Kという上限に加えて、ファイル1件あたり4MBという制限や最大出力トークンも合わせて見ておく必要があります。
触れられる距離にある
それでも、この製品の一番いいところは、今日アカウントを作れば今日から試せることだと思います。
月額費用はなく、完全な従量課金。基本的なテキスト呼び出しであれば、既存のOpenAI SDKのまま、接続先とAPIキー、モデル名を差し替えて移行できます。PDFやXLSX、CSVを直接投げてコード実行と組み合わせることもできます。手元の小さなスクリプトで日本語の要約を投げてみて、返ってきた敬語の自然さを自分の目で確かめる。それが数分でできる状態になっています。
日本語で書かれた社内文書、日本語の問い合わせメール、日本語の会議録。多くの組織が、これらを日常的に扱っています。その処理を、フロンティアモデルの単価で回し続けるのか、別の選択肢を持つのか。その判断材料が、実際に手を動かして得られる形で置かれたというのが、今回の発表の実質だと考えています。
【関連記事】
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【編集部後記】
公式が挙げたユースケースは3つ。市場調査レポートの自動生成、カスタマーサポートの自動化、そして約1,000匹の魚群のライトショーです。
前の2つは費用対効果で説明がつきます。3つ目は違います。「海の世界」というお題ひとつから、モチーフをモデル自身が決め、参考画像をWebで集め、水槽のスクリーンショットを見ながら座標を組み立てる。実演の記録映像も置かれています。
社名の由来である魚の群れに、自社モデルが振り付けをする。ベンチマークの数字ではなく、この一本を並べたところに、この会社の輪郭が出ています。
【用語解説】
大規模言語モデル(LLM)
膨大な文章で学習し、文章の生成・要約・翻訳などを行うAIモデル。
API
ソフトウェア同士をつなぐ窓口。自社のシステムやプログラムから外部のAIを呼び出す口にあたる。
OpenAI互換
OpenAIが定めた呼び出し形式に合わせてあること。既存のプログラムを大きく書き換えずに別のAIへ切り替えられる。ただし業界内でも指す範囲に揺れがあり、全機能が同一であることを保証する言葉ではない。
オープンウェイト
学習済みの重み(パラメーター)が公開され、ライセンス条件と必要な計算資源の範囲で取得・実行できるモデル。学習データや学習コードまで公開されているとは限らない。
追加学習(事後学習)
公開済みのモデルに、目的に合わせた追加のデータで学習を施し、応答の傾向を作り変える工程。
フルスクラッチ開発
既存モデルを土台にせず、基盤モデルをゼロから学習して作る方式。
ビルトインツール
API提供側が実行環境まで用意したツール。リクエストのツール指定で有効化すると、利用者側で検索やコード実行の基盤を実装しなくても、モデルが必要に応じて自律的に呼び出す。
トークン
AIが文章を処理する単位。文字数との対応関係は、モデルのトークナイザーや文章の内容によって変わる。
思考トークン
モデルが答えを出す前に内部で推論する過程で消費するトークン。Sakana Namazuでは出力トークンと同じ単価で課金される。
キャッシュ済み入力(プロンプトキャッシュ)
繰り返し送られる同一の指示文を保持し、再計算を省く仕組み。通常の入力より安い単価が設定される。
コンテキスト長
モデルが一度に扱える文章の最大量。Sakana Namazuは256Kトークン。
レート制限
一定時間内に送れるリクエスト数の上限。
SLA
サービス提供者が可用性や応答性能について示す保証水準。
ゼロデータ保持
送信したデータを提供側に残さない運用方式。
オプトアウト
初期状態では有効になっている扱いを、利用者の側から明示的に外すこと。
リージョン
クラウド事業者がサーバーを設置している地理的な区域。どのリージョンで処理するかによって、データが物理的に存在する国が変わる。
ソブリンAI(AI主権)
AIの基盤やデータを自国の管理下に置こうとする考え方。何をもって「主権」とみなすかは、モデルの重み、学習データ、実行基盤、データの所在など、論者によって範囲が異なる。
エージェント
与えられた目標に対して、自分で計画を立て、必要な道具を使い、複数の手順を最後まで実行するAIの使い方。
ベンチマーク
モデルの能力を共通の問題セットで測る評価手法。開発元が自社で構築したものと、第三者が公開しているものがある。
JFBench
Preferred Networksが公開している、日本語の指示にどれだけ正確に従えるかを測るベンチマーク。
FairPoliticsQA
Sakana AIが社内で構築した独自ベンチマーク。政治的なトピックにおける回答の中立性とバランスを測る。
GDPR
EUの一般データ保護規則。域内の個人データの取り扱いを規律する。
【参考リンク】
Sakana Namazu プロダクトページ(外部)
料金表、Quick Start、ユースケース、FAQを掲載する公式ページ。データの扱いや提供地域の条件も、ここで確認できる。
Sakana Namazu モデル仕様(外部)
Consoleのモデル仕様ページ。コンテキスト長256K、対応エンドポイント、画像・ファイル入力の制限などを記載している。
Sakana AI API Console 料金ページ(外部)
sakana-namazu-v1.0の単価と、ビルトインツール使用時のトークン計上の仕組みを説明する公式ページ。英語のみの提供。
Sakana AI API Console(外部)
APIキーの発行、学習利用のオプトアウト設定、利用状況の確認を行う管理画面。アカウントの作成は無料で、当日から使い始められる。
Sakana AI 公式サイト(外部)
2023年7月設立、東京拠点のAI研究企業。自然界の集合知に学ぶAI手法を掲げ、FuguやNamazuなどの製品を提供する。
Sakana Chat(外部)
Namazuを搭載した無料のチャットサービス。今回のAPIは、ここで提供してきたモデルを強化したものにあたると説明されている。
Sakana Fugu(外部)
複数のフロンティアモデルを編成して性能を引き出すオーケストレーションサービス。単一モデルのNamazuとは設計が異なる。
Namazu(α版)発表ブログ(外部)
2026年3月24日公開の技術ブログ。試作モデルシリーズNamazu(α版)の位置づけと、事後学習の狙いを説明している。
JFBench(GitHub)(外部)
Preferred Networksが公開する日本語指示追従ベンチマーク。今回の評価で使われた唯一の外部ベンチマークである。
Moonshot AI 公式サイト(外部)
Kimiシリーズの大規模言語モデルを開発し、ウェイトを公開するAI企業。Sakana Namazuの土台となるK2.6の開発元。
Kimi K2.6 モデルページ(Hugging Face)(外部)
ベースモデルの公式モデルカード。仕様やベンチマーク結果、Modified MITライセンスでの公開条件などを確認できる。
Kimi API Platform(外部)
Kimiシリーズを直接APIで利用する開発者向けプラットフォーム。OpenAI互換とAnthropic互換のAPIを提供している。
【参考記事】
Sakana AI、日本に特化したLLM「Namazu」をアップデート、APIサービス「Sakana Namazu」として提供開始(外部)
発表内容を整理した技術メディアの記事。トークン単価、Web検索1,000コール7ドル、コード実行1時間0.12ドルを示す。
Sakana AI、日本語に特化したLLM API「Sakana Namazu」を提供開始(外部)
提供開始を報じたニュース記事。公式が公開した3つのユースケース映像を出典付きで並べ、機能と料金の要点を短くまとめている。
Sakana Namazuとは?API提供開始の要点と情シスの導入判断基準(外部)
情報システム部門の視点から導入判断の観点を整理した解説記事。新しいLLM APIを評価するための再利用可能な型を提示する。
Moonshot Kimi K2.6の製品概要と開発元の位置づけ(外部)
ベースモデルの仕様をまとめた解説。2026年4月20日のウェイト公開や、最大300体のサブエージェント連携などの数値を示す。
【Sakana Namazu】日本語特化のLLM APIが登場!概要・料金・使い方・性能を徹底解説(外部)
料金と用途を中心にまとめた解説記事。フロンティアモデルとの単価差をもとに、用途に応じた使い分けによるコスト最適化を論じる。


















