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ANITA実験が南極で検出した異常電波、物理法則を覆す可能性を示唆

ANITA実験が南極で検出した異常電波、物理法則を覆す可能性を示唆 - innovaTopia - (イノベトピア)

ペンシルベニア州立大学のステファニー・ウィッセル准教授らの国際研究チームが、南極上空で実施されたANITA(Antarctic Impulsive Transient Antenna)実験で検出された異常な電波信号について、2025年6月に研究結果を発表した。

ANITAは2006年から2016年まで4回のミッションを実施し、南極上空約37キロメートルの気球に搭載された電波検出器で宇宙線由来の電波を観測していた。

2006年と2014年に検出された電波パルスは、氷の表面から約30度下の角度から発せられており、通常の宇宙線とは逆方向の現象だった。この信号が検出器に到達するには、数千キロメートルの岩石を通過する必要があるが、既知の物理学では電波は岩石に吸収されて検出不可能になるはずである。

研究チームは、アルゼンチンのピエール・オージェ観測所の2004年から2018年のデータと比較検証を行ったが、ANITA検出を説明する現象は見つからなかった。ニュートリノ、通常の宇宙線、その他の既知粒子による説明も除外された。研究結果は『Physical Review Letters』に掲載された。

From:文献リンクStrange Radio Signals Detected Emanating From Deep Under Antarctic Ice

【編集部解説】

この発見の背景を理解するために、まず南極という観測地点の重要性について説明する必要があります。南極は地球上で最も電磁波ノイズが少ない環境の一つであり、宇宙からの微弱な信号を検出するには理想的な場所です。ANITAは高度約37キロメートルの成層圏気球に搭載され、氷床上空を約1ヶ月間飛行しながらデータを収集していました。

今回の異常信号が科学界に衝撃を与えている理由は、既知の物理法則では説明できない現象だからです。通常、電波は岩石などの固体物質を通過する際に急速に減衰し、数千キロメートルもの距離を透過することは不可能とされています。しかし検出された信号は、地球の反対側から6,000~7,000キロメートルの岩石を貫通してきたと計算されており、これは現在の物理学の常識を覆す現象です。

この発見が持つ科学的インパクトは計り知れません。もし新種の粒子や未知の物理現象が関与しているとすれば、素粒子物理学の標準模型の拡張や修正が必要になる可能性があります。特に、暗黒物質の候補となる新粒子の存在を示唆する可能性も指摘されており、宇宙の構造や進化に関する理解が根本的に変わるかもしれません。

一方で、科学的慎重さも重要です。研究チームは他の観測施設であるアイスキューブ実験やピエール・オージェ観測所のデータとも照合しましたが、同様の現象は確認されていません。これは信号の再現性や普遍性について疑問を投げかけており、さらなる検証が必要であることを示しています。

技術的な観点では、ANITAの後継機であるPUEO(超高エネルギー観測ペイロード)が、この謎の解明に重要な役割を果たすでしょう。PUEOはANITAの10倍以上の感度を持ち、より多くのアンテナと改良された検出システムを搭載しています。この新世代の観測装置により、異常信号の正体解明や追加検出が期待されます。

長期的な視点では、この発見は基礎科学研究の重要性を改めて示しています。予期しない現象の発見は、しばしば技術革新の源泉となってきました。量子力学の発見が現代のコンピューター技術につながったように、今回の謎の解明も将来的に予想外の応用分野を開拓する可能性を秘めています。

【用語解説】

ANITA(Antarctic Impulsive Transient Antenna)
南極上空約37,000メートルを飛行する気球搭載型の電波検出器。2006年から2016年まで4回のミッションを実施し、宇宙線由来のニュートリノを検出することを目的としていた。最終飛行は2016年に実施された。

ニュートリノ
電荷を持たず、全ての素粒子の中で最も軽い質量を持つ「幽霊粒子」。太陽や超新星爆発などの高エネルギー現象で生成され、物質との相互作用が極めて少ないため検出が困難である。

アスカリヤン効果
高エネルギー粒子が氷などの誘電体中を光速より速く移動する際に、二次荷電粒子のシャワーを生成し、コヒーレントな電波を放射する現象。ANITA実験の検出原理の基礎となっている。

タウニュートリノ
ニュートリノの3つの種類(電子、ミューオン、タウ)のうちの一つ。高エネルギーのタウニュートリノが物質と相互作用すると、タウ粒子を生成し、それが崩壊する際に電波信号を発生させる可能性がある。

宇宙線
宇宙空間から地球に降り注ぐ高エネルギー粒子。主に陽子や原子核で構成され、地球大気と衝突して二次粒子のシャワーを生成する。

GZK効果
超高エネルギー宇宙線が宇宙マイクロ波背景放射と相互作用することで、エネルギーを失って地球に到達できなくなる現象。この過程で超高エネルギーニュートリノが生成される。

【参考リンク】

ペンシルベニア州立大学 重力・宇宙研究所(外部)
ステファニー・ウィッセル准教授が所属する研究機関でANITA実験やPUEO実験に参加

ハワイ大学 ANITA プロジェクト(外部)
ANITA実験の発祥地でピーター・ゴーハム教授が主導した実験の詳細を掲載

ピエール・オージェ観測所(外部)
アルゼンチンの世界最大の宇宙線観測施設で面積3,000平方キロメートルをカバー

ワシントン大学セントルイス校 宇宙線研究グループ(外部)
ANITA実験に参加するマーティン・イスラエル教授とロバート・ビンズ教授が所属

【参考動画】

【参考記事】

Strange radio pulses detected coming from ice in Antarctica(外部)
ペンシルベニア州立大学の公式発表でウィッセル准教授のコメントを含む一次情報源

Antarctic Impulsive Transient Antenna – Wikipedia(外部)
ANITA実験の技術仕様と2006年から2016年まで4回実施されたミッションの概要

ANITA Spots Another Inverted Cosmic-Ray-Like Event – Physics(外部)
アメリカ物理学会による2018年の報告で標準模型では説明できない現象として注目

【編集部後記】

この南極の謎の信号は、私たちが当たり前だと思っている物理法則に疑問を投げかけています。もしかすると、宇宙にはまだ人類が知らない粒子や現象が存在するのかもしれません。

みなさんは、こうした「説明のつかない現象」に出会ったとき、どのような気持ちになりますか?不安を感じるでしょうか、それとも新たな発見への期待で胸が躍るでしょうか。科学の歴史を振り返ると、常識を覆す発見こそが人類の理解を大きく前進させてきました。

まもなく運用開始予定のPUEO実験が、この謎を解き明かしてくれるかもしれません。一緒にその結果を見守りませんか?

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TaTsu
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