「AIに仕事を任せる」とよく言われますが、実際に人は何をどこまで任せ、その結果として働き方はどう変わったのでしょうか。Perplexityがハーバード・ビジネス・スクールと組んで、自律型AIエージェント「Computer」の実際の使われ方を大規模に分析した研究を公開しました。同じ作業を従来のAI検索と比べると、Computerは桁違いに長く自律的に働き、時間もコストも大幅に削減。さらに利用者は、自分の専門の外にある仕事にまで手を広げていました。鍵になるのは、人が「自分で作業する人」から「AIに任せて確認する人」へと立ち位置を移していくという変化です。期待と不安の両方を見据えながら、その中身を読み解いていきます。
Perplexityは2026年6月8日、Harvard Business Schoolの研究者と共同で、Perplexity Computerの実利用に関する研究を公開した。Computerは2026年2月25日にローンチされ、累計クエリは5月27日時点で初週の84倍に達した。
10万件の無作為標本では最大のタスクカテゴリーがリサーチと分析で25.8%、次いで文書・アセット作成が18.6%だった。SearchとComputerのマッチした1万組では、1セッションあたりの機械実行時間がComputer平均26分、Search33秒で48倍の差となった。ツールベースの推計ではSearch+人間が平均269分、Computer+人間が36分で作業時間87%減、コスト94%減。プログラミングは596分対48分だった。
8000人の調査ではComputer利用者が主たる職種の外で働く割合が59%、Searchは50%。改訂版ブルームの分類法ではComputerクエリの76%、Searchの55%が高次の認知を要した。
From:
How AI Agents Reshape Knowledge Work(Perplexity Research)
【編集部解説】
まず押さえておきたいのは、この研究が「AIに何ができるか」ではなく「人が実際に何をAIに任せたか」を、実利用データから測った点です。能力のデモではなく、現場での行動データだという点に新しさがあります。
要約で触れた効率の数字(時間87%減、コスト94%減)は、人間の作業時間を直接観測できないため、ツール分類・LLM推計・利用者25人へのインタビューという3つの独立した手法で挟み撃ちにして導かれています。手法が異なるのに結論の方向がそろっている点は、数字の信頼性を一定程度支えています。
ただし、Perplexity自社製品の自社分析である以上、割り引いて読む視点も必要です。実際、利用者インタビューでの高速化は5倍から300倍超まで開きがあり、中央値は25倍でした。「94%削減」という見出しの数字は平均値であって、誰もが一律に得られる効果ではありません。
この研究が示す本質は、速度やコストよりも「役割の移動」だと私は受け止めています。利用者は手を動かす操作者(オペレーター)から、目標を与えて出力を確認する監督者(スーパーバイザー)へと立ち位置を変える。記事の言葉を借りれば「Searchは説明し、Computerは生み出す」という分業の転換です。
注目したいのは「水平拡張」のほうです。Computer利用者が本来の職種の外で働く割合は59%に達しました。これは、一人がマーケティングも開発も財務も横断できるようになることを意味し、これまで複数の職務で分けていた仕事の束ね方そのものが揺らぐ可能性を示しています。
一方でリスクも見えます。職種の壁を越えて成果物を作れるということは、専門家のレビューを飛ばしたまま「それらしい」アウトプットが量産されうるということでもあります。法務や医療といった領域でこれが起きれば、誤りの検証コストはむしろ増える懸念があります。
労働市場への含意も小さくありません。仕事が「役割」ではなく「タスク」単位で再編されれば、雇用の単位も組織の形も変わります。研究者自身が、長期的影響は速度やコストでは測れず「仕事の束ね方、職務の定義、チームの編成」に現れると留保しているとおりです。
なお、この研究は2026年6月5日に技術レポートとして公開され、6月8日に解説記事として発表されました。同じ研究チームのジェレミー・ヤンらは、これに先立ちCometとComet Assistantを対象とした先行研究も発表しています。今回はその延長線上で、汎用エージェントであるComputerに焦点を移した位置づけになります。
なぜ今この記事を取り上げるのか。それは、生成AIブームが「賢いチャット」の段階から「自律的に働くエージェント」の段階へ移る転換点を、初めて大規模データで裏づけた一例だからです。期待と不安の両方を冷静に見極める材料として、読者のみなさんに届けたいと考えました。
【用語解説】
エージェント(AIエージェント)
利用者が目標を指定すると、複数のツールにまたがって計画・実行し、必要に応じて確認を求めながら成果物を返すAIのことだ。質問に答えるだけの会話型アシスタントと区別される。
オーケストレーター
複数のツールやAIモデル、サブエージェントを統括し、ひとつの目標に向けて作業全体を組み立てて進める仕組みを指す。Perplexity Computerは汎用オーケストレーターと位置づけられている。
Model Context Protocol(MCP)
AIが外部のアプリやサービスとデータをやり取りするための接続規格である。これによりエージェントは複数の連携サービスを横断して作業できる。
API(Application Programming Interface)
ソフトウェア同士が機能やデータをやり取りするための接続口だ。エージェントはAPI経由で外部サービスを呼び出して作業を実行する。
改訂版ブルームの分類法
学習や思考の認知レベルを、記憶・理解・応用・分析・評価・創造という段階で整理した枠組みである。本研究では、Create(創造)レベルなど高次の認知をどれだけ要するかの指標として用いられた。
O*NET
米国労働省が整備する職業情報データベースだ。職業ごとに必要な知識領域や作業活動を体系化しており、本研究ではタスクの広がりを測る基準として使われた。
BLS OEWS(米国労働統計局 職業別雇用・賃金統計)
米国労働統計局が公表する、職業別の雇用者数と賃金の統計である。本研究では作業時間をコストに換算する際の領域別平均時給の出所となった。
差分の差分(difference-in-differences)
ある施策の効果を測るため、対象群と比較群それぞれの「前後の変化の差」をさらに比較する分析手法だ。本研究ではComputer採用がSearch利用に与えた影響の推定に用いられた。
【参考リンク】
Perplexity Computer(外部)
本研究の分析対象となった汎用AIエージェント。目標を指定すると複数ツールを横断して計画・実行し成果物を返す製品の公式ページ。
Perplexity(外部)
引用付きの回答を返す「アンサーエンジン」を提供する企業の公式サイト。Search、Comet、Computerを順次公開してきた。
Harvard Business School(外部)
本研究をPerplexityと共同で行ったハーバード大学経営大学院の公式サイト。経営・経済分野の研究と教育を担う機関である。
技術レポート(arXiv)(外部)
本記事の基となった研究論文。2026年6月5日に提出され、数値や推計の詳細な手法を確認できる学術リポジトリのページ。
O*NET OnLine(外部)
米国労働省が運営する職業情報データベースの公式サイト。タスクの知識領域や作業活動の広がりを測る基準に用いられた。
U.S. Bureau of Labor Statistics(OEWS)(外部)
本研究で領域別の人件費換算に使われた職業別雇用・賃金統計を公表する米国労働統計局の公式ページ。
【参考動画】
【参考記事】
How AI Agents Reshape Knowledge Work(arXiv 技術レポート)(外部)
完了時間を269分から36分へ短縮し時間87%・コスト94%削減、不満率はSearchより55%低いと示す論文。2026年6月5日提出。
Harvard Just Proved It: AI Agents Cut 87% of Work Time and 94% of Costs(FourWeekMBA)(外部)
18領域で作業時間87〜96%減・コスト94%減、中央値25倍の高速化を引き、役割転換を論じた解説記事。
Who’s Adopting AI Agents—and What They’re Actually Doing With Them(HBS Working Knowledge)(外部)
ヤンらの先行研究を紹介。エージェント市場が2025年80億ドルから2034年1990億ドルへ拡大との推計を伝える。
The Agentic AI Reality Check(Harvard D^3 Institute)(外部)
CometとComet Assistantを扱った先行研究を取り上げ、生成AIからエージェントAIへの移行を経営層への重要なシグナルと位置づける。
【関連記事】
Perplexity Computer──19モデルのAIが働き続けるマルチモデル自律エージェント
今回の研究が分析した製品のローンチ直後の解説。19モデルを束ねる仕組みと設計思想を押さえられる。
Perplexity Computer登場—リサーチからデプロイまで、AIがプロジェクトを丸ごと完結させる時代へ
ワークフロー統合という設計思想を解説。「操作者から監督者へ」という役割転換の論点とつながる。
Perplexity Computer|AIがデータの処理場所を自動判断─ローカルとクラウドを振り分ける「ハイブリッド推論」を7月導入へ
直近の機能拡張を扱った最新動向。本記事とセットで読むと製品の進化が立体的に見える。
【編集部後記】
この研究を読みながら、私自身ずっと考えていたのは「自分なら、何を任せて、何を手元に残すだろう」という問いでした。エージェントが操作を肩代わりするほど、私たちには目標を定め、出てきたものを見極める役割が残ります。
みなさんの仕事のなかで、思い切って委ねられそうな部分はどこにあるでしょうか。逆に、これだけは自分の手で確かめたいと感じる部分は。もしよければ、その線引きを一緒に探していけたら嬉しいです。












