Googleが9月4日に公開したLyria 3.5は、7月にFlow Musicへ載ったのと同じモデルです。変わったのは、置かれた場所と、その隣に並んだ機能でした。曲を作り込むための道具ではなく、曲を1本すぐ出すための道具として降りてきています。
Googleは2026年9月4日、音楽生成モデル「Lyria 3.5」をGeminiアプリおよびGemini APIで提供開始した。表情豊かなボーカルと豊かなアレンジにより、忠実度の高い楽曲を制作できるとしている。Geminiアプリでは、ジャンルを選ぶか記述したうえで、ボーカルとインストゥルメンタルのいずれかを選べる。
BGMから誕生日向けの楽曲までのテンプレートが加わり、尺の長短も選択できる。想定用途としては、動画のバッキングトラック、ブランドジングル、着信音を挙げた。全世界の全ユーザーがWebおよびモバイルアプリで利用できる。アーティストおよびAIクリエイター向けにはGoogle Flow Music、開発者向けにはGoogle AI StudioとGoogle Vidsでも提供される。
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Create your best tracks yet with Lyria 3.5 in Gemini.
【編集部解説】
同じモデルが、2つの面に別の顔で降りてきた
Lyria 3.5が姿を見せたのは、今回が最初ではありません。2026年7月29日、Google Flow Musicに搭載されたのが最初です。そのときGoogleが押し出したのは、BPMの指定と、フル尺楽曲のステム書き出しでした。曲をパートごとに分解して取り出す機能で、DAWに持ち込んで続きを作る人のためのものです。
今回、同じモデルがGeminiアプリとGemini APIに降りてきました。並んでいる機能は、ジャンルの選択、ボーカルかインストゥルメンタルかの選択、テンプレート、尺の長短。曲を作り込むための機能ではなく、曲を1本すぐ出すための機能です。
Googleは提供先を丁寧に書き分けています。Flow Musicは「アーティストとAIクリエイター向け」、Google AI StudioとGoogle Vidsは「開発者と技術者向け」、Geminiアプリは「全世界の全ユーザー向け」。同じLyria 3.5が、面ごとに違う顔で置かれています。
44.1kHzという数字をどう読むか
仕様にも、その性格が出ています。
Gemini APIのリリースノートを2つ並べると、変化が見えます。2026年3月25日のLyria 3は「48kHzステレオ」。2026年9月3日のLyria 3.5は「44.1kHzステレオ」。出力形式は既定がMP3で、WAVも指定できます。
先に押さえておくと、44.1kHzのナイキスト周波数は22.05kHzで、人間の可聴上限とされる約20kHzをカバーします。数字が下がったから音が悪くなった、という単純な話ではありません。Google自身も、Lyria 3.5の44.1kHzを高忠実度と表現しています。
2つの数字には、それぞれ育ってきた場所があります。48kHzは映像・放送の制作で広く使われ、44.1kHzはCDで採用されてきました。ただし現在は、音楽の制作でも配信でもどちらも使われています。たとえばSpotifyは44.1kHz以上を受け付け、48kHzや96kHzで納品されたものは自社側で変換すると案内しています。
Googleは、サンプリング周波数を変えた理由も、想定する納品先も説明していません。ここから先は筆者の見立てです。44.1kHzとMP3という組み合わせは、制作途中の素材というより、そのまま再生され共有される最終形の規格に見えます。Googleが挙げた用途例が着信音や動画のBGMであることとも、方向は揃っています。
開発者が受け取るもの
APIとして見ると、Lyria 3.5は音楽生成モデルとしてかなり細かい制御を備えています。
歌詞を自分で書き、Verse、Chorus、Bridgeといったセクションタグで構造を指示できます。さらにタイムスタンプを使えば、どの楽器がいつ入るか、どこでフェードアウトするかまで指定できます。入力はテキストだけではありません。画像を最大10枚まで渡し、その色や雰囲気から曲を起こすこともできます。
歌詞はプロンプトの言語で生成されます。日本語で書けば日本語の歌詞が返る設計です。ドキュメントが例示しているのはフランス語で、日本語での仕上がりは実際に試して確かめる領域になります。
返ってくるのは音声だけではありません。生成された歌詞と曲構成も、テキストとして同時に返ります。曲ができてから歌詞を書き起こす手間が要らない構造です。
料金は1曲あたり0.08ドルで、無料枠はありません。試しながら詰めていく使い方では、生成した回数がそのまま費用になります。
作り込みの道具としては、これから
Googleはドキュメントの「Limitations」で、いくつかの宿題を自ら挙げています。
最も重いのは、単発生成である点です。1回のプロンプトで1曲が出て、「サビをもう少し明るく」と会話を重ねて詰めることは、現時点ではできません。同じプロンプトでも結果は毎回変わるとも明記されています。良いテイクが出るまで生成を繰り返し、そこから選ぶ。そういう使い方が前提になります。
Batch API、Flex、Priority、コンテキストキャッシュにも、現時点では対応していません。大量に生成して束で処理する運用は、これから整えられていく部分でしょう。
安全側の作りは明快です。特定アーティストの声を求めるプロンプトと、著作権のある歌詞の生成を求めるプロンプトは、安全フィルタでブロックされます。出力にはすべてSynthIDの電子透かしが入り、AIで生成または編集された音楽かどうかを検出できるよう設計されています。ただしこれらは、生成した曲の商用利用が許諾されることや、第三者の権利を侵害しないことまでを保証する仕組みではありません。
日本の制作現場から見ると
Geminiアプリ側は、全世界の全ユーザーに開放されています。日本のユーザーも、今日から使える状態です。
Googleが挙げた用途例が、動画のバッキングトラック、ブランドジングル、着信音であるのは示唆的です。いずれも、これまで外注するか、既製の音源ライブラリで賄っていた領域です。店舗紹介動画に敷くBGM、イベント告知の短いジングル。中小の事業者がこれらを自前で用意しにくかった背景には、予算だけでなく「権利の処理が分からない」という壁があったように思います。
そこに、生成物の識別を助けるSynthIDと、権利侵害のリスクを一定程度抑える安全フィルタを備えたモデルが置かれました。権利処理そのものが片づくわけではありませんが、出発点としての意味は小さくありません。
音楽生成の争点は、この1年で移ってきました。どこまで長く作れるか、から、聴いて違和感がないか、へ。そして今回、作ったあとどう扱うか、へ。Lyria 3.5がGeminiアプリとAPIに加わったことで、AIで作る音楽は、完成した作品としてだけでなく、動画やサービスを構成する素材としても使いやすくなりました。使われる量が増えれば、次に問われるのは、その識別と権利をどう管理するかのほうでしょう。
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【編集部後記】
9月3日という日付が、二度出てきます。GoogleがLyria 3.5をGemini APIのパブリックプレビューに置いた日であり、Sunoがダウンロード上限を定めた新しい規約を施行した日でもあります。
Sunoは出口を絞りました。生成そのものは安いまま、取り出せる回数が有限になり、商用利用の権利がダウンロードに紐づきました。Googleは入口に安全フィルタを置き、出口には透かしを入れています。同じ圧力に、違う場所で答えているように見えます。
あなたが作った曲を守るのは、どちらの設計でしょうか。
【用語解説】
Lyria 3.5
Googleの音楽生成モデル。テキストと画像から44.1kHzのステレオ音声を生成し、歌詞と曲構成もテキストで返す。2026年7月にGoogle Flow Musicで先行提供され、9月にGeminiアプリとGemini APIへ広がった。
ステム
完成した楽曲を、ドラム、ベース、ボーカルといったパートごとに分けて書き出したファイル。後から音量やエフェクトを個別に調整できるため、映像制作や再編集の現場で使われる。
DAW
Digital Audio Workstationの略。パソコン上で録音、編集、ミックスを行う音楽制作ソフトの総称。Logic Pro、Ableton Live、Cubaseなどが該当する。
サンプリング周波数
音を1秒間に何回記録するかを示す値。44.1kHzはCDで採用され、48kHzは映像や放送の制作で広く使われてきた。現在はどちらも音楽の制作と配信の双方で使われている。
ナイキスト周波数
サンプリング周波数の半分にあたる値で、理論上その音声が再現できる上限の高さを示す。44.1kHzなら22.05kHzとなり、人間の可聴上限とされる約20kHzを上回る。
SynthID
Google DeepMindが開発した電子透かし技術。生成した音声に人の耳では聞き取れない信号を埋め込み、AIが生成または編集した音声かどうかを後から検出できるようにする。
セクションタグ
歌詞のなかに[Verse](Aメロ)、[Chorus](サビ)、[Bridge]のように書き込み、曲の構成をモデルへ伝える記法。
Batch API/Flex/Priority/コンテキストキャッシュ
Gemini APIが備える処理方式の選択肢。まとめて安く処理する、優先的に速く処理する、同じ入力を使い回して費用を抑えるといった使い分けができる。Lyria 3.5はいずれにも対応していない。
バッキングトラック
映像やナレーションの背後に敷く伴奏。主役ではなく、下地として機能する音を指す。
【参考リンク】
Generate music with Lyria 3.5(Google AI for Developers)(外部)
Lyria 3.5の公式ドキュメント。入出力の仕様、歌詞やタイムスタンプによる構成の指定、安全フィルタなどの制約が並んでいる。
Gemini API リリースノート(外部)
Gemini APIの更新履歴。Lyria 3の48kHz、Lyria 3.5の44.1kHzという記述を日付とともに確認できる。
Lyria 3.5(Gemini API モデルページ)(外部)
入力トークンの上限や、Batch API・コンテキストキャッシュなどへの対応状況を一覧で示した、モデルの仕様ページである。
Gemini Developer API pricing(外部)
Gemini APIの公式料金表。Lyria 3.5を含む各モデルについて、無料枠の有無と1曲あたりの単価が掲載されている。
Audio file formats for Spotify(外部)
Spotifyへの音源納品仕様。44.1kHz以上を受け付け、48kHzや96kHzで納品されたものは同社側で変換すると案内している。
【参考記事】
Google Brings Lyria 3.5 Music Generation to the Gemini App and API(外部)
提供開始を報じるとともに、Flow Musicでの先行提供や、DeepMindが挙げるアーティスト協業事例まで押さえた記事。
Google Lyria 3.5 Brings Full-Length AI Music Generation to Gemini API(外部)
開発者視点の解説。Lyria 3の30秒からフル尺への変化と、APIの公開が9月3日であった点を、順を追って整理している。
Google brings its best AI music model Lyria 3.5 to the Gemini app(外部)
Geminiアプリ側の操作に寄せた記事。テンプレートから着信音やジングルを作る流れを、画面に沿って具体的に説明している。


















