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地球の地殻に眠る天然水素が人類に17万年分のエネルギーを供給可能 – 次世代クリーンエネルギー革命の到来

地球の地殻に眠る天然水素が人類に17万年分のエネルギーを供給可能 - 次世代クリーンエネルギー革命の到来 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-05-15 16:50 by admin

オックスフォード大学、ダラム大学、トロント大学の研究チームが主導した研究が2025年5月14日に学術誌「Nature Reviews Earth & Environment」に発表された。この研究によると、地球の大陸地殻には人類のエネルギー需要を少なくとも17万年分満たすのに十分な水素ガスが存在する可能性があることが明らかになった。

研究チームは地球の地殻内の水素が豊富な地域を特定するための体系的なアプローチを概説している。ダラム大学のJon Gluyas教授によれば、ヘリウムの探査戦略と同様の「第一原理」アプローチを水素にも適用できるという。この探査戦略には、水素が蓄積できる地質条件の理解、岩石内での移動方法、そして水素を保存または破壊する要因の理解が含まれる。

研究結果によると、地球の地殻における水素の蓄積は少数の稀なポケットに限定されるのではなく、広範囲に及び、様々な地質環境で見つかる可能性がある。しかし、トロント大学のBarbara Sherwood Lollar教授は、地下微生物が水素を食料源として消費するため、微生物がガスと接触する環境を避けることが不可欠だと指摘している。

米国地質調査所(USGS)の最近の報告によれば、地質学的形成物に隠れている水素は約5.6兆メートルトンと推定され、エネルギー豊富なガスに対する予想される世界的需要をほぼ200年間満たすのに十分である可能性がある。さらに、自然プロセスにより年間1,500万〜3,100万メートルトンの水素が追加で生成されている。

研究の著者らはSnowfox Discovery Ltd.という会社を設立し、天然水素の蓄積を探査・発見することに専念している。2025年1月24日には、bp VenturesとRio TintoがSnowfox Discoveryに投資したことが発表され、天然水素産業への関心の高まりを示している。

現在、水素は肥料生産など様々な産業で重要な役割を果たしており、世界人口のほぼ半分を支えている。また、カーボンニュートラルな未来への移行計画の中心でもある。しかし、現在の水素生産方法(主に炭化水素から)は世界のCO2排出量の約2.4%を占めており、水素需要は2022年の9,000万メートルトンから2050年には5億4,000万メートルトンへと増加すると予測されている。

References:
文献リンクHidden Hydrogen Found in Earth’s Crust Could Power Humanity for 170,000 Years!

【編集部解説】

今回の研究発表は、地球の地殻に眠る「天然水素」の可能性に光を当てた画期的なものです。複数の情報源を確認すると、地球の地殻に存在する水素の量については様々な推定値があることがわかります。Nature Reviews Earth & Environmentに掲載された研究では人類のエネルギー需要を17万年分満たせると述べていますが、米国地質調査所(USGS)の研究では約200年分という推定もあります。

この差異は研究手法や回収可能性の評価基準の違いによるものと考えられます。USGSの研究では地球の地殻に約5.6兆メートルトンの水素が存在すると推定していますが、その大部分は経済的に採掘が困難な場所に存在している可能性があります。

天然水素は「ホワイト水素」や「ゴールド水素」とも呼ばれ、従来の化石燃料を使用する「グレー水素」や再生可能エネルギーによる電気分解で生成する「グリーン水素」とは異なり、地球の地質学的プロセスによって自然に生成されます。この点が非常に重要で、現在の水素生産方法が世界のCO2排出量の約2.4%を占めているのに対し、天然水素は採掘時の排出量が大幅に少なくなる可能性があります。

地球内部での水素生成メカニズムには、鉄を含む鉱物と水の反応(蛇紋岩化作用)や、自然放射線による水分子の分解(放射分解)などがあります。これらのプロセスは現在も継続しており、年間1,500万〜3,100万メートルトンの水素が新たに生成されていると推定されています。

天然水素の探査・採掘には、既存の石油・ガス掘削技術が応用できる可能性があり、これは経済的なメリットをもたらします。しかし、トロント大学のBarbara Sherwood Lollar教授が指摘するように、地下微生物が水素を消費してしまうという課題もあります。

興味深いのは、水素採掘と炭素回収を同時に行える可能性です。水に二酸化炭素を溶かして岩石に注入すると、マグネシウムやカルシウムと反応して石灰岩として固定される可能性があります。これは、クリーンエネルギー生産と炭素隔離を同時に実現する画期的な方法となるかもしれません。

産業界も天然水素の可能性に注目しています。オックスフォード大学とダラム大学のスピンアウト企業であるSnowfox Discoveryは、天然水素の探査・発見に特化した企業として2023年6月に設立されました。2025年1月にはbp VenturesとRio Tintoが同社に投資を行い、業界の関心の高さを示しています。

一方で、環境科学者たちは大規模な採掘が生態系に与える影響について慎重な評価を求めています。天然水素の採掘が地下水系や地質構造に与える長期的な影響については、さらなる研究が必要です。

この発見は、世界がカーボンニュートラルへの移行を目指す中で、エネルギー戦略に大きな影響を与える可能性があります。特に、現在の水素需要が2022年の9,000万メートルトンから2050年には5億4,000万メートルトンへと6倍に増加すると予測される中、天然水素は重要な役割を果たすかもしれません。

また、水素を利用した新たな技術開発も進んでいます。北海道大学の澤辺智雄教授らの研究チームは、海洋細菌Vibrionaceaeが大量の水素を生成できる新しい遺伝子クラスターを発見しました。このような生物学的アプローチも、将来の水素生産の選択肢を広げる可能性があります。

日本においても、2023年に経済産業省が「水素・アンモニア戦略」を発表し、2050年に水素・アンモニアの国内供給量を2,000万トン程度とする目標を掲げています。天然水素の発見は、このような国家戦略にも影響を与える可能性があります。

天然水素の発見は、エネルギー転換の新たな可能性を開くものですが、その実用化にはまだ多くの技術的・経済的課題が残されています。しかし、この研究は私たちが思っていた以上に、地球が豊かな資源を秘めていることを示す重要な一歩と言えるでしょう。

【用語解説】

天然水素(ホワイト水素/ゴールド水素):
地球上で天然に存在する高濃度の水素。人工的なプロセスによらず地球内部の化学反応によって自然に生成される。従来の製造方法と異なり、製造時にCO2を排出しない。

蛇紋岩化作用:
かんらん岩が水と反応して蛇紋岩を生成する過程で水素を発生させる地質学的プロセス。日本の白馬八方温泉や南阿蘇村の温泉水に溶存する水素はこの反応によるもの。

放射分解:
岩石に含まれる放射性元素による放射線によって水分子が分解され水素が生成するプロセス。

グリーン水素:
再生可能エネルギーを使用して水を電気分解し生成する水素。CO2を排出しないが、製造に電力を必要とする。

グレー水素:
化石燃料から製造される水素。製造過程でCO2を排出する。現在の主流の製造方法。

Snowfox Discovery:
オックスフォード大学とダラム大学のスピンアウト企業で、天然水素の探査・発見に特化している。2023年6月19日に設立。

BP Ventures:
BP(British Petroleum)の企業ベンチャーキャピタル部門。10年以上前に設立され、技術企業に10億ドル以上を投資。現在約40件の投資を積極的に管理している。

Rio Tinto PLC:
英国を拠点とする鉱業・金属会社。35か国で事業を展開し、鉄鉱石、銅、アルミニウムなどの鉱物資源を扱う。

Barbara Sherwood Lollar:
カナダの地質学者で、トロント大学の教授。10億年前の水の研究で知られており、地下の古代水系と微生物の関係に関する研究を行っている。2016年にカナダ最高の科学賞であるGerhard Herzberg Canada Gold Medal for Science and Engineeringを受賞。

【参考リンク】

Snowfox Discovery(外部)
天然水素の探査・発見に特化した企業。オックスフォード大学とダラム大学のスピンアウト企業。

BP Ventures(外部)
BPのベンチャーキャピタル部門。エネルギー分野のイノベーションを加速させることを目的としている。

Rio Tinto PLC(外部)
鉱業・金属分野で世界的に事業を展開する企業。

JOGMEC 天然水素解説ページ(外部)
天然水素の基本的な特徴や可能性について解説している。

【編集部後記】

地球の地殻に眠る天然水素の発見は、私たちのエネルギーの未来をどう変えるでしょうか?身近なところでは、日本の白馬八方温泉や南阿蘇村の温泉水にも蛇紋岩化作用による水素が含まれています。あなたの住む地域の地下にも、クリーンエネルギーの源が眠っているかもしれません。水素エネルギーについて調べてみると、意外な発見があるかもしれませんね。皆さんは将来、どのようなエネルギー源を使った生活を想像しますか?

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TaTsu
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