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The Sphere×Google AI×オズの魔法使い:生成AIが実現する没入型映画体験の革新

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-04-14 10:59 by admin

スフィア・エンターテイメント社は、ラスベガスのザ・スフィアで2025年8月28日に「ザ・ウィザード・オブ・オズ・アット・スフィア」を公開する予定である。この企画はGoogleとの協力により、生成AIを活用して1939年の名作映画「オズの魔法使い」を世界最大のスクリーンに適応させるものである。

ザ・スフィアは2023年9月29日にオープンした世界最大の球形構造物で、高さ約112m、幅約157mを誇る。内部には約15,000㎡の16K解像度LEDスクリーンを備え、外部には約54,000㎡のLEDディスプレイ「エクソスフィア」が設置されている。座席数は17,600席で、立ち見を含めると20,000人を収容可能である。

GoogleのAI基盤研究ディレクター、スティーブン・ヒクソン氏によれば、「オズの魔法使い」の適応は非常に挑戦的なプロジェクトであり、スフィアの内部ディスプレイは1億7000万以上のピクセルで構成されている。GoogleはGeminiシリーズの生成AIモデル(Veo 2やImagen 3)を使用して、映画の背景を拡張し、元々フレーム外にあったキャラクターを組み込むなど、オリジナルを超えた体験を創造する。

このプロジェクトのクリエイティブチームには、アカデミー賞とエミー賞にノミネートされたプロデューサーのジェーン・ローゼンタル氏(「アイリッシュマン」)、アカデミー賞を受賞した視覚効果の専門家ベン・グロスマン氏(「ヒューゴ」)、アカデミー賞を受賞した編集者ジェニファー・レイム氏(「オッペンハイマー」)、クリエイティブディレクターのザック・ウィノカー氏(「リトルアイランド」)が参加している。

ザ・スフィアの技術システムは、150台のNVIDIA A6000 GPUによって駆動され、NVIDIA BlueField-3 DPU、DOCA Firefly Service、Rivermax ソフトウェアを使用して中断のないデータストリーミングを実現している。コンテンツはバーバンクにあるスフィア・スタジオで制作され、「ビッグスカイ」カメラシステムを使用して非圧縮の18K画像を単一カメラで撮影している。

「ザ・ウィザード・オブ・オズ・アット・スフィア」は、ワーナー・ブラザース・ディスカバリー、Google、マグノパスとの共同制作であり、オリジナル映画の完全没入型体験として提供される予定である。

from:Google invented new ways to alter movies with AI for The Sphere. It’s sure to be controversial.

【編集部解説】

ラスベガスのザ・スフィアで公開予定の「ザ・ウィザード・オブ・オズ・アット・スフィア」は、単なる古典映画の上映ではなく、生成AIを活用した映画体験の革新的な一歩と言えるでしょう。

まず注目すべきは、この企画がただの映像のアップスケーリングにとどまらない点です。GoogleのAIチームは、Geminiシリーズの生成AIモデル(Veo 2、Imagen 3など)を駆使して、オリジナル映画の解像度向上だけでなく、背景の拡張や元々フレーム外にあったキャラクターの再現まで行っています。これは従来のCGIでは実現困難だった技術革新です。

特に興味深いのは、ウォール・ストリート・ジャーナルが報じた例で、ドロシーがアント・エムとミス・ガルチと会話するシーンでは、オリジナルではフレーム外にいたアンクル・ヘンリーが画面に登場し、家のより広い背景も表示されるようになります。これはカメラのフレーミング制約を超えた没入感を生み出す試みです。

この技術的挑戦の規模も驚異的です。プロジェクト全体で処理されるデータ量は1.2ペタバイトに達し、スフィアの16K×16K解像度(1億7000万ピクセル以上)の内部ディスプレイに対応するため、Googleの高度なAIインフラが総動員されています。

しかし、この取り組みは芸術的・倫理的な議論も引き起こしています。Fox Newsの報道によれば、映画愛好家の反応は二分されると予想されています。「映画純粋主義者」は監督やスタッフが意図した芸術的完全性が損なわれる懸念を示す一方で、没入型体験を求める現代の観客にとっては古典作品に新たな命を吹き込む機会とも言えるでしょう。

生成AIによる映画の「再解釈」は、映画製作の根本的な変革をもたらす可能性があります。映画監督が意図的にフレーミングしたショットを拡張することは、オリジナルの芸術的意図を尊重しているのか、それとも変質させているのかという問いを投げかけます。

この技術が持つポジティブな側面としては、古典作品を現代の観客に新しい形で届けられること、文化的関連性を保ちながら革新的な体験を提供できることが挙げられます。一方で、芸術作品の本質や創作者の意図が変質するリスク、AIによる「再解釈」の境界線をどこに引くかという課題も存在します。

興味深いのは、「オズの魔法使い」自体が1939年の公開当時、三色テクニカラー技術という革新的な映画技術を採用した作品だったという点です。カンザスのシーンをモノクロで撮影し、オズの世界をカラーで表現するという演出は、当時の技術的制約を創造的に活用した例でした。今回のAI活用も、現代の技術革新を映画体験に取り入れる試みと捉えることができます。

Googleとスフィアの協力関係は、エンターテイメント業界におけるAIの役割拡大を示す重要な指標となるでしょう。Google CloudのCEO、トーマス・クリアン氏が述べているように、この取り組みは「生成AIの境界を押し広げ、観客に新しい体験を提供するとともに、スタジオや映画製作者に新たな機会をもたらす」可能性を秘めています。

長期的には、この技術が映画の保存・復元方法や、過去の作品を現代の観客に届ける手段を根本から変える可能性があります。また、映画製作における「オリジナリティ」や「真正性」の概念も再定義されるかもしれません。

【用語解説】

アップスケーリング
低解像度の映像や画像を高解像度に変換する技術。AI超解像技術を使うことで、単に画像を拡大するだけでなく、ディテールを補完して高品質な表示を実現する。

NVIDIA RTX A6000
NVIDIAの高性能グラフィックスカード。48GBのグラフィックスメモリを搭載し、3Dレンダリングや4K/8K動画編集など、高負荷の処理に適している。

ビッグスカイ
Sphere Studios(スフィア・エンターテイメント社の社内スタジオ)が開発した18K解像度の超高解像度カメラシステム。3億1600万画素のセンサーを搭載し、スフィアの巨大LEDスクリーン用コンテンツを撮影するために設計された。

三色テクニカラー技術:
1932年に実用化された革新的なカラー映画技術。赤・緑・青の3原色に分解して撮影した3本のモノクロフィルムから1本のカラー映像を作成する方式。巨大な専用カメラと強力な照明が必要で、当時の映画製作に革命をもたらした。

【関連サイト】

Sphere Entertainment Co.(外部)
ザ・スフィアを運営する企業。次世代エンターテイメントメディアの開発と運営を行っている。

Google Gemini(外部)
Googleが開発した最新の生成AIモデル。マルチモーダル機能を持ち、テキスト、画像、音声などを処理できる。

Warner Bros. Discovery(外部)
「オズの魔法使い」の権利を持つグローバルメディア・エンターテイメント企業。

NVIDIA(外部)
スフィアの技術システムを支える150台のA6000 GPUを製造する企業。

STマイクロエレクトロニクス(外部)
ビッグスカイカメラの超高解像度イメージセンサーを開発した半導体メーカー。

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りょうとく
主に生成AIやその権利問題について勉強中。
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