Last Updated on 2025-04-21 12:04 by admin
中国では「身体性AI(embodied AI)」技術が急速に日常生活に浸透している。2025年4月21日付のガーディアン紙の報道によると、中国政府はAI技術を軍事力強化、縮小する労働力問題の解決、そして国民的誇りの源として積極的に推進している。
ドローン配達の実用化:
- 美団(Meituan):深セン市で40以上の「エアドロップキャビネット」を運営
- 仕組み:3km以内のショッピングモールから飛来したドローンが、顧客の電話番号で開錠できる専用ボックスに食品を配達
- 目標:人間による配達より約10%速い配達を目指す
進化するヒューマノイドロボット:
- Unitree社:2025年春節ガラでヒューマノイドロボット集団によるダンスが170億回の視聴を記録
- 世界初の競争:2025年4月19日に北京郊外で「ヒューマノイド対人間」ハーフマラソンを開催
- 技術仕様:Unitreeの「H1」モデルは27の自由度を持つ(人間の動きを完全に模倣するには60の自由度が必要)
- 産業応用:深セン拠点のUBTech社は自動車工場向けにヒューマノイドロボットを供給
中国AI技術の躍進:
- DeepSeek社:2025年1月、米国競合と同等性能でありながら大幅に安価な大規模言語モデル「R1」を発表
- 市場への影響:米国株式市場から1兆ドル(約150兆円)が消失する衝撃を与えた
- 資金調達方法:創業者の梁文峰氏は外部投資に頼らず自身のヘッジファンドで資金調達
- 戦略:モデルをオープンソース化し、中国のロボティクス企業がこの恩恵を受けている
政府の全面支援:
- 李強首相:2025年3月、「身体性AI」に焦点を当てた「デジタル経済の創造性解放」を宣言
- 地方政府:広東省は6000万元(約12億円)をイノベーションセンターに投資
- 規制環境:深センは「中国のドローン首都」として知られ、「低空経済」を促進
- 将来予測:中国民用航空局は「低空経済」の価値が10年で5倍の3.5兆元(約70兆円)に成長すると予測
実用化の現状と課題:
- 百度(Baidu):自動運転タクシー「Apollo Go」を複数都市で運行中
- 実用性の課題:ガーディアン記者が深センで利用試みるも、限られた地区での運行と20分待っても配車されず
- 従来技術との比較:人間運転のタクシーは4分で到着
- その他の応用:
- ボアオ・フォーラムではロボットアームが中国の伝統食「煎餅」を調理
- 北京の公園ではカメラ搭載の自律走行バギーによる監視も実施
テック企業の地位向上:
- 政策転換:習近平国家主席は以前、民間テック企業の富と影響力を抑制していたが、最近方針を転換
- 関係改善:アリババ創業者のジャック・マー氏やDeepSeekの梁文峰氏など、テック企業幹部との会合を実施
- 経済的背景:北京のデータ企業BigOne Labのアンバー・チャン氏は「不動産がもはや地方政府の収入源でなくなった今、彼らは優良企業を誘致し支援する必要がある」と指摘
- 業界の見方:テック企業家のリー氏は「悪い時代は終わったのかもしれない」と期待を表明
from Humanoid workers and surveillance buggies: ‘embodied AI’ is reshaping daily life in China
【編集部解説】
中国の「身体性AI」革命は、単なる技術革新を超えた社会変革の一端です。「身体性AI」とは、ソフトウェア上だけでなく物理的な「身体」を持ったAIのことで、ドローン、ヒューマノイドロボット、自動運転車などが該当します。中国政府は2025年3月の政府活動報告で初めて「身体性AI」に言及し、国家戦略として位置づけました。これは2023年11月の「ヒューマノイドロボットの革新的発展に関する指導意見」と合わせ、国家レベルでの本気度を示しています。
中国のロボティクス産業は「脳」「身体」「実世界応用」の三領域に分けられます。従来、中国は「身体」と「応用」に強みを持ちましたが、「脳」が弱点でした。しかし2025年1月に発表されたDeepSeekのR1モデルにより状況が変わりつつあります。このモデルは米国株式市場に約1兆ドルの時価総額減少をもたらし、オープンソース化されたことで中国企業が広く活用できるようになりました。
ヒューマノイドロボット市場では、Unitree社のH1モデルが春節ガラで大きな注目を集め、中国は2025年に世界生産の半分以上を占めると予測されています。美団のドローン配達や百度のApollo Goロボタクシーは実用化されていますが、まだ課題も残っています。
中国の「身体性AI」推進の背景には、2022年から始まった人口減少と労働力不足があります。また米中貿易摩擦の中で技術自立を目指す戦略的意義もあります。習近平政権は以前テック企業を厳しく規制していましたが、最近ではジャック・マー氏やDeepSeekの梁文峰氏など、テック企業幹部との関係改善の兆しが見られます。
「身体性AI」は生産性向上や高齢者介護など社会課題の解決に貢献する可能性がある一方、雇用変化やプライバシー問題など社会的影響についても慎重な議論が必要です。日本を含む他国にとって、中国の急速な発展は協力と競争の両面で重要な意味を持ちます。
【用語解説】
身体性AI(Embodied AI):
従来のAIがソフトウェア上だけで動作するのに対し、物理的な「身体」を持ち実世界で行動するAIシステム。ロボット、ドローン、自動運転車などが該当する。人間の身体と脳の関係のように、AIが物理的な形態を持つことで環境と相互作用できるようになる。
強化学習(Reinforcement Learning):
AIが試行錯誤を通じて最適な行動を学習する手法。将棋AIのように「勝つ」という目標に向かって自ら経験から学習する。従来のプログラミングでは全ての動作をコード化する必要があったが、強化学習では目標だけを与え、AIが自ら最適解を見つける。
自由度(Degrees of Freedom):
ロボットが動ける方向や関節の数を表す概念。人間の腕は肩・肘・手首の関節があり、それぞれが複数方向に動くため多くの自由度を持つ。自由度が高いほど複雑な動きができるが、制御も難しくなる。
低空経済(Low Altitude Economy):
地上から数百メートルの空域を活用した経済活動。ドローン配送、空撮、監視など、低空を飛行する機器を使ったビジネスモデルを指す。日本でいえば「空の産業革命」に近い概念。
美団(Meituan):
中国最大のフードデリバリープラットフォーム。2010年に王興(Wang Xing)が創業。日本のUber EatsやDemaecanに相当するが、その規模と多様性は比較にならないほど大きい。2023年時点で月間アクティブユーザー数は6億人以上。
DeepSeek:
2023年7月に梁文峰(Liang Wenfeng)が創業した中国のAI企業。自身のヘッジファンド「High-Flyer」を通じて資金調達し、大規模言語モデル「R1」を開発。米国企業の1/10のコンピューティングパワーで同等性能を実現し、業界に衝撃を与えた。
Unitree Robotics:
2016年5月に王星星(Wang Xingxing)が創業した中国のロボティクス企業。四足歩行ロボット(ロボット犬)で知られていたが、2025年にはヒューマノイドロボット「H1」と「G1」を発表。消費者向けロボットの大量生産に成功している。
UBTech:
2012年3月に設立された中国の人型ロボットメーカー。2023年12月に香港証券取引所に上場(銘柄コード:9880.HK)。自社開発の「Walker」は中国初の商業化された二足歩行の実物大ヒューマノイドロボット。自動車工場向けロボットを供給している。
百度(Baidu):
中国最大の検索エンジン企業で、自動運転技術にも注力。「Apollo Go」は中国の複数都市で運営される自動運転タクシーサービス。ガーディアン記者の体験によると、深センでは市内の1地区でしか運行しておらず、配車に20分近く待たされたという。
【参考リンク】
美団(Meituan)(外部)
中国最大のフードデリバリープラットフォーム。ドローン配達など先端技術を活用した生活サービスを提供。
DeepSeek(外部)
中国のAI企業。大規模言語モデル「R1」を開発し、オープンソース化。低コストで高性能なAIモデルで注目を集める。
Unitree Robotics(外部)
中国のロボティクス企業。四足歩行ロボットからヒューマノイドロボットまで幅広く開発。春節ガラで話題になったH1を製造。
UBTech(外部)
中国のヒューマノイドロボット企業。産業用から教育用まで様々なロボットを開発・製造している。
百度Apollo(Baidu Apollo)(外部)
百度の自動運転プラットフォーム。Apollo Goロボタクシーサービスを運営。オープンソースの自動運転技術も提供。