Last Updated on 2025-06-23 07:40 by admin
イタリア工科大学(IIT)が開発したヒューマノイドロボット「iRonCub3」が世界初のジェット推進による制御飛行に成功した。ロボットは地上50センチメートルの高さまで浮上し、安定性を保った。
iRonCub3は重量70キログラムで、腕部に2基、背部のジェットパックに2基の計4基のジェットエンジンを搭載する。タービンは最大1000ニュートン以上の推力を発生し、排気温度は800度に達する。ロボットはチタン製の脊椎と耐熱カバーで補強されている。
制御システムにはニューラルネットワークベースのAIを採用し、リアルタイムで空気力学的変化に対応する。開発にはミラノ工科大学のDAER空気力学研究所とスタンフォード大学が協力し、風洞試験と深層学習アルゴリズムを活用した。
プロジェクトリーダーはIIT人工・機械知能研究所のダニエレ・プッチ氏である。研究成果は2025年6月18日付のネイチャー・コミュニケーションズ・エンジニアリング誌に掲載された。今後はジェノバ空港での屋外試験を予定している。
From: Italian humanoid robot iRonCub3 takes flight with jet turbines and real-time AI control
【編集部解説】
今回のiRonCub3の飛行成功は、単なる技術デモンストレーションを超えた重要な意味を持っています。これまでのドローンや飛行ロボットは、効率性を重視した対称的で軽量な設計が主流でした。しかし、iRonCub3は人間と同じような体型を維持しながら飛行を実現した点で革新的です。
この技術の核心は、複雑な空気力学の制御にあります。人型ロボットは四肢が動くたびに重心が変化し、空気の流れも変わります。従来のクアッドコプターのような単純な制御では対応できないため、リアルタイムでニューラルネットワークが空気力学的変化を予測・補正する仕組みが不可欠でした。
特に注目すべきは、800度に達する排気熱への対応です。ジェットエンジンからの高温ガスは音速に近い速度で噴出するため、従来のロボット工学では想定されていなかった熱力学的課題に直面しました。チタン製脊椎や耐熱カバーの採用は、こうした極限環境での動作を可能にする重要な技術革新といえるでしょう。
実用化への道のりは決して平坦ではありません。現在の飛行時間や航続距離、航空法規制への適合など、多くの課題が残されています。しかし、この技術が完成すれば災害現場での活用可能性は計り知れません。狭い空間での捜索、高所での作業、人間が立ち入れない危険地域での調査など、従来のドローンでは不可能だった複雑な作業が実現できます。
規制面では、既存の航空法や安全基準の見直しが避けられません。ジェット推進による高温排気、人型という特殊な形状、AI制御システムなど、従来の航空機やドローンとは異なる要素が多く、新たな安全基準の策定が急務となるでしょう。
長期的には、この技術は宇宙開発や深海探査といった極限環境での活用も期待されます。人間の代替として複雑な作業を行いながら、必要に応じて飛行移動できるロボットは、人類の活動領域を大幅に拡張する可能性を秘めています。
【用語解説】
ニューラルネットワーク
脳の神経細胞(ニューロン)が持つ回路網を模した数理モデル。機械学習やAIの基盤技術として、パターン認識や予測に使用される。
空気力学(エアロダイナミクス)
物体と空気の相互作用を研究する学問分野。飛行体の設計や制御において、揚力・抗力・気流の変化を予測・制御するために不可欠。
風洞試験
人工的に作り出した気流の中に模型や実物を置き、空気力学的特性を測定する実験手法。航空機やロボットの設計検証に使用される。
CFD(計算流体力学)
コンピュータを使用して流体の流れを数値解析する手法。風洞試験と組み合わせて空気力学的特性を詳細に分析する。
共設計(Co-design)
複数の設計要素を同時に最適化する設計手法。iRonCub3では機体形状と制御戦略を同時に最適化し、空気力学・熱力学・多体力学の複雑な相互作用を考慮した。
【参考リンク】
イタリア工科大学(IIT)(外部)
ジェノバに拠点を置くイタリアの科学研究機関。ヒューマノイドロボットiCubシリーズの開発で知られる
ミラノ工科大学(外部)
1863年設立のイタリア最大の工科大学。DAER空気力学研究所を保有する
スタンフォード大学(外部)
カリフォルニア州に位置する世界トップクラスの私立大学。工学・AI研究分野で世界をリード
【参考動画】
【参考記事】
Researchers at IIT have demonstrated that a humanoid robot can fly(外部)
IIT公式発表による詳細レポート。Nature Communications Engineering誌掲載論文の内容を包括的に解説
Humanoid robot achieves controlled flight using jet engines and AI(外部)
科学技術ニュースサイトによる技術解説記事。ロボットの仕様と制御システムについて詳述
World’s first flying humanoid robot takes off(外部)
ベトナム系国際メディアによる報道記事。技術的背景と実用化への課題を分析
Meet iRonCub3: The first jet-powered flying humanoid robot takes off(外部)
科学ニュースサイトによる一般向け解説記事。2年間の開発過程と技術的課題について詳述
Scientists unveil world’s first flying humanoid robot, iRonCub3(外部)
アルメニア系技術メディアによる詳細分析記事。多分野協力による開発プロセスを紹介
iRonCub3 Takes Flight: Italian Engineers Create First Humanoid Robot Jet(外部)
イタリア系アメリカ人向けメディアによる報道記事。開発チームのコメントと将来展望を掲載
【編集部後記】
iRonCub3の飛行成功を見て、皆さんはどのような未来を想像されますか? 人型ロボットが空を飛ぶという SF の世界が現実になった今、私たちの生活や働き方はどう変わっていくのでしょうか。災害現場での救助活動から宇宙開発まで、可能性は無限大です。一方で、安全性や規制の課題も気になるところですね。
この技術が実用化される頃、皆さんはどんな場面でこのロボットと出会いたいと思いますか?ぜひSNSで教えてください。私たちも一緒に、テクノロジーが描く未来について考えていきたいと思います。