Last Updated on 2025-01-02 19:07 by admin
NATO HEIST計画:海底ケーブル切断を即時検知、衛星通信バックアップで通信確保へ
事案の概要
2024年2月18日、イエメンのフーシ派による紅海でのミサイル攻撃で貨物船Rubymarが被害を受け、3本の海底光ファイバーケーブルが切断された。この事故により、欧州とアジア間のインターネットトラフィックの約25%が影響を受けた。
プロジェクトの詳細
- プロジェクト名:HEIST(hybrid space-submarine architecture ensuring infosec of telecommunications)
- 主導機関:NATO(北大西洋条約機構)
- 実施場所:スウェーデンのブレーキンゲ工科大学(BTH)
- 開始時期:2025年
- 参加国:アイスランド、スウェーデン、スイス、アメリカ合衆国など
技術データ
- 世界の海底光ファイバーケーブル総延長:約120万km
- 年間ケーブル切断事故:約100件
- データ転送速度
- 光ファイバーケーブル:最大340テラビット/秒
- 衛星通信(Kuバンド):5ギガビット/秒
経済的影響
- 海底ケーブルを通じた1日あたりの金融取引額:100億ドル以上
- ケーブル修理費用:数百万米ドル/1回
プロジェクト責任者
- グレゴリー・ファルコ氏(コーネル大学機械航空工学部助教授、NATOカントリーディレクター)
- ヘンリック・ジョンソン氏(ブレーキンゲ工科大学副学長)
from:NATO’s Emergency Plan for an Orbital Backup Internet
【編集部解説】
海底ケーブルの脆弱性とNATOの新たな挑戦
近年、海底ケーブルへの脅威が現実のものとなっています。2024年2月のRubymar号事件は、偶発的な事故でさえも重大な通信障害を引き起こす可能性を明確に示しました。
世界のインターネットトラフィックの95%以上を担う海底ケーブルですが、その脆弱性は長年の課題でした。年間約100件発生する切断事故の修理には、1回あたり数百万ドルのコストと数週間の時間を要します。
HEISTプロジェクト
NATOが推進するHEISTプロジェクトは、単なるバックアップシステムではありません。1メートルの精度でケーブル損傷を検知し、即座に衛星通信へ切り替える革新的なシステムの構築を目指しています。
特筆すべきは、このプロジェクトがオープンソースアプローチを採用している点です。透明性の高い開発プロセスにより、より多くの専門家からのフィードバックを得ることが可能となります。
技術的課題と解決への道筋
現状、光ファイバーケーブル(340Tbps)と衛星通信(5Gbps)の間には大きな帯域差が存在します。HEISTプロジェクトでは、レーザー光通信技術の活用により、この差を縮めることを目指しています。
しかし、レーザー通信には天候による制約があり、完全な代替手段とはなりえません。そのため、複数の通信経路を組み合わせたハイブリッドアプローチが採用されています。
地政学的影響と今後の展望
海底ケーブルの保護は、単なる技術的課題を超えた地政学的な重要性を持っています。特に、バルト海での最近の事例は、インフラへの意図的な攻撃の可能性を示唆しています。
HEISTプロジェクトの成功は、グローバルなインターネットインフラの耐障害性を高めるだけでなく、国際協力の新たなモデルとなる可能性を秘めています。
まとめ
このプロジェクトは、インターネットの冗長性と回復力を高める重要な一歩となります。特に、日本のような島国にとって、海底ケーブルの代替経路の確保は国家安全保障の観点からも重要な課題です。
今後は、技術開発の進展とともに、国際的な法的フレームワークの整備も必要となるでしょう。私たちはこの動向を注視し、続報をお届けしていく予定です。
【参考リンク】
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