新規事業の現場で生成AIを最もよく使っているのは、若手ではなく部長クラスでした。株式会社ARCHECOが会社員・経営層20,000人に聞いた調査の数字です。ただし調査元は、この勾配の主因は役職ではないと、同じレポートの中で自ら書き添えています。数字の主役は、肩書きではありませんでした。
株式会社ARCHECOは2026年8月20日、全国の会社員・経営者/役員20,000人への「新規事業の生成AI利用 2万人実態調査」を公開した。調査期間は2026年8月17日から19日。直近3年に新規事業へ関わった4,794人のうち、生成AIを「ほぼ毎日」使う人は33.6%、週1回以上は66.4%である。週1回以上の利用率は一般社員55.4%、係長・主任61.2%、課長71.3%、部長クラス75.7%と役職とともに上がり、経営者・役員のみ58.6%に反転する。
関わり方で分けると責任者78.5%、メンバー57.7%。年齢帯別では25〜34歳77.3%から55歳以上59.0%へ下がる。同社は回答者パネルの役職構成に偏りがあり、数値は就業者全体の推定値ではなくパネル内の実測値だと明記している。
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新規事業の生成AI利用 2万人実態調査|役職・年齢・企業規模別の利用率データ
【編集部解説】
この調査が数えているのは、導入した企業の数ではありません。
日本の生成AIの広がりは、これまで主に入口の指標で語られてきました。総務省の令和8年版情報通信白書では、個人の生成AI利用経験率が58.8%、自社の一つ以上の業務で生成AIを利用する企業が86.4%とされました。個人は利用の経験、企業は業務での利用の有無を測る指標であり、どちらも頻度や使い込みの深さまでは示しません。
今回のARCHECOの調査は、そこから一歩内側に入ります。新規事業という特定の業務に限って、誰が、どれくらいの頻度で使っているかを聞いた。入口の話が一巡したあとに見えてくるのは、分布です。
見出しの数字は、原典自身が読み替えている
「役職が上がるほど使う」は、たしかにグラフのとおりです。週1回以上の利用率は一般社員55.4%から部長クラス75.7%まで、きれいに階段を上ります。
ただしARCHECOは、分析のセクションでこの勾配の主因は役職ではないと自ら書いています。責任者として関わった層の週1回以上利用は78.5%、メンバーとして関わった層は57.7%。そして責任者の比率は、一般社員の14.4%に対して経営者・役員では83.0%まで開きます。同じメンバー同士で比べると、役職差は一般社員52.5%から課長63.4%まで縮みます。
強く関連していたのは、肩書きそのものより、その事業への関わりの深さでした。背負う人が上位役職に偏って存在するため、集計すると役職順のグラフになる。ARCHECOは「役職が上がるほど使う」の実態を、この二段構造として説明しています。ここで見えているのは関連であって、役職や関与の深さが利用を生むという因果まで証明されたわけではありません。
この読み替えは、リリースの見出しを自分で読み直す作業でもあります。それを本編に書き込んでいる点は、この調査の性格をよく表しています。
別の調査でも、似た形が出ている
パーソル総合研究所が2026年2月に公表した「生成AIとはたらき方に関する実態調査」では、2025年10月時点の業務での生成AI利用割合が、部長62.0%、課長58.3%と管理職層で高く、役員43.6%、代表取締役・社長40.2%、一般社員・従業員35.5%と続きました。母数も設問も違うため数値そのものを並べることはできませんが、管理職層で高く経営層で相対的に低いという分布は、別の調査でも観察されています。
ただし、この分布自体が動いています。同研究所が2026年7月に公表した後続の「AI環境における人材とマネジメントに関する定量調査」では、2026年5月時点で代表取締役・社長相当が40.2%から57.5%へ17.3ポイント上がり、管理職層も軒並み10〜17ポイント増えました。役職ごとの高低は、半年単位で書き換わる速さで動いているということです。
生成AIは若手から広がる、という見立て自体が外れているわけではありません。生活者としての利用率を見れば、若い世代のほうが高い。ただし今回の新規事業関与者に限ると、責任者として関わる層ほど利用率が高いという、別の分布が見えます。
経営者の二極化は、年齢と会社の規模が重なった場所で起きている
経営者・役員(関与者713人)は「ほぼ毎日」が36.2%と部長に次ぐ高さでありながら、「ほとんど・全く使わない」も26.5%と全役職で最も高い。使わない189人の内訳を見ると、79.4%が55歳以上、74.6%が従業員49名以下の企業に集中していました。対照的に、5,000名以上の企業の経営者・役員は70.9%が「ほぼ毎日」と答えています(n=55のため、ARCHECO自身も参考値としています)。
そして従業員49名以下の企業では、新規事業の関与者841人のうち44.9%を経営者・役員が占めていました。ARCHECOは、小さな会社の新規事業と生成AIは、組織的な取り組みである以前に「社長がやるかどうか」の問題である様子がうかがえる、と考察しています。
図版だけが持っている数字がある
企業規模別のデータが、この調査でいちばん形が面白い部分です。新規事業への関与率は49名以下19.3%、50〜299名24.5%、300〜999名30.4%、1,000〜4,999名25.6%、5,000名以上21.6%と、中堅企業を頂点にした山型を描きます。
一方、関与者の「ほぼ毎日」利用率は23.3%、28.6%、32.1%、39.0%、45.5%と、規模に対してまっすぐ上がっていく。本文が言葉にしているのは両端の2点だけで、あいだの3点は図版のほうが持っています。5点そろって初めて、この直線が本当に単調であることを読者が確かめられます。
入口が最も開いているのは中堅企業、入った先が最も深いのは大企業。同じ軸の上で、機会の広さと使い込みの深さが逆を向いています。
女性の数字も同じ形です。新規事業への関与率は男性24.7%に対して女性20.5%と低いのに、関与した女性の週1回以上利用は72.6%と、男性の65.3%を上回ります。入口の広さと、入ったあとの深さは、少なくとも同じ動きをしていません。
「45歳の壁」の読み方
年齢帯別の週1回以上利用率は、25〜34歳77.3%、35〜44歳75.6%とほぼ横並びの高さを保ったあと、45〜54歳66.7%、55歳以上59.0%へ段階的に下がります。役職を揃えても差は消えず、55歳以上の一般社員では39.5%と全体で最も低い水準でした。図版では、35〜44歳と45〜54歳のあいだに破線が引かれ、「45歳の壁」と名づけられています。
ここは慎重に読みたいところです。ARCHECOは分析セクションの冒頭で、いずれも関連の観察であり因果関係の証明ではないと断っています。年齢が上がるから使わなくなるのか、使う場面のある仕事から離れていくのかは、この設計では分かれません。また回答者は自主参加型のオンラインパネルで、課長クラス以上が38.2%、55歳以上が40.8%を占めます。同社はこの構成を冒頭で開示したうえで、数値は日本の就業者全体の推定値ではなくパネル内の実測値だと明記しています。同一パネル内の比較であっても、層ごとの参加の仕方の違いや、年齢と企業規模のように絡み合った要因の影響までがなくなるわけではありません。層のあいだの差を日本の就業者全体へそのまま広げず、このパネルの中で観察された分布として読む必要があります。
次に測られるのは「決める速さ」
決裁に近い層ほど使っているという事実は、企画を出す側に跳ね返ります。上司の側が「AIを使えば企画は速く作れる」ことを体験として知っているのだから、期待値は上がりこそすれ下がらない。ARCHECOの取締役、須齋佑紀氏もその点をコメントで挙げています。
作る速さが上がった組織で、次に詰まるのは検証と意思決定です。同社はこれを「企画インフレ・決裁渋滞」と名づけています。調査レポート一覧では、第2弾「生成AI時代の新規事業開発 実態調査」を2026年9月に公開予定としています。
設問文・選択肢・回答分布の全公開に加えて、単純集計表とクロス集計表のCSVまで、出典明記だけで自由に使える形で置かれています。数字を配って終わりにせず、他人が検証できる状態にしておく。生成AIの議論が、一つの普及率から、誰がどう使っているかの分布へ移っていくとき、こういう出し方が土台になります。
今回のパネルでは、新規事業に関わる人の66.4%が週1回以上、生成AIを使っていました。少なくとも一部の現場では、問いはすでに使うかどうかではなく、速く作れるようになった企画を誰がどう選ぶのかへ動きはじめています。その答えの一部は、次の調査で見えてくるはずです。
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総務省の令和8年版情報通信白書の詳報。個人58.8%、企業86.4%という入口の指標を、設問の単位まで踏み込んで解説している。
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【編集部後記】
本文に入れられなかった数字がひとつあります。ARCHECOが同じデータから出した追加分析では、新規事業の責任者として関わる比率が、世帯年収400万円台の4.2%から2,000万円以上の27.6%まで、6.6倍に開いていました。
ただし同社は、これを「生成AIを使えば年収が上がる」とは読めない、と自ら釘を刺しています。責任ある立場にいる人が、たまたま年収も高い。それだけかもしれない。
6.6倍という開きよりも、その一行のほうを覚えておきたいところです。
【用語解説】
新規事業関与者
直近3年に勤務先の新規事業の検討・推進に関わったと回答した人。本調査では20,000名中4,794名(24.0%)が該当し、記事中の利用率はほぼすべてこの4,794名を母数とする。日本の会社員全体を指すものではない。
責任者/メンバー
新規事業への関わり方を2区分で聞いた回答区分。責任者2,016名、メンバー2,778名。役職とは別の軸であり、一般社員にも責任者が、経営者・役員にもメンバーが存在する。
週1回以上利用
「ほぼ毎日」と「週に数回」を合計した頻度の指標。「使ったことがあるか」を問う利用経験率とは別の概念で、数値を他調査と直接比較することはできない。
自主参加型オンラインパネル
調査会社にあらかじめ登録し、自らの意思で回答に参加する人の集団。就業者から無作為に抽出した標本ではないため、参加者の属性に偏りが残る。
n
各集計の対象人数。nが小さい集計は誤差が大きくなるため、調査主体が参考値として扱う場合がある。本調査ではn=55の項目がこれにあたる。
企画インフレ・決裁渋滞
生成AIによって新規事業の企画が量産される一方、検証と意思決定の処理能力が追いつかない状態を指す、ARCHECOによる呼称。同社が第2弾調査のテーマとしている。
【参考リンク】
株式会社ARCHECO(外部)
本調査の実施主体。UX/UIデザインを基盤に、生成AI導入支援、AIエージェント開発、新規事業開発の支援を手がける会社にあたる。
AI・新規事業戦略大学(外部)
ARCHECOが2026年6月に開設した実践知メディア。本調査レポートの掲載媒体で、新規事業と生成AIの記事を無料で公開している。
ARCHECO 調査レポート一覧(外部)
本調査の全データと2本の追加分析、今後の調査の公開予定をまとめたページ。設問別データと、自由に使えるCSVの入口にあたる。
パーソル総合研究所「生成AIとはたらき方に関する実態調査」(外部)
2025年10月時点の職位別・業種別の生成AI業務利用割合を掲載。記事中の部長62.0%、課長58.3%といった数値の出典にあたる。
パーソル総合研究所「AI環境における人材とマネジメントに関する定量調査」(外部)
2026年7月公表の後続調査。2026年5月時点で代表取締役・社長相当が57.5%へ上がるなど、職位別の分布の変化を示している。
【参考記事】
【生成AI:2万人調査】新規事業の現場、3人に1人が生成AIを「ほぼ毎日」利用 「若手ほど使う」は逆、利用率は役職が上がるほど高い(外部)
本調査のプレスリリース。レポート本編には載っていない取締役・須齋佑紀氏のコメントと、会社の概要をあわせて掲載しているページ。
「生成AIとはたらき方に関する実態調査」を発表 生成AIの活用で業務時間は平均16.7%削減 一方で、業務時間を削減できたのは利用者の4人に1人(外部)
2026年2月3日に公表された調査発表。管理職層で高く経営層で相対的に低いという、職位別の生成AI業務利用の分布を示した。
「AI環境における人材とマネジメントに関する定量調査」を発表 正規雇用者の生成AI利用率は54.3%、半年で12.4pt増加(外部)
後続調査の発表。正規雇用者の利用率が2025年10月の41.9%から2026年5月の54.3%へ、12.4pt増えたと報告する。
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