innovaTopia

ーTech for Human Evolutionー

Hinetics、回転式極低温冷却器搭載の超電導モーターで電動航空機の実現へ前進

Hinetics、回転式極低温冷却器搭載の超電導モーターで電動航空機の実現へ前進 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-06-28 06:20 by admin

イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のKiruba Haran教授の研究を商業化するため2017年に設立されたスタートアップHineticsが、2025年4月に高温超電導体を使用したプロトタイプモーターのテストを実施した。

同社は米国エネルギー省の先進研究プロジェクト庁エネルギー部門(ARPA-E)から助成金を受けて開発を進めている。テストでは実験室でプロペラを回転させ、5メガワットと10メガワット出力レベルでの動作を検証した。

従来の超電導モーターが外部冷却システムを必要とするのに対し、Hineticsはローターと一緒に回転する自己完結型の極低温冷却器を採用する革新的アプローチを取る。プロトタイプではサンパワー社のスターリングサイクル冷却器を使用し、ローター組立体から10ワットの熱除去でローターコイルの超電導状態を維持する。

同社は連続比出力10kW/kgを実現し、次世代では40kW/kgを目標とする。ローターコイルのみに超電導体を使用することで効率98-99.5%を達成し、永久磁石同期モーターより4-5パーセントポイント高い。

From: 文献リンクSuperconducting Motor Could Propel Electric Aircraft

【編集部解説】

Hineticsの超電導モーター技術は、電動航空機の実現に向けた重要なブレークスルーとして注目されています。従来の電動モーターでは出力密度と効率の両立が困難でしたが、同社の革新的なアプローチがこの課題を解決する可能性を示しました。

最も画期的な点は、極低温冷却器をローター内部に組み込み、一緒に回転させる設計です。従来の超電導モーターは外部冷却システムが必要で、複雑な配管やシール機構により重量増加と故障リスクが課題でした。Hineticsの手法はこれらの問題を根本的に解決しています。

技術的な観点から見ると、98-99.5%という効率は従来の永久磁石同期モーターを4-5ポイント上回ります。航空機では燃費効率が直接運航コストに影響するため、この改善は経済的インパクトが大きいでしょう。また、40kW/kgという次世代目標値は、現在商用化されているモーターの性能を大幅に凌駕します。

一方で、極低温冷却器が超電導磁石を十分冷却するのに時間を要する点は実用化における課題です。航空機の運用では迅速な始動が求められるため、この問題の解決が商業化の鍵となります。また、高温超電導体テープのコスト低下は核融合炉開発に牽引されていますが、供給安定性や価格変動リスクも考慮すべき要素です。

この技術が実用化されれば、地域航空路線での電動化が現実的になります。5-10メガワット級の出力は、19-50席クラスの地域旅客機に十分な推進力を提供できるレベルです。さらに船舶推進への応用も期待され、海運業界の脱炭素化にも貢献する可能性があります。

エアバスのZEROeプログラム、東芝、レイセオン、英国スタートアップHyFluxなど約12社が同様の技術開発を進めており、競争が激化しています。規制面では、航空機への超電導技術導入には新たな安全基準策定が必要になるでしょう。極低温システムの信頼性評価や緊急時対応プロトコルの確立が求められます。

長期的には、この技術が電動航空機の普及を加速し、航空業界の脱炭素化を推進する重要な要素となることが予想されます。ただし、実用化までには技術的課題の解決と規制整備が不可欠です。

【用語解説】

高温超電導体(HTS)
液体窒素温度(-196°C)程度の比較的高い温度で超電導現象を示す材料。従来の超電導体より冷却コストが低く、実用化しやすい。

イットリウムバリウム銅酸化物(YBCO)
高温超電導体の代表的な材料で、-140°C程度で超電導状態になる銅酸化物系超電導体。テープ状に加工されて電動機の巻線に使用される。

極低温冷却器(クライオクーラー)
超電導体を動作温度まで冷却するための装置。スターリングサイクルなどの冷凍サイクルを利用して極低温を実現する。

スターリングサイクル冷却器
ガスの圧縮・膨張を利用した冷凍サイクルで動作する冷却装置。高効率で小型化が可能なため、宇宙機器や超電導機器の冷却に使用される。

比出力(kW/kg)
電動機の重量あたりの出力を示す指標。航空機用途では軽量化が重要なため、この値が高いほど優秀とされる。

トカマク型核融合炉
磁場閉じ込め方式の核融合炉の一種。強力な超電導磁石を使用してプラズマを閉じ込める構造を持つ。

熱伝導バス(サーマルバス)
超電導磁石組立体からの熱を極低温冷却器に効率的に伝達するための銅製ディスク状構造。

【参考リンク】

Hinetics公式サイト(外部)
超電導モーター技術を開発するスタートアップ企業。10kW/kg以上の比出力を持つモーターで商用地域ジェット機や狭胴機の電動化を目指している。

ARPA-E(米国エネルギー省先進研究プロジェクト庁)(外部)
米国エネルギー省傘下の研究開発機関。高リスク・高リターンのエネルギー技術研究に資金提供を行う。2009年設立。

Sunpower Inc.(外部)
オハイオ州アテネに本社を置くスターリングサイクル極低温冷却器の世界的リーダー企業。45年以上の技術革新の歴史を持つ。

イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(外部)
1867年設立の米国有数の州立研究大学。工学部は全米トップレベルの評価を受け、多くの技術革新を生み出している。

【参考動画】

【参考記事】

ARPA-E Project | Cryogen-Free Ultra-High Field Superconducting Electric Motor(外部)
ARPA-EによるHineticsプロジェクトの公式説明。10MW級モーターの技術仕様と目標性能について記載されている。

Airbus ZEROe: The world’s first zero-emission commercial aircraft(外部)
エアバスの水素燃料電池航空機開発プログラム。超電導技術を含む次世代航空機開発の競合状況を理解するための参考記事。

NASA study finds superconductors ready for all-electric aircraft(外部)
NASA Glenn研究センターによる5年間の研究結果。高温超電導体を使用した全電動航空機の実現可能性について報告している。

【編集部後記】

電動航空機の実現が現実味を帯びてきた今、皆さんはどのような変化を期待されますか?Hineticsの超電導モーター技術は、従来の「重い・効率が悪い」という電動推進の課題を根本から解決する可能性を秘めています。

地域路線での静かな電動フライトが当たり前になる日も、そう遠くないかもしれません。この技術が普及すれば、航空業界だけでなく船舶や産業機械の分野でも大きな変革が起こりそうです。皆さんが最も注目される応用分野はどこでしょうか?ぜひSNSでお聞かせください。

エネルギー技術ニュースをinnovaTopiaでもっと読む

投稿者アバター
TaTsu
デジタルの窓口 代表 デジタルなことをまるっとワンストップで解決 #ウェブ解析士 Web制作から運用など何でも来い https://digital-madoguchi.com
ホーム » エネルギー技術 » エネルギー技術ニュース » Hinetics、回転式極低温冷却器搭載の超電導モーターで電動航空機の実現へ前進