AIスタートアップのRunwayが、ハリウッドに続いてゲーム業界への本格参入を発表した。同社は2025年4月にGeneral Atlanticが主導するシリーズDで3億800万ドルを調達し、企業価値は30億ドルに達している。CEOのクリストバル・バレンズエラ氏はチリ出身で、2018年にRunwayを共同設立した。同社は2025年7月第1週にも一般向けのインタラクティブゲーム体験「Game Worlds」を提供予定で、現在はテキストと画像生成のみをサポートするチャットインターフェースとなっているが、今年後半には生成されたビデオゲームの提供を開始する予定である。
バレンズエラCEOは、Amazonの番組「House of David」の制作にRunwayの技術が部分的に使用されたことを明かし、同社が「ほぼすべての大手スタジオとFortune 100企業の大部分」と協力していると述べた。また、2025年6月23日に報じられたところによると、マーク・ザッカーバーグ氏とRunwayの買収について協議が行われたが、正式な提案には至らなかったとされている。バレンズエラ氏は独立性を維持する方針を示している。
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Runway wants to use AI to generate video games
【編集部解説】
Runwayのゲーム業界参入は、生成AI技術が新たな創造領域へ拡張する重要な転換点を示しています。同社が「Game Worlds」と呼ぶ新プラットフォームは、テキストプロンプトや画像からインタラクティブなゲーム体験を生成する技術で、従来のゲーム開発プロセスを根本的に変革する可能性を秘めています。
現在のゲーム開発は、UnityやUnreal Engineといった統合開発環境を中心とした複雑な技術スタックに依存しており、数年から数十年の開発期間と巨額の予算が必要です。Runwayのアプローチは、この参入障壁を大幅に下げる可能性があります。特に注目すべきは、同社が映画業界で培った「制作時間40%短縮」の実績をゲーム開発にも適用しようとしている点です。
ただし、技術的な課題も明確に存在します。CEOのバレンズエラ氏自身が認めているように、現在のGame Worldsは「非常にシンプルで、テキストと画像生成のみをサポート」する段階にあります。ゲームに必要な一貫性のあるキャラクターデザイン、複雑なゲームロジック、リアルタイムインタラクション機能の実現は今後の課題となります。
法的環境については、2025年6月のAnthropic社勝訴判決により、AI学習データの「フェアユース」適用範囲が拡大する傾向にあります。しかし、ゲーム業界特有の知的財産権問題、特に既存ゲーム素材の学習利用については未解決の領域が多く残されています。
市場機会の観点では、AI in Gaming市場は2024年の15億ドルから2034年には98億ドルへと年率20.8%の成長が予測されており、Runwayの参入タイミングは戦略的に適切です。ただし、Pika LabsやStability AIのStable Video Diffusionなど、同様の技術開発を進める競合他社との差別化が成功の鍵となるでしょう。
最も示唆的なのは、同社がMeta(Facebook)からの買収提案を「独立性による知的挑戦」を理由に断った点です。これは単なる収益追求を超えて、創造性とAIの融合という根本的な命題に取り組む姿勢を表しており、長期的な技術革新への本気度を示しています。
【用語解説】
Game Worlds
Runwayが開発中の新しいプラットフォームで、テキストプロンプトや画像からインタラクティブなゲーム体験を生成するAI技術である。2025年7月第1週にも一般公開予定。
Gen-3 Alpha/Gen-4
Runwayが開発した動画生成AIモデルのバージョン名である。Gen-4は2025年3月にリリースされた最新バージョンで、キャラクターや物体の一貫性向上を実現している。
フェアユース(Fair Use)
著作権法における概念で、特定の条件下では著作権者の許可なく著作物を使用できる法的原則である。AI学習データの使用において重要な争点となっている。
シリーズD
スタートアップ企業の資金調達ラウンドの段階を示す用語で、通常は成熟段階の企業が大規模な資金を調達する際に用いられる。
【参考リンク】
Runway(外部)
AI動画生成とクリエイティブツールを提供するプラットフォーム。Gen-4モデルによる高品質な動画生成機能とGame Worldsプラットフォームを提供している。
General Atlantic(外部)
グローバルな成長株投資会社。Runwayのシリーズdラウンドを主導し、テクノロジー分野の成長企業への投資を専門としている。
Unity Technologies(外部)
クロスプラットフォーム対応のゲーム開発エンジンUnityを提供する企業。従来のゲーム開発において業界標準の地位を占めている。
Epic Games (Unreal Engine)(外部)
高品質な3D・リアルタイム開発プラットフォームUnreal Engineを提供。映画制作からゲーム開発まで幅広く利用され、Runwayの競合技術とも言える。
Amazon Prime Video(外部)
Amazonが運営する動画配信サービス。オリジナルコンテンツ「House of David」の制作にRunwayのAI技術を実際に活用した実績を持つ。
Pika Labs(外部)
AI動画生成技術を開発するRunwayの主要競合企業。テキストや画像から短時間動画を生成する技術を提供している。
Stability AI (Stable Video Diffusion)(外部)
オープンソースの生成AIモデル開発企業。Stable Diffusionで画像生成分野を牽引し、動画生成分野でもRunwayと競合している。
【参考動画】
Runway公式チャンネルによるGen-4モデルの紹介動画。最新の動画生成技術と一貫性向上について詳細に解説している。
Theoretically MediaによるGame Worldsプラットフォームの詳細レビュー。実際の使用例とゲーム生成の可能性について専門的に解説している。
【参考記事】
Runway Raises $308M, Unveils Gen-4 AI, Hits $3B+ Valuation(外部)
Runwayの2025年4月の資金調達について詳細に報じた記事。企業価値30億ドル到達の背景と新技術Gen-4の意義について分析している。
AI in Gaming Market Share Analysis 2025-2034(外部)
ゲーム業界におけるAI市場の成長予測を分析した調査レポート。2024年15億ドルから2034年98億ドルへの年率20.8%成長を予測している。
Anthropic wins key US ruling on AI training in authors’ copyright lawsuit(外部)
AI学習データの著作権問題に関する重要な判決について報じたReuters記事。フェアユースの適用範囲拡大がAI業界に与える影響について解説している。
‘House of David’ Creator Explains Using AI to Create Origin Sequence(外部)
AmazonのHouse of David制作でRunwayのAI技術が実際に使用された事例について詳細に報じたVariety記事。AI技術の映像制作への実用化レベルについて解説している。
【編集部後記】
RunwayのGame Worlds発表により、創造とテクノロジーの境界線がまた一つ曖昧になりました。皆さんは、AIが数分で生成したゲーム体験と、開発者が数年かけて作り込んだゲーム、どちらにより魅力を感じるでしょうか?
ゲーム制作の民主化は新しい才能の発掘につながるのか、それとも既存のクリエイターにとって脅威となるのか。
未来のゲーム制作はどんな形になるのか。今から想像するのが楽しみです。