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ーTech for Human Evolutionー

Revivification – SymbioticAと西オーストラリア大学が挑む「死後の脳オルガノイド音楽」最前線

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-04-22 14:53 by admin

2025年4月5日から8月3日まで、オーストラリア・パースのアート・ギャラリー・オブ・ウェスタン・オーストラリアで、バイオアート作品「Revivification」が公開されている。

このプロジェクトは、実験音楽家アルヴィン・ルシエ(2021年没)の生前に提供された血液から作製したiPS細胞を用い、脳オルガノイド(ミニブレイン)を培養。その脳オルガノイドの神経活動を電極で検知し、20枚の大型真鍮板に電気信号として伝え、アクチュエーターとマレットで物理的な音楽を生成する仕組みである。

プロジェクトはガイ・ベン=アリ、ネイサン・トンプソン、マット・ギンゴールド、西オーストラリア大学のスチュアート・ホッジェッツらが中心となり、ハーバード・メディカルスクールの協力も得ている。ルシエ本人の生前同意のもと、死後も生物学的プロセスを通じて創造性が持続しうるかを問う、バイオテクノロジーとアートが融合した先端的な試みである。

from:A Musician’s Brain Matter Is Still Making Music—Three Years After His Death

【編集部解説】

Revivification」は、生命の定義や創造性の本質に新たな視点をもたらすバイオアートの最前線です。今回のプロジェクトで使われた脳オルガノイドは、ヒトのiPS細胞技術によって作られた三次元脳組織であり、神経活動をリアルタイムで検知して音響に変換するという、科学と芸術の融合が実現しています。ただし、オルガノイド自体は意識や意図を持たず、生成される音は確率的な神経活動の結果であり、ルシエ本人の創造性が直接再現されているわけではありません。

倫理面では、故人の細胞を使った芸術表現が「死後の人格」や「遺伝情報」の扱いに新たな課題を投げかけています。生前同意があったとはいえ、今後同様のプロジェクトが増える場合、遺族や社会全体での合意形成や法整備が求められるでしょう。

また、脳オルガノイドの研究は医療分野でも注目されており、神経疾患の解明や創薬への応用が期待されています。今回のようなアートプロジェクトが、科学技術の社会的受容や規制議論のきっかけになることも考えられます。

AIやバイオテクノロジーが進化する現代において、「人間の創造性」や「死後の存在」をどのように捉えるべきか、社会全体での対話がますます重要になっていくでしょう。Revivificationは、その問いを投げかける象徴的な作品です。

 【用語解説】

脳オルガノイド
ヒトのiPS細胞などから培養された三次元の脳組織モデル。神経細胞が自発的に活動し、脳の一部の機能や構造を模倣できる。医療研究やバイオアートに利用される。

iPS細胞(人工多能性幹細胞)
体細胞に特定の遺伝子を導入することで、様々な細胞に分化できる能力を持たせた細胞。再生医療や疾患研究に幅広く応用されている。

アルヴィン・ルシエ(Alvin Lucier)
アメリカの実験音楽家。音響現象やテクノロジーを用いた革新的な作品で知られる。2021年没。

【参考リンク】

SymbioticA(外部)
西オーストラリア大学内のバイオアート研究機関。生命科学と芸術の融合を推進している。

Art Gallery of Western Australia (AGWA)(外部)
パースにある州立美術館。現代アートや国際的な展示を多数開催。

Guy Ben-Ary(外部)
バイオアートの先駆者。細胞や神経組織を使ったアートプロジェクトを多数発表。

Harvard Medical School(外部)
世界有数の医学研究機関。細胞リプログラミングや幹細胞研究でも著名。

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りょうとく
主に生成AIやその権利問題について勉強中。
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