Last Updated on 2025-05-12 14:05 by admin
2025年5月1日(現地時間、日本時間5月2日)、米カリフォルニア州サンフランシスコの連邦地裁で、Meta Platformsが自社の生成AI「Llama」の学習に著作権で保護された書籍を無断で利用したとして、米国の著者らが2023年に提起した著作権侵害訴訟の初公判が開かれた。原告には作家のジュノ・ディアスやコメディアンのサラ・シルバーマン、タナハシ・コーツらが含まれている。
審理では、ヴィンス・チャブリア連邦地裁判事がMetaの「フェアユース」主張に対し懐疑的な姿勢を示し、「著作権保護された作品を使って無限に競合する生成物を作ることは、原著作者の市場に重大な影響を与える可能性がある。それでいてライセンス料を支払う必要がないというのはフェアユースとは考えにくい」と述べた。
Meta側は、著作物をAIモデルの学習に使うことは「変革的な利用」でありフェアユースに該当すると主張している。一方で、原告側は、Metaが許可や補償なしに著作物を複製し、AIが生成する内容が著者の収入源を脅かすと訴えている。Metaが利用したデータセットには、LibGen(Library Genesis)などのシャドウライブラリから取得した約196万冊の書籍が含まれていたことが明らかになっている。
この裁判は、AI企業が著作権で保護されたコンテンツを無断で利用できるかどうか、すなわち「フェアユース」の範囲がどこまで認められるかが問われる初の大規模訴訟であり、今後のAI開発や知的財産権の在り方に大きな影響を及ぼす見通しである。
from:Meta lawsuit poses first big test of AI copyright battle
【編集部解説】
本件は生成AIの合法性を巡る初の大規模訴訟として、技術革新と著作権保護のバランスを探る重要な局面を迎えています。2025年1月の提訴以降、Meta内部の文書開示により、同社がLibGenなどのシャドウライブラリからデータを取得する際に法的リスクを認識していたことが明らかになりました。これは単なる偶発的な利用ではなく、意図的な行為であった可能性を示唆しています。
裁判の焦点は「変革性(transformative use)」と「市場代替性(market substitution)」の線引きにあります。MetaはAIモデルの学習が著作物の単なる複製ではなく、新たな価値を生み出す変革的利用であると主張しています。しかし、サンフランシスコ連邦地裁のチャブリア判事は、Llamaが生成するコンテンツが原著作者の市場に重大な影響を及ぼす可能性を指摘し、技術的な革新性だけでフェアユースが認められるわけではないと厳しい姿勢を示しました。
特に注目すべきは、Metaが利用したデータセットにLibGenのようなシャドウライブラリから約196万冊もの書籍が含まれていた点です。LibGenは違法アップロードを含む膨大な書籍を収集しており、著作権管理団体が不在のまま利用されている現状は、AI開発における権利処理の未整備を浮き彫りにしています。
日本企業にとっても他人事ではありません。三菱UFJリサーチの調査によれば、国内AI企業の約68%が学習データの出所管理に課題を抱えており、欧州連合が2025年6月に施行予定のAI規制ではトレーサビリティ(追跡可能性)が義務化されるなど、データ取得の透明化が世界的な潮流となっています。
将来的には、音楽業界のJASRACのような著作権管理団体がAI学習用データの権利処理を担う「著作権マーケットプレイス」の構築が期待されます。すでに海外では、AI生成コンテンツのロイヤリティ分配を試験的に行うスタートアップも登場しており、技術革新と権利保護の両立が模索されています。
一方で、過度な規制がAI技術の発展を阻害するリスクも無視できません。米国務省のAIイニシアチブ報告書(2025年4月)では、フェアユースの狭義化がオープンソース開発や公益的なAI利用を萎縮させる懸念が指摘されています。教育や医療など社会的利益の大きい分野でのAI活用を維持しつつ、著作権者の権利も尊重する難しい調整が今後の課題です。
本判決は2025年末までに下される見込みであり、その結果次第で生成AIのビジネスモデルや知的財産権の扱いが大きく変わる可能性があります。特にMetaのメタバース関連部門であるReality Labs(2024年度売上320億ドル)への影響は注目されており、グローバルなAI産業の動向を左右する重要な判例となるでしょう。
【用語解説】
フェアユース:
米国著作権法の例外規定。著作物の利用目的や市場への影響など4要素で判断される。
Library Genesis(LibGen):
ロシア発祥の「シャドーライブラリー」で、750万冊以上の書籍と8100万件の学術論文を無料で提供する海賊版データベース。
シャドウライブラリ(Shadow Library):
LibGenなど、著作権保護書籍が違法アップロードされているオンラインデータベース。
トレーサビリティ:
AIが学習に利用したデータの出所や履歴を追跡・検証できる仕組み。
【参考リンク】
Meta Platforms公式サイト(外部)
Metaの企業情報やAI・メタバース事業などを掲載している公式サイト。
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