Sakana AI×大和証券、共同AI開発が本番フェーズへ移行

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製品提供開始の発表ではありません。Sakana AIと大和証券グループが2026年8月5日に連名で公表したのは、大和証券専用の総資産コンサルティングプラットフォームが、技術検証を終えて本番開発フェーズへ移ったという報告です。MUFG、SMBCグループに続き、金融機関との共同開発が実務の側へ進む事例が重なりました。


Sakana AI、大和証券グループ本社、大和証券の3社は2026年8月5日、大和証券専用の総資産コンサルティングプラットフォームの開発が、技術検証フェーズから本番開発フェーズへ移行すると発表した。3社は2025年10月3日に公表されたパートナーシップに基づき、本プラットフォームの実現に取り組んできた。Sakana AIによれば、技術検証はマーケット情報の収集・分析をテーマとし、「AIサイエンティスト」「AB-MCTS」等のAIエージェント技術で業務プロセスを支援するシステムを構築した。

各工程で技術が有効に機能することを確認し、品質と処理能力の両面で移行に必要な技術的基盤を確立したとしている。移行は2026年8月1日付で、ウェルスマネジメント領域への適用と大和証券内への段階的な展開を進める。

From: 文献リンクSakana AIとの大和証券専用総資産コンサルティングプラットフォーム開発、技術検証フェーズから本番開発フェーズへ移行

【編集部解説】

「技術検証が終わった」という報告に何が書かれているか

今回の発表は、AI製品の提供開始を知らせるものではありません。書かれているのは、マーケット情報の収集・分析を対象とした技術検証で有用性を確認し、本番開発フェーズへ移行したという内容です。

注目すべきは、これがSakana AIの単独広報ではない点です。同日、Sakana AI、大和証券グループ本社、大和証券の3社連名で適時開示が出されています。上場企業が開示事項として扱った案件であり、片方の企業が広報として発信したものとは重みが異なります。

それでも取り上げる価値があると考えるのは、Sakana AIの金融案件が、それぞれ異なる業務で実務の側へ寄っていく段階に入っているからです。三菱UFJ銀行との「AI融資エキスパート」は、約半年間の概念実証と一部拠点での検証を経て、特定案件で実業務に適用できる段階に達したことを確認し、2026年3月、実案件での検証を段階的に進める方針が発表されました。SMBCグループとの提案書自動生成アプリケーションは、2026年4月30日、三井住友銀行で実務への適用を開始すると発表されています。ここで挙げる3案件は対象業務も到達段階も異なりますが、それぞれ実案件での検証、実務適用、本番開発へ進むことが公表されています。

フェーズ移行日は8月1日、発表日は8月5日です。これからの構想を表明したのではなく、発表時点ですでに本番開発が始まっていたことになります。

なぜ「マーケット情報の収集・分析」から始めたのか

検証テーマの選び方が、この案件の設計思想を物語っています。

証券会社の業務でAIを使う場所は無数にありますが、顧客の資産状況に踏み込む提案業務は、金融商品取引法の適合性原則が効く領域です。誰にどんな商品を勧めるかという判断には、説明責任がついて回ります。一方、マーケット情報の収集・分析は、証券ビジネスの土台でありながら、顧客への直接的な助言とは一段離れた場所にある。ここから入るのは、規制と責任の重い順に段階を踏む、堅実な設計です。

大和証券グループ本社が公開しているデジタル戦略のページには、Sakana AIとの取り組みについて「足もとではAIでマーケットを分析する取組みを進めており、これを活用することで、人間とAIの協働によりカバレッジを拡大し、網羅的な情報をより迅速にお客様に提供することを目指す」と記されています。今回検証されたのは、まさにこの部分にあたります。証券会社のアナリストが人手でカバーできる銘柄数や情報量には限りがある。そこをAIで広げるという発想です。

研究成果と業務システムの距離の近さ

今回名前が挙がったAB-MCTSは、答えの探索を木構造として扱い、深掘りと方向転換をAI自身が判断する手法で、NeurIPS 2025でSpotlight採択を受けました。AIサイエンティストは、仮説立案から報告書作成までを自律的に回す仕組みで、その論文は2026年3月25日にNature誌でオンライン公開され、3月26日号に収録されています。学会と査読誌で評価された研究が、そのまま証券会社の業務システムの部品として使われている。この距離の近さが、同社の特徴です。

見落としやすいが、おそらく最も重要な一文

実証結果として挙げられた3点のうち、3つ目に目を留めたいと思います。利用者からのフィードバックを継続的に取り込みながら、AIの分析品質を向上させる仕組みの実現可能性を確認した、という記述です。

これは、単に精度を上げるという話ではありません。証券会社のコンサルティング業務の質を決めているのは、公開情報の量ではなく、現場の営業員やアナリストが持つ暗黙知のほうです。どの情報を重く見るか、どの兆候を顧客に伝えるべきと判断するか。それは文書化されていない。

同じ論点は、MUFG案件の総括にも現れています。三菱UFJ銀行との概念実証では、明文化しにくい熟練行員の「経験知」の重要性が再確認され、それをAIに組み込むための手法と改善の道筋が見えてきた、と報告されました。金融の現場でAIを機能させる鍵が、モデルの性能ではなく人の判断の移植にあるという認識は、Sakana AIの案件に共通しています。

留保すべき点

第一に、技術検証の結果を示す数値が公表されていません。「有効に機能した」「技術的な基盤を確立した」「実現可能性を確認した」といった定性的な説明にとどまり、品質、処理能力、作業時間などについて、移行判断を支えた定量的な結果や評価基準は示されていません。SMBC案件では、大企業向け提案書の作成時間を1〜2週間から数十分〜数時間に短縮する見通しが示されていました。実運用上の業務効果は今後の確認事項ですが、今回の移行判断の定量的な根拠を外部から検証できない点は、進捗の評価を難しくします。

第二に、検証された範囲と、これから適用する範囲は同じではありません。確認されたのはマーケット情報の収集・分析工程での有用性です。これから向かうウェルスマネジメント領域の提案業務は、顧客個別の資産状況やリスク許容度を扱い、説明責任の重みが変わります。リリース自身も「本番開発フェーズへの移行に必要な技術的な基盤を確立した」と書いており、業務効果が実証されたとは主張していません。この線は正確に受け取るべきところです。

第三に、公表されていない情報が多く残ります。プロダクト名、提供開始時期、対象となる部署や人数、今回のフェーズに投じる規模、いずれも明らかにされていません。提携全体については、契約期間が約3年、成果に応じた契約料が最大で数十億円規模になると日本経済新聞が報じていますが(2025年10月3日)、3社の公式発表に金額の記載はありません。

大和証券から見た構図

今回のニュースは、一つの提携の進捗であると同時に、複数の相手とAIの取り組みを並行して進めている大手証券の全体像のなかに置いて読むべきものでもあります。同社が公開しているデジタル戦略のページには、日本マイクロソフト、LegalOn Technologies、Sakana AIとの案件が事例として並んでいます。NEC・Anthropicを中心とする金融8社の共創には、大和証券グループ本社が参加企業の一社として名を連ねています。

ただし、今回の総資産コンサルティングプラットフォームが、どのベンダーの技術をどう組み合わせて構成されるのかは公表されていません。各社との協業が並行している事実と、今回のシステムの中身は、別の話として扱う必要があります。

同社が2026年3月末時点の成果として公表している値では、AIオペレーターによる問合せ応対が月3.7万件、コンタクトセンター全体に占めるAI比率は23%。Copilotのライセンス配布社員のうち業務に活用できている社員の比率は93%(2026年3月時点、同社定義)。今中期経営計画期間の累計で、AI実装件数96件、営業員の時間創出は年76.4万時間と算定されています。

日本のAI導入の議論は、長らく「どのモデルを使うか」に集まってきました。ここで起きているのは、その先の問いです。どの業務に、誰の暗黙知を載せるのか。大和証券とSakana AIが本番開発フェーズで挑むのは、そちらの側の課題だと思います。


大和証券グループ本社のサイトには「デジタル戦略」というページがあり、AI問合せ応対の件数やAI比率が実測値で並んでいます。Sakana AIとの取り組みも、そこに一項目として置かれています。開いてみると、今回のニュースが単発の提携話ではなく、複数の相手と並行して積み上げている盤面の一手だと見えてきます。マーケット情報の分析で確立したという「技術的な基盤」は、次の更新でどの数字として現れるのでしょうか。

【用語解説】

総資産コンサルティングプラットフォーム
顧客の金融資産だけでなく非金融資産までを見渡し、プロファイルを踏まえたポートフォリオ提案を行うために、大和証券専用として共同開発されている基盤。今回、技術検証フェーズから本番開発フェーズへ移行した。

AIエージェント
指示を一回こなして終わるのではなく、与えられた目標に向けて自分で手順を組み立て、実行していくAI。複数のエージェントが役割を分担して連携する構成もある。

概念実証(PoC)
新しい技術や構想が実際に機能するかを、限定した範囲で試して確かめる工程。ここを通過しても、実業務で使うシステムの開発がただちに始まるとは限らない。

AB-MCTS(Adaptive Branching Monte Carlo Tree Search/適応分岐モンテカルロ木探索)
答えを探す過程を木の探索として扱い、有望な答えを深掘りするか、新しい答えを枝分かれさせるかを、AIがその都度判断する手法。Sakana AIの研究成果であり、論文「Wider or Deeper? Scaling LLM Inference-Time Compute with Adaptive Branching Tree Search」はNeurIPS 2025でSpotlightに採択された。

AIサイエンティスト(The AI Scientist)
仮説の立案、調査、検証、報告書の執筆までの研究サイクルを、AIが人手を介さず一周する仕組み。Sakana AIとブリティッシュコロンビア大学、オックスフォード大学、ベクター研究所による共同研究の論文が2026年3月25日にNature誌でオンライン公開され、3月26日号に収録された。

NeurIPS
機械学習分野の主要な国際会議。Spotlightは、採択論文のなかでもとくに評価の高いものに与えられる区分である。

ウェルスマネジメント
顧客の資産全体を見渡し、運用から承継、保全までを助言・支援する業務領域。大和証券グループでは事業セグメントの名称でもある。

技術検証フェーズ/本番開発フェーズ
前者は「使えるかどうかを試す段階」、後者は「実際の業務で使うものを作る段階」を指す。本番開発フェーズの開始は、本番運用の開始を意味しない。

適時開示
上場企業が、投資判断に影響を与える情報を証券取引所を通じて速やかに公表する制度。広報リリースと異なり、開示のルールに従って提出される。

適合性原則
金融商品取引法上の考え方で、顧客の知識、経験、財産の状況、投資目的に照らして不適当な勧誘を行ってはならないとするもの。顧客への提案業務に説明責任が伴う根拠となる。

暗黙知
手順書やマニュアルに書き出されていない、実務者が経験のなかで蓄えている判断の勘所。文書化されていないため、システムへ移すことが難しい。

【関連記事】

Sakana AI×SMBC、複数AIエージェントで「提案書自動生成」始動―メガバンクの提案業務はどう変わるか
提携から第一号案件へ至る同じ構図を、メガバンク側の事例として詳しく追った記事。今回の大和証券案件と対比しながら読むことができる。

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ハCEO自身が、日本の金融機関の実装が実証段階の先へ進んでいる状況を語った対談。同社の事業戦略とその背景まで理解できる。

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今回の検証で使われたAB-MCTSとAIサイエンティストが、商用製品としてどう結実したかが分かる。価格体系も扱っている。

NEC・Anthropic、金融8社とAI共創開始─三井住友・大和証券らがClaude活用へ
大和証券グループ本社が参加する、別のAI共創枠組みを扱った記事。同社のAI協業の相手が複数にわたることを示す事例となる。

【編集部後記】

連名の適時開示には、3社の会社概要が並んでいます。大和証券グループ本社の資本金は2,473億円、大和証券は1,000億円。そしてSakana AIは1,000万円です。設立は1999年と2023年。

桁が4つ違う相手に、証券ビジネスの中核へ関わる開発を託す判断が下りている。資本金は企業の実力を測る物差しではありませんが、この並びが違和感なく成立していること自体が、いま起きている変化の姿なのだと思います。


【参考リンク】

Sakana AI、大和証券グループとの共同AIプロジェクトを本格展開フェーズへ移行(外部)
今回の移行を伝えるSakana AI側の発表。技術検証で用いた技術と、確認された3つの結果、今後の適用範囲が記されている。

Sakana AI(外部)
2023年に東京で設立されたAI研究開発企業。研究成果、製品情報、企業リリースが日本語と英語の両方で随時公開されている。

大和証券グループ本社 デジタル戦略(外部)
AI実装件数やAI比率などの実測値と、日本マイクロソフトやLegalOn Technologiesを含む協業事例が掲載されている。

Sakana AI、大和証券グループと総資産コンサルティング高度化AIの開発へ(外部)
2025年10月3日に公表された提携。両社トップのコメントと、総資産コンサルティングプラットフォームの構想を確認できる。

MUFGとSakana AIの「AI融資エキスパート」、実案件での検証フェーズへ(外部)
2026年3月6日発表。約半年の概念実証を経て、一部拠点で特定案件への実業務適用を確認し、実案件での検証を段階的に進める方針を伝える。

Sakana AI、SMBCグループと共同で複数AIエージェントを活用する「提案書自動生成アプリケーション」を開発(外部)
2026年4月30日発表。提携から第一号案件までの流れと、三井住友銀行のホールセール業務で実務適用を開始する内容が読める。

AB-MCTS(Sakana AI 技術解説)(外部)
リリースが参照する探索技術の公式解説。深掘りと分岐を切り替える考え方と、ARC-AGI-2での実験結果が図示されている。

AIによるAI研究の実現へ:AIサイエンティスト論文がNature誌に掲載(外部)
研究の一周をAIが自律的に回す仕組みを、Nature誌への掲載報告としてまとめた公式解説。共同研究の体制も記されている。

【参考記事】

三井住友銀行とSakana AIが複数AIエージェントによる提案書自動生成アプリを導入(外部)
提案書の作成が1〜2週間から数十分〜数時間に短縮される見通しであることを、採用された技術の構成や導入範囲とあわせて報じている。

Sakana AIの自動研究AI「The AI Scientist」、Nature誌に論文掲載(外部)
The AI Scientistの論文がNatureへ掲載された経緯と、研究チームの構成、スケーリング則の発見を伝えている。

大和証券と日本マイクロソフトが戦略的枠組み締結。AI エージェント活用で「お客様の資産価値最大化」実現に貢献(外部)
2025年6月の戦略的枠組み契約について、大和証券の担当役員がAIエージェントに期待する効率化の水準を具体的に語っている。

Sakana AI Commercializes AB-MCTS in Sakana Marlin, an Enterprise Agent Generating Up to 100-Page Research Reports With Slides(外部)
Marlinの価格を1クレジット98円、1回あたり100クレジットと示し、基盤技術であるAB-MCTSの仕組みを解説している。

大和証券、サカナAIと提携 個人にあわせ運用提案システム構築(外部)
2025年10月3日に公表された提携を、契約期間が約3年、契約料が最大で数十億円規模になると報じている。閲覧条件は要確認。

大和証券株式会社とSakana AI株式会社とのパートナーシップ契約締結について(外部)
提携時の適時開示原文のPDF。契約の位置づけ、両社の役割、中期経営計画上の位置づけが、上場企業の公式文書として確認できる。

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山本 達也
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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