AI需要の急増で電力供給に危機:ファントムデータセンター問題の深層とは

ファントムデータセンター問題:AI需要急増で電力供給が危機的状況に - innovaTopia - (イノベトピア)

AI技術の急速な発展が、私たちの生活を便利にする一方で、背後ではデータセンターの電力需要が爆発的に増加し、電力供給網に深刻な影響を及ぼしています。

米国最大の電力会社Dominion Energyは、データセンターからの電力供給要請が過去最大規模に達していると報告しています。同社への電力供給要請は総計50ギガワットに達し、その約90%が投機的または虚偽の可能性があるとされています。

McKinseyの分析によると、米国のデータセンター需要は2024年の25GWから2030年には80GW以上に増加する見込みです。これは米国の総電力需要の11.7%に相当し、2023年の3.7%から大幅な上昇となります。

特にAIワークロードの増加が電力需要を押し上げており、従来のサーバーラックが8kWの電力消費だったのに対し、AI用ラックは現在17kW、2027年までに30kWまで上昇すると予測されています。

from:Phantom data centers: What they are (or aren’t) and why they’re hampering the true promise of AI

【編集部解説】

AIブームの裏側で、データセンターの電力需要が深刻な社会問題となっています。今回は、この「ファントムデータセンター問題」について、より深い視点から解説させていただきます。

まず注目すべきは、この問題の規模感です。McKinseyの調査によると、2030年までに世界のデータセンター需要は152ギガワットに達する可能性があります。これは単なる数字ではなく、私たちの社会インフラの根幹を揺るがす可能性を示唆しています。

特に衝撃的なのは、ChatGPTなどの生成AIの消費電力です。1回のChatGPTクエリは、通常のGoogle検索の10倍もの電力を消費します。このことは、AIの発展が環境負荷と表裏一体であることを示しています。

データセンターの電力需要は、2023年の152テラワット時から2030年には404テラワット時へと2.75倍に増加すると予測されています。これは米国の総電力消費量の9.1%に相当し、2022年の2.5%から大幅な上昇となります。

この急増する需要に対し、電力会社は新たな対応を迫られています。例えば、Dominion Energyは今後15年間の容量増加の80%を、再生可能エネルギー、エネルギー貯蔵、原子力発電などのカーボンフリー電源で賄う計画を立てています。

しかし、より深刻な問題は送電網の老朽化です。米国の送電網インフラの約半分が20年以上経過しており、新規施設の接続には平均4.7年もの待機時間が必要となっています。

このような状況下で発生している「ファントムデータセンター」問題は、単なる投機的な動きではなく、社会インフラの計画的な整備を妨げる深刻な課題となっています。例えば、Dominion Energyへの電力供給要請の約90%が投機的または虚偽である可能性が指摘されています。

将来への影響として特に懸念されるのは、2027年から2029年の間に米国の電力容量が枯渇する可能性です。これは、AIの発展や製造業の国内回帰といった重要な経済活動に深刻な影響を与える可能性があります。

一方で、この課題は新たなビジネスチャンスも生み出しています。2024年から2030年までの間に、米国の送電網インフラへの投資は約1兆ドルが必要とされています。これは、グリッドインフラや再生可能エネルギー関連企業にとって大きな成長機会となるでしょう。

最後に、この問題は単なるインフラ整備の課題を超えて、私たちのデジタル社会の持続可能性を問う重要な転換点となっているといえます。AIの発展と環境負荷のバランスをどう取るか、これは技術の未来を左右する重要な課題となっていくでしょう。

【主要な事実】

現状の数値

  • Dominion Energy(バージニア州最大の電力会社)は2023年に15のデータセンターを接続し、総容量933MWを達成
  • 2024年にさらに15のデータセンターを接続予定
  • 2019年以降、94のデータセンターを接続し、総容量4GW以上を供給

問題の規模

  • Dominion Energyへの電力供給要請は総計50ギガワット
  • これはアイスランドの年間消費電力を上回る規模
  • 要請の約90%が投機的または虚偽の可能性(ファントムデータセンター)

今後の予測

  • McKinseyの予測では、2030年までに世界のデータセンター需要が最大152ギガワットに到達
  • 250テラワット時の新規電力需要が発生
  • 米国ではデータセンターが総電力需要の8%を占める見込み

対応策

  • AmazonとDominion Energyは2024年10月、バージニア州のNorth Anna発電所で小型モジュール原子炉の開発を検討する覚書を締結
  • 2024年末までに開発業者の選定を予定
  • バージニア州商務貿易長官のCaren Merrick氏は、原子力発電所の許認可手続きを加速する行政命令を準備中

市場の現状

  • バージニア州アッシュバーン地区では、世界のインターネットトラフィックの70%以上が集中
  • Amazon Web Servicesは2023年1月時点で、同地域に少なくとも65のデータセンターを運営または開発中
  • 2040年までに350億ドルを投資し、さらなるデータセンターキャンパスを建設予定

【用語解説】

  • Dominion Energy(ドミニオン・エネルギー)
    米国バージニア州最大の電力会社
    データセンター集積地である北バージニア地域の主要電力供給会社
  • データセンターアレー(Data Center Alley)
    北バージニアのアッシュバーン地区を中心とした世界最大のデータセンター集積地世界のインターネットトラフィックの70%以上が集中する地域
  • ファントムデータセンター
    実体を伴わない投機的なデータセンター計画
    不動産投機のように、電力供給権を確保して転売することを目的とした架空の計画

【参考リンク】

  1. Dominion Energy公式サイト(外部)
    北バージニアの主要電力会社。データセンター向け電力供給の最前線で対応する企業
  2. McKinsey Insights(外部)
    データセンターの電力需要に関する詳細な分析レポートを提供
  3. IEA(外部)
    世界のエネルギー消費に関する統計やレポートを提供。

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