現地を訪れなければ分からなかった施設の広さや搬入経路を、ブラウザ上で確認できるようになりつつあります。3D空間は、見学用の映像から、イベント準備や施設運営を支える実務ツールへ変わるのでしょうか。
株式会社360Channelは、3D Gaussian Splattingなどの空間測量技術を活用したデジタルツイン基盤「360 Digital Twin」の提供を開始した。導入事例としてKアリーナ横浜に採用され、イベント主催者はブラウザ上から楽屋や搬入経路を確認し、距離・面積の計測や機材搬入のシミュレーションを行える。
空間内への画像や動画、注意事項の登録にも対応する。今後は施設運営の支援に加え、展示会や文化財、観光資源のデジタル保存にも展開する方針だ。
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「360 Digital Twin」提供開始、Kアリーナ横浜の主催者向け内覧サポートシステムに導入
アイキャッチ画像は公式プレスリリースより引用
【編集部解説】
デジタルツインという言葉からは、現実の建物をそっくり3D空間に再現し、画面上で自由に見回せる仕組みを想像しがちです。しかし、「360 Digital Twin」の特徴は、空間を再現すること自体ではなく、その空間をイベント準備や施設運営の道具として使えるようにした点にあります。
Kアリーナ横浜の導入事例では、イベント主催者が現地を訪れなくても、楽屋や控室、搬入口、ステージまでの経路をブラウザ上で確認できます。さらに、2地点間の距離や床面積を測定できるため、機材が通路を通れるか、限られた空間にどのように配置できるかといった検討にも利用できます。
一般的な施設紹介用3Dビューやバーチャルツアーでは、閲覧を主目的とするものもあります。これに対して、360 Digital Twinには、自動ナビゲーション、距離・面積の測定、テキストや画像、動画、リンクの配置、施設情報を更新するCMSなどが用意されています。空間の外観を再現するだけでなく、現場で必要になる情報を同じ3D空間に重ねて共有できる構成です。
この違いは、イベント準備に関わる複数の事業者が同じ施設を確認する場面で重要になります。写真や平面図、メール、現地下見で情報を分散して共有する方法では、同じ「搬入口」や「控室」を指していても、認識のずれが生じる可能性があります。3D空間内の位置に情報を直接ひも付けられれば、「どの場所について話しているのか」を視覚的に共有しやすくなります。
基盤となった「360maps」は、施設空間を3Dデータ化し、デジタルマップやARナビゲーションに活用するサービスです。視覚情報を利用して位置を推定するVPSを使い、施設内での案内に役立てます。
360 Digital Twinは、360mapsで使われてきた空間技術を、施設を運営する側の確認、計測、情報共有へ広げたものと捉えられます。来場者向けナビゲーションと、主催者・施設管理者向けの業務支援が、同じ空間データを基盤としてつながり始めた形です。
一方で、現時点の発表だけでは、導入費用、撮影や測量に必要な期間、利用できる端末、計測精度、空間データの更新方法などは明らかにされていません。施設の改修や備品配置の変更が頻繁に起きる場合、デジタルツインを現実の状態に合わせて更新し続けられるかどうかも、実務上の重要な条件になります。
また、ブラウザ上の確認だけですべての現地下見を代替できるわけではありません。騒音、照明、床の振動、搬入時の混雑、スタッフの動きなど、3Dデータだけでは把握しにくい要素も残ります。今回の仕組みは現地確認を完全になくすというより、初期検討や関係者間の認識合わせをオンラインで進め、現地で確認すべき項目を絞り込むためのものと考える方が実態に近いでしょう。
360Channelは、今後の用途としてアリーナやスタジアムなどの施設運営に加え、期間限定イベント、歴史的建造物、文化財、観光資源のデジタル保存を挙げています。同社はこれまでにもVRアーカイブや、2025年大阪・関西万博に関するデジタルアーカイブ制作を手がけています。
ただし、保存を目的とするデジタルアーカイブと、日々更新しながら使う施設運営用のデジタルツインでは、求められる設計が異なります。前者では再現性や長期保存が重視され、後者では情報の更新しやすさや業務システムとの連携が重要になります。今回のKアリーナ横浜での導入は、360 Digital Twinが単なる高精細な3D記録にとどまらず、継続的な業務基盤として使われるかを確かめる導入事例となります。
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【編集部後記】
デジタルツインという言葉は、これまでどこか大規模で遠い技術のようにも感じられました。
しかし今回の事例を見ると、その役割は「空間を再現すること」から、「現場の準備を進めること」へ移りつつあります。
現地下見を完全になくせなくても、事前に確認できることが増えれば、現地でしか分からない点に時間を使えます。
一方で、空間データが古くなれば、かえって判断を誤る可能性もあります。
私たちは、精密な3D空間を作るだけでなく、それを現実に合わせて更新し続ける仕組みまで含めて考える必要がありそうです。
【用語解説】
デジタルツイン
現実の建物、設備、都市などをデジタル空間上に再現し、確認、分析、シミュレーション、運用支援などに利用する仕組み。本サービスでは、施設内部の確認や計測、情報共有に活用される。
3D Gaussian Splatting(3DGS)
点状の要素を用いて、現実空間を写真に近い見た目で表現する3D技術。建物や施設などの空間再現に活用される。
VPS(Visual Positioning System)
カメラに映る建物や設備などの視覚情報を使って、現在地を推定する技術。施設内での位置把握や案内などに利用される。
【参考リンク】
株式会社360Channel(外部)
総合XRプロデュース、メタバース、360度動画などの事業を展開する企業。AI・XR技術と空間データを活用したサービスや制作事例を紹介。
360maps(外部)
施設を3Dマップ化し、ARナビやデジタルマップとして活用するサービス。VPSやCMSなどの機能を紹介。
Kアリーナ横浜(外部)
今回の「360 Digital Twin」が導入された音楽アリーナの公式サイト。公演情報、施設概要、アクセス、フロア情報などを掲載。
Kアリーナ横浜 フロアマップ(外部)
客席、ロビー、売店など、Kアリーナ横浜の各フロアの構成を確認できる公式ページ。
【参考記事】
360maps|株式会社360Channel(外部)
360 Digital Twinの基盤となった空間体験プロダクト。デジタルマップ、VPS、CMSなど、施設空間を活用する機能を紹介。
株式会社360Channel 公式サイト(外部)
同社のXRプロデュース、メタバース、360度動画、空間データ活用などの事業内容と制作実績を掲載。












