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海洋フロンティアの神秘、デメニギス。透明な頭部と回転する目が拓くバイオミメティクスの新時代

デメニギス、透明な頭部に回転する目を持つ深海魚の驚異的進化戦略が判明 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-06-23 07:32 by admin

6月は世界海洋デーを含む「ナショナル・オーシャン・マンス」であり、海洋保護や探査への関心が世界的に高まる時期です。我々が今、深海魚デメニギスを取り上げるのは、この地球最後のフロンティアに眠る未知の可能性を皆さんと共有したいからです。

太平洋デメニギス(Macropinna microstoma)は、水深600から800メートルの深海に生息する体長最大15センチメートルの魚である。この魚の最大の特徴は、透明で液体で満たされたドーム状の頭部内に管状の目が収められていることだ。

デメニギスの目は通常上向きに配置されているが、2009年にMBARI(モントレー湾水族館研究所)の研究者ブルース・ロビンソンとキム・ライゼンビヒラーが、この目が双眼鏡のように前方にも回転できることを発見した。

デメニギスは北太平洋のベーリング海から日本、バハカリフォルニアにかけて分布し、主にカリフォルニア沖で観察される。透明なドームは餌となる管クラゲ類の刺胞から目を保護する機能を持つ。目には大きなレンズと多数の桿体細胞があり、錐体細胞は存在しない。平らなヒレを使って水中でほぼ静止状態を保ち、精密な操縦が可能である。小さな口を持つが、プランクトンからクラゲ、甲殻類まで多様な浮遊生物を捕食する大きな消化器官を備える。

デメニギス科(Opisthoproctidae)に属するこの魚は、海洋探査でも極めて稀にしか遭遇しない深海生物である。MBARIは5,600回以上の潜水調査で、わずか9回しか目撃していない。

From: 文献リンクThis Fish Has a Weird See-Through Head With Its Eyes On The Inside. Here’s Why.

【編集部解説】

デメニギスの発見は、実は生物学の歴史において興味深い経緯を辿っています。この魚は1939年に初めて記載されましたが、長年にわたって科学者たちを困惑させ続けてきました。

最大の謎は、なぜ上向きにしか見えない目を持つ魚が深海で生存できるのかという点でした。従来の標本は漁網で捕獲される際に透明なドーム部分が破損してしまうため、この魚の真の姿は長らく不明だったのです。

転機となったのは2009年、モントレー湾水族館研究所のブルース・ロビンソンとキム・ライゼンビヒラーによる画期的な発見でした。彼らは遠隔操作潜水艇(ROV)の水中カメラを使用し、自然環境下でのデメニギスの観察に成功。その結果、この魚の目が双眼鏡のように前方に回転できることを初めて実証しました。

この発見が示すのは、深海生物の適応戦略の巧妙さです。デメニギスは通常、上向きの目で獲物のシルエットを捉え、必要に応じて目を前方に向けて精密な捕食行動を行います。透明なドームは管クラゲ類の刺胞から目を保護する「天然のゴーグル」として機能しているのです。

MBARIの研究によると、この魚は5,600回以上の深海調査でわずか9回しか目撃されていない極めて稀な生物です。2021年12月にも新たな映像が撮影され、科学者たちは「一生に一度の体験」と表現するほどの貴重な遭遇となりました。

この生物学的発見は、バイオミメティクス(生体模倣技術)の分野に新たな可能性をもたらします。透明な保護膜と可動式光学システムの組み合わせは、極限環境で動作する光学機器の設計に応用できる可能性があります。

また、深海探査技術の進歩により、これまで未知だった生物の生態が明らかになっている点も重要です。ROV技術の発展が、従来の標本採集では不可能だった観察を可能にし、生物学の常識を覆す発見につながっています。

デメニギスの研究は、地球上にまだ多くの未知の適応戦略が存在することを示唆しており、深海生物学の今後の発展に大きな期待を抱かせる事例と言えるでしょう。

【用語解説】

デメニギス科(Opisthoproctidae)
深海に生息する魚類の科で、「バレルアイ」や「スプークフィッシュ」とも呼ばれる。管状の眼を持つことが特徴で、現在約19種が知られている。

管状眼(Tubular eyes)
円筒形に特化した眼の構造で、光感度を極限まで高めた深海生物の適応形態。

桿体細胞(Rod cells)
網膜に存在する光受容細胞の一種で、暗所での視覚に特化している。錐体細胞(色覚担当)とは異なり、わずかな光でも感知できる。

ROV(Remotely Operated Vehicle)
遠隔操作無人潜水艇の略称。深海探査において人間が直接到達できない深度での観察・採取作業を行う。

中深層帯(Mesopelagic zone)
海洋の水深200-1000メートルの層で、「薄明帯」とも呼ばれる。わずかな太陽光が届く限界域である。

シフォノフォア(Siphonophore)
管クラゲの一種で、多数の個体が連結して長い鎖状の群体を形成する。触手に刺胞を持つ。

【参考リンク】

MBARI(モントレー湾水族館研究所)(外部)
ROV技術を駆使した深海探査の世界的リーダー機関

モントレー湾水族館(外部)
MBARIの教育普及パートナーとして海洋科学の知識を提供

【参考動画】

【参考記事】

Researchers solve mystery of deep-sea fish(外部)
MBARIによる2009年の画期的発見の公式発表記事

New footage shows bizarre deep-sea fish(外部)
2021年12月の最新目撃事例を報告したLive Science記事

Through the Looking Glass Head(外部)
デメニギスの生物学的特徴と進化的意義の包括的解説

【編集部後記】

デメニギスの透明な頭部と回転する目を見て、皆さんはどんな未来技術を想像されますか?この魚が持つ光学システムは、私たちがまだ実現できていない極限環境での精密観測技術のヒントを秘めています。

深海という「地球最後のフロンティア」で発見される生物たちの驚異的な適応戦略は、宇宙探査や医療機器、さらには次世代のAIセンサー開発にどのような革新をもたらすでしょうか?生物の叡智から学ぶバイオミメティクスの可能性について、ぜひ一緒に考えてみませんか。

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TaTsu
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