Last Updated on 2025-04-16 16:39 by admin
アメリカの現代美術家デイヴィッド・サレ(David Salle、1952年生まれ、ニューヨーク在住)は、2023年からAIを活用した新作絵画シリーズ「New Pastorals」の制作を開始した。このシリーズは、2025年4月にロンドンのThaddaeus Ropacギャラリーで発表された。
「New Pastorals」は、サレが1999年から2000年にかけて制作した12点の「Pastorals」シリーズをもとに、AI画像生成技術と自身のアナログ絵画技法を組み合わせて制作された。
AIには、アンディ・ウォーホル、エドワード・ホッパー、ジョルジョ・デ・キリコ、アーサー・ダヴなど、故人の作品も学習させている。 制作には、テックスタートアップE.A.T__Worksのエンジニア、ダニカ・ラスズクと、AIスケッチアプリ「Wand」開発者のグラント・デイビスが協力した。
AIはサレの指示に従い、従来の作風に近いものから大きく異なるものまで幅広いバリエーションの画像を数秒で生成できる。AIが生成した画像はリネンにプリントされ、サレが手作業で加筆するハイブリッドな手法が採用されている。
サレはAIを「筆やイーゼルのような道具」と位置づけており、AIが人間のアーティストに取って代わることはないと考えている。E.A.T__Worksが収集したAI学習データは非公開であり、他のAIアーティストには利用されていない。
from:I sent AI to art school!’ The postmodern master who taught a machine to beef up his old work
【編集部解説】
デイヴィッド・サレによる「New Pastorals」は、現代アートとAI技術の融合がどこまで進化しているかを示す好例です。サレはAIを単なる模倣ツールではなく、創造性を拡張する「対話相手」として活用しています。
AIは過去の名画やサレ自身の作品を学習し、独自のバリエーションを短時間で生成しますが、最終的な作品にはサレ自身の手作業が加わることで、アーティストの意図や個性がしっかりと反映されています。
このプロセスは、AIが人間の創造性を補完し、従来の制作手法では到達できなかった新たな表現を可能にしています。特に、AIが「エッジ(輪郭)」や「空間の扱い」といった絵画的要素を学習し、サレのコラージュ的な美学と融合する点は注目に値します。
一方で、AIによる創作が進むことで、オリジナリティや作家性の希薄化、著作権や倫理的課題といった新たな問題も浮上しています。米国著作権局はAI単独生成物には著作権を認めていませんが、人間の創造的関与が明確な場合は保護対象となる可能性があります。サレのような「AI+人間」のハイブリッド作品は、今後の法的・社会的議論の重要な事例となるでしょう。
AIとアートの融合は今後さらに拡大し、アーティストの役割や創造性の定義そのものが問い直される時代に突入しています。サレの事例は、AI時代のアーティスト像や創作の本質を考える上で大きな示唆を与えています。
【用語解説】
デイヴィッド・サレ(David Salle):
アメリカの現代美術家。1980年代にポストモダン絵画の旗手として注目され、コラージュ的な手法や多様な引用を特徴とする。
Thaddaeus Ropac:
ロンドンやパリなどに拠点を持つ国際的な現代美術ギャラリー。デイヴィッド・サレの新作展も開催。
Stable Diffusion:
オープンソースの画像生成AIモデル。ユーザーが入力したテキストや画像から高品質な画像を生成できる。
【参考リンク】
David Salle – Thaddaeus Ropac(外部)
サレの代表作や最新作、展覧会情報、作品画像が多数掲載されている公式ギャラリーページ。
David Salle | Some Versions of Pastoral – Thaddaeus Ropac(外部)
AIを活用した新作「New Pastorals」シリーズの展示詳細や作品画像が見られる特設ページ。
Stability AI公式サイト(外部)
Stable Diffusionや最新の生成AIモデルを開発・公開するStability AIの公式情報サイト。
E.A.T__Works(外部)
アーティストとテクノロジストをつなぐ実験的な文化プロダクションスタジオの公式サイト。
Wand – AI canvas(外部)
アーティスト向けAIクリエイティブツール「Wand」のApp Store公式ページ。