EUがChatGPTに貼ったのは、規制の札ではなく「検索エンジン」という分類でした。会話型AIが世界で初めてGoogle検索と同じ列に置かれ、根拠になったのはOpenAI自身が届け出た1億5910万人という数字です。ただしこの値、ChatGPT全体の利用者数ではありません。
欧州委員会は2026年8月31日、デジタルサービス法(DSA)に基づき、OpenAIのChatGPTを超大規模オンライン検索エンジン(VLOSE)に、RedditとRobloxを超大規模オンラインプラットフォーム(VLOP)に指定した。基準はEU域内の月間平均利用者4500万人で、OpenAIはChatGPT検索の2026年3月までの6か月平均を約1億5910万人、Redditは5720万人、Robloxは4660万人と届け出ていた。
会話型AIのVLOSE指定は初である。3社は通知から4か月以内、委員会の表記では2027年1月までに、システミックリスクの評価と軽減などの追加義務に対応する。違反が認定された場合の制裁金は、全世界年間売上高の最大6%である。指定済みは28サービスとなった。
From:
Commission designates ChatGPT, Reddit, Roblox under Digital Services Act
【編集部解説】
まず、順序を間違えないでおきたいところがあります。DSAの指定は、制裁でも違反の認定でもありません。事業者が自ら公表した利用者数が法定の基準を超えたことによる、手続き上の帰結です。ChatGPT、Reddit、Robloxの3サービスは、指定される前からDSAの一般義務の対象でした。今回上乗せされたのは、最上位層に課される追加の義務です。
欧州委員会がChatGPTをどう位置づけたかは、法律の箱の選び方に表れています。委員会は、プロンプトや問い合わせに回答し、その過程でウェブ検索も行う人工知能システムとしてChatGPTを描き、複数の性格を併せ持つハイブリッドサービスとして、オンライン検索エンジンに該当すると判断しました。会話型AIがこの枠に入ったのは世界で初めてです。Google検索やBingと同じ列に、ChatGPTが並んだことになります。
この列に入ると、何がかかるのか。システミックリスクの評価と軽減、独立した年次監査、推薦システムを使う場合にはその設計に関する追加の規律、そして審査を受けた研究者へのデータ開放です。
このうち最後の一つが、いちばん遠くまで届くと考えています。システミックリスクの検出と、その軽減策の評価に必要なデータへ、審査を受けた研究者がアクセスするための制度的な回路が開くからです。回答の中身を巡る議論は、これまで利用者の体感か、限られた実験に頼るしかありませんでした。制度が観測の足場を用意する側に回ったことになります。
ただし、回答生成の内部過程がそのまま外部へ開示されるという話ではありません。何が提供されるかは、研究の目的と必要性、機密情報の保護を踏まえて個別に決まります。アルゴリズムの設計や論理そのものの説明を求められるのは、欧州委員会と各国の調整官に与えられた別の権限のほうです。研究者に開くのは、あくまでリスクを検証するための窓です。
数字の読み方にも、ひとつ注意が要ります。1億5910万人という値は、ChatGPT全体の利用者数ではありません。OpenAIがDSA第24条2項に基づいて公表している、ChatGPT検索、つまりウェブ検索機能の月間平均アクティブ受領者数です。算定期間は2026年3月31日までの6か月。OpenAI自身が、この平均値はDSA義務の遵守のみを目的に算出したものであり、他の目的に依拠・使用すべきではないと添えています。事業の勢いを語る指標として持ち出すには向かない数字だ、ということです。
そのうえで、伸びの速さ自体は追える形で残っています。同じ系列をさかのぼると、2024年10月末までの6か月平均が1120万人、2025年3月末までが4130万人、そして今回が1億5910万人です。1年でおよそ3.9倍。指定は、この成長曲線が制度の閾値と交差した地点に打たれた点であると読めます。
同時に指定されたRobloxは、届け出た4660万人が基準を160万人上回った水準でした。ゲームとクリエイションのプラットフォームがこの層に入るのは初めてで、推薦システムと利用者投稿の両方にリスク評価がかかります。子どもの利用が多い環境だけに、ここで積み上がる知見は、日本のゲーム事業者にとっても先行事例になるはずです。
監督体制については、委員会の文書のあいだで記述が分かれています。プレスリリースは、ChatGPTとRedditをアイルランドのCoimisiún na Meán、Robloxをオランダの消費者・市場庁(ACM)と組んで監督すると述べています。一方、同じ8月31日に更新された指定サービス一覧は、RedditのEU域内主要拠点をReddit Netherlands B.V.、所管のデジタルサービス調整官をオランダと記載しています。同日に出た2つの文書が、この点では重なりません。追いかける側としては、更新頻度の高い一覧のほうを基準に置き、続報を待つのが安全です。
期限の受け取り方にも注意が要ります。委員会の公式な書き方は「通知から4か月、すなわち2027年1月までに」です。DSA第33条6項は、追加義務が通知から4か月後に適用されると定めており、起点は発表日ではなく各社への通知日です。一部の報道には2026年11月末など異なる期限も見られました。日程を社内資料に落とすときは、委員会の表記と指定決定に戻して確認しておくと後で困りません。
日本の事業者にとっても、これは遠い話ではありません。4500万人という線はEU域内の利用者数で引かれているため、日本企業でもEU向けに対象サービスを提供していれば同じ物差しが当たり得ます。そしてDSA第24条2項の公表義務は、最上位層に限った話ではありません。零細・小規模企業への適用除外はあるものの、オンラインプラットフォームとオンライン検索エンジンには、EU域内の月間平均アクティブ利用者数を半年に1度以上公表する仕組みが設けられています。指定は、その自己申告の積み重ねの先に来ます。自社のサービスがどの区分に当たり、除外に該当するのかを、いま一度確かめておく価値はあります。
検索がリンクの一覧を返す作業から、答えを1つ組み立てる作業へ移りつつあるなかで、その仕組みの多くは事業者の内側にありました。今回の指定によって、システミックリスクとその軽減策を外から検証するための足場が、制度の側に一段加わります。日本新聞協会が4月に提起した、AI検索と情報の出し手の関係をどう設計するかという問いも、どのデータが研究者へ渡るかによって進み方が変わってくるはずです。2027年1月は、その最初の区切りになります。
【関連記事】
AliExpress、EUが5億5000万ユーロ制裁—DSA最大、違法品リスク評価の不備とは
DSAに基づく制裁の実例。リスク評価の質が問われた5億5000万ユーロの決定について、その経緯とともに解説している記事。
EU AI法の執行開始|透明性義務が8月2日適用、行動規範に約190組織が署名
VLOP・VLOSEを構成するAIシステムの執行をAI事務局が担う点など、DSAとEU AI法の重なりを整理した記事である。
Google AI検索に日本新聞協会が「優越的地位の濫用」声明──RAG時代のオプトアウトを問う
AI検索と情報の出し手の関係をめぐる国内の論点を扱った記事。本文の結びで触れた日本新聞協会の声明について、その背景がわかる。
bilibiliが外した本人確認の壁|YouTubeが入口を2倍にした同じ月に
4500万人という指定基準と、指定を受けてから4か月で追加義務がかかる仕組みを、別の事例に即して説明している直近の記事。
【編集部後記】
指定サービス一覧の末尾に、小さな注記が付いています。掲載された利用者数は事業者の報告によるものであり、算定方法に対する委員会の評価を妨げるものではない、という趣旨です。
つまり28サービスの数字は、まだ誰も検算していません。制度は自己申告から始まり、疑いが生じたときに委員会が算定根拠を求める。その順序で動いています。閾値のすぐ上にいる事業者ほど、この注記の意味は重くなるはずです。
【用語解説】
デジタルサービス法(DSA)
EUがオンラインサービスに違法・有害コンテンツへの対応と透明性を義務づける規則。2022年に成立し、2024年2月から全面適用されている。サービスの規模に応じて義務が段階的に重くなる構造をとる。
超大規模オンライン検索エンジン(VLOSE)
EU域内の月間平均アクティブ受領者が4500万人以上の検索エンジンで、欧州委員会に指定されたもの。DSAの最上位層にあたり、システミックリスクの評価や独立監査などの追加義務がかかる。
超大規模オンラインプラットフォーム(VLOP)
同じ4500万人の基準を超え、利用者が第三者のコンテンツを公衆に拡散できるサービスとして指定されたもの。VLOSEと同じ最上位層に置かれる。
月間平均アクティブ受領者
DSAが用いる利用者数の単位。サービスに実際に関与した者を数え、コンテンツを閲覧・視聴した場合や、情報を提供した場合が含まれる。過去6か月の平均で算出する。本記事では読みやすさのため「利用者」と表記した箇所がある。
システミックリスク
個々のトラブルではなく、サービスの仕組みそのものが社会に及ぼす広範なリスク。違法コンテンツの拡散、未成年者への悪影響、基本的権利、選挙プロセス、公共の安全などが対象となる。
ハイブリッドサービス
複数の性格を併せ持つサービス。欧州委員会は、プロンプトに回答しつつウェブ検索も行うChatGPTをこの性格のものと捉え、オンライン検索エンジンに該当すると判断した。
審査を受けた研究者
DSA第40条4項に基づき、デジタルサービス調整官の審査を経てVLOP・VLOSEの非公開データにアクセスできる研究者。目的はシステミックリスクの検出と、その軽減策の評価に限定される。
デジタルサービス調整官(DSC)
DSAの執行を担う各加盟国の当局。アイルランドはCoimisiún na Meán、オランダは消費者・市場庁(ACM)が担う。欧州委員会は最上位層の監督をこれらの当局と分担する。
推薦システム
大量のコンテンツから、表示するものを選んで並べ替える仕組み。DSAでは、これを使うVLOP・VLOSEに対し、プロファイリングに基づかない選択肢の提供など追加の規律がかかる。
【参考リンク】
Supervision of the designated very large online platforms and search engines under DSA(欧州委員会)(外部)
指定済みサービスの一覧。各サービスの利用者数、EU域内の主要拠点、所管当局、これまでの執行措置までを確認できる一次資料。
EU Digital Services Act (DSA)(OpenAI ヘルプセンター)(外部)
OpenAIがDSA第24条2項に基づき公表するページ。ChatGPT検索の利用者数と、その算定目的が限定されている旨が記されている。
Commission Delegated Regulation (EU) 2025/2050(EUR-Lex)(外部)
2025年7月1日制定、同年10月29日発効。審査済み研究者へのデータ共有について、技術的条件と手続きを定めた委任規則の原文。
The Digital Services Act(欧州委員会)(外部)
DSAの全体像を解説する欧州委員会の公式ページ。適用範囲、規模に応じた義務の階層、執行と監督の仕組みが一通りまとまっている。
OpenAI(外部)
ChatGPTを開発・提供する企業の公式サイト。EU域内の主要拠点はアイルランドのOpenAI Ireland Limitedとされる。
Reddit(外部)
話題ごとのコミュニティで構成される掲示板型サービスの公式サイト。EU域内の主要拠点はReddit Netherlands B.V.。
Roblox(外部)
利用者が制作したゲームを公開・プレイできるプラットフォームの公式サイト。EU域内には主要拠点を持たず、オランダに法定代理人を置く。
【参考記事】
ChatGPT faces EU risk rules after declaring 159.1 million users(外部)
3社の届出値を合計262.9百万人と整理したうえで、Redditの所管当局をめぐる委員会の文書間の不一致を最初に指摘した記事。
ChatGPT Is Now A “Very Large Online Search Engine” In The EU(外部)
159.1百万人が2026年3月末までの6か月平均であり、発表文ではなく各社のDSA開示に由来する数値だと整理している。
ChatGPT search is growing quickly in Europe, OpenAI data suggests(外部)
2025年4月の記事。ChatGPT検索の届出値が1120万人から4130万人へ伸びた時点を報じ、今回に至る系列の起点を確認できる。
EU places ChatGPT, Reddit and Roblox under strictest digital safety rules(外部)
DSAのこれまでの制裁実績を含めて今回の指定を解説している。監督当局の分担については、発表文側の記述を採っている記事である。
EU Designates ChatGPT as Very Large Online Search Engine After Crossing 45 Million Users(外部)
セキュリティ実務の視点から、ウェブ規模の回答を返すチャットボットが重要な検索基盤として扱われるようになった意味を論じている。
ChatGPT is now a search engine in the eyes of EU law. Here is what that actually means(外部)
DSAの二層構造を平易に整理したうえで、3社の届出値と、すでに指定を受けているサービスの顔ぶれを並べて示している解説記事。


















