【解説】NEC調査|人はAIに「全自動」を求めていなかった

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日常的にAIを使う10代は80.6%で、全年代で最も高い数字です。その10代が、健康の判断で「AIより人を強く信じる」割合でも、どの年代より高くなりました。いちばん使う世代が、決めることは手放していない。NECの調査は、この一見ちぐはぐな姿の意味を問いかけています。


NECは2026年9月15日、全国の15〜74歳の男女2,057人を対象とした「AIとウェルビーイングに関する生活者調査」のレポートを公開した。

調査は2026年6月にインターネットで実施した。プライベートでのAI利用率は72.9%で、AIによって幸福感が「向上した」は18.2%、「低下した」は6.0%、「変わらない」は75.7%だった。AI利用者1,500人のうち、自由度が広がったと感じる人は70.1%、達成感が減ったと感じる人は58.4%だった。今後のAIに求める役割は伴走・協働型が27.6%、自律・先導型エージェントが7.4%である。5〜10年後のAIエージェントに「すべて任せたい」とした人は、6つの生活場面のいずれでも3〜4%だった。

記事をもとに編集部で動画化しました

NECの調査が問いかけた「どう使うか」

全国15〜74歳の2,057人を対象にしたNECのインターネット調査では、プライベートでAIを使っている人が7割を超えた一方、AIで幸せになった人は2割に届きませんでした。見出しの数字だけを並べると、AIの期待外れを示すデータに見えるかもしれません。

ただ、NEC自身はこの差をそうは読んでいません。幸福感を左右しているのは「どれだけ使うか」ではなく「どう使うか」ではないか。レポート全体が、この問いを確かめる構成になっています。

頻繁に使う層では「幸せになった」が41.9%に上り、利用頻度と幸福感には相関も見られます。そのうえでNECが掘り下げているのが、同じAIを使う人のなかで手応えが分かれる、使い方の違いです。なお、回収は年代・性別のバランスを考慮して行われていますが、人口構成への補正方法は公表されていないため、数値は調査回答者の集計として読むのが適切です。

生活者はAIに何を任せ、何を残しているのか

よく使う層ほど、AIと「話す」使い方が多い

使い方の違いは、利用頻度ごとの比較にはっきり表れています。AIをほとんど使っていない層では、新しい使い方を探している人が22.8%でした。頻繁に使う層ではこれが3.3%にとどまり、代わりに「対話しながら自分の考えをまとめていく」人が31.7%と、ほとんど使っていない層(16.2%)のおよそ2倍になっています。

興味深いのは、「AIが出したものを自分で確認・修正してから使う」人が、利用頻度の異なるどの層でも約50%だった点です。よく使う層でも、確認・修正型の割合は下がっていません。NECはこれを、最後の判断を自分の手に残しておきたいという意思の表れと解釈しています。

使い方ほとんど
使っていない
(197人)
ときどき
使っている
(573人)
頻繁に
使っている
(511人)
AIが出したものを自分で確認・修正してから使う49.7%50.6%50.5%
AIと対話しながら、自分の考えをまとめていく16.2%30.0%31.7%
答えをAIに出してもらい、そのまま使う11.2%9.4%14.5%
試行錯誤しながら、AIの新しい使い方を探している22.8%9.9%3.3%
利用頻度別のAIの使い方。使い方が明確に定義された回答者1,281人が対象で、利用頻度の異なる別々の回答者を比べたもの。出典:NEC「AIとウェルビーイングに関する生活者調査」p14

利用頻度別のAIの使い方。使い方が明確に定義された回答者1,281人が対象で、利用頻度の異なる別々の回答者を比べたもの。出典:NEC「AIとウェルビーイングに関する生活者調査」p14

「全自動」を望む声は、よく使う層でも少ない

AIエージェントの開発競争が進むなかで、生活者の側の答えは控えめです。今後のAIに求める役割として、自分の代わりに判断・行動する自律型や、指示なしで動く先導型を選んだ人は、合わせて7.4%でした。頻繁に使う層に絞っても7.5%と、ほぼ変わりません。

5〜10年後を想像してもらった設問でも、6つの生活場面すべてで「承認も不要で、すべて任せたい」は3〜4%にとどまりました。旅行の計画(+10.1)や健康管理(+10.8)のように、任せた未来を「幸せ」と予測する人が上回る領域もあります。そのなかでSNSやコミュニケーションだけは、任せた未来の幸福感の予測がマイナス(−2.4)になりました。人との関係を代行させることには、はっきりした抵抗があるようです。

作る側も「決めるのは人」に線を引き始めている

この結果は、AIを提供する企業の最近の動きと重ねると、別の意味を帯びてきます。

NECは2026年8月、部門長から社員までの役割をAIが担う社内組織「コーポレートAI・Workforce部門」を新設したと発表しました。業務の遂行はAIが担う一方、最終的な評価と意思決定、品質とガバナンスの統制は人が担う設計です。

電通など国内電通グループ4社が9月10日に提唱した購買行動モデル「AIJES」も、AIの活用が進んでも最終的な意思決定を担うのは人間だとして、その「判断」に着目しています。

AIに業務を大きく任せる組織をつくった会社と、AI時代の購買行動を描き直した会社。対象は異なりますが、AIと協働しても、最終的な判断は人に残すという点で重なっています。今回の調査は、その考え方が調査回答者の感覚とも近いことを示す数字だと、私は受け止めています。

幸福感を分けるのは、不安の中身と使い方

不安の正体は、情報より「自分らしさ」

AIへの不安として挙がりやすいのは、偽情報やプライバシーです。今回の調査でもこの2つは上位でした。しかし、AIで幸せになった層と不幸になった層を比べると、その差はいずれも3ポイント前後しかありません。

差が大きかったのは、「AIに行動を方向づけられる不自由さ」(23.5ポイント差)、「人と直接話す機会が減る寂しさ」(22.0ポイント差)、「自分のスキルが衰える不安」(17.4ポイント差)です。不幸になった層は64人と小さな集団のため、差の大きさそのものより、傾向として読むのが適切でしょう。

AIへの不安幸せになった層
(355人)
不幸になった層
(64人)
偽情報・フェイクへの不信感45.4%48.4%3.0pt
個人情報・プライバシーへの不安34.6%37.5%2.9pt
AIに行動を方向づけられる不自由さ9.3%32.8%23.5pt
人と直接話す機会が減る寂しさ12.4%34.4%22.0pt
自分のスキル・能力が衰える不安21.7%39.1%17.4pt
AI利用者のうち、AIで幸せになった層と不幸になった層の比較(複数回答から5項目を抜粋)。出典:NEC「AIとウェルビーイングに関する生活者調査」p23

AI利用者のうち、AIで幸せになった層と不幸になった層の比較(複数回答から5項目を抜粋)。出典:NEC「AIとウェルビーイングに関する生活者調査」p23

NECは、企業に期待する発信のうち安全性やプライバシーを、幸不幸を問わず期待される土台と位置づけています。そのうえで何を設計に加えるか。NECは、ユーザーが自分で考え、選び、決める「主体性の余白」を残すことを提案しています。AIの先回りが便利さの指標として語られることが多いなかで、あえて先回りしすぎない設計を価値として示している点は、提供側の視点として新鮮です。

達成感が減った層で、対話型が示した違い

AI利用者のうち、使うようになって自由度が広がったと感じる人は70.1%に上る一方、「自分でやり遂げた」という達成感は58.4%が減ったと答えています。回答者全体では、自由度が広がった実感と、達成感が減った実感が併存しているということです。両者を掛け合わせた集計ではないため、自由度の拡大が達成感を下げたとまでは読めません。

この葛藤がとくに強いのが、「多少手間がかかっても、自分の力でやり遂げたい」を選んだプロセス重視派です。このうちAIで達成感が減った468人に絞ると、AIと対話しながら使っている人の幸福スコアは+16.8で、それ以外の使い方の人の+2.4を14.4ポイント上回りました。対話型は95人と小さな集団で、統計的な有意差も示されていません。また一時点での自己申告調査のため、対話が幸福感を高めたという因果までは言えません。それでも、「任せる」より「一緒に考える」使い方に手応えを残す可能性がある、というNECの読みと整合する結果です。

なお、NECの公式ページの図の説明は、幸福感の割合(22.1%と8.3%)を示した直後に「7倍」と記しています。調査レポート原本で7倍とされているのは、幸福スコアの+16.8と+2.4です。幸福スコアは割合の差なので、本記事では倍率を使わず、差で示しました。

いちばんAIを使う10代が、いちばん人を信じている

年代別では10代の姿が際立ちます。日常的なAI利用は80.6%、AIで「幸せになった」は31.8%で、いずれも全年代で最も高い数字です。

それでいて、健康の判断で「AIより人を強く信じる」10代は42.4%で、ほかの年代より14.8ポイント以上高くなっています。進路・キャリアの相談でも34.7%で最も高い値でした。AIの日常的な利用率が最も高い世代が、人生の重要な判断では人を最も頼りにしている。NECはこの姿を、拒絶でも丸投げでもない、次世代の共生モデルの原型と表現しています。

「どこまで任せるか」から「何を残すか」へ

AIの進化は、これまで主に「どこまで任せられるようになったか」で語られてきました。今回の調査が示しているのは、回答者の多くが、任せてよい範囲と自分に残したい範囲を分けて考えているという姿です。

NECは9月30日に、この調査結果を踏まえた有識者5名へのインタビュー記事を公開する予定です。予防医学、シェアリングエコノミー、若者研究、デザインエンジニアリングなど、異なる分野の視点からこの結果がどう読まれるのか。AIを「全自動の道具」ではなく「考える相棒」として設計する議論は、ここから具体的な形を持ち始めるのかもしれません。

【参考記事】

NEC、AIとウェルビーイング調査を公開 利用率7割超でも幸福感向上は18.2%(外部)
Biz/Zineによる調査の紹介記事。AI利用率、幸福感の変化、プロセス重視派の達成感、不安の差などを数値とともに整理している。

電通グループ4社、AI時代の購買行動モデル「AIJES」を提唱 人とAIによる新意思決定プロセス提示(外部)
MarkeZineによるAIJESの紹介記事。電通グループ4社の役割分担と、2025年から進めてきたモデルの実践について伝えている。

国内電通グループ、AI時代の新購買行動モデル「AIJES」を提唱(外部)
マイナビニュースによるAIJESの紹介記事。AISASとの比較や、AIに問いを立てて意思決定する行動の広がりを伝えている。

【関連記事】

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【編集部後記】

本文では扱いきれなかった数字があります。この1か月に顔認証や指紋認証でスマホなどのロックを解除した人のうち、それを「AIの機能だ」と意識していた人は15.8%でした。生成AIへの質問・相談では93.9%です。

調査が描いた「自分で決める余白」は、AIを相手として意識できる場面の話でした。では、気づかれないまま働くAIに、人はどんな余白を求めるのでしょうか。予測変換の候補をそのまま選ぶ一瞬にも、小さな判断は潜んでいるはずです。


【用語解説】

ウェルビーイング
身体的・精神的・社会的に良好な状態を指す概念。本調査では「生活全体の幸せ・心の豊かさ」としての幸福感を尋ねている。

幸福スコア
NECの調査で用いられた指標。「幸せになった」と答えた人の割合から「不幸になった」と答えた人の割合を引いた差で、単位はポイントである。

AIエージェント
利用者の目的に沿って、情報の収集から判断、手続きの実行までを自律的に進めるAI。本調査では5〜10年後に生活場面を代行する存在として尋ねている。

プロセス重視派
NECの調査で「多少手間がかかっても、自分の力でやり遂げたい」を選んだ回答者。「AIに任せてでも、早く結果を出せるほうがよい」を選んだ結果重視派と対になる。

主体性の余白
NECが提案する設計の考え方。AIに任せすぎず、ユーザーが自ら考え、選び、決める余地をサービスの中に残すことを指す。

有意差
観察された差が偶然のばらつきでは説明しにくいことを、統計的な検定で確かめた状態。回答者の少ない集団ほど、差があっても有意と判定されにくい。

AIJES(アイジェス)
国内電通グループ4社が2026年9月に提唱した購買行動モデル。蓄積(Archive)、問答(Interaction)、判断(Judgment)、参加(Engagement)、評価(Score)の5つで構成される。

【参考リンク】

NEC「ところでAIは、人を幸せにしてくれますか?」(外部)
調査の公式解説ページ。幸福感の変化、AIの利用スタイル、不安の中身、企業に期待する発信などを図解とともに詳しく紹介している。

AIとウェルビーイングに関する生活者調査レポート(PDF)(外部)
全66ページの調査レポート原本。設問文と回答者の母数、性別・年代・利用頻度などの属性別クロス集計まで確認できる一次資料である。

AI の利用率は 7 割超、幸福感が「向上した」のは 18.2%/幸福感に影響を与えるのは自律性と主体性(PR TIMES)(外部)
NECによる2026年9月15日の発表。調査結果のサマリーと、9月30日公開予定の有識者5名のインタビューを告知している。

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NECによる2026年8月10日の発表。AIが業務を遂行し、最終的な評価・意思決定は人が担う社内組織の設計を説明している。

国内電通グループ、AI時代の新購買行動モデル「AIJES」を提唱(外部)
電通グループ4社による2026年9月10日の発表。蓄積・問答・判断・参加・評価で構成し、人の最終判断に着目したモデルを示す。

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山本 達也 代表社員
合同会社デジタルの窓口 代表。ウェブ解析士。生成AI・サイバーセキュリティ・ 宇宙開発領域を中心に執筆。

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