Last Updated on 2025-05-07 12:12 by admin
ニューヨーク州司法長官リティシア・ジェームズ率いる17州とワシントンDCの司法長官連合は、2025年5月5日、マサチューセッツ連邦裁判所にトランプ政権を提訴した。訴訟の対象は、トランプ大統領が2025年1月20日の就任初日に署名した風力エネルギープロジェクトへの連邦承認を無期限に停止する大統領令である。
この大統領令は、陸上および洋上のすべての風力エネルギープロジェクトの承認、許可、融資を停止し、連邦政府機関による審査を条件としている。すでに建設が進められていたニューヨーク州ロングアイランド沖のエンパイア・ウィンド・プロジェクトも停止を命じられた。このプロジェクトは約50万世帯に電力を供給する予定だった。
提訴した州側は、トランプ大統領には許認可プロセスを一方的に停止する権限がなく、この措置は「恣意的かつ不必要」で、数千の良質な雇用と数十億ドルの投資を危険にさらすと主張している。また、各州の気候目標達成や経済活性化を妨げるものだとして、連邦裁判所に違法性の宣言と執行停止を求めている。
訴訟に参加しているのは、カリフォルニア、コロラド、コネチカット、デラウェア、メイン、メリーランド、マサチューセッツ、ミシガン、ミネソタ、ニュージャージー、ニューメキシコ、ニューヨーク、オレゴン、ロードアイランド、ワシントン州など17州とワシントンDCである。
一方、ホワイトハウス報道官のテイラー・ロジャース氏は「民主党の司法長官らは大統領の広く支持されているエネルギー政策を妨害するために法的戦術を用いている」と反論している。
風力エネルギーは現在、米国の電力の約10.2%を供給し、2022年には米国経済に200億ドルを貢献した重要なエネルギー源となっている。
この訴訟は、トランプ大統領が同日に「国家エネルギー緊急事態」を宣言したことと矛盾するとも指摘されている。AIブームによるデータセンターの電力需要増加が予測される中、2030年までにデータセンターの電力使用量は2倍以上に増加し、世界的に日本の総消費量を上回ると予測されている。
from:Trump’s wind farm funding freeze is so much hot air, say states as they blow sueball to Washington
【編集部解説】
今回のトランプ政権による風力発電プロジェクト凍結と、それに対する17州の提訴は、単なるエネルギー政策の対立を超えた重要な意味を持っています。この政策転換は、気候変動対策とAI時代の電力需要という二つの大きな課題が交差する地点で起きているのです。
複数の報道によると、トランプ大統領は就任初日の2025年1月20日に風力発電プロジェクトの承認・許可・融資を停止する大統領令に署名しました。これは単に環境政策の転換というだけでなく、急増するデータセンターの電力需要に対応するための電源構成にも大きな影響を与える可能性があります。
特に注目すべきは、トランプ大統領が風力発電を凍結する一方で「国家エネルギー緊急事態」を同時に宣言したという矛盾です。これは化石燃料産業への配慮という政治的な側面が強いと見られています。実際、石油・ガス産業は2024年の選挙運動中にトランプ支持に2,500万ドル以上を拠出したと報じられています。
風力発電は現在、米国の電力の約10%を供給する重要なエネルギー源となっており、コスト面でも優位性があります。風力発電のコストは約27ドル/MWhであるのに対し、ガス発電は45ドル/MWh、石炭発電は69ドル/MWhとされています。このコスト優位性が失われれば、電力価格の上昇につながる恐れがあります。
また、この政策転換はAI開発競争における米国の優位性にも影響を与える可能性があります。AIの訓練には膨大な電力が必要で、データセンターの電力需要は2030年までに2倍以上に増加すると予測されています。再生可能エネルギーの供給が制限されれば、AIデータセンターの拡大が阻害され、米中のAI競争において米国が不利になるという懸念も出ています。
すでに建設が進められていたニューヨーク州ロングアイランド沖のエンパイア・ウィンド・プロジェクト(約50万世帯に電力供給予定)が停止を命じられるなど、実質的な影響も出始めています。ノルウェーのエクイノール社が計画していたこの50億ドル規模のプロジェクトは、7年間の許認可プロセスを経て建設が始まっていました。
この訴訟の行方は、米国のエネルギー政策だけでなく、気候変動対策、電力供給の安定性、そしてAI開発競争における米国の国際的な立ち位置にも影響を与える可能性があります。テクノロジー企業にとっても、安定した電力供給は事業継続の生命線であり、今後の展開が注目されます。
【用語解説】
風力発電プロジェクトの凍結:
トランプ大統領による大統領令は、すべての風力エネルギープロジェクトの連邦承認・許可・融資を一時停止するもので、すでに進行中のプロジェクトも含まれる。これはエネルギー政策の大きな転換点である。
行政手続法(Administrative Procedures Act):
米国の連邦法で、政府機関の規則制定や決定が「恣意的かつ気まぐれ」であってはならないと定めている。今回の訴訟では、トランプ政権の決定がこの法律に違反していると主張されている。
国家エネルギー緊急事態:
大統領が国家の安全保障や経済に関わるエネルギー供給の危機を宣言するもの。トランプ大統領は風力発電を凍結する一方で、この緊急事態を宣言するという矛盾した行動をとった。
エクイノール(Equinor):
ノルウェー政府が67%の株式を保有する多国籍エネルギー企業。かつてはスタトイル(Statoil)として知られていた。石油・ガスが主力だが、再生可能エネルギー、特に洋上風力発電にも積極的に投資している。
ニューヨーク州エネルギー研究開発局(NYSERDA):
1975年に設立されたニューヨーク州の公益法人で、エネルギー効率の向上や再生可能エネルギーの普及を推進している。
エンパイア・ウィンド・プロジェクト:
ニューヨーク州ロングアイランド沖に計画されている大規模洋上風力発電プロジェクト。完成すれば約50万世帯に電力を供給する予定だった。
【参考リンク】
エクイノール公式サイト(外部)
ノルウェーに本社を置く国際エネルギー企業で、30カ国以上で事業を展開し、再生可能エネルギーにも注力している。
エンパイア・ウィンド・プロジェクト公式サイト(外部)
ニューヨーク沖に建設予定の洋上風力発電プロジェクトの詳細情報を提供している。
ニューヨーク州エネルギー研究開発局(NYSERDA)(外部)
ニューヨーク州のエネルギー政策を推進する公益法人で、再生可能エネルギーの普及に取り組んでいる。
【参考動画】
【編集部後記】
再生可能エネルギーとAI時代の電力需要、この二つのトレンドが交差する今回の政策転換。皆さんの会社や生活にどのような影響があるでしょうか? 日本企業の多くも米国でのデータセンター展開や再エネ調達を進めていますが、こうした政策変更によるリスクヘッジは検討されていますか? エネルギー政策が技術革新の速度を左右する時代、私たちはどのようなエネルギーミックスを選択すべきなのか、ぜひ皆さんのお考えをSNSでシェアしていただければ幸いです。