innovaTopia

ーTech for Human Evolutionー

マイクロソフト、DeepSeekアプリの社内使用を禁止 – データセキュリティと中国プロパガンダへの懸念

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-05-09 11:57 by admin

マイクロソフトの副会長兼社長ブラッド・スミス氏は2025年5月8日の米国上院公聴会で、同社従業員によるDeepSeekアプリの使用を禁止していると発表した。理由として、データが中国のサーバーに保存される可能性と、「中国のプロパガンダ」の影響を受けた回答が生成される懸念を挙げている。

DeepSeekのプライバシーポリシーによれば、ユーザーデータは中国のサーバーに保存され、中国の情報機関への協力を義務付ける法律の下で管理されている。また同アプリは中国当局が機密とする話題を厳しく検閲していることでも知られている。

米海軍、NASA、国防総省、複数の州政府など多くの組織がすでにDeepSeekの使用を制限しているが、マイクロソフトが公に禁止を発表したのは初めてである。

興味深いことに、スミス氏の批判にもかかわらず、マイクロソフトは今年初めにDeepSeekのR1モデルをAzureクラウドプラットフォームで提供開始しており、「有害な副作用」を排除するために「修正」を加えたと説明している。

2023年7月に中国杭州で設立されたDeepSeekは、2025年1月にリリースしたR1モデルがOpenAIのo1-1217とほぼ同等の性能を示している。

References:
 - innovaTopia - (イノベトピア)Microsoft employees are banned from using DeepSeek app, president says 

【編集部解説】

マイクロソフトがDeepSeekアプリの使用を従業員に禁止したというニュースは、単なる一企業の社内ポリシーの問題ではなく、現在進行形の米中テクノロジー競争の重要な一面を表しています。

DeepSeekは2025年1月のリリース以来、わずか数ヶ月で2220万人の日間アクティブユーザーを獲得し、月間アクティブユーザーは3370万人に達したとされています。月間訪問数は約2億7790万回と報告されており、この急速な成長は、OpenAIのモデルと比較して35倍以上安価な料金体系が一因となっています。

しかし、この急成長の裏には深刻なセキュリティ上の懸念があります。Ciscoによる検証では、DeepSeekのR1モデルは有害なプロンプトを100%ブロックできず、知識ベーステストの61%に失敗し、競合他社と比較して3倍のバイアスと4倍の安全でないコード生成リスクがあることが判明しています。

特に注目すべきは、DeepSeekのデータ収集と保存の方針です。同社のプライバシーポリシーによれば、会話履歴や検索履歴、アップロードされたファイルなどすべてのデータが中国のサーバーに保存されています。これは中国のサイバーセキュリティ法の下で、国家情報機関への協力が義務付けられる可能性があることを意味します。

また、DeepSeekは天安門事件のような中国当局が機密とみなすトピックを検閲していることが報告されており、中国政府のプロパガンダに沿った回答を提供する傾向があるとの懸念も示されています。

興味深いのは、マイクロソフトがDeepSeekアプリの使用を禁止する一方で、同社のAzureクラウドプラットフォームではDeepSeekのR1モデルを提供していることです。スミス氏によれば、マイクロソフトはこのモデルを「修正」して「有害な副作用」を排除したとしていますが、具体的な変更内容は明らかにされていません。

この状況は、オープンソースAIモデルの二面性を浮き彫りにしています。DeepSeekはオープンソースであるため、誰でもモデルをダウンロードして自前のサーバーでホストし、データを中国に送ることなくクライアントに提供できます。しかし、これによってプロパガンダの拡散や安全でないコード生成などのリスクが完全に排除されるわけではありません。

米国では、トランプ政権が2025年4月にアメリカ人のDeepSeek AIモデルへのアクセス禁止を検討していることを発表しており、前述の通り複数の州政府や連邦機関がすでにDeepSeekの使用を禁止しています。また、2025年2月には「No DeepSeek on Government Devices Act」が下院情報特別委員会のメンバーによって提出されました。

このような動きは、AIの安全性と国家安全保障のバランスをどう取るかという難しい問題を提起しています。一方では、イノベーションと競争を促進するオープンなAI開発環境の重要性があり、他方では、データセキュリティや情報操作のリスクを最小化する必要があります。

日本企業にとっても、DeepSeekのような低コストAIツールの利用には慎重な判断が求められるでしょう。コスト削減の魅力は大きいものの、データセキュリティやコンプライアンスリスクを十分に評価することが不可欠です。

【用語解説】

DeepSeek(ディープシーク)
2023年7月に中国の杭州で設立されたAI企業。オープンソースの大規模言語モデル(LLM)を開発している。2025年1月にリリースしたDeepSeek-R1は、OpenAIのモデルと同等の性能を持ちながら大幅に低コストで提供され、注目を集めた。

Azure
マイクロソフトが提供するクラウドコンピューティングプラットフォーム。サーバー、ストレージ、データベース、AIツールなど多様なサービスを提供している。

プロパガンダ
特定の意見や信念を広めるために情報を操作し、感情に訴える手法や活動。政治的・社会的な目的で使用されることが多く、真実性や客観性が欠如していることもある。

レッドチーミング
セキュリティの文脈では、敵対的な視点からシステムの脆弱性を特定するプロセス。AIの場合、モデルの安全性や倫理的問題を発見するために行われる評価手法。

大規模言語モデル(LLM)
膨大なテキストデータから学習し、人間のような文章を生成できる人工知能モデル。ChatGPTやDeepSeekなどがこれに該当する。

オープンソース
ソフトウェアのソースコードが公開され、誰でも自由に使用、修正、配布できる開発モデル。DeepSeekのモデルはオープンソースで提供されている。

【参考リンク】

DeepSeek公式サイト(外部)
中国発のAI企業DeepSeekの公式サイト。同社のAIモデルやサービスについての情報を提供している。

DeepSeek Platform(外部)
DeepSeekのAPIプラットフォーム。開発者向けにAIモデルやリソース、APIドキュメントへのアクセスを提供している。

Microsoft Azure(外部)
マイクロソフトのクラウドプラットフォーム。DeepSeekのR1モデルも利用可能になっている。

DeepSeek日本語サイト(外部)
DeepSeekの日本語情報サイト。登録不要でDeepSeekの情報を得ることができる。

【関連記事】

AI(人工知能)ニュースをinnovaTopiaでもっと読む

投稿者アバター
アリス
プログラミングが好きなオタク
ホーム » AI(人工知能) » AI(人工知能)ニュース » マイクロソフト、DeepSeekアプリの社内使用を禁止 – データセキュリティと中国プロパガンダへの懸念